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異世界統一記  作者: 大原陸
第二章~メンフィス編~
9/19

「大喧嘩」

  白兎はその紅玉(こうぎょく)の瞳に燃え上がるような憎悪を宿している。先日王宮で手合わせした時とは段違いだと戦王は感じる。「ふぅ」と息を吐いた戦王は自分と白兎の勝利条件を確認する。

  僕の勝利条件はケルベロスを守り、白兎を殺さずに無力化すること。両方達成できなければ最悪と同じ結果だ。対して、白兎の勝利条件は僕を殺さず、ケルベロスを殺害することだろう。

 ーーなんて不利な戦いなんだ

 僕は心の中で呟く。僕の魔法は万の軍勢や巨大兵器を一撃で葬ることを得意としている。攻城戦や面制圧をするには持って来いだ。しかし、ここは他国の王宮。いつものようにガンガン能力を使えば、確実にここら一帯を平らにしてしまう。かといって生半可な雷撃で白兎を捉えることは不可能に近い。防御として力学操作を張るには広さが足りない。以上のことから、僕は一つの結論にたどり着く。

 ーー近接格闘戦で白兎を倒す!

 僕は右手に持った雷のシリンダーを回し真下にあった銃弾を撃鉄の下に持ってくる。僕は引き金を引く。すると、地面から黒い砂が銃身の先に集まりだす。二、三秒程時間が経つと僕が両手に持つ銃には銃剣のように黒い陽炎が(まと)わりつく。

  ーーマグネティックコントロール、砂鉄銃剣(さてつじゅうけん)。土に含まれる砂鉄を高圧電流を流すことで吸い寄せ、銃剣とする小技だ。小技といっても流す電圧次第では軽戦車の装甲を一刀両断できる斬れ味を有する。今回は白兎を殺さないために出力は抑えているが、斬れ味は折り紙つきだ。

  白兎は僕が構えたのを確認すると突進を繰り出す。僕はギリギリで突進を避け、すれ違いざまに斬りつける。すると、白兎の白髪が舞う。彼女は僕から3メートルほど距離を取ると再度攻撃を仕掛けて来る。カウンター戦法を得意とする僕のフィールドには持って行かず、一撃離脱、ヒットアンドアウェイに徹する。僕は左手に持っているコルトガバメントの引き金を引き白兎を牽制する。キュッキュッと耳障りな音を立てて白兎は銃弾をかわし距離を詰めてくる。

「化け物め」

  僕は誰にも聞こえない声で毒を吐く。白兎を殺さないように足元を狙い態勢を崩そうとしたのだが、彼女は顔色一つ変えずに突っ込んできた。人間を相手にしているわけではないことを僕は再確認した。

「これで終わりです!」

  戦闘が始まって初めて口を開いた白兎は『零美』の峰で戦王の首をなぎにかかる。

「バインド」

  僕は静かに呟くと白兎の動きの全てが一瞬止まる。刹那、僕は全力で銃剣を振るう。白兎の動きが止まったのは一瞬だったので、彼女は硬直が解けるとすぐに後ろに飛ぶ。

 ーーここだ!

 勝機を見出した僕は雷撃を放つ。白兎を殺さない程度に出力を抑えたせいもあっていつものような派手さはない。青白い閃光が白兎に襲いかかる。

「やむを得ませんね」

  白兎は懐から何やら青白い錠剤を取り出すと口の中に放り込み噛み砕く。すると彼女の体に変化が起きる。輝く白髪が膝の裏まで伸び、腕と脚には白い毛が生え、紅玉の瞳はより鮮やかさを増す。もちろん変化は外見だけではなく身体能力も爆発的に上昇している。這い寄る閃光を潜るようにかわして僕との距離を詰める。

 

守兎 白兎(しゅと しろうさぎ)

 ケルベロスは震えた声で呟き、アヌビスと顔を見合わせる。白兎に異名が付いたのは大国主(おおくにぬし)と旅をしている頃の話である。月の民である神獣種の兎は月の光の強さに呼応して身体能力が上昇する。その力を使い数年前まで彼女は主人に降りかかる厄災をねじ伏せていた。ある日自分より上位に位置する種族を葬り去った時、尊敬と畏怖を込めてその名を与えられたのだ。


「なんで昼間なのに月光の力が使えるんだよ」

  僕は恐らくこの場にいる全員が抱いていたであろう疑問を口にする。

「私の伝承を知っていますか?」

「サメの群れを騙した話ならっ!」

  僕は戦いが始まって初めて自分から攻撃を仕掛ける。単純な回し蹴りだったので白兎は少しだけ体を後ろに傾ける。さっきより身体能力が上がったからこそなせる技だ。

  ツメが甘い。僕は足先にマグネティックコントロールで足先に刃渡り10cmほどの暗器を構成する。焦った白兎は急いで後ろに飛ぶが、大きく育った胸が仇となる。彼女の谷頭(こくとう)から血が滲む。薄くしか切れていないので傷跡が残る心配はなさそうだが、服がはだけて胸が半分ほど露わになっている。

「エッチぃですね」

 白兎は右手で露わになった胸を隠す。いつもなら顔を赤らめて恥ずかしがるのだが、今日は違う。

「さっきの青白い薬のせいか」

「流石は戦王様です。この薬は月光の力が秘められた月光剤。私は優秀な薬師(くすし)だった大国主様の技術を全て受け継ぎました。本来の月光には劣りますが月の兎の強さを思い知らせてあげますよ」

  大国主はガマの穂を使って白兎の傷を癒したとされている。僕の世界の伝承はそこまでで終わっていたが、彼女が薬師だったとしても納得できない話ではない。

「おてやわらかに頼むよ」

  白兎は先ほどまでとは比べものにならない速度で襲いかかってくる。白兎が戦王の顔めがけて蹴りを放つ。戦王は両手でブロックして反撃しようとしたが、白兎の姿はそこになかった。

 ーー後ろか!

 直感的に判断した僕は銃剣を振るうがすでに白兎の姿はなく空を斬るだけだった。白兎の動きに合わせて反撃するのが不可能だということを悟った僕は五感の全てを研ぎ澄ませ白兎の動きを探る。すでに視界は白兎の動きを捉えるのに役に立っておらず彼女が三人に見える始末だ。

 ーークソッタレ!

  白兎は亀のように縮こまる戦王を見て笑みを浮かべずにはいられなかった。普通に戦ったらほぼ勝てないであろう相手を一方的に倒せる。その快感が私にはたまらなかった。私は戦王様の腹にスピード重視の拳を入れる。さっきは油断して胸を斬られたので一撃離脱、ヒットアンドアウェイを徹底する。私が知る限り戦王様程的確にカウンターを決めてくる人間はいない。よって彼の前で動きは決して止まらない。速度重視の拳で何度も何度も殴る。数十発拳を入れたところで彼の体がぐらりと揺れる。

「トドメです!」

 白兎は『零美』を抜き峰で戦王の首を撃ち抜こうとする。

「ツメが甘い」

  刃が首先数センチのところまで来た時、青白い閃光が戦王様の体を中心として半径3メートルに放たれる。白兎と観戦していたケルベロスとアヌビスは眩しさのあまり目を伏せる。

 

  ケルベロスの顔に安堵の表情が浮かんでいる。正直言ってケルベロスは7対3で戦王が負けると思っていた。初めは加勢しようとも考えたが、自分が入ったところで足枷にしかならないことを悟ってその考えを捨てた。戦王が倒されれば自分は白兎に殺されるだろうが、先日まで敵だった自分を仲間として認めてくれた彼にかけることにした。

「勝って」

  ケルベロスが心の中で思っていたことが自然と口に出る。

 

  ガタンと机の倒れる音がする。目が見えるようになった私は戦王様を探す。右、左、後ろ、の順に確認したが彼の姿は見当たらない。直後、私は背後から物凄い気配を感じる。彼は天井に張り付いていたのだ。あたりに彼が見当たらず、私が隙を見せたので音も無く奇襲したのだ。いつもの私ならここで勝負がついていただろう。しかし、私は先程の薬を追加でもう一錠噛み砕く。白兎は背後から迫る斬撃を後ろに目がついてるかのようにかわし、僕の額に手を当てる。

「止まって見えます」

 白兎は僕の耳に顔を近づけ無情な宣告をする。次の瞬間、僕は壁に吹き飛ばされる。かろうじて受け身をとったが、体からピキピキと骨にひびが入った音がする。薬一錠ではなんとか防戦ができたが、薬2錠では子供扱い以下だ。それでも、僕は立ち上がる。

「正気ですか?」

 白兎は嘲笑気味にボロボロの僕を見つめる。

「復讐を果たしても何もないことを教えてやるったろ」

 戦王様は楽しげな表情を浮かべている。不気味だと私は感じるが、すぐに笑顔を浮かべる。何か策があるのかと考えたがあの体で何もできることはない、私は「零美」を抜く。

「そんな体で何ができるのですか!」

 私は戦王様に向け刺突を繰り出す。速度も重さもない誰でもかわせるようなフェイントとしての攻撃だ。かわした所に絞め技をかけて落とすつもりだった。向かってくる私に対して戦王様は刀を叩いてカウンターをいれようとしたが、直前で体が崩れる。

「嘘……」

 白兎はあまりの出来事に状況を理解できていない。「零美」の刀身から生暖かい鮮血が伝ってくる。戦王は白兎に腹を貫かれ鮮血を流している。致命傷だ。

「ああああああ!」

 白兎は叫ぶ。殺すつもりではなかった。戦王なら避けられるはずだった。しかし、彼は避けられず腹に刃を受けた。肉を切り開いて行く感覚が白兎の手にはまだ残っている。戦王が崩れ落ちる。

 白兎が抱えようとした瞬間戦王は大量の御札になる。

「ツメが甘い」

 横になったテーブルの後ろから()()()の戦王が現れる。白兎は何が起こったのかわからず立ち尽くしている。僕は後ろから白兎を抱擁し、首筋に手を当て少し電流を流す。

「復讐心に身を焦がした結果がそれだ。間違って友軍を殺してしまった後悔、達成した後の虚無感、周囲から向けられる畏怖の目。僕と同じにものを味わう前に戻ってこい」

 僕は白兎の耳元で語りかける。白兎は体を反転させて僕の胸に顔を埋め涙を流す。

「殺したかと思って、私……私……」

 白兎は再び泣き出す。彼の胸から聞こえる心臓の鼓動を聴くと白兎は安堵する。僕は我が子をあやすように白兎の頭を撫でる。撫でているうちに薬の効果が切れ白兎はいつもの姿に戻る。いつもの姿に戻った白兎は泣き疲れたのか、薬の副作用なのかわからないが、寝息を立て始めた。

「少し、寝ていなさい」

 僕は白兎が起きないように床に座ると、ジャケットを枕にして彼女を寝かせる。夕日が差し込み白髪の従者と漆黒の髪を持つ王を照らす。


  日が沈みかけていた頃。白兎を別室に寝かせると僕とアヌビスは王宮の最上階にある書斎で酒を飲みながら話をすることにした。書斎は二十畳程の広さで左右の棚にはびっちりと本が入っている。僕の書斎と違って整理整頓がしっかりとされていて床に物が散乱していない。無論、僕の書斎も白兎が毎日掃除しているのだが、それ以上の速度で戦王が物を散らかしていっているのだろう。さらにタチの悪いことに、彼は床に書類を散らかしているのでは無く()()()()()と言うのだ。その証拠に全ての書類がどの山の()()()にあるのかを把握している。

「さっきの術は身代わりの術か何かか?」

 アヌビスは机の引き出しから葡萄酒(ぶどうしゅ)とグラスを2つを取り出し乾杯する。20年間瓶で熟成された飲み頃の葡萄酒だったので、とても深みがあっていい味がする。2人は一杯目を一気に飲み干すとお互いに酒を注ぎあう。

「さっきのは式神を使役したんだ」

「と言うことは神聖属性の魔法か?」

 アヌビスは葡萄酒のつまみにチーズを出し薦めてくる。チーズをあまり食べたことのない戦王だが、好奇心から食べてみる。匂いの強いチーズだがどこかクセになる味だ。

「魔法というより術だな。お札を触媒として自分より少し弱い分身を魔力で作るんだ。」

「便利なもんだなぁ」

 アヌビスが二杯目の葡萄酒を飲みきったのを見ると戦王は三杯目を注ぐ。よっぽど酒に強いのかアヌビスは全く酔い潰れる気配がない。僕も恋人がかなりの酒豪で毎晩飲まされていたので、飲み慣れない葡萄酒でも簡単には酔い潰れいだろう。

「そうでもないけどな」

 そういうと僕は小さな雷を起こして見せたり、投げたコインを一瞬止めて見せたり、式神を召喚したりする。アヌビスは2つ目の能力を見せられた時に驚愕の表情を浮かべる。

「神力と魔力の両方を持ち合わせているだと…」

「なんのことだ?」

 僕は口にからグラスを離して問う。

「魔法は属性に応じて魔力か神力を消費して発動するんだ。具体的に神性属性なら神力、魔属性なら魔力、自然属性はどちらでも使える。そして、どの魔法を使えるかは神力か魔力どちらを持って生まれたかによって決まる。なのだが、君は何故2つの力を持ち合わせているんだ?」

 僕はグラスに入った葡萄酒を一気に飲み干すと顎に手を当てて考えて見る。20秒ほど考え込んだ後僕はある仮説にたどり着いた。

「恐らく僕が恋人の能力を受け継いだのが原因だろう。彼女は呪術にも長けていたからそれも一緒に受け継いだんだと思う」

「でも君が体に宿しているもの的にそれは難しい気がするんだけどなぁ」

 アヌビスは先ほどの戦闘で僕が神と強い繋がりがあるのを見抜いていた。しかし、受け継いだ能力はかなりアヌビスの死霊魔術に近い禍々しいものだったので不思議に思っている。

「完全には受け継げなかったよ。本来の力の半分ぐらいかな」

 完全には納得してなさそうな顔をするアヌビスだが、筋は通っているのでこれ以上の推測は無意味だと感じた。いつの間にか葡萄酒の瓶が空になっていたので、アヌビスは新しいのを持ってきて抜栓する。その後の話はあまり記憶にないが、先にアヌビスが酔いつぶれたので僕は与えられた部屋に戻って寝ようと思った。










今回は二人称視点にフォーカスして話を展開してみました。今までの書き方とどちらがいいのでしょうね?ご意見をくれると嬉しいです。

ではまた次のお話で会いましょう

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