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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
20/73

うん。ぬいぐるみ、すきだよ


 水族館に行く日、つまり日曜日になるまでは早かった。それまでに、美雨の脚本のインパクトが相変わらず足りないどうしようとか、活動禁止期間の割には作業が進んだとか、クラス中に僕がJS三人と水族館に行くことが広まって学校内で人権がなくなりそうな中、田植が「羽有の情熱は理解している……やはり我らは仲間だ……」と言ってきて友情が深まりまくったり、そのあと楽しく児童館の人たち(小二)も呼んで盛大に調理実習が行われたりとか色々あったけど、活動禁止期間も終わり、明日からは堂々と活動ができるというわけだ。


 朝。僕、りす、やまね、そしてえりかは、最寄りの駅の北口で待ち合わせた。


「おはよう。二人とも早いな」


「うゆゆ〜おはよう〜」


「楽しみだねー」


 待ち合わせ時間より、十五分くらい前に着いたが、りすとやまねはすでに着いていた。

 今日はお揃いのスカートとかではなく、りすはショートパンツ、やまねは白いスカートと、それぞれで雰囲気が全然違う。




「おはよう……」


 僕がりすとやまねと挨拶を交わし終えたところで、後ろから小さな声がした。


 うすピンクのワンピースを着たえりかだった。


 会うたびピンクを基調としたファッションだが、今日のワンピースは印象に残っているものだ。初めてえりかと出会った時もこの格好をしていたから。


「おはよう〜えりかちゃん! 話すのは久しぶりだね〜」


「あ、うん……久しぶり」


「えりかちゃんとね、ぬいぐるみトークもしたいなーって。えりかちゃんぬいぐるみ好きかなーって思ってー」


 えりかはすこし緊張しているようで、しばらく下を向いて足をくいくい動かしていたが、


「うん。ぬいぐるみ、すきだよ。一番すきなのはうみがめさんが作ったランドセルを背負ったうみがめさんのぬいぐるみ」


 二人を見て返事をした。すこし表情は緩んでいて、えりかの自然な笑顔が、すこし見れた気がした。


 それにしても、一番すきだって……あ、意識飛びそう。僕は空を見上げる。僕の作ったぬいぐるみたちが空を飛び回ってじゃれあっている(イメージです)。


「うゆゆ? 駅の中入ろうよー」


「あ、ごめんごめん。ちょっと空を見上げてて」


「UFO〜?」


「いや、なんでもないよ」


 僕は券売機で乗車券をまとめて手早く買い、一人一人に切符を渡した。


 ホームに入ると、比較的人は少なかった。僕たちはより空いていると思われる一号車の乗車位置に並んだ。


 ちょうどナイスタイミングで、「まもなく、一番線に、各駅停車が参ります〜」のアナウンスとともに電車が到着した。


 一列丸ごと空いている座席があり、そこに端からえりか、やまね、りす、僕の順で座る。


 急行は各駅停車よりは混んでるから、空いているとは思うけど並んで座れるとは限らないな……などと考えながら三人の方を見ると、やまねの膝の上の本を覗き込んで話していた。おそらく海の生き物図鑑だろう。前児童館でやまねが広げていたのを見たことがある。えりかも口数は少なそうだけど時折しゃべっているようで、僕は少しほっとした。




 急行停車駅で乗り換えた急行もかなり空いていて、並んで座れるかの心配は無用だった。各駅停車と同じ順番で座った。


 まばらに席が空いた状態で電車は発車した。


 ガタガタと大きく揺れながら曲がり、まっすぐな線路に入ると少し加速する。まだ海までは遠いが、海へと方向を定めたかのように安定して静かに走り始めた。


 僕は比較的ゆっくり流れる外の景色を眺めていたが、しばらくして車内に意識を戻すと、窓の上方の緑色の広告に目がいった。



全国中学生演劇大会、東京都予選



 ああ……これか。


「……まあ、とにかく楽しんで来てね」


 この前の美雨の表情が浮かぶ。


 三年前。この広告を電車の中で見た僕の隣には、物語を書くことを心の底から楽しんでいた、美雨が座っていた。

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