お母さんがうみがめさんに会いたいって
来た……!
児童館の入り口の前でぬいぐるみを縫ったり、文化祭実行委員会に出す書類を書いたりして待機していた僕はピンク色の手提げを肩から下げて歩く、えりかを遠くにみつけた。
僕はポケットの中の水族館のチケットを意味もなく触る。女の子をデートに誘う時ってこんな気持ちなのかなと思いそうになったけど絶対違うな。
「……うみがめさん」
ってぼーっとしてたら、先に気づかれてしまった。
「久しぶり」
「ひさしぶり……」
目の前までえりかが来た。今日は天気がいい。えりかの白い肌と、二つに結んだ髪の毛、そして相変わらずピンクに統一された洋服と、手提げ袋。一つ一つが眩しく感じるほどに美しく照らされている。足を少し動かしたえりかが砂利を踏んで軽い音がする。よし。早く言ってしまおう。
「えりか、水族館行かない?」
「え?」
「チケットをもらったんだ」
僕はポケットからチケットを取り出して、えりかに手渡す。えりかはチケットをまじまじと見つめた。その視線は、なんとなく、チケットの右隅のうみがめの写真にいっているように見えた。
「……うみがめさんと、二人?」
「いや、りすとやまねも一緒だよ。やまねのお母さんが当ててくれたらしい」
「……りすちゃん、とやまねちゃん……」
「知ってる?」
「うん。同じクラスだったと思う」
そこで、えりかは下を向いて白っぽい砂利を見つめた。どうしようか考えているようだった。
「……お母さんに相談してみる」
「……そうだね。まずは許可を得ないとな」
てっきり家に帰ってから聞くのかと思ったが、えりかはその場でスマホを取り出して、電話をかけ始めた。
すこし僕から離れて歩いて行き、小声で何か話していることくらいしかわからないであろう距離で立ち止まった。その場にいるのも悪いと思ったので僕は児童館の中に入り、下駄箱のところで座って待っことにした。ドアの向こうにえりかが歩いて小さな軌道を描いていた。時折頷いたり口を動かしたりしていて、何か話しているようだった。
スマホを手提げ袋にしまう動作が見えてすぐ、えりかがこっちにすこし急ぎめで来た。
児童館に入り、靴を脱いでからえりかは口を開いた。
「お母さんがうみがめさんに会いたいって」
「え?」
「付き添ってくれるのがうみがめさんっていったら会いたいって」
「なるほど……」
まあ、普通に考えたら、見知らぬ人に連れられて、水族館に行くことをあっさり許可するわけないよな。でもわざわざ来てもらうのも悪すぎるな……と思っていたのだが、
「私の家、ここから歩いて二分くらいだからもうすぐ着くと思う」
ま、まじか。挨拶ってどうすればいいんだ?
このたび、水族館に一緒に行くことになりましたー羽有優ともうしま……いや、なんか変だ。田植の話し方と同じくらいかそれ以上に変だ。