知らない人だしあやしいよ
僕たちは、おそらく他の人たちの半分くらいの速さで見て回っていた。
三人は、水槽の中のすべての魚を観察してるんじゃないかってくらい水槽を眺め続けていたし、光がゆらゆら揺れる空間や、カラフルなサンゴ礁、砂地を再現した水槽など、それぞれの環境を泳ぐ魚を見ていて僕も飽きることはなかった。
やがてお昼時になり、僕たちは水族館の中にある海を見渡せるレストランへと入った。予想通り混んでいたが、少し並べば無事、席に着くことができた。しかも運のいいことに案内されたのは窓際の席。ゆるく曲がって続く砂浜、サーフィンをしている人が小さく見える海。
「いいね〜ここ」
りすはなかなか椅子に座らず、窓ガラスに手をくっつけている。
「さて、何にしようかな」
僕はメニューを広げる。
カレー、ラーメンなどどこにでもありそうなものも揃っているが、一方で、海鮮丼とか海っぽい? メニューもある。
「なんにしよっかなー」
「これかわいいね」
えりかが指差したのはいろんな種類の魚の絵が描いであるかまぼこが入っているうどん。かまぼこも魚でできてるし、まあどっちの意味で見ても魚いっぱいだな。
「おお〜マンボウの絵のかまぼこもあるんだね〜」
やっと椅子に座ったりすもメニューを眺め始めた時、
「あの……お願いがあって参りました」
彼女とご一緒のはずの田植がなぜか真剣な表情で登場し、僕の向かいに座っている、りす、やまね、えりかの方を向いて、
「お子様ランチを注文していただけますかお願いします」
いつもよりハキハキした声でそう言った後、頭を深々と下げた。
「どうした? お子様ランチなら自分で注文……するのは流石に田植でも恥ずかしいのか」
「いや、それができなかったんだ……ほらメニューのここに……」
田植が指を置いたところには、「お子様ランチの注文は小学生以下の方に限らさせていただきます」とそこまで目立たない字で書いてあった。
「なるほど……」
「みかんにJSのふりをしてもらおうとしたけど断られた……」
「そりゃあそうだ。すごいなるほどだな」
「というわけで……お子様ランチを注文していただけると……あ、それから全品一口ずつ食べさせていただけるとなおいい……」
田植は三人にそう改めて頼むが……
「ちょっと一口ずつっていうのはー……」
「うゆゆ〜この人誰?」
「知らないひとだしあやしいよ」
あ、三人とも大いに警戒してさらに防御モードに入っていますね。それと、向こうのテーブルでみかんが一人水族館を楽しむクール系女子になりきって田植と他人のふりしてますけど。
「田植どんまい。もう店員さんに事情を説明して頼めば?」
「そうか……なるほど……こんにちは。僕は渚ヶ丘学園料理部部長の田植と申します。私たちの部活は今年のの文化祭でお子様ランチについて研究しており……」
まあ良さそう。勝手にお子様ランチを部活ぐるみで調査していることにしているが。
「よし、行ける……みかん……ついに僕はお子様ランチにありつける……ってみかんどこだ……?」
「みかんならさっきちょうど出て行っちゃった」
ついに別行動か。みかんと田植、これが原因で別れたりしないよな……。
「そうかならいい……僕は店員さんを探さなくては……」
離れていく田植。みかんの後は追わないのかよ。この二人はどうやって彼氏彼女になったんだ?