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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
27/73

そこですそこ


「いやー、ぬいぐるみにしたい生き物も見つかったし、満喫できたな」


 帰りの電車の中で僕は伸びしながら窓の外へと首を回し、遠ざかる海とホームを眺める。


「見て見てー、バッグに早速つけたよじゃーん」


「わたしもつけよ」


「うーんどっかつけるところあるかな〜、あ、ここなら良さそう〜」


 三人はお揃いのシュモクザメキーホルダーを早速使っているみたいだ。きらきら仕様なので、外からの光をいい感じに反射している。なぜシュモクザメにしたのかはよくわからない……。


 初めはえりかがりすとやまねと話せるか心配だったりしたが、仲良しになったし、水族館に来て本当によかった。

 僕は今日撮った写真を整理していた僕は顔を上げる。


お願いするなら、今だと思った。


 僕はお互いのバッグのシュモクザメをいじいじしている三人に声をかけ、ずっと頼みたいと思っていたことを告げた。




 水族館から戻った次の日学校で。


「あー、やっぱり優は頭の発想が違うんだねきっと。わたしにはそんなこと思いつかなかったもん」


 水族館からの帰りの電車で、ぬいぐるみ劇に出て欲しいと三人にお願いした結果、喜んで出ると言ってくれ、保護者の許可までその日のうちにそれぞれとってくれた。そのことの喜びを隠せないまま登校し、朝っぱらから自慢げに語ったら、美雨にそう言われた。


「僕、今、たぶん褒められているという状況にいるということでいいよね?」


「いや、だめ」


「そうなの?」


 今日も童顔系可愛さに溢れている美雨の顔は、幼稚な小学生を見る中一のような表情をしている。


 ……だろうなとは思った。小学生に文化祭参加の依頼をするのは僕でもさすがにためらった。しかし、水族館に行った日のお昼。レストランで注文したものが来るのを待っている間に、僕は稲城も新しく入ったぬいぐるみ部のライングループに三人にぬいぐるみ劇に出てもらうことをお願いすることを提案したのだ。そして全員から賛成してる感じの返事が来たはずなんだけど。


「賛成はしたよ。賛成だけど……前代未聞かなって思っただけ」


「うん前代未聞なのはその通りではあるよな。だからこそこれを書いているわけだし」


 僕は、朝、文化祭実行委員会本部の前の引き出しからとって来た一枚の紙を改めて眺める。


 その紙の一番上に「申請書」の三文字。シンプルな名前。


 文化祭の出し物において、特別なことをする際に書かなければいけない書類だ。文化祭実行委員に提出後、文実会議と職員会議によって協議され、許可か却下かが決まる。


 僕たちは、三人がぬいぐるみ部の出し物に参加することを許可してもらう申請書を書いている。


「保護者からの許可ももらったし、たぶん許されるでしょ」


「うーん、どうかな〜」


 僕は当然許可されると思っていたが、美雨はそうは思っていないみたいだった。


「はい、朝から女子小学生との楽しい思い出を話してくれると思って聞く心構えをして来ましたよ! おはよーございます!」 


 と、そこに美濃が自称準備万端でやって来た。

 そして僕の机を僕の背後からぴょんと覗き込む。はずみで何かが当だったりはしない。


「申請書ですか」


「うん」


「通るといいですね」


「普通に通るでしょ」


「うーんどうですかね〜職員会議が厳しそうですね」


 美濃も美雨と同じく、通るとは限らないと思っているようだった。


 とはいえ、まずは出してみないと始まらないので、僕はさっさと記入を進める。お昼には顧問の小町先生にサインをもらって提出する予定だ。




 渚ヶ丘学園の特徴の一つなのかはよくわからないが、この高校には職員室がない。


 それぞれの教科の特別教室の横の準備室で先生は仕事をしている。


 家庭科室には、中等部の校舎を通ってさらに渡り廊下を渡ってやっとたどりつく。その辺りに小町先生がいるというわけだ。

 

 途中、中等部の生徒とたくさんすれ違った。美濃は女子を見つけるたびその人をじろじろ見つめ、家庭科室の前に着いたころには


「全敗です……」


と言っていた。何の勝負をしていたのかはよくわからないけど、小学生だったら勝てたのかな?


 コンコン、と家庭科室の脇の家庭科準備室の扉をノックすると


「はい、ちょっと待ってください……どうぞ」


 小町先生が扉から顔だけ見える状態で登場した。こうして見るやっぱりと若くて生徒とあまり見分けがつかない。




「なるほど、そういうわけで申請書を書いたというわけですね」


「はい」


「ではサインしますね。えーと、あと印鑑……」


 よかった。小町先生に許可がもらえなければそもそも提出までも至らないところだったからちょっと心配しかけたが、大丈夫みたいだ。


「はい……あ、あれ?印鑑は……? さっき置いたはず」


 小町先生先生が机の端の書類をどけたりしている。あれ、さっき小町先生印鑑目の前に置いてなかったっけ……。


あ。


 僕は気づいてしまった。机に乗っている小町先生の胸の下に印鑑が転がっていることに。


「小町先生、そこですそこ」


「そこ……どこでしょう?」


「あ、ですから……」


 小町先生のおっぱいのところですとも言えないしし。こういう時は……


「小町先生の目から水平方向を〇度としてほぼマイナス九十度くらい……」


「え? あ、あらここでしたか。ありがとうございます羽有くん」


 無事印鑑を小町先生が発見。小町先生がハンコを押し、申請書も出来上がった。

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