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異世界統一記  作者: 大原陸
第二章~メンフィス編~
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「対ケルベロス戦」

  今日は戦闘を控えているため軽めの食事を取り、長袖の白いワイシャツを着る。書斎の椅子に座り後ろ腰のホルスターに収めた拳銃M1911をオーバーホールして掃除をする。1947年にアメリカ軍から鹵獲したものだが日本の拳銃より使いやすかったので手放せずにいる。装弾数が7発+1発と少なめだが壊れにくく、日本のものより信頼性が高い。言ってはなんだが、自分が戦場に出るまで日本が劣勢に立たされていた理由がよくわかる。掃除を終え組み立て直すと予備弾倉を二つ作り左の内ポケットに入れる。次に右のホルスターに収めているリボルバー形態の魔法発動補助具『雷』を取り出し弾倉を左にずらす。シリンダーには銃弾の形を模した金に文字を刻んだものが込められている。

「スパーク、マグネティックコントロール、エレクトロンカタストロフ、ヒューマンコントロール。いつもの四術式と念のために切り札を持っておくか」

 独り言をつぶやいた戦王は鍵付きの引き出しから別の魔法が刻印してあるものを一つ取り出して右足のポケットに入れる。一瞬近づかれた時用にナイフを持っていこうかと思ったが、すぐに無意味だと気づいた。白兎ほど身体能力が高く無いにしても近接戦闘で勝てるわけがないことは昨日のうちに証明されている。もし、白兎と組み合っていなかったらきっとナイフを持っていき試していただろうなと思う。そして、高確率でピンチを招くことになっただろう。

「戦王様そろそろ時間です」

 白兎は青いブレザーに紺色のスカートとなかなかかわいい服装である。

「わかった。行くとしよう」

 戦王は黒のジャケットを着て白兎についていく。

「さて、我が本気を出すに値するか見定めさせてもらおうか獣人」

 戦王は白兎に聞こえないように呟き、獰猛な笑みを浮かべる。やはり戦場で生きてきた者としての血は争えないようだ。


  ウルク王国王宮から西に150㎞に位置するのは獣人王国が人類から奪った土地に立てたコロッセオである。すでに50万人は入ろうかというコロッセオの中は満員で、人類と獣人の比率は半分といったところだろう。

「勘弁してくれよ、戦争は見世物じゃ無いんだから」

「国をかけての決戦なのですからこうなるのは当たり前ですよ」

 ニコニコしている白兎に対して戦王は対照的で本当に面倒くさそうだ。

「でも、格の違いを知らしめるには絶好の機会だな」

 戦王は立ち上がると堂々と舞台に向かっていった。

  「逃げずにきたことをひとまず褒めてあげますの」

 壇の上の椅子に座るケルベロスの元に集まる99人の獣人王国が誇る最強の戦士達。三列に分かれて隊列をなしており、前衛に盾、中衛に槍、後衛の弓。典型的な布陣だ。獣人の観客達は僕が一人で戦うことに対して腹を抱えて笑っている。一方の人類達は俯き絶望している。

「戦王の名にかけて戦から逃げる事は許されんよ」

 戦王の挑発的な態度をケルベロスは鼻で笑った。

「これよりウルク代表戦王対獣人王国右大臣ケルベロス率いる軍との代表戦争を開戦する。ウルク王国の要求は今まで獣人王国が租借してきた土地の返上。獣人王国の要求は人類王国全ての割譲。両者異議はないな?」

 コロッセオの真ん中に立った男が観客に向け説明をする。

「異議はねぇよ」「異議ないわ」

 二人は同時に答えると開戦のラッパがなる。

「第1弓小隊から第3弓小隊は順次矢をつがい、途切れないように放ってくださいまし。盾隊と槍隊は待機ですの!」

 ケルベロスの指示で戦王めがけて雨あられのように弓が降り注ぐ。普通の人間なら串刺しにされて終わりだろう。あいにく戦王は普通ではない。

「くだらん」

 戦王は降ってくる弓を一瞥(いちべつ)すると手を掲げる。それと同時に降りかかってきた弓は真っ逆さまに地面へ落ちる。『バインド』物体の運動エネルギーをゼロにする魔法である。運動エネルギーをゼロにされた物体は重力に従って地面に落ちるだけだ。弓を放った者達は動揺を隠せていない。

「怯まないで打ち続けてくださいまし!」

 さっきよりも多くの矢が降りかかってくる。煩わしいと感じた戦王は冷酷な宣言する。

「まずは数を減らそう」

 彼は降りかかって来た矢を『バインド』で止めるのではなく、今度は『反射』を使った。『反射』された弓はU字にターンし相手の元に降り注ぐ。この魔法は向かって来た運動エネルギーをそのまま相手に返す魔法である。さらに戦王は能力で矢弾を加速させる。加速された矢の速度は元の速度の倍以上になっており前列に構えていた盾隊の盾を貫通し半数以上を戦闘不能に陥らせた。

「舐めるな!この程度で我を倒そうなど遊んでいるようにしか思えんぞ!」

 戦闘開始から100人をあいてに一歩も動かずにいる戦王に獣人たちは驚きを隠せないでいる。いつの間にか観客も静かになり、人類サイドの観客には希望の表情が見えてきている。

「少々甘く見ていた見たいですの」

「降りてこいケルベロス。一対一で我と勝負しようではないか」

「思い上がらないでくださいまし。全軍突撃準備!」

 ケルベロスの号令で槍隊と盾隊が姿勢を低くし、突撃の構えを取る。

「突撃!」

「うおー」と大きな鬨の声を挙げ突進してくる。人間には到底出せない速度でみるみる距離を詰めてくる。

「これなら殺さずに無力化できるな」

 そう呟いた戦王は『雷』の撃鉄を上げシリンダーを時計回りに一つ回し撃鉄を下ろす。彼は『雷』に魔力を注入し引き金を引く。戦王から10メートルのところを基準に獣人達はガシャンと大きな音を立てて、地面吸い込まれていくように倒れていく。

「重力制御魔法?」

 ケルベロスは突然の出来事に声がうわずる。今発動した魔法は『マグネティックコントロール』。地中にある砂鉄を心中(しんちゅう)として周囲に高圧電流を流し、強力な電磁石を作る魔法だ。生み出された強烈な磁場が獣人の兵士が身につけていた金属の鎧を吸い寄せたというわけだ。

「そんな魔法は使えんが、これで1対1だな」

 不気味な笑みを浮かべる戦王を見てケルベロスは椅子から降りてくる。ケルベロスは直々に始末してやると態度で語っている。二人は50メートル離れたところで対峙する。

「本気を出せケルベロス、それでも私には勝てんがな」

 戦王は左目を左手で覆い思いっきりケルベロスを見下す。『雷』の撃鉄を上げシリンダーを反時計回りに回し、ケルベロスに向ける。

「後悔しないでくださいよおおおおおお。」

 戦王の挑発にイラついたケルベロスは語尾を大きく上げながら言う。

「私の中に眠る血よ!その蛮性を解き放ちわたくしに大いなる力を与えなさい!」

 美しい四肢は禍々しい四つ足に、肌荒れ一つもない体からは禍々しい毛が生え、美少女のケルベロスは地獄の番犬ケルベロスへと姿を変える。

「これが先祖還りか」

 戦王の前に立つのは全長25メートルはあろうかと言う三つ首の魔獣。噂通り理性は吹き飛んでいるようだが放つ殺気は桁違いだ。

「ガルルル」

 ケルベロスは時速100㎞を上回る速度で突進を繰り出す。だが、彼にとって速度は無意味だ。彼は自分の周囲10mに『反射』の応用である『流射』(りゅうしゃ)を張る。『流射』は『反射』と違い運動エネルギーをU字にターンさせるのではなく、エネルギーをそのままに角度120度で受け流すものである。それによりケルベロスはコロッセオの壁に突っ込む。

「ガルルル」

 壁に突っ込み怒ったケルベロスは再び突進の構えを取る。だが、2度目の突進をさせる気はない。戦王は大きく深呼吸をする。右手を肩の高さまで上げ詠唱を始める。

「天命は決した。我が嘆きは大地の嘆き、我が裁きは天の裁き。神々より賜りし雷を受けるがいい」

 戦王はケルベロス上空に向かって魔法を放つと巨大な魔法陣が展開される。晴天だった空には黒い雲が立ち込め、ゴロゴロと雷が鳴り出す。戦王は『雷』をホルスターにしまい、手をあげる。

(いかずち)よ落ちよ!」

 戦王が手を下ろすとケルベロスに雷が落ち地獄の番犬ケルベロスを射貫いた。射貫かれた所には気絶した元の美少女ケルベロスが横たわっていた。

「嘘だ!ケルベロス様が負けただと」

 ひとりの獣人種が叫ぶと会場がざわめき出す。

「皆の者聞け!我々人類は弱かった!だが、淘汰される時代は終わった!故に!弱きものよ我が元に集え!差別されし者よ我が元に集え!平和な未来を築きたいものよ我が元に集え!我が強者に抗う力を授けよう!ウルク王国と大平和共栄圏に栄光あれ!」

 戦王が勝利宣言をするとそれまで騒いでいた獣人種に変わって人類が歓喜する。やがて人類達は「ウルク王国万歳!」「戦王様万歳!」と喝采をする。ありったけの喝采を浴びた戦王は白兎の待つ控え室に戻る。

 

控え室のドアを開けると白兎がお茶を入れて待っていた。

「お疲れ様です。戦王様。」

「ありがとう白兎」

 戦王はお茶を受け取ると一気に飲み干し座る。

「戦王様、左目が金色になってますが大丈夫何ですか?」

「大丈夫だよ。これは能力の問題だから。」

 大丈夫とは言っても白兎は心配そうな顔をしているので説明する。

「僕の家はその昔雷神と契約してこの力を得たそうだ。その証拠として能力を使っていくと眠ってる力が起きて来てだんだん目が金色になるんだよ。」

「と言うことはさっきのは本気でやってなかったんですか!」

 白兎は机から身を乗り出して問い詰める。

「彼らを一人も殺さないように戦えたって言えばわかるかな?」

「はい」

 白兎は改めて戦王が戦王と呼ばれていた理由を理解する。戦闘において殺すのはさほど難しくないが、殺さずに相手を無力化するには圧倒的な実力差が必要である。なぜなら、相手が殺しに来ている状況で相手の力量を見極め殺さずに意識を刈り取る攻撃を正確に繰り出す必要があるからだ。

「白兎、これから行きたい所があるんだけど案内してくれるかな?」

「構いませんけど、どこへ行くのですか?」

 戦王は控え室の窓から見える崖を指差す。


  戦王達は1時間程移動した所にある崖の上に来た。ちなみに移動手段は空を飛んで来ている。始めは白兎にお姫様抱っこをしてもらい、時速30kmを超えたところで戦王の力学操作で空を飛ぶ。彼の能力は時速30kmを超えている力学的エネルギーなら自由に操れるのだ。

「何でこいつがいるんですか〜!」

 白兎は戦王の腕に胸を押し付けているケルベロスを指差して騒ぎ立てる。対して、胸を押し付けられている戦王は全く動じていない。

「私、この方に惚れてしまいましたの。領土も取られてしまいましたし、これからは戦王様に仕えて籠絡していきたいと思いますの」

「意味がわかりません!戦王様からも何か言ってあげてください!」

「まぁ、いいんじゃないの?腕と頭はたつだろうから、役職でも与えれば全ての種族を平等に扱うと言うアピールになるよ」

「ほらほら、戦王様もそう言ってますし良いではありませんの」

 大きなため息をついた白兎は仕方なくケルベロスの滞在を認める。その様子を見てケルベロスは白兎に向けしてやったりと言わんばかりに嘲笑う。

「仕事を済ませるから離れてくれ」

 戦王は右腕に絡みついたケルベロスを剥がすとホルスターから『雷』を抜く。

「何をするつもり何ですか?」

「この前ウルクの崖を見たとき植物が埋まっている地層を見て思ったんだ」

「何を思いついたんですの?」

「口で説明するより見たほうが早い。下がってろ」

 二人を下がらせた戦王は適当に雷を落とし左目を金色に染めると雷のシリンダーをずらし、弾を一つ交換する。装填されていた金の銃弾とは違い、リムの部分が赤い。

「今から本気で雷を落とそうと思うからよく見とくといいよ」

 戦王が空へ銃を向けると地鳴りが起こり、彼の周りで小さな雷がパチパチと鳴り出す。物凄い力だ。神獣種の白兎は神力や魔力に対する感受性がケルベロスより高いので、眩しくて目が開けられないようだ。戦王が引き金を引くと上空に直径100mほどの青白い魔法陣が展開される。展開された魔法陣は約2秒後に収束を始め、蒼白い閃光を紡ぎ出す。生み出された雷は半径200m、深さ150mにわたって地表を消しとばす。再び地鳴りがすると空いた穴から黒い水が吹き出す。

「ゲホッ、ゲホッ、何ですのこの臭い水は?」

 人間からしても臭い原油は獣人種の彼女にとっては物凄い臭いのようだ。

「石油だ。これを巡って僕のいた世界では戦争を起こしていた国もあるぐらい重要なものなんだ」

「私にはそう見えないですの」

 石油が無いことにはいくら技術があろうとも発展できない。都合よく油田があってよかったと戦王は安堵した。











予定通りにはなかなか行かないものですね。今回は戦闘回になりました。戦王がこれからどうやって人類を繁栄させていくのかたのしみにしていてください。

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