7 南東の大陸と魔物の支配
南東の大陸に着くと今までの街の雰囲気とは違い、建物は荒れて暗くさびれた雰囲気だ。
レインとゼロは船乗りの親子に謝礼を支払い、早速洞窟を目指したかったが日が傾いていたので、宿に泊まることにした。
街の宿も寂れて客がいるのかいないのか、わからない。
「いらっしゃい…」
目が虚ろな老婆がひとり宿番をしていたので、受付を行い部屋に案内された。
「二部屋お願いしたいのですが?」
「…すまないね。一部屋しか泊まれないよ」
そう言われ仕方なく一部屋で泊まる事になった。
部屋に案内されると、埃っぽい狭い部屋に少し大きめなベットがひとつとテーブルしか置いていない。
大男のゼロとレインが寝るにはギリギリのサイズだ。
「…腹が減ったな」
「そうだな…何か食べに行こう。ゴンもおなかすいただろ?」
「ギュ~」
レインの問いかけに肩に乗っている小さな魔獣のゴンは嬉しそうに返事をした。
ゼロとレインはゴンを連れて街に出ると、やはり活気はなく人の行き来がない。
「なんだか嫌な空気だな」
「仕方ないだろ。シルバーの支配下の大陸だ。魔族が支配しているので人間は細々と暮らしているのさ」
どこか食べ物を売っている店がないかと探していると、バサリバサリと羽ばたく音がしてレインとゼロの前に鳥形の黒くくちばしが尖った魔物が現れた。
「ぐへ。女だ、人間の女の匂いがする」
ヨダレをたらして今にもレインに襲いかかろうとしている魔物にゼロは小さくため息をはいた。
「下級の魔物め、我の奴隷に手を出そうというのか?」
「は?奴隷?!」
レインはゼロの言葉は聞き捨てならないと、ゼロを睨むがゼロはお構いなしに鳥形の魔物をぎろりと睨むと鳥形の魔物はひぃっと怯えて慌てて逃げて行った。
そんな様子を遠くで見ていたのか、ひとり村人?がゼロとレインに近づいて来た。
「上物をお持ちですね」
にこやかだが、どこか胡散臭い雰囲気の村人に話し掛けられゼロは、まためんどくさいといった感じて小さくため息をつく。
「あの、すみません。どこかで食事をとりたいのですが」
レインの問いかけに村人は「ああ、それなら」とお店を案内してくれた。
案内された店?は見た目は普通のぼろ家で、体つきのいい店主が現れた。
「珍しい…お客様とは。」
「すみません。なにか適当に作ってくれますか?」
「いいですよ。ゆっくり、お待ち下さい」
案内してくれた村人は「わたしはこれで失礼します」と帰って行ったが、ゼロはなぜか不機嫌なままだ。
ぐるるーとおなかの音がなり、レインは出された美味しそうな食事を食べようとした。
「おい」
レインが食事を口に運ぼうとするとゼロに話しかけられた。
「なんだよ?おなか空いているんだけど?」
「…そうか、ならいい」
ゼロは少し目を細め、自分の前に出された食事を食べ出した。
味も見た目もまあまあな食事を一気に食べたレインは満腹になり、急激に眠気に襲われた。
「あれ…?」
レインの食事を分けてもらって食べたゴンはコトンと倒れるようにスヤスヤと眠っている姿を見て、レインは焦り出した。
「ま、まさか、睡眠薬…」
意識が遠のくのを必死に我慢してゼロをみると、少しあきれ顔のゼロはほおずえをついて、レインを眺めている。
そんなゼロにニヤニヤした店主は話しかけた。
「この上物の奴隷、いくらで売ってくれますか?」
レインはその言葉を聞いて意識を手放した。
「…我がこいつを売ると思っているのか?」
店主は人間の姿から徐々に変わり角と羽が生えて、顔は爬虫類のような顔になった。
「まともな人間の女なんて、何ヵ月ぶりだろ、あーうまそうだ。あんたもいつか食うつもりなのだろ?」
「…あーそうだな…」
そう言うとゼロは右手を横に軽く振ると一瞬にして、魔物の店主が塵になった。
「貴様の様な下等な魔物にやる気はないがな」
ゼロはレインを肩に担ぎ上げ、ゴンを持って宿に帰った。
宿のベットにレインとゴンをおろし、ゼロも少し休もうとベットと隅に腰を掛けるとレインがムクリと上半身を起き上がられた。
その瞳は虚ろな目をして、まるで何かに操られている人形のようだ。
「ただの眠り薬じゃなかったか」
何かに操られているレインはゼロに近づくと、ゆっくりと服を脱ぎ出す。
ゼロはレインの様子を見ながらどうしたものか、考えていると眠っていたはずのゴンがゼロの顔に飛び付いてきた。
「ギュ!!!」
「なんだ!お前は」
わずらわしそうに顔からゴンをはがすと、全裸のレインが座っている。
健康的できめ細かい褐色の肌に、赤茶色の髪が胸の所までかかり、その美しい姿に一瞬目を奪われゼロは固まりゴクリと喉をならした。
うつろな瞳のレインは両手を広げてゼロを誘っている。
ゼロはそっと右手をのばしレインの頬をなぞった。
「…」
もし、我がこいつを抱いたら、エリウスどうするだろうか…
ゼロの中で小さな好奇心と黒い感情が沸き上がる。
操られているレインは積極的にゼロに迫り、顔を近づけてゼロに口づけをした。
するとゼロは少し身を引き、唇を離すと小さく笑う。
「ああ、わかってるさ…エリウス」
ゼロは右手でレインの首の後ろを叩き、レインを気絶させ再びベットに寝かせ、全裸のレインに薄いシーツをかけた。
翌朝、レインは肌寒さを、感じて目を覚ました。
あれ…ここは?
寝ぼけながら上半身を起こすとハラリとかかっていたシーツが落ち自分が全裸なことに気がつく。
「な!!!」
横にはゼロがしっかりと衣服を着て眠っているが、レインはシーツを拾いあげて自分の体に異変がないか神経を尖らせて確認した。
どうもいつもと変わりがないように感じ、ゼロを起こして何があったかを聞くことにした。
「ちょっと!起きて」
「あぁ?」
レインがゼロの肩を揺さぶるとゼロはまだ眠たいとレインの手を払う。
「おい!起きろ。な、なんで私は裸なんだ?」
「…あーそりゃ、我を誘惑するためだろ」
「は?なわけ、あるか」
「…」
まだ寝ようしていたゼロだが、レインの方を向いてうっすらと目を開けた。
「どうしてもと懇願するなら、抱いてやらなくはないぞ?」
「!?」
レインはカッと顔を赤くして枕をゼロの顔に投げつけ、自分の服を探すためにベットから降りた。
すると、ゴンがギュギュと鳴きながらレインの肩に飛び乗った。
深く昨晩の事を聞けないままでレインはモヤモヤしていたが、エリウスを助けるために南東の洞窟を目指して、ゼロとレインは朝早く宿を出た。
南東の洞窟に近づくとゼロは足を止めた。
「?」
「…何かがおかしい」
ゼロが洞窟を睨み右手をかざすと洞窟の前にみどり口色の壁が見える。恐らく結界だ。
レインはシルバーの隠れ家入り口に結界があるのは想定していたが、ゼロはレインとは違う考えがあるようだ。
「何がおかしいの?」
「…あのシルバーはこんな、わかりやすい事をしない。恐らく罠だ」
「ここまでゼロに来させて…魔王に戻ってもらおうとしているんだよな?」
「そうだな…恐らくあいつの狙いは…」
ゼロの言葉と同時に辺りが一気に暗くなった。
エリウスが連れていかれた時と同じテリトリーの結界だ。
ゼロは瞬時にレインの腰に手を回し抱き寄せると2人の身体は暗闇の空気に浮いた。
目の前の空間の切れ目からゆっくりとシルバーの姿が現れた。
「魔王さま、お待ちしておりました」
うっすらと微笑むシルバーにゼロは目を細める。
「エリウスはどこだ」
「わたくしの大事な人質でございます。そう簡単にお渡しする訳にはいきません。」
「…」
「条件はただひとつ。いま、ここで、その女を殺して下さい」
レインは固まり、横目でゼロを見るとまるで、そう言われるとわかっていたように、いたって普通の表情でシルバーを見ているがレインの腰に回っている手に少し力が入った事にレインは気がついた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回完結予定です。