うみがめさん……
結局田植はお子様ランチを注文できたみたいで、一人でニコニコしながら席に座っていた。
僕は結局食べたい気分だったのでカレー、えりかは例のかまぼこうどん、りすはイカが気に入ったのでイカ墨パスタ、やまねはクラゲ型オムライス(クラゲの形に見えない)を注文した。
しばらく景色を眺めたりスマホでラインを送受信したりしながら待っていると店員さんがワゴンに乗せて一斉に持ってきた。
「うお、みんなうまそうだな。僕もなんか変わったやつ頼めばよかったかな」
僕の手元に置かれたカレーはどこにでもありそうなカレー。
と思っていると……
「うみがめさん。これあげる」
えりかが箸で僕のカレーのお皿の端に置いたのは、うみがめのイラストのかまぼこだった。
「まじで? ありがと」
「うゆゆ〜」
「私たちもちょっとずつあげるよー」
「ありがとうございます優しすぎる……」
女子小学生三人からちょっとずつもらって大満足。お礼にカレー(あんまいらないかな)をちょっとずつあげた。
午後は水族館の展示の終盤部分を見て回った。
まずはクラゲしかいない部屋。この水族館はクラゲにこだわっているらしく、プロジェクトマッピングを用いて映し出した幻想的な風景に、光をカラフルに反射したクラゲが泳ぐ。
円形の小さな水槽には、稚クラゲがくるくる水槽の水流に流されるまま回っている。稚クラゲかわいい。海の生き物に関しては小さいのが好きな傾向があるな。海の生き物に関してはね。
「くらげ、さん……」
水槽を見ているえりかの髪も赤色の光を浴びている。
よく見るとこの辺り、カップルが多い。結構いい雰囲気でさらにソファも設置されているからだろう。
「優、この雰囲気、落ち着くね」
なぜか美雨が隣に立って一緒にクラゲを眺めている気がした。なんで美雨とデートしてる想像しかけたんだろう?
「うゆゆー、あっちにペンギンがいるーあとアザラシ」
やまねがクラゲのいる部屋の出入り口に立って僕から見て左を示す。
「ほんと? じゃあそろそろいくか」
僕はカップルの雰囲気を壊さないように静かに、出入り口へと向かった。
暗いクラゲの部屋とは対照的にペンギンとアザラシがいるところは明るくて、外の光も入ってきている。
ちょうどペンギン水槽には飼育員がいて、ペンギンに手招きをするとペンギン達がちょこちょこやってきて魚を食べる。手をくるくる動かすとそれに合わせて回転するペンギンも。すごい慣れてる。
一方ですみっこの岩でじっとしているペンギンもいる。教室の隅で一人でぬいぐるみを作っている僕のようだ。ペンギンにもそれぞれいろんな個性があるんだな。
アザラシはふっくらしている体をぴたっとしてすい〜と泳いでいる。ほとんど体を動かさずに進んでいる。
水槽は扇型になっていて、左がペンギン、右がアザラシ。中央の一段高くなった手すりがついた部分に立つと、小さい子達が水槽の前にたくさん群がっていても、両方よく見ることができる。
ここからだと三人を見失うこともない。
うーんと伸びをしてから隣を見ると、高くて高性能そうなカメラを持ってペンギンを撮影している僕と年が変わらないくらいの人が一人でいた。ペンギンマニアなのかな……。女子小学生三人と来ている僕に匹敵する珍しい部類に当たりそう。
「うゆゆー、十分見れたー、次いこ」
やまねがそう言って僕を見上げペンギンのように手をパタパタさせる。りすとえりかも真似。ペンギンモードになってる三人。うわあ……嫌なことの前の一分の癒しにしたい。動画撮らせてもらおうかな。隣のペンギンマニアくんですらペンギンから視線を移してる。
なまこやヒトデやネコザメを触れるタッチプールを経て、展示の最後の部分に僕たちは着いた。そこにいるのはウミガメだ。
「うみがめさん……」
えりかがつぶやいたその声は、僕を呼んでいるわけではなく、ウミガメを実際に見て思はず出たものだろう。えりかはウミガメを見るのは初めてらしい。
ウミガメのいるプールは、日光を遮るものは何もなく、グレートバリアリーフのような透明感のある青緑色の水に波紋をつくりながらウミガメがのんびりと泳ぐ。その様子を上の通路から眺めることができる。
この辺りはウミガメ以外何もいないため、他のところと比べると人口密度も低く、そして静かだ。
えりか、そしてりすとやまねも、何も言わずウミガメを目で追っていた。
何組ものお客さんが、通り過ぎた。
僕たちは今日のウミガメをじっくり見たランキング一位になれるんじゃないかってくらいそこにいた。




