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ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
2/73

ずばり、失恋だね

 九月。秋の到来とともに、僕の通う渚ヶ丘学園では、文化祭の準備期間となる。十一月始めに三日かけて大々的にに行われる最大の行事。それが文化祭だ。

 多くの人はこの時期からテンションが少しずつ高くなってくる。


 だけど僕は例外だった。


「はろー。ふらふらと歩いてどーしたの優?」


 僕が廊下をぐねぐねと倒れそうになりながら進んでいると、後ろから背中をたたかれた。この強すぎないけど弱すぎない力加減は……。


「美雨か」


 僕は振り返らずに言う。


「はい正解。じゃあなんで優が元気がないか私が当ててみせよう」


「おお」


「ずばり、失恋だね」


「は?」


 思わず美雨を振り返る。相変わらずのくりくりした目の童顔。幼げの残る可愛さ。それに似合わず、胸が大きかったりして……制服の膨らみが結構なボリュームで、つい視線がそっちに行ってしまう。


「そんな、間の抜けた顔しない。じょーだんに決まってんじゃん」


「だ、だよな……」


 はははは。間の抜けた顔をしたのを指摘されるのなら全然いい。胸に視線が行ってるのに気づかれるよりはましだ。再び美雨の顔に視点を戻すと、美雨はなぜか満面の笑み。だが……美雨にも力ない笑みをしてもらおうじゃないか。


「これを、見て欲しいんだけど」


 僕は美雨に一枚の紙を見せる。ついさっき、文化祭実行委員の武田からもらったもの。そこには二ヶ月後に控えた文化祭の団体別部屋割り一覧が記載されている、のだが……。


「ねえ、私たち、部屋なくない?」


 ご名答。


 僕と海瀬美雨、それから、美濃つばきが所属する……と言うかそれで全員のぬいぐるみ部は、部員が三人なことからもわかるように超弱小部活だ。だからといって流石にひどいと思うのだが、僕たちが文化祭で出し物をするのに与えられた場所は、部屋ですらない。


「音楽室楽器置き場裏って……そもそもどこ?」


「まあ、音楽室だろうね」


 僕がごく当たり前の回答をしたその時、


「ぴーんぽーんぱーんぽーん。えー、えと、ぬいぐるみ部の部長の羽有優くんは、なんか音楽部のひとが呼んでいるので音楽室に行ってください。繰り返しますぬいぐるみ部の羽有……」


 超絶適当な放送が流れた。こんな適当な放送をしていても、放送部人気ナンバーワンなのが憎たらしい。放送内容を再度繰り返している点は、一応評価してあげよう。


「うーん。やっぱりいい声してるね〜つばき」


 ほら、隣にすでに感心している人がいるでしょ。

美濃つばきは、ぬいぐるみ部と放送部を兼部している。そしてさっき述べた通り、美濃の放送は、校内で大人気だ。それは放送がうまいからではなく、ただ単に声が可愛いからなんだけど。ちなみに声が幼いだけでなく身体というか胸も……いや、また胸の話になるからここまでにするか。


「行きますか、音楽室」


 美雨は僕の手をとって、音楽室の方へと歩き出す。美雨って、当たり前のように僕の手を握ったりしてくるんだよな。全然嫌ではないんだけど。僕は黙って美雨に手を引かれたままついて行った。




「あら、女の子と手を繋いで登場とはなかなかね」

 

 音楽室に入るなり、僕は茶色のさらさらした髪の、いかにも吹奏楽をやってそうな女子に声をかけられた。


「あ、ああ。ぬいぐるみ部の部長の羽有です」


 僕は慌てて美雨の手を振りほどき、音楽部の部長と思われる彼女に挨拶をした。音楽部は、高三の引退が遅い部活。おそらく彼女も高三だろうから、丁寧語で。


「私は、音楽部の部長の三里よ」


「あ、みさと、さんですか。苗字は……」


「苗字が三里。ちなみに下の名前は沙弥だから」


 そう言いながら左手に、右手の人差し指で漢字の「三」と「里」を三里さんは書いて見せる。なるほど、確かに言われてみれば苗字っぽい苗字。


「それで……なんのご用件でしょうか」


「今日は、ぬいぐるみ部の使うスペースを確認したいと思って。楽器置き場裏でしょ。文実から与えられたスペース」


 三里さんは、髪を払って、おそらく僕が武田からもらったのと同じのと思われる紙を胸ポケットから取り出す。


「ちょっとついてきて、あそこが楽器置き場裏だから」



 三里さんに案内された、アコーディオンやらトランペットやらが収納されている棚の裏は、思っていたよりは広かった。思っていたよりは。幅は人二人ぶんくらい。僕と美雨が並んで立っているとかすかに美雨の肩が触れる。奥行きは、五メートルくらいか。


「ここは、ぬいぐるみ部の物をなんでも置いていいわよ。入りきらなかったら、ちょっとはみ出したり、楽器置き場の脇とかにもおいて大丈夫。私の心は寛大だからね」


「「ありがとうごさいます」」


 僕と美雨は揃って礼をする。


「裁縫道具とか、ぬいぐるみとか置くんだよね。針とかは危ないからちゃんとしまってね。お願いはそれくらいかな。ごめんね。わざわざ来てもらって。一曲演奏するわよ。聞いてく? 可愛い彼女とコンサートに行った気分になりなくない?」


 三里さんはそう言って僕の脇腹をつつく。やたら馴れ馴れしいな。


「か、かっ、かのじょって、私、優とは、ただの友達で、つ、つきあってるとかそんなんじゃないですっ。だから大丈夫です。で、では私はこれで忙しいので失礼しますっ」


 美雨は顔を真っ赤にして否定して、あまりにも恥ずかしかったのか逃げてしまった。


「あ、すみません。僕も忙しいので演奏聞くのは次の機会ということで、失礼します」


「あらそう。じゃあ、また今度ね。頑張ってね。羽有くん」


 断られたというのに、三里さんは何故かにこにこして嬉しそうに僕を見て手を振った。しかも何を頑張ってと言われたのかいまいちわかんない。まあ多分文化祭のことだろう。


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