5 ふたりと魔女の森
ゼロ…魔王 レイン…英雄の幼なじみ(女) エリウス…魔王討伐の英雄
「おい、ちょっと待って!どこに行く?!」
魔族長シルバーにエリウスを連れ去られて、ゼロはレインになにも言わず宿を出て行った。
レインは宿に荷物を預かってもらえるようお願いして、急いでゼロのあとを追いかけた。
「…お前には関係ない」
「な!エリウスを助けに行かないのかよ!」
レインはゼロを睨むとゼロは呆れたという表情を浮かべた。
「行くにしてもだ、お前には関係ないだろ?お前がついて来ても足手まといだ。邪魔。」
「っ…」
確かにレインは魔力がなく、戦う力はゼロやエリウス、シルバーの足元にも及ばない。
その事が悔しくて、レインは下唇をぐっと噛んだ。
でも、それでも…レインは自分のせいで捕まったエリウスを助けに行きたかった。
「…邪魔はしない!邪魔と思ったら私を棄てて構わない。だから、一緒にエリウスを助けに行ってくれ。頼む」
レインは深々とゼロに頭を下げた。
ゼロは横目でちらりとレインを見て、小さくため息をついて、また歩き出した。
レインは答えをもらえなかったが、とりあえずゼロについて行く事にした。
それから半日歩き続けると、薄気味悪い森の入り口にたどり着いた。
ゼロは躊躇なく森の中に入って行くのでレインもそのあとを追森に入る。
森の中はいくつも別れ道があり、レインは目の前を歩いているゼロについて行くことで必死だったが、途中、突然濃い霧が辺りを包み、2メートル位しか離れていないゼロの姿を見失ってしまった。
「あれ?」
目の前に別れ道が現れ、ゼロが進んだ方向が右か左かわからない。その上、元に戻るにも、戻り道もわからない。
ジメジメとした森で木が生い茂り苔やカビや気味悪い植物や見た気持ち悪い生物。
レインはこのまま遭難するのは身の危険を感じた。
「と、とにかく進むか…んーこっち!」
感で左の道を選び、そしてまた分かれ道が何度と続き、レインは完全にゼロとはぐれて迷子になった。
まさか、ゼロはわたしを突き放す為にこの森を選んだのではとレインは疑っていた。
日が傾きだし、不気味な動物?の鳴き声が響く。
夜になる前にこの森を抜けたいと思いレインはますます焦っていた。
辺りは暗くなり、霧は晴れてきたがレインの悪い予感が的中した。
よだれを滴し、ぐるると呻き声をあげている目が3つあるハイエナのような動物?が3匹レインを囲むように現れた。
獲物を狙うようにゆっくりとレインの周りを歩き徐々に近づき、
一匹がレインに飛びかかるとレインはすらりとかわして、横に蹴り飛ばす。
体術の格闘には自信があるレインは集中し、戦うしかないと獣のようなモノに構えた。
その後、三匹が一斉に襲いかかってきたが、レインは獣の単調な動きを先読みし蹴り飛ばしたり、手刀で払ったりして軽々と撃退した。
「ふぅ…」
獣が逃げていく後ろ姿を眺めて警戒を解いて、じわりとでた額の汗を手でぬぐう。
さて、これからどうしようと暗い森の中で考えていると、ザワザワと草木が揺らめいた。
また動物?かと視線を向けると、とげとげが生えた蔓がゆっくりと何本もレインに向かってゆっくり近づいてくる。
まさか、シルバー?
その蔓の元を視線で辿ると大きく気味悪く蠢く食中植物だった。
動きが読めるどうぶつと違い、植物は厄介だと思い、レインはこの場を逃げようとした瞬間、ゆっくり近づいていた蔓が襲いかかって来た。
レインの左肩をかすめ、とげが少し当たり血がにじみ出る。
くにょくにょと動く蔓は一本、また一本と増えていき、ジリジリとレインに詰め寄った。
レインはここは逃げるしかないと、足を踏み出すと何故か足に力が入らず、グラッと体勢を崩して地面に膝をついてしまった。
逃げなければいけないのに、身体が動かない…
とげのついた蔓が襲いかかり、レインはもうダメだと思った瞬間
真っ赤な炎が植物の本体を包んだ。
レインの後ろから、大きな人影がゆっくり現れる。
「ったく、やっと見つけた」
「…ゼロ…」
やれやれといった感じのゼロに、レインは立ち上がろうとするが、やはり足に力が入らず、気のせいか少しずつ頭がぼーとしててくる。
ゼロはレインの異変に気が付くと、座り込んでいるレインに近づいた。
力なく、どんどんと目が虚ろになっていくレインに顔を近づけ、よく観察するとレインの右肩に小さな傷を発見した。
ゼロはレインの肩を掴み、その傷に唇を当て強く吸い上げ唾を吐き捨てる。
小さな痛みを感じたが意識が遠退いていく方が早く、レインはゼロに抱き寄せられて眠りについた。
ゼロは仕方がないと、レインを抱き抱えて、森の更に奥に進む。
すると、森の中に不釣り合いな花畑が現れ古い洋館が現れた。
ゼロはその洋館に向かい、両手がレインで塞がっているので足で扉を蹴り開ける。
「こら、扉が壊れるじゃない。」
屋敷の中にいた、赤いドレスの美しい女性はゼロを睨んだ。
白く透き通る長く真っ直ぐな黒髪に真っ赤な口紅で少しつり目の女性は入り口ホールの花瓶の花を手入れしていたようだ。
「こいつが毒植物にヤられた。どうにかしろ」
「へー魔王さまともあろう者が、人間を助けるなんて珍しい」
「煩い。エリウスの女だ、もうわかっているだろう。」
ゼロが鬱陶しそうな表情を浮かべると美しい女性はくすりと笑い
「いいわ、奥の部屋にベットがあるから使って。薬持っていくから」
そう言うと美しい女性は別の部屋に薬をとりに行ったので、ゼロは奥の客間に向かい、大きな白いベットにレインを下ろした。
一時して美しい女性が部屋に入り、小瓶をゼロに渡した。
ゼロは小瓶を受け取り、美しい女性を見る。
「毒消し薬よ。魔力がない非力な人間は薬を飲まないと死ぬかもしれないわ。ちゃんと飲ませてね」
「なんで我が…」
「私がやってもいいけど、普通じゃすまないわよ?それでもいい?」
「…お前みたいな悪魔が関わると、ろくなことがない。どうせ、今日我たちが此処に来ることもわかっていたのだろう?」
「まぁね。その子に薬飲ませたら、エリウスの居場所を調べてあげるわ。後で私の部屋に来て」
そう告げると美しい女性は部屋を出た。
ゼロは小瓶の蓋を開け、苦しそうに眠っているレインの口元に小瓶を傾け薬を飲ませようとするが、うまくいかなかった。
「ちっ、めんどくさい」
イライラしながらも、レインの上半身を抱え起こして、また小瓶から薬を流し込むと少し口に含まれたがすぐに溢れてしまった。
ゼロは目を細めて、少し考えると小瓶の薬を自分の口に含み、レインに口移しでゆっくり薬を流し込む。
「ぅ…んっ」
口づけをしたまま、時間をかけてゆっくりと確実に薬を流し込み、レインは殆んど溢さず飲みきった。
最後、口の中に液体が残ってない状態になり、ゼロは唇をレインから離すと、眠っているレインの口の中に薬が残ってないか確認するため、もう一度深く口づけをして確認した。
そして、手に持っていた小瓶をベットサイドの棚に置くと、美しい女性の元に向かうため部屋を出た。
レインは夢を見ていた。
また、小さい子供の頃の自分。
ちいさな村で毎日遊んでいた子供仲間。
その中に子供の頃のエリウスの姿があった。
「エリウス!釣りに行こーぜ!」
「レイン待ってよーぼく釣竿もってないし…」
「は?釣竿なんて作ればいいよ。ほら、行くぞ!」
子供の頃のエリウスは皆のあとについてくる少し控えめな男の子だった。ただ、他の子よりも少し魔力が高く、学校の魔法授業ではいつも満点。
レインは魔力がない上に勉強出来ないので最低点をつけられていた。しかし、レインの活発な性格と強い正義感は小さい村の子供たちの大将となっていた。
「レイン、見せたいものがあるんだ」
ある日の夜、エリウスがレインを呼びだした。
薄暗い中、家の裏山に登り二人で星空を見に行った時の風景が広がる。
「わー凄いなエリウス!!」
「今日は流れ星が沢山見れる日だって、お母さんが言ってたよ」
「え!どこどこ??」
エリウスは山の芝生に座り仰向けに寝転んだ。
「ほら、こうすると夜空がよく見えるよ」
私もエリウスの真似をして寝転がると沢山の星が空いっぱいに散りばめられていた。
「わー流れ星どこかなー」
「さっきあっちの方向で流れたよ!」
「え!どこどこ??」
これは子供の頃の思い出だ。
エリウスと星を探して、そして…レインは途中から寝てしまった。
「…レイン?寝ちゃった?」
「…」
スースーと寝息をたてる私を覗き込みエリウスはまた空を見上げたその時、流れ星があらわれた。
「レインと結婚できる様にしてください…」
小さな声でボソッと言ったエリウスの言葉は当時のレインは聞こえていなかった。
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ゆっくり更新です~(*^_^*)気長に~