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異世界統一記  作者: 大原陸
第三章〜アルフヘイム編〜
13/19

「戦争準備」

 ウルク王国王宮

  私の名前は因幡白兎。戦王様の忠実な臣下にして、この王国の財務官。ちなみに白髪巨乳スタイル抜群の完璧な美少女であります。巨乳といってもケルベロスのようにただでかいだけではありませんよ。今は戦王様がメンフィスへ出陣中で、内政の全てを任されております。まぁ、国内情勢は安定を極めているので、仕事の大半は……。

  私は王宮内の書斎に入る。戦王様の机の上には書類が肩の高さまで積まれています。書斎の床には図書館から持ってこられた本が私の背の高さまで積まれています。

「全く、家事さえできるようになっていただけたら完璧なんですけどね」

 戦王様の家事スキルは言うまでもなく壊滅的でございます。料理をすれば何でも炭素のフルコースになり、掃除をすればゴミ屋敷が完成し、洗濯をすれば洋服が洋服で無くなります。政治、戦闘、謀略、知略、これらが天才的なくせしてどーして家事ができないのか不思議でたまりません。まぁ、全てが完璧だと逆に取っつきにくいので、ちょっとくらいできないことがあった方が可愛げがあっていいのですが。

「さーて、戦王様が帰ってくる前に片付けを終わらせましょう!」

 私は山積みになった書類を種類別に分類してリングに閉じていく。書斎は私が片付けているからいいものの、工房の方はどうなっているのか気になります。あそこは男所帯で清掃をする人なんて居なそうですから。

 それにしても終わる気配が見えない。1つの政策の紙束に魔法で穴を開けリングで閉じる。それほど手間はかからないにしてもそれを100個以上作らなければならないとなれば話は変わってくる。タチの悪いことに普通の人ならある程度似た内容の書類がかたまっているはずですが、戦王様の場合一切そんなことはありません。とりあえず思いついたことをどんどん書いて、重ねる。結構な量がたまってきたら作った政策を吟味し、取捨選択する。だから、せっかくリングに閉じてもまた似たような内容の政策が湧いて出てくる。めんどくさいったらありゃしないですね。

 戦王様が言うには書いた内容と書類の場所は頭の中に入っているらしく、吟味、取捨選択している時はソファーに寝っ転がっていることが多いです。私としては半信半疑なんですけどねー。

 部屋を片付け始めて2時間ぐらいたったころ、私は魔法の反応を感じた。

「曲者?この白兎相手にいい度胸です」

 私は目をつむり魔法の発動者を捉えるため全神経を集中させる。10、20、30メートルと探知の範囲を広げていく。

「式神?でもこの術式どこかで見たことあるような気がしますね」

 私は警戒心を緩め、窓からヒラヒラと飛んできた式神を手に取る。間違いなく戦王様の術式だ。紙で作られた人型の式神の胸のあたりに紅い印がある。

  ちなみに紅色というのは果実を連想させる色で、大抵の人が触りたい、押したい、手に取りたいという衝動に駆られる色である。

  白兎が紅い印に触ると式神は白兎の頭の周りを3度回転し、喋り出す。

「おはよう白兎、元気にしてるかな?多分今頃君は僕の部屋を片付けいると思うんだけど違うかな?」

 ごもっともです。だらしない主人の部屋を健気に掃除してますよ。

「1ヶ月後の決戦に向けて白兎に向けて君に準備して欲しいことがいくつかある。まず1つ目に兵士の訓練ををしてくれ。今回我々ウルク王国軍は2000の兵をメンフィス軍の援軍として派遣する。工房産の銃器を自在に扱える程度に鍛えてくれればそれでいい。2つ目に射撃の上手い50人を選抜して精鋭部隊を作ってくれ。精鋭部隊には300メートル以上離れた距離からの狙撃を七割以上成功させる腕をつけて欲しい。3つ目、これが最後だ。工房の連中が予算案を持ってくるだろうから、それを添削してくれ。聡明な君なら僕の考えを読んでいるだろうから答えは言わないよ?ヒントは即戦力重視。それじゃあ頑張ってね」

 話終わった式神は命を抜かれたように動かなくなる。もう一回神力を注いだら更新できるのだろうか。そう思った私は興味本位で式神に神力を注いでみる。

 予想は付いていたが、結果はダメだった。戦王様の神術はこの世界のものとは違って精緻で、発動までの手順が多い。本人は「才能が無いから感覚で魔法が使えないんだ」と言っているが彼の主張は根本的に間違っている。そもそも、この世界で人間が使える神術は神力を注ぐだけで発動する粗雑でチャチなものである。決して何百キロも離れた場所にメッセージを送ることはできない。

「これも彼が桁外れの神核を持っていた影響なのでしょうか」

 白兎は顔の前に手を持ってきて自分の固有魔法である召喚魔法を使ってみる。しかし、手のひらには何も現れない。

「無理が祟ってしまいましたか……」

 因幡白兎は半年前、戦王をこの世界に召喚した時にその能力を失った。白兎のキャパをオーバーするほどの神核を戦王が持っていたため、無理をして能力を行使したら壊れた。不幸中の幸いで身体的な影響は全くと言っていいほどなかった。

「後悔して無いといえば嘘になりますね」

 私はソファにだらしなく座る。かつて守兎(しゅと)白兎と恐れられた私を支えてくれた能力はもう無い。


 彼を守りたい


 私は心のそこから想う。戦王様は底が知れないほど強い。しかし、それ故に自分の弱さを誰にも理解されず、過度な期待をかけられ、自分もその期待に応えようとしている。あの日、彼が自刃しようとしていたのはその重責から解き放たれたい一心だったのではないかと私は考えている。

 この世界で彼のやることが終わった時また同じことが起こらないようにするのが私のすべきことだ。

 

  コンコンコンとドアが三度ノックされる。

「どなたですか?」

「私だ。ラインハルトハイドリヒだ」

 ドア越しに猛々しい声が聞こえる。

「予算配分ね。入りなさい」

 作業服を着たラインハルトが書斎に入ってくる。

「かけてくださいな」

「いや、汚してはいけないのでこのままで結構だ」

「そう、なら予算案を見せてください」

 白兎はラインハルトから予算案を受け取り目を通す。

 〜予算案〜

 防衛割り当て金、総額10億ドラクマ

 内訳

 地上兵器開発部門、40億ドラクマ。

 魔法適性の低い人類が自衛をするためには一兵あたり一丁のライフル銃と拳銃の配備を急ぐ必要があるため。

 航空開発部門、30億ドラクマ。

 広大な土地を素早く移動する手段をいち早く確保するため。また、戦車部門より開発が進んでいることも評価できる。

 戦車開発部門、15億ドラクマ。

 対歩兵戦能力は高いが、エンジン開発が遅れており完成の目処が立っていないため。

 造船部門、15億ドラクマ。

 造船ドックの製造をしないことには開発すらできないため。

 以上

 実に淡々とした報告書だ。簡潔にまとめられていてわかりやすいが、理由のところはもうちょっと多くてもいいのではないだろうか。

「大方戦王様の意を汲んでいると思いますよ」

 白兎は少し悩んだ末にゴーサインを出す。

「悩んでるようでしたけど、白兎さんは戦王様から答えをもらっていたんじゃねぇんですか」

「あの人が明確な解答を用意しているのは法律や憲法などの政治的なものしかないですよ」

 白兎は両手をあげる。

「なんであの人は答えを用意してねぇんでしょうか?」

「以前、戦王様はおっしゃっていました。『万が一自分がいなくなっても人類がある程度の地位を築けるよう線路は敷いてある。ただ、今の人類はそのレールを走れる列車を持っていない。早く僕が敷いたレールを走れる列車を作るためにも僕はいろんな決断を君たちに任せるつもりだ』と」

 ラインハルトは戦王らしいなと思う。あくまでも彼は人類が独り立ちできるように努力しているのだ。

「そうとわかりゃさっそく作業に取り掛からせてもらいます」

「あぁ、ちょっと待って」

 白兎は工房に戻ろうとしたラインハルトを呼び止める。

「三八式歩兵銃と四四式騎兵銃はどのくらいできていますか?」

 ラインハルトは指を折って数を数える。

「三八式400丁、四四式200丁、百式機関短銃100丁。後はmg42とkar98の試作品が完成したぐらいですね」

「試作の方に割く力を減らしてもいいので、後2週間で2000丁の銃を作ってください。比率は6:1:3で」

 ラインハルトは一瞬顔を曇らすが、仕方なく承諾した。

「そうとわかりゃあさっそく仕事にかからせてもらいますよ」


  アヌビスに偵察合戦の策を練るように言った僕は王宮内に作られた自室に向かう。何かとメンフィスに来ることが多い僕のために、アヌビスが客室を改装して作らせたのだ。実のところこの自室は僕にとってとても都合のいいものだった。

  僕は自室の椅子に腰掛け目の前のテーブルに大きな地図を広げる。もともと夫婦での客人をもてなす部屋だったため、ベットや机が一人で泊まるには不自然に大きい。これは完全に僕の偏見だが、王族で仲睦まじい夫婦というのを僕は見たことがない。というのも、彼らにとって最も大切なのは血を絶やさないことなので、平均二、三人の愛妾がいる。そんな人たちが交尾以外で同じベットで寝ることがあるかはなはだ疑問である。

  僕は不毛な思案を切り上げて地図を見る。ここから北に650kmのところに決戦の地。アヌビスが言うには国境防衛のため10年前に高さ30メートルの壁を築いたらしい。さらにそこから700km離れたところにあるのがアルフヘイムの王宮マーロ。斥候(せっこう)を放つならここだろう。

  僕は立ち上がり自室の扉に祝詞(のりと)と神術的な模様の書かれたお札を貼る。

「傀儡よ、隠せ。我が秘めごとを」

 右の人差し指と中指でもう一枚のお札を挟み人払いの術を発動させる。人払いの術の基本はは木を隠すなら森の中である。そこに部屋はあるのに開ける気にならない、そこに部屋はあるのに意識できない、そう刷り込むのがこの術である。

「傀儡よ、我が意思に従って飛び立て」

 僕はマーロへ向けて視覚同調式神を4体飛ばす。視覚同調は文字通りの術で、式神の前方180度の景色を見ることができる偵察術式である。実のところ4体同時に式神を使役することはできるが、4体同時に視覚同調ができるほど僕は器用じゃない。一体一体その都度同調相手を切り替えながら覗きをしなければならない。言っておくが、この術でいやらしいことをしようと思ったことは断じてない。そもそも、僕は冬美と付き合うまでエッチな知識も無かった。付き合った途端毎日のように体を重ねさせられただが。

 

  3時間ほど経って式神がマーロに到着した。調べる情報は3つだ。敵の総兵力、陣形、エルフ王の宝剣グラムの力。まずは総兵力を調べるために4体の式神を別々の方向へ散らす。

  はじめに総兵力を調べるわけは、式神で偵察しているのがばれて落とされてしまう前に、地形と拠点の把握をするためでもある。残念ながら僕は神術の才能に乏しい。中でも術の隠蔽は特に苦手で、人間相手に式神を飛ばしても知覚能力の高い人には数十分で見破られてしまうほどだ。人間より魔法適性の高いエルフに対して自分の隠蔽術が長い間通じるとは思っていない。だったら広範囲をカバーしなければならない仕事を先に済ませてしまうのが定石だ。

  僕は4体の式神が見ている景色を次々に切り替えながら兵数を確認していく。

「おおよそ100万ぐらいか」

 僕は多いなと感じる。メンフィス王国軍より少ないがウルク王国軍の20倍の数だ。いくら自分が攻城戦や面制圧を得意としているからといって普通の手段で葬れる数ではない。

「本格的に極大魔法の使用を検討しないとな」

 僕は落ち込んだ声で言う。一撃で1万人以上の人、もしくは一個大艦隊を殲滅できる魔法のことを指す。この魔法のせいで僕は核兵器と同じ扱いをされてしまった。3つある極大魔法のうち1つは、大連を更地に変えた前科持ちだから否定はできない。

「痛っ!」

 突如両目に激痛がはしる。僕は椅子から転げ落ち床をのたうち回る。傷口に針を突き立てられたような痛みが僕を襲う。

  慌てて式神の数を確認すると数が1つ足りない。式神との感覚同調は便利な分、致命的なデメリットがある。感覚を同調している最中に攻撃されると、同調していた効果器に強烈な幻痛(げんつう)を与える。しかも、これは景色を見ている式神が攻撃された時に限らない。景色を見ていなくても盲点としてリンクは繋がっている。盲点だって刺されれば痛い。

  完全に油断していた僕の落ち度だ。エルフの魔法適性が高いとは聞いていたが、僅か15分で1つ目の式神が迎撃されるとは思わなかった。幸い、王宮の位置は掴めたので後は式神1つでも事足りる。

「傀儡よ、汝をその責から解放す」

 これ以上無駄な痛みを味わうのは御免こうむりたいので王宮に一番近い式神以外のリンクを切る。

「陣の偵察は諦めて、グラムの力を探ろう」

 無理はしない。たとえ170m離れた所から7cm四方の式神を撃墜できたとしても三八式歩兵銃の射程には遠く及ばない。弓だけで戦闘をしてくるなら射程外の位置を保ち、後退しながら一人一人倒せばいいだけのことだ。ただし、エルフ王の宝剣がどんな力を持っているのかを見定めないことには将棋盤をひっくり返される危険性がある。これだけはなんとしてでも探らなければならない。僕は強い決意をして式神と視覚を同調する。











テストがあったので投稿が遅くなってしまいました。申し訳ございません。

さて、最近やっと冬らしい気温になって来ましたね。少し前までは紅葉すらしていなかった私の住む地域も、ここ最近はコートが必須になる気温です。

次回からは戦王が何を考えどうやって戦争をメイクして行くのかをお楽しみください。

また、大して筆の早くない私ですが、新しい小説を執筆中でございます。いずれ、そちらの方も読んでくださると嬉しいです。

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