おまえら、活動禁止だろうがああああ!
週は開けた。さすがにそろそろほぼ全ての団体が文化祭に向けて活動を始める。聞いたこともない部活が、放送で部員を集めてたりする。
そうすると困ったことに、図書室の自習スペースも弱小部活の人たちがいくつかのグループをなしていて、いつもの静かな図書室ではない。
「一人二役はないだろ」
図書室の主と勝手に僕が認定した稲城は、前述の訳もあっていつもよりも大きな声で話していた。
「てか稲城、ぬいぐるみ部の話し合いに口を挟むポジション何も変わってないじゃん。なんでぬいぐるみ部入ったんだよ」
「なんとなくだなんとなく。今はその話ではない。自分は一人二役などできるはずがないと思うんだが」
稲城の入部を美雨も美濃も単純に喜んでいるようだった。しかし、僕は稲城が入部理由を言わないのが気になった。稲城はもともと帰宅部というか図書室部というか、とにかく、部活とは疎遠で、一人でパソコンをいじり、たまに本を読むという生活を送っていた。というか今日も大して変わらないのだが。だからなぜ急にぬいぐるみ部に入ったのかが全くわからない。パソコン研究部とかならまだわかるけど。
「うーん、まあ確かにそうかもしれませんけど……」
美濃の高いけど耳に心地よい声が僕の全く進まない思考を打ち切った。
「キャストを三人に絞るか、誰かに強制的にぬいぐるみ劇に参加させるかだな」
「ちょっと待った三人って稲城入ってないじゃんか、稲城もなんか役やれよ」
「それはやだ。男の声はぬいぐるみ劇に向いてないだろ。そもそも羽有だってやめたほうがいいぞ」
そう言われるとなんも言えないな。普段は裏でぬいぐるみ動かしたりしてるだけだし。
「でも、キャストを三人に絞るのは難しいし、わざわざぬいぐるみ部のために台詞覚える人なんていないよね〜」
「そうだな。そういや、去年の文化祭で、可愛い女の子をたくさん集めてステージ上で色々な企画に参加してもらうという趣旨のイベントがあったが、結局可愛い女の子が足りないという結果になって、他校から呼ぶという決断をしたな。つまり、協力してもらう人は渚ヶ丘の人でなくてもいい訳だ」
ああ、そういやそんなことあったな。確か可愛い子が少なすぎる! とか嘆いて隣の高校のミスコン一位とか連れてきてたっけ。
で、前例からして渚ヶ丘の生徒じゃなくてもいいってことなんだろうけど。だからってなんも解決してないんだよな……いや、ちょっと待った。
僕はある考えを思いつくが……いやいや、ないな。さすがに。確かに僕はぬいぐるみ劇にのりのりで協力してくれそうでしかも声が可愛い人を二人知って……いや違う、僕は気づいた。
もう一人、知っている。
「優、なんか言いたそうな顔してるよ」
美雨が僕に顔を近づける……って後ろ!
美雨の後ろに立っている超危険人物に気づいたがもう遅かった。
「げっ」
気配を感じて振り向いた美雨が女の子らしさとかけ離れた声を出す。
それだけ中洲先生が背後にいたことに驚いたのだろう。
「おまえら、活動禁止だろうがああああ!」
本当に人間なのかと思うほど迫力のある声が、図書室に響いた。