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異世界統一記  作者: 大原陸
第三章〜アルフヘイム編〜
18/19

「グレーテの戦い2」

  開戦して間も無く、エルフ達の少数が森から出てきてやぐらの上にいる狙撃兵を射抜こうとする。しかし、エルフの弓の平均射程は200m。達人級の腕を持つ者でも300m以上先に矢を飛ばすのは至難しなんの技だ。


「うちーかたー始め」


 狙撃小隊小隊長の合図とともに櫓の上の兵士たちは一斉に発砲を始める。それと同時に300m〜400m離れたところにいるエルフ達はバタバタとなぎ倒されていく。


「なんなんだこれは!」


 ひとりの女エルフは叫ぶ。自分たちより劣る人類が、エルフの弓を上回る距離で自分達の死体の山を築かれていっているのが信じられないようだ。


「報告、先駆け隊被害甚大。なれど敵軍被害ゼロ」

「撤退だ」


 女エルフは森の方を指差し撤退するように言う。

 



  後方の塀の上から式神を通して戦王は戦況を見守っていた。大方予想通りだ。こちらのやぐらの上の兵士を射抜かれる前に射討しゃとうできている。さすがに白兎はきちんと仕上げてくる。地獄のような訓練を課され、兵達が潰れていないか心配だったが、杞憂きゆうなようだ。

  戦王は主戦場を監視している式神から右翼うよく方面を監視している式神に視点を切り替える。こちらは中央とは違って狙撃兵を置いていないので、突破されそうだ。同じように左翼さよく方面を確認すると同じような戦局だ。

 このままだと左右からの挟撃きょうげきを許してしまうだろう。


「戦王、このままだと鶴翼の陣を組まれる」

「予定通り両翼に控えているメンフィス軍の重装甲歩兵を前に出すよう打電せよ」

「了解しました」


 白兎はモールス信号で前に出るように指示した。


「私も出る」


 アヌビスは一言残すと大量の骸骨兵を召喚し、最前線へと向かう。




  城壁を飛び降りたアヌビスはまずはじめに左翼へ向かう。わざと守りを弱くして敵をおびき寄せる作戦は成功しているが、普段森から出てこないエルフがここまで森を出て来るとは思わなかった。特にウルク王国軍のサブマシンガン隊がいない左翼はエルフの弓に射抜かれるものが続出している。


「レイズアンデット」


 アヌビスが杖を振るうと死に絶えたはずの兵士が立ち上がり敵に襲いかかる。死霊魔術しりょうまじゅうは何も骸骨がいこつを召喚するだけではない。死体に魔力を注ぎアンデット化し、それを操ることも立派な死霊魔術である。


「悪趣味な」


 エルフの指揮官は毒づく。

 アヌビスはあえて獣人じゅうじんの死体ではなく、エルフの死体を操ることで敵の戦意をくじこうとしているのだ。いくら死体とは言えさっきまで戦友だった者を傷つけることは容易にはできない。

 アヌビスの生み出したアンデットは進軍を開始する。


「怯むな!矢を射かけよ!さもなくば死ぬぞ」


 アルフヘイム指揮官の掛け声によって一斉に矢が放たれ、アンデットを貫く。しかし、アンデットは一度死んでいるため再び死ぬことはできない。与えられた魔力を使い尽くすまで命令に従い続ける歩くしかばねなのだ。


「アンデットを盾とし前進せよ!押し上げられた戦線を押し返すのだ!」

突撃エテダー


  アヌビス率いるメンフィス軍は鬨の声を上げ前進していく。対するアルフヘイム軍はアンデットの足を射抜き1枚ずつ肉の壁を剥がしていく。しかし、ここは戦場。死体は腐るほど湧いてくる。アヌビスは倒されたアンデットの数だけ新しいアンデットを作成し、肉の壁を補強していく。

 押し上げられた戦線を押し戻し、森まで後1kmというところで全てのアンデットが灰になる。


「ターンアンデット。汚れた魂を浄化する神性魔法」


 アヌビスは鋭い眼光で森の前に立つ聖職者を見つめる。


「ユグドラシル!」


 アヌビスはギリギリと歯ぎしりをすると、軍の先頭に立つ。


「皆さんはお下がりください。あの悪趣味な犬は私が押さえます」


 ユグドラシルが指示すると左翼の兵士たちは森の中に逃げ込んで行く。全員が戻ったのを確認したユグドラシルは右手に十字架じゅうじかを握りしめ結界を張る。死霊魔術などの黒魔術を完封するための結界「聖なる円(ホーリーサークル)」だ。


「久しぶりですね。メンフィス国王アヌビス殿」

「ユグドラシル卿、どうやら貴殿は我が宿敵のようだ」


  アヌビスは後ろに兵士達をかばい忌々《いまいま》しそうな顔をする。実際、ユグドラシルとアヌビスの相性は最悪だ。

  アンデットの弱点である浄化の魔法を広範囲で使えるユグドラシルに対してアヌビスは無力だ。この男さえいなければと何度思ったことか。

 ユグドラシルとアヌビスが対峙していると空から白兎しろうさぎが跳んでくる。土埃つちぼこり1つ立てずに着地した彼女はアヌビスに一礼する。


「アヌビス様はお下がりください。ここは私が押さえます」

「右翼は大丈夫なのか?」

「右翼は既に蹴散けちらして参りました」


  白兎の握る刀には血がにじんでいる。固有の能力を失った白兎の戦い方は基本的に格闘戦だ。額に多少を汗をかいているが息は一切上がっておらず、疲れの色は全く見えない。全力を出せない昼でこれだけの力をふるっている彼女が満月の夜戦ったらと思うと恐ろしい。


「全軍撤退、2km後退して陣形を整えよ」


 アヌビスの号令とともにメンフィス軍は撤退する。ユグドラシルは追撃の命令を下さず、メンフィス軍の撤退を見ているだけだった。


「追撃を加えなくてよろしいのですか?」

「よく言う」


  ユグドラシルは直感的に前に立つうさぎが追撃を許すようなことをしないと言うことがわかっていた。彼女と対峙しているだけで冷や汗が出る。中途半端な数の追撃ではたどり着く前に全滅、仮に突破できたとしてもメンフィス軍が援軍を携えて布陣し直してしまうだろう。


「全軍森へ引け!入り口を閉ざすぞ!」


 アルフヘイム軍は森の中へと撤退していく。全エルフ兵が撤退すると森の木々が動き出しその入り口を閉ざす。やがて中央と右翼も同じように入り口が閉ざされ一切の外敵の侵入を許さないようになっている。


「これは困りましたね」


 白兎は何度か木を蹴飛ばしてみるがビクともしない。一応彼女の蹴りはドーピング無しでも1発で車を廃車にするぐらいのパワーがある。

 どうしようか悩んでいると上空から式神しきがみが一体白兎の元に降りてくる。式神は彼女の顔の前で静止し喋り出す。


「こちら戦王せんおう。白兎、聞こえていたら現状報告」

『こちら白兎。現状報告、アルフヘイム軍は全軍森の中に撤退。おそらくグラムの力によって操られた木々が入り口を塞いでいて進軍不可能です』

「了解。全軍2キロ地点まで後退、あとは我がなんとかする」

『承知しました』


 白兎は城壁目指して飛んでいく。




 アルフヘイム軍本陣


「状況はどうなっている!」


 グラムの能力によって森を閉じたオヴェイロンは状況確認を急ぐ。すぐにでも軍を再編して再侵攻するか、得意の防衛戦をするか判断しなければならないからである。


「報告します。敵損害軽微、我が軍の損害は……甚大!先駆け隊3万のうち半数が死亡しました」


 オヴェイロンは絶句する。戦王が出ていないにもかかわらず、この被害は大き過ぎる。下手な人数で打って出ればまた返り討ちになるのは目に見えている。と言うことで取れる作戦は1つ。


籠城ろうじょうだ。森の一部を開けそこから入ってくる敵を討て」




 戦闘が落ち着いてから1時間。戦王とアヌビスと白兎は城壁の上で机を囲む。この1時間で2回、意図的に開けられたら入り口に兵を送ってみたが、どうやっても突破できそうにない。

 遠距離から弓による斉射、近づけは木の根がこちらを薙いでくる。防衛戦が得意というのは過剰かじょう評価ではないようだ。


「火をかけても木に含まれている水分量が多すぎてすぐに消えてしまうし」

「大砲を持ってこようにも射手を撃ち抜いてくるだろうし」


 アヌビスと白兎は意見を言うとため息をついて黙り込む。八方塞がりだ。何か決定力が欲しいあの木の壁を破る攻城兵器が。


「仕方ない、極大魔法を使う」


 戦王せんおうは嫌そうな顔をしながら立ち上がる。


「総員に打電せよ。全軍その場に待機、極大魔法を使用すると」

「かしこまりました」


 白兎は急いでモールス信号を打ち戦王が言ったことを厳守するように厳命した。


「退避完了。いつでもどうぞ」

「あぁ」


 戦王は五芒星ごぼうせいを地面に書き、その頂点に一体ずつ計五体の式神を並べる。

 ゆっくりと大きく息を吸った戦王は目をつむり風を感じる。アルフヘイムから吹く風は草木の匂いを運んでくる。


傀儡かいらいよよ、我に力を集わせよ」


 戦王が式神に命じると、それはあたりの神力をかき集め彼に送る。風が彼に向かって吹いていく。穏やかに吹いていた風は強風となり、あらゆるものを彼が吸い取っていくようだ。強すぎる神力や魔力は気象にも影響するのだ。

 ある程度神力が集まったのを確認した戦王は手を空に掲げ魔法を構築しだす。


 液体凝固術構築えきたいぎょうこじゅつこうちく……完了。静電気発生術構築……完了。発生静電気収束術構築……完了。収束静電気増幅術構築……完了。地上帯電変化術構築ちじょうたいでんへんかじゅつこうちく……完了。座標入力……完了。

 全術式構築完了。


 戦王は3分ほどかけてすべての術式を構築する。空には非常に大きな魔法陣がいくつにも重なっており、一部は地上に足を伸ばしている。


「極大魔法!あまほこ!」


 戦王は掲げていた手を振り下ろし、魔法を発動する。発動と同時に魔法陣は眩い閃光を発する。上空で意図的に起こされた雷は不自然に収束し、1本の雷柱となって地を穿つ。

 あまりの光量に白兎とアヌビスは目を塞いでしまった。閃光が収まり目が開けるようになると2人は言葉を失った。そればかりか、友軍の兵士たちはあまりのショックに嘔吐してしまう者までいた。

 雷が落ちた後には何も残っていない。青々とした木々が消え、そこにいた兵士は跡形もなく吹き飛んだ。森は5キロの円状に消え失せ、ぽっかりと穴が開いてしまっている。


「対艦隊殲滅用戦略魔法、天の矛。海で使えば通電でもっと多くの被害を出せるが、地上ではこんなものか」


 戦王は表情1つ変えずに戦況が変わったことを確認する。これならあそこを起点に森に侵攻することができるだろう。敵兵が集まる前に速攻をかけるべきだ。


「ケルベロス一緒に来い。後の指揮はアヌビスに任せる」


 戦王は城壁から飛び降りる。彼は適当な馬に騎乗すると城門前に控えていたウルク王国軍騎馬兵団と肩を並べる。


「諸君、敵軍は我が魔法により崩れた。今がこの戦の勝機である!全騎馬兵に告ぐ!我に続け!」


 戦王は馬の腹を蹴飛ばして走らせる。その後を300人の騎馬兵が大きな土埃を上げ追いかける。


「早足にて駆けさせよ!決して我より前に出るな!」


 戦王は3メートル先に力学操作魔法をかけ、アルフヘイム軍の斉射に備える。ケルベロスは持ち前の脚力で戦王横を走っている。


「もう少ししたら速度を上げるがついてこれるか」

「愚問ですの」


 ケルベロスは楽しそうに微笑む。彼女が本気で走れば余裕で100kmを超える。体力の方も尋常じゃなくあるので、強がっているわけではない。

 アルフヘイムの森まで2kmというところで、呆然と立っていた歩兵たちが鬨の声を上げて突撃してくる。おそらくアヌビスの指示だろう。


「駆け足!密集隊形!」


 戦王が指示を出すと兵士たちは速度を上げ、すぐに彼の後ろに隠れる。騎馬兵団は全員が元トレスタン王国軍に所属していたため、他の兵科に比べて練度が高い。

 しかし、アルフヘイム軍も彼らの進軍を見逃していたわけではない。他の場所から兵を集め防衛ラインを築き始めている。

 そうはさせるか。

 戦王は「雷」を抜き引き金を引く。放たれた閃光はアルフヘイムの兵たちに無慈悲な死を与える。仲間の屍を踏み越えてアルフヘイムの兵たちは防衛ラインを再び築こうとするが無意味だ。無慈悲な閃光が彼らの命を奪っていく。

 森まで300mを切った時、アルフヘイム軍から激しい斉射を受ける。しかし、戦王が張っていた力学操作魔法により矢はあらぬ方向に飛んでいく。「ふっ」と嘲笑した戦王は「いかずち」の引き金を空に向かって5回連続で引く。

 彼が最も得意とする単純な落雷魔法「神罰しんばつ」。それは木の上にから弓を放っていた兵士を黒焦げの焼死しょうし体へと変えていく。


「合図したらケルベロスと第1小隊は私について来い!他は散開して残った弓兵を始末しろ!」

「了解!」


 森まで300mというところで戦王は手を横に伸ばし散開さんかいを指示する。彼は1個小隊10人とケルベロスを連れて敵本陣に斬り込んでいく。数と補給線の長さで劣る大平和共栄軍は持久戦に持ち込まれたら不利になる。この場合の定石じょうせきは敵補給路を断ち干上がらせるか、敵将を討ち取るかである。

 補給路を断つのが四方を森に囲まれ、他種族と不可侵条約を結んでいるエルフの補給路を断つことは事実上不可能なので、今回は後者を選ぶしかなかった。大人数で攻め入っても敵の思う壺。だったら最高の戦力を最速で敵将の元に連れて行くために他はおとりとなって敵を森から引きずり出す。これが今回白兎とアヌビスが考えた策である。

 戦王からしても良くできていると言わざるを得ないだろう。




受験が終わり平和となりました。まだ結果は出てませんが、良い結果であると願っていますw。

さて、今回は戦王の極大魔法が登場しました。この魔法と対をなすものがいずれ追憶編で出てくるのでお楽しみに!

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