表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドセルを背負ったうみがめさん  作者: つちのこうや
文化祭準備編
15/73

はかどっているみたいですね〜


「……それで三人で授業さぼって寝てたっていうのか? ふざけんなああああ!」


 その二時間後。職員室で僕たちは干物のようになっていた。それは日に照らされて寝てたからではなく、目の前で怒り狂って入る中洲先生を前にそうなるしかなくなったからである。口調は男の熱血体育教師のみたいだけど、実際は英語教師でしかも女性だ。




 僕たちは三里さんに起こされた。目覚めたら体育着姿の三里さんが僕の顔を覗き込んでいた。通りがかったら、三人とも爆睡していたらしい。三里さんマジ神だわ。通りがかってくれてありがとうございます! って感じだったのに、その後は生徒指導という悲惨な現実が待っていた。


「文化祭準備期間恒例の罰として一週間活動停止だああああ!」


 ばん! と中洲先生が英語の教科書で壁を叩く。


「ちょ、ちょっと待ってください。今回のは不慮の事故で……」


「理由など聞いてない!」 


「え……」


 文化祭準備期間……つまり九月から文化祭前日までは、部活単位で集団で授業をサボったら一週間活動停止という規則がある。こうすることによって、授業をサボって文化祭準備をする団体はなくなる、というわけだが……


 確かに、僕と美雨と美濃は全員ぬいぐるみ部員で、しかもそれで全部員だから部活単位ということになるだろう。だけど、サボりたくてサボったわけじゃないしな……。


「とにかく活動停止だ! わかったな!」


 ここで反抗するとあとあと面倒になる気がするので、僕は美雨と美濃と目配せして、


「「「すみませんでした」」」


と謝った。それと同時に、一週間の活動停止が決定した。



 

 しかし、こんなことで活動をやめるわけがない。ぬいぐるみ部の利点はどこでも作業ができること。学校での活動が停止されたところで影響は少ない。


 僕たちは学校から少し離れたところにある広場に来ていた。辺りには木材がたくさん。


 野球部の人がここまで運ぶのを手伝ってくれた。美雨と美濃が頼んだら即OK。ちょろいな……。ぬいぐるみ劇に使う分と、ダンス部の分。僕は休まずにのこぎりで木を切ったり、金槌でベニヤ板をうちつけたり。


 美雨と美濃は、広場の端のベンチと机があるところで、ダンス部の衣装とぬいぐるみを作っている。こんなこともあろうかと、コードレスミシンを用意しておいてよかった。


「はかどっているみたいですね〜」


 え? 振り向くと大きな胸がぼよん。


「こっ、こまっ、小町先生……」


 見つかっちゃダメな人だ……。


「えと、あ、そうなんです。最近木工にはまりまったんです。裁縫と工芸は、それぞれの良さがありますよね」


「もう全部わかってますよ。野球部の人たちが協力したと認めてくれましたし」


 は? 野球部の人たち男前に秘密を守るって言ってたよな? やっぱちょろすぎだろあいつら。


「ごめんなさい」


「ま、でも私は見なかったことにしますね」


「え? それは嬉しいというかありがたすぎるんですけど、それだと小町先生が困りますよね……小町先生、ぬいぐるみ部の顧問ですから……」


「それは大丈夫です。それに、今回の件は羽有くんたちに非はあんまりないから私は活動停止にしなくていいと内心思ってます」


 小町先生は、そう言って優しく微笑んだ。


「小町先生やっぱりさいこーです!」


「ありがとうございます! 小町先生大好き!」


 いつの間にかこっちに来ていた美雨と美濃が小町先生に抱きつく。僕もあそこの中に入りたいなあ。




「は〜。助かった」


 小町先生が帰ってからしばらくして。

 僕は美雨と美濃のところに行き休憩を取っていた。


 外で作業すると喉が乾く。お小遣いに余裕はないけど、僕は広場の前の道路にある自販機で、カルピスを買った。


「はあ。疲れた……また稲城召喚したい……」


 僕は机に突っ伏す。


「優くん邪魔です。布広げる場所ないです。」


「はい。ががががっと」


 美濃と美雨に強制的に頭を移動させられた。ひどい。仕方がないのでベンチに寝そべる。


「だから今からそこ座るんだけど。ていうか座るね」


「うげ」


 美雨が僕のお腹の上に何のためらいもなく座る。お尻柔らかい。いやそれよりも……


「重くて圧迫感が」


「私が重い、だと……?」


「いや、何でもないです」


 僕はベンチを脱出し、作業に戻る。休憩ろくにできなかった。ため息をつきながら木材が乱雑に積み上げられた僕の作業場を見ると……

あれ?


「稲城がいる!」


 願ったらほんとに来た。すごい。僕にそんな能力があったとは知らなかった。


「やっと来たか」


「手伝いに来てくれてありがとう! 僕の願いが伝わったようだね。これから時折この能力を使わせてもらうからよろしく」


 僕は稲城の肩をたたくが、稲城は無反応。そして無造作に僕に一枚の紙を差し出した。


「これは……?」


「見た通りだ。入部届けだ。今日から自分は、ぬいぐるみ部に入部する」


「え……」


 目の前に突き出された稲城の名前が書いてある紙に手を伸ばすこともできず、僕は口を開けて固まっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ