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異世界統一記  作者: 大原陸
第三章〜アルフヘイム編〜
19/19

「グレーテの戦い3」

 アルフヘイム本陣

 戦王の極大魔法によって防衛ラインが崩壊したオヴェイロンは焦っていた。「グラム」を使って木々の防壁を再構築しようとしてもどうやら地殻ごと地面が吹き飛ばされているらしく成長させる植物がない。


「報告します。我が軍損害甚大!さらに人類王が数名を連れてここへ向かって進軍中!」

「矢を射かけて進軍を止めよ!やつさえ討ち取れば勝てるのだ!」


 オヴェイロンは怒鳴りつける。


「しかし、新人類王に矢は効きません!」

「ならば私自ら奴の首を取ってこよう」


 オヴェイロンは両手を水平にあげよろいをつけさせる。彼が身につけた鎧は南大陸のテトラ鉱山で取れる最高級のミスリルを使い、最高の腕を持つ鉱山族ドワーフが作ったものだ。その性能は如何いかなる刃も通さず、魔法を軽減する不思議な力を宿している。

 オヴェイロンは指笛を吹くと真っ白な毛を持つ愛馬がやってくる。愛馬にまたがったオヴェイロンはグラムを掲げ兵たちに叫ぶ。


「遅れを取るな兵士たちよ。下等種族が思い上がるとどうなるか教えてやれ」

「おおー」


 兵士たちは弓を掲げてオヴェイロンに応える。


「突撃ー《アッサルト》」


 オヴェイロンは合図を出すとともに馬を走らせる。勇敢な1000人の精鋭達はその後を追いかける。




  騎兵を数人連れて森に侵入した戦王せんおうは全速力でオヴェイロンのところに向かう。木の上にいる弓兵がものすごい強弓を撃ってくるが、彼と騎兵には一切届くことはない。


「適時発砲、目障りな射手どもを撃ち殺せ!」

「了解」


 指示を出した戦王自身も自作した九九式歩兵銃を取り出し発砲する。揺れる馬上で正確に狙いをつけるのは非常に難しいが、能力で弾丸の軌道をいじり全弾命中させていく。兵士たちも魔法というインチキを使っていない割には当たっている。


「戦王様、どうしていつも見たく雷を落とさないんですの?」

「神力を温存しときたいんだ。さっきの極大魔法で半分ぐらいつかちゃったからね」


 戦王はコッキングレバーを引き起こし弾をこめていく。

 彼の雷撃魔法は燃費が非常に悪い。1番消耗の少ない落雷魔法の「神罰」でも1日に300発撃てたら調子のいい方だ。300発と聞くと多く感じるかもしれないが、1回の攻撃で3、4回連続発動させることがほとんどなので実質100発と変わらない。

 普通の人間と比べたら何千倍もの神力を有しているのは間違いないが、アヌビスの使う死霊魔術の何十倍もの燃料を食うため、実質的には普通より少し多いぐらいだ。

 初めはこちらの世界の魔法を使用することで燃料を節約しようと思ったが、酷い結果になったのでその計画は白紙になった。


「ならば雑魚は私におまかせですの。戦王様の道、このケルベロスがお作り致しますの」

「これを持って行け」


 戦王は馬に取り付けたホルスターから予備の拳銃と弾倉2つを取り出しケルベロスに投げる。


「コルトガバメント。使い方はわかるな?」

「ええ」


 ケルベロスは勢いよく駆け出す。一飛びで木の上に登り、その上にいた弓兵の頭を蹴り飛ばす。彼女の蹴りをモロに受ければ首と胴が2つに分断される。

 1人の首を飛ばした彼女は狙いを定め木をつたい次々と弓兵の頭を蹴り飛ばし、引き裂いていく。たまに、銃を撃ってみるがなかなかうまく当たらない。弾を撃ち尽くした彼女はリロードすることなく銃をしまう。

 そして、敵の返り血で真っ赤に染まった彼女の姿はまさしく地獄の番犬そのものだ。


「ケルベロス!覚悟!」


 木と木の間を跳ね回って移動していた彼女に短剣を構えた男が上から斬りかかってくる。その刀身には魔法によって風束ねられている。

 蹴り飛ばそうにも微妙に間に合いそうにない。しかし、手で受け止めたらスパッと手首が切り落とされそうな気がする。攻撃も防御もできないのなら避けるしかない。

 問題なのはここが空中であること。羽でも生えていない限り大きな移動はできない。ケルベロスは一か八かの可能性にかけて体をひねる。


「甘いわ!」

「しまった!」


 男の剣は避ける方向を読んでいたかのようにケルベロスの柔肌へと向かう。彼女は鮮烈な痛みが走るのを覚悟した。


磁石マグネット


 戦王は左腕をケルベロスにかざし魔法で彼女の体を自分の方へ引き寄せる。上から落ちてくる彼女を抱きとめると彼は片手で九九式歩兵銃を構えてケルベロスのことを斬ろうとした男の頭を撃つ。

 音速を超える銃弾が当たった瞬間に男の首から上はなくなり、後ろにいた兵士はその脳みそを浴びる。

 あまりの衝撃にその場にいた弓兵は気分悪くする。


「大丈夫か?」


 戦王は馬の速度を落とし、腕の中で固まっているケルベロスを下ろす。


「ええ、戦王様が抱いてくれましたので」

「その言い方は誤解を招くからやめるように」

「あれれー私はそういう意味で言ったわけじゃないんですの。でもー、戦王様がそう思ってくださるなら抱いてくれてもいいですの」


 嵌められたよこの痴女に。

 彼はケルベロスを下ろし、再び馬を駆けさせる。

 思えば馬に乗るのも久しぶりだ。車と違って体力管理をしないと走れなくなるが、こういう悪路は馬の方がいいのだろうか。


「森のフォレストスピア

「うぉっ!」


 鋭く尖った植物の根が地面から湧き出て戦王の乗っていた馬を貫く。落馬の衝撃を地面を転がることで殺した彼は白馬に乗るエルフ王を見据える。


「よくも我が領地を荒らしてくれたな」

「覚悟!」

「オヴェイロン様!」


 戦王が口を開く前にケルベロスがオヴェイロンに手を出すが、側近のエルフに防がれる。2人は目を合わせると睨み合い距離を置く。


「ケルベロス、君の気持ちは分からなくもないが今は抑えてくれ」

「ですが、こいつらは我が国の子供達を奴隷どれいとした憎きものです!」

「ケルベロス」


 戦王は彼女の名前を大きな声で呼び制する。


「君は奪われるものの感情を知っていたくせに、奴隷を使っていた。だから、君にオヴェイロンを批判する権利はない」


 ケルベロスは彼の言葉を聞いて何も言えなくなる。

 事実というのは時に刃よりも大きなダメージを与えるのだ。


「随分とキツイものいいじゃないか」

「彼女は貴殿と違って過ちを認め反省した。故に問おうオヴェイロンよ。貴殿はメンフィスのこどもたち攫い、虐殺したことを認め謝罪すると!」


 戦王はホルスターから「雷」を抜きいつでも戦闘が始められるようにする。


「子供?一体何の話だ?」

「貴様!」


 ケルベロスが飛び出そうとするのを抑えた戦王はオヴェイロンのことをよく観察する。


「嘘は……付いていないようだ」

「ありえません!だとしたらなぜ子供達が拐われたのか説明できません」


 戦王も表情には出さないが驚いている。

 彼も十中八九メンフィスの子供たちを奴隷として使い捨てていたのはオヴェイロンだと思っていた。しかし、呼吸、発汗、心音を注意深く見ても嘘を付いている気配はない。

 そうだとすれば、誰か黒幕がいる。


「戦王様、それについては私からご説明致します」

「エリザベス」


 戦王が送ったメンフィスの密偵である彼女はどこからともなくあらわれる。彼女は「調査報告」と書かれた冊子を戦王に渡す。

 調査報告書を受け取った戦王は目を通すと何も言わずにケルベロスに渡す。

 書いてある内容は衝撃的だった。




 調査報告


 1.過去アルフヘイムとメンフィスの間で行われた戦争の結果は全てアルフヘイムの勝利で終戦している。宣戦布告したのはいずれもアルフヘイム。勝利した際の要求は、鉱山の採掘権の譲渡、領土の割譲、10歳以下の子供1万人の譲渡である。

 ただし、子供1万人の譲渡に関しては毎回アルフヘイム側から後付けのような形で要求させれており、アルフヘイム内の一部の者が王に秘密に進めている可能性が高いと思われる。


 2.神装兵器グラムは植物を操る能力を持っているだけであって人の魂を食らって剣を強化する能力は持っていない。そのため、オヴェイロンが主導して子供を攫う必要はないと思われる。

 そもそも彼らエルフのことを生み出した「第三創世神 オーディン」は食魂しょくこんを嫌うことで有名な神である。そのため、オーディンの御子である彼らが食魂を行う可能性はとても低いと思われる。


 3.エルフ王妃ティターニアについて。エルフ王妃ティターニアは見かけ20代前半にしか見えない。しかし、本当は2000年以上の刻を生きてきた古代エルフ(エンシェントエルフ)であることがわかった。

 開闢かいびゃくを行うことのできる「第一創世神 ガイア」と「第一創世神 天地之尊(あめつちのみこと)」がお隠れになる前の世界を亜人でありながら知る唯一の人物である。

 また、ティターニアは2日ほど前にアルフヘイムを出国し、南の方に向かったと思われる。その際に侍女数名と十数人の奴隷を連れて行ったところが目撃されている。

 不確定な情報だが、彼女は強力な魔剣を持っているとされている。従って、その力を保つ、あるいは増幅させるために食魂を行なっている可能性が高いと思われる。




  どうやら戦王はオヴェイロンのことを勘違いしていたようだ。本当の敵は目の前に立つ男ではなく、その妃。オヴェイロンの陰に隠れて何を企んでいるのか。どうやらそれを突き止め、倒さなければなければならないらしい。


「失礼したオヴェイロン殿。貴殿が何も知らずに矢面に立っていただけというなら私に戦いを望む意思はない。ついてはここいらで落とし所を見つけませんか?」


 戦王は戦意がないことを示すため「雷」をホルスターにしまい頭を下げる。余計な血を流さない方が今後の戦力になるし、わだかまりを残さずに済む。


「聞こう」


 オヴェイロンは馬から降り戦王と向き合う。どうやら彼は強きものにはそれなりの礼儀を持って接するようだ。


「今回の戦は両者勝利という形で終結させてはどうだろうか。その際、メンフィスからは鉱山の共同採掘権を。我がウルクからはこの技術を提供しよう」


 戦王は九九式歩兵銃をオヴェイロンに手渡す。


 ーーたしかに、この男と組めばアルフヘイムはより発展し、良からぬことを企んでいるティターニアと彼が争う必要もなくなるだろう。いずれは南大陸を統一することができるかもしれない。

 この奇妙な兵器も気になるしな。


 受け取った銃を一通り物色したオヴェイロンは戦王へ銃を返す。


「それで、貴殿は我が国に何を望む」

「大平和共栄圏への加盟ただ1つだ」

「却下だ」


 オヴェイロンは確たる意志をもって即答する。


「理由をお聞かせ願いたい」

「簡単だ。余は王である前に戦士だ。そして目の前にいるつわもの、貴殿に決着をつけようと言われた以上引き下がるわけにはいかない。己の誇りにかけて余は貴殿との決闘を望む。戦王と名乗るものが断らぬよな?」


 オヴェイロンは戦王の足元に手袋を投げつける。相手の足元に手袋を投げるというのは決闘の意思表示で、相手がそれを拾い上げれば決闘を受諾したサインになる。

 戦王はオヴェイロンの目を見る。

 あの目は彼もよく知っている。第二次世界大戦中の大日本帝国軍人が同じ目をしていた。誇りと祖国を守るために己の身を捧げる侍の目だ。上層部の命令で特攻という愚かな行為で死んでいった若者たちも、目と態度は高潔で美しかった。


 ーーそして、オヴェイロンの言う通り()は戦士。どんなに取り繕っても心の底では戦を望んでいる。まして強者との決闘ともなれば血が騒がないわけがない。

 彼には眠らせたはずの心が動き出すのが動き出したのがわかった。


「いいだろう。ウルク王、戦王がエルフ王、オヴェイロンの決闘を受ける!」

「戦王様!?」


 彼は足元の手袋を拾い上げる。

 ケルベロスは驚いた様子で彼の顔を見ると薄っすらと笑みを浮かべている。彼女はこの状態で何を言っても無駄だと悟った。


「エルフの民たちよ!もし余が敗れた時は戦王に忠誠を尽くせ!この男はまことの戦士、諸君らを預けるに値する」

「どう心変わりしたらこうなるんだか」


 一王として戦王はオヴェイロンに敵わないなと思う。


「一度手合わせをした時から貴様のことは認めている。自分より強きものに国を預けられるなら、ティターニアにも一矢報いれるだろう」

「知っていたのか………」

「何、感づいていただけで真相はわからん。余が負けた時は彼女と民のことを頼む」

「委細承知した」


 戦王とオヴェイロンは距離と武器を取る。

 戦王は左目を金色に輝かせ「いかずち」を抜く。一方のオヴェイロンは「グラム」を抜き、鞘を捨てる。激しい魔力と神力のぶつかり合いは突風を巻き起こす。


「この銃弾が床に落ちたら開始にしよう」


 戦王はコルトガバメントをコッキングし銃弾を1発取り出す。

 オヴェイロンが頷いたのを確認した戦王は銃弾を親指で弾き空中に放る。銃弾はクルクルと回転し地面に近づく。

 パサと木の葉の上に銃弾が落ちた瞬間戦王はオヴェイロンに「雷」を向ける。










執筆が遅くなりすいません。

前に投稿した時は桜が咲いてきた頃でしたが、今ではすっかり葉桜になってしまいました。しかし、まだまだ寒暖の差が激しく体調を崩しやすい季節でもあります。既に私は風邪をもらってしまいましたが(笑い)。

さて、次回から二話ほど戦闘シーンを書く予定です。新たな魔法が飛び交う予定ですのでご期待ください。

結びに、ブックマーク&評価をしていただけると励みになります。

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