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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
23/73

なんかぷくぷにんって感じ


「まもなくーー」


 電車が速度を落として急カーブの線路をアナウンスをかき消すほどの大きな音を立てて走る。


「うゆゆーあそこ海が見えるよー」


 やまねに言われて窓の外を振り向くと、建物がそれなりの密度で並んだ駅前の風景の向こうに、眩しく光を反射している海が見えた。


 水族館は浜辺にあるから、駅から降りて水族館に向かえば、さらに綺麗な海がいくらでも見れるだろう。水族館自体は天気はあまり関係ないけど、やっぱり天気が良い方がいいよな。


 僕が昔のことを思い出している間に、えりかは二人とさらに打ち解けたようで、まだ電車がホームに差し掛かってすらいないのに、三人ともドア際で荷物をまとめてはしゃいでいた。


 僕も立ち上がって移動しドア側の手すりにつかまり、外に目をやる。

 

 今日は楽しもう。ぬいぐるみを作りたくなるような生き物に出会えるかもしれないし、お土産ショップのぬいぐるみはどういうところが可愛いかとか色々参考になる。

 だけど、保護者として来ていることも忘れちゃダメだな。三人からは目を離さないようにしないと。


 電車が止まり、ドアが軽快な音とともに開いた。その音と同じくらい軽快に、りす、やまね、えりかの順にホームに降りる。


 それを追って僕も降りると、体が心地よい風に包まれた。見えなくても海の雰囲気だ。


 僕たちが水族館に着いた時は、すでにチケット売り場のところに人が並んでいたが、まだ混雑というほどでもなさそうだった。早めに来てよかった。しかも僕たちはすでにチケットを持っているのでさっさと入場できる。


 入り口のお姉さんにチケットを切ってもらう。女子小学生三人と一緒でも特に不思議がられはしなかった。よし、完璧な保護者になりきれてるな。この上なく順調。


「わあ〜」


 入ると早速水槽が。押し寄せる波を再現した環境で、水面は僕の背よりもだいぶ低く、激しく飛沫を飛ばしている。水面の高さ的に、小学生のために作られたかのような水槽だな。


「これなんだろう……」


 えりかが水槽の端の方に行って顔を近づける。


「これはね〜……ハリセンボンだ! ふくらんでないバージョン」


「かわいい」


 「可愛いねーなんかぷくぷにんって感じ」


 うん。可愛いね三人とも……じゃなかったハリセンボンね。ハリセンボン可愛いよな。


「しましま多いね。縦じまと横じまのがいるよ。ほらあっちー」


 ほんとだな。確か縦じまのはオヤビッチャっていう名前だっけ。前に生物部が飼ってた気がする。魚が泳いでいるのを見るだけで落ち着くからたまに生物部の水槽見に行ったりするんだけどその時に教えてもらった記憶がある。


 一つ目の水槽をたっぷりと観察し終えたあと、次に待っていたのは半球型の窓。


 大水槽の上部分を覗くことができ、半球型窓のため魚が小さく見える。


 大水槽の端にあたる窓のすぐそばには小さな魚たちと岩に張り付いて動かないエイがいた。


 その窓の周りに群がっている子供たちに三人が混ざる。えりか、すっかり緊張もなく話しているみたいだ。


 その子供たちのそばで、べったり密着しているカップルや、水族館の雰囲気を味わっているであろうお父さんお母さんがいて、そしてこのエイぬいぐるみにしたら可愛くない? と思って写真を複数角度から撮っている僕がいる。


「あら、水族館で会うとは意外ですわ。羽有くん」


 べったり密着していた女子の方が岩に密着しているエイと僕とのところに来た。誰ですか?


「……ん? よく見たらってかみかんじゃん」


 ダンス部部長のみかん。僕にダンス部のステージの建設をやらせてるからダンス部は土日までとても忙しいのかと思ってたけど、彼氏と水族館に来るくらい忙しいらしいな。


「……洋服がいつもと違うから気づかなかったのですわね? それで……似合ってるかしら?」


「それは彼氏さんに言ってもらうべきだね」


 だいたい水族館は暗いし僕ファッション全くよくわからないし。まあただいつもお姫様みたいな格好してるのに今日はどちらかというと快活さをアピールした感じなのかなとは思ったけど。


「だって凛太ったら、太ももがいいねしか言わないからもう飽きましたわ」


 なるほど。確かにダンスやってるからかわからないけど、きれいないい太ももだな……。まあでもちょっと今はエイの撮影で忙しいので話を終わらせよう……と思ったが。彼氏の名前凛太って言ってたけど、あれ? 誰かうちのクラスに凛太っていなかったっけ。


「羽有……小学生と水族館に行くと噂だったがここだったのか……」


 あ、僕が世界で唯一知っている凛太が現れた。


「おい……まじか。てっきり、田植はお子様ランチと恋人なのかと思ってた」


「お子様ランチで全世界の子供たちを笑顔にする夢と、彼女を持つことの両立がなぜできないと思った……?」


 確かにめっちゃ余裕で両立できるな。


 でも田植はクラスでロリコン扱いされてるんだよな。みかんと付き合ってることを公言すれば一瞬で解決な気がするが。ただ田植は、周りからどう思われてるかは別にどうでもいいタイプなのでこのままでいいのかな?


「それに……羽有だって、ぬいぐるみを愛してやまないし小学生と水族館に来てるけど……海瀬と付き合ってるじゃないか」


「僕と美雨……? 付き合ってないけど」


「そうなのか……」


「凛太ー! こっちに超可愛いチンアナゴがいますわ」


 いつの間にか順路の先の、円柱形のチンアナゴ水槽のところに行っていたみかんが、田植を呼ぶ。


「あ、本当か……? 今行く……じゃあな羽有」


 田植が遠ざかって行き、暗い青色の空間の中の人混みに入っていった。


「うみがめさん。先いこう」


 えりかに声をかけられ、ぼーっとしていた僕の意識が目の前の半球型の水槽に戻される。


「あ、そうだな。進もうか」


 僕は順路の先へと歩き始めた。

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