2ー6 級友と遭遇
前話スルーのあらすじ
普通の人は適性がなくて王国で主流の魔術は使えない、使えても十人に一人くらい
主人公は生まれつき魔術特化、化け物なのでは?
オレたちは食堂を後にした。
ラウテルさんは、適性の話を続けたかったようだが、教員なら知っていて当然の知識だと思うので話す必要を感じなかった。
噴水のある中庭を回って、木陰でくつろいで微笑み合う学院生同士をみて、複雑な気持ちになったりした。
不純異性交遊禁止とか、送られてきた要望書に書いてなかったか?
……横を歩くラウテルさんが何も言わないということは、本当にあれはただの要望だったらしい。
要望の内容を真面目に考えて損をした気がする。
校庭では、早々に食事を終えたらしい学院生達が、幾つかの集団に分かれて人の頭ほどの球を追っていた。
なんという遊び、いや競技、球技なのかは知らないが、とても楽しそうだ。
そんな気持ちが表情に出ていたのか、ラウテルさんに「あとで四組の子達のチームに入れるか、聞いてみましょうか?」と援護されてしまった。
チームがあるのか。
魔術で強化していない時のオレの身体能力など、高が知れている。
筋肉に囲まれて育って16年、怪我と病気の時を除いて鍛錬は欠かしていないが、オレの体は大人になることを拒んでいるとしか思えない。
仲間にしてもらえるのなら、ぜひ、やってみたい。
そんな意味の言葉をどう伝えよう?と心の中で言い訳を考えていたら、ラウテルさんに微笑まれてしまった。
「年相応の表情もされるのですね」
なんだか、物凄く恥ずかしくなった。
顔を伏せて、何と返答するべきか考える。
「危ないぞーっ!」
小っ恥ずかしくて悶えていたので、かけられた声への反応が遅れた。
〝身体強化:筋力強化〟を無発声で一割発動するのとほとんど同時に〝周辺検索〟で背後から何かが接近してくることを調べて鉄槌打ちを放った。
「はぁ?」
「ええっ!?」
「……あ」
柔らかいものに食い込むような手応えと共に、ぼしゅんっ、と聞きなれない音をさせて、何かが拳にまとわりついた。
視界の端に見えたのは、先ほどまで学院生達が追いかけていた、頭ほどの大きさの球だ。
周囲が静まり返っているのが、恐ろしい。
これは完全に職業病だ。
反射的に魔術を使い、球を破裂させてしまった。
弁償くらいなら幾らでもするが、これで目立ってしまうのは困る。
「うっわ、すげー」
土を踏む音をさせながら、背の高い青髪の少年が近づいてきた。
手に緩衝材の入った手袋のようなものをはめていて、日焼けした顔はにこやかだ。
「手ェ大丈夫か?」
「ああ」
「すいません先生、新しいの頼めますか?
球がボロくなってたみたいですね」
「え、ええ、わかりました、すぐに申請しますね」
少年の青緑の視線はこちらを調べるようにさまよう。
オレ自身は、解析、鑑定魔術を防ぐ魔術具を装備しているが、ジロジロとみられるのは落ち着かない。
「もしかして、途中転入生か?」
「ああ」
「俺は高年学科一年四組のクサンデル・サッセンだ、一緒にやらないか?」
「いいのか?」
ルールを知らないが、と付け加える前に、ラウテルさんから横やりが入れられた。
「サッセンさん、本日付けで四組に転入が決まりましたヨー・ビズーカーさんです。
壁の外から来られた方ですから、言葉は通じますが作法や常識が通じるとは思わないように。
午後から教室にお連れする予定でしたので、お任せしても構いませんか?」
色々と言いたい文句は多いが、作法や常識を知らないのは間違ってはいない。
壁の外っていうのが、国境近くの隔離地域のことを指しているなら、国外から来たって解釈であってると思う。
そんな言い回しがあるのを初めて知った。
戦場跡地である荒野からの魔物の侵入を防ぐために、荒野と草原の境目に長大な壁を築いてあるのは有名な話だ。
実物の壁は決して長大でも強固でもないのだが、物事には本音よりも建前が必要な時がある。
猛獣の檻の中で、騒々しい音をさせる土木作業などできるわけがない。
魔物生息区域の近くに一般人を派遣することが許されるわけもなく、実働部隊の隊員たちが素人ながらに土嚢を積んで、土属性の魔術で補強してある程度だ。
そもそも壁で魔物の侵入が防げるなら、実働部隊は必要ない。
それにしても、ラウテルさんは凛とした話し方さえすれば綺麗な声なのだから、オレと話している時も強気でいてほしい。
簡単にうろたえられては、こちらがどう受け止めるかの判断に困る。
「へえ、壁の外から来たのか、って本当に人か?魔物だったりしないよな?」
「少なくとも、身体検査で引っかかったことはない」
「はは、なんだそれ、笑えねえ冗談だな」
笑えねえと言いながら笑顔を浮かべるサッセン(同じ組だった)は、ひょろりと痩せて背が高く、笑うと目が細くなる憎めない雰囲気の少年。
それが、第一印象だ。
「改めてよろしくな、クサンデルだ」
「こちらこそ」
手袋越しの握手は、学院生活が思っていたよりは退屈ではないかも、と思わせてくれるには十分だった。
◆
初めての集団球技は、なかなかやりがいがあるものだった。
周囲の味方と敵の動きの先を予測しながら、球を相手側の陣地に運んでいくというのは、見ているだけよりもかなり難しい。
本気になるわけにはいかないので、何度も「これは遊びだ」と自分に言い聞かせた。
ルールを知らないずぶの素人である以上、魔術さえ使わなければ問題ないと思ったが、学院に到着早々問題を起こすことはない。
これは、無害な普通の学院生になるための決意表明でもあった。
結果として、得点を入れることはできなかったものの、新しく用意された球には、何回か触れることができた。
すごく楽しかった!!
学院では昼休みの終了時間も決められているらしく、先ほども聞いた鐘が鳴ると同時に、全員が建物へと向かい歩き出した。
「ヨー、お前、教室はわかるか?」
「まだ行ったことがない」
四半時にも満たない休みの間に、クサンデルはとても話しやすい相手だと判明した。
ラウテルさんの文句を言いたくなるような説明が、功を奏したのかもしれない。
「じゃ、俺たちと一緒に来いよ」
「クラスの奴らに紹介してやるし」
「助かる」
クサンデルと一緒に球を追っていたのは、同じ四組の級友だった。
要注意学院生一覧に彼らの名前がなかったことで、構えずにいられる。
オレより背は高いが第三者から見れば小柄で、黒縁眼鏡をかけたアルナウト・レイク。
中肉中背で、特徴のないぼんやりした雰囲気をさせているフロール・フロート。
イケメンなのに不健康なほど青白い肌で、いつも何か企んでいそうな目をしているロキュス・ゼーウ。
そして背が高くて痩せている、細目の笑顔が特徴的なクサンデル・サッセン。
大抵この四人で休み時間を過ごしているらしい。
本部実働部隊の隊員には決まった休憩時間がないし、一緒に食事や遊びに勤しむ同年代の相手もいなかった。
学院にいる間だけでも、年齢相応に級友と遊んだりした方が良いんだろうか。
親しくなると、仕事で抜け出す時に理由を聞かれそうだしな。
考え込んでいる内に、長い廊下や渡り廊下に階段をいくつも登って、古ぼけた部屋の前に着いた。
え、ここだけやけに前時代的な、年代物の黒光りする木造なんだが。
ガラスが割れているとか、そこかしこに隙間があるとかではないけれど、これまでに見て来た建物と趣が違っているので困惑してしまう。
「ここなのか?」
思わずそう聞いてから、聞いてはいけなかったか、と気がついた。
アルナウトが表情をあからさまにしかめたから。
「中年と高年の落ちこぼれは、このオンボロ棟に集められてんのさ」
青碧色の髪のアルナウトが、分厚い黒縁眼鏡を押し上げながら、ふすんと鼻で息を吐く。
色々と納得してないという顔だが、これが学院の方針なら逆らっても仕方ない。
成績なんてどうでも良いが、抜け出すのに不便なのは困る。
「でさー、ヨーは何の教科が苦手なんだ?
やっぱり高度魔術と魔術具基礎だろー?」
空を思わせる綺麗な色の髪をさらりと揺らしたロキュスが、蝋石のように滑らかな白い顔を下世話に歪めた。
晴れた日の空色の濁りのない瞳を、ここまでいやらしく光らせることができるとは思わなかった。
顔立ちが良くても、全ての表情が格好いいとは限らないらしい。
「これまでに学院に通ったことがないから、何が苦手かも分からない」
「へー、そんなことがあるんだね?」
相槌を打ったのは、髪も瞳も深い藍色の朴訥とした雰囲気をまとったフロール。
口を開いてもその雰囲気は変わらずに、どことなくのんびりと草を食む羊を思わせる。
性格まで羊に似ていないことを祈る。
「ほらほら、早くしねえと授業が始まっちまう」
クサンデルに急かされて、急いで室内へと駆け込んだ。




