閑話
——黒い卑賤と白い尊貴
むかしむかし、空のとても高いところに世界を見守る精霊がいました。
そのころの世界には朝も昼も夜もなく、太陽の光は雲にさえぎられていて、一日中ぼんやりと明るいだけでした。
精霊はいつも雲よりもはるか上の、日の光で満たされたところで楽しく過ごしていました。
ある日のことです。
遊んでいるうちに雲の下まで降りてきてしまった精霊は、光の届かない地面の上でキラキラと光る美しいものを見つけました。
それは血と肉を持った二足の生き物でした。
全身がにごった灰色の生き物は、血肉に光を宿していて中から美しく光り輝いていました。
空の上の光とは比べられないほど弱い光なのに、まぶしいほどに強い命の輝きに精霊は夢中になりました。
精霊はそれから長い時間を生き物のそばで過ごし、生き物のことを見つめているうちに、生き物にも自分を見て欲しいと思うようになりました。
そして精霊は〝人間〟に祝福を与えました。
こうして精霊に愛された人は、美しい色の髪と瞳の色を持って生まれるようになりました。
精霊に愛され、精霊に愛されていることを知った人々は栄えて、幸せに過ごしていましたが、ある日、精霊に愛されていない人々が精霊に愛されている人々に言いました。
「われわれも精霊に愛されたい」と。
そして人々は殺し合いを始めました。
愛されている人々がいなくなれば、自分たちが愛される、と考えたのです。
精霊は自分たちのせいで人々が殺しあうことに苦しみ、怒り、傷つき、嘆き悲しみ、そして二つに裂けてしまいました。
白い精霊は空を舞い、嘆き悲しんで雲を吹き散らしました。
黒い精霊は地の底で、怒り狂って世界に闇を呼びました。
精霊が姿を分けたその時から、世界には昼と夜が訪れるようになったのです。
怒り狂う黒い精霊は、地の底から湧き上がっては人を殺し、嘆きに沈む白い精霊は空から人を見守るようになりました。
黒い精霊に愛された人々は、全身を黒く染めたその姿から、同族喰いを望む卑しい賤者〝黒い卑賤〟と呼ばれるようになり、精霊とともに世界を彷徨って人の命を奪い続けます。
白い精霊に愛された人々は、全身を白く染めたその姿から、同族喰いを嘆く尊い貴者〝白い尊貴〟と呼ばれるようになり、黒い卑賤が人々を殺すことを防ごうとしますが、怒りに飲まれた黒を追うだけで精一杯です。
こうして、世界には昼夜と戦争が生まれたのです
古い伝承より——




