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師走(3)

 温かいものが飲みたいからと、大槻さんと一緒にコーヒーショップへ入った。


 店内も暖房が効いていて、足を踏み入れた途端に眼鏡が曇った。だから席についてすぐ、私は眼鏡を外してきれいに拭かなければならなかった。それがおかしかったのか、大槻さんには軽く笑われた。

「すみません」

 眼鏡を拭いてからかけ直す。すると向かい側に座った大槻さんの笑顔がよく見えた。

「いや、こっちこそ笑っちゃってごめん。大変だね、眼鏡だと」

「そうなんです」

 私は深々と頷く。眼鏡についての苦労話には事欠かず、原稿用紙にして軽く二十枚は書けるほど持ち合わせている。

「いっそ将来的には、コンタクトにすべきなのかなって思ったりします」

「お、いいんじゃない。雛子ちゃんは外しても可愛いよ」

 大槻さんは軽い調子でそう言った後、はたと気づいたように眉根を寄せた。

「ああ、でも……鳴海くんは眼鏡の方が好きかもしれないな」

「本当ですか?」

 とっさに私は反応した。


 それは先輩本人に一度聞いてみたいと思っていた情報だった。

 つまり先輩は眼鏡をかけている女の子とかけていない女の子、どちらが好みなのか。もちろん聞いたところで望む答えがある可能性は低いだろうし、それ以前に先輩なら『どちらでもいい』もしくは『どうでもいい』と答えそうな気もしていた。

 ところが私の予想は外れていたようだ。鳴海先輩は眼鏡が好き、なんだろうか。


「すごい食いつきっぷりだね」

 大槻さんにはにやにやされた。

 おかげで私は恥ずかしかったけど、最も興味がある人についての話なんだからしょうがない。この件については是非とも詳しく聞いておきたい。

「眼鏡が好きって言うかさ、鳴海くんには眼鏡センサーがついてるよ、確実に」

 内緒話でもするみたいに大槻さんは、声を落として話し始める。

「大学とかさ、あと外歩いてる時でも、近くを眼鏡の子が通ると、自然と目がそっち向いてるんだ。特に、君くらいの背格好の女の子の時はね」

 運ばれてきたコーヒーにミルクだけを入れ、大槻さんは愉快そうな顔をした。

「そういう時の反応速度がもう、すごいからね。三百六十度見渡してんじゃないかってくらい素早く見つけてさ、でもすぐに『ああ違った』って顔するんだよ。だからまあ、いつも探してんだなってこっちも微笑ましい気分になるんだけど」

 私といない時の先輩について、話を聞くのは新鮮だった。眼鏡の女の子に反応する先輩、というのも何だかイメージできないけど、大槻さんが嘘をついているようにも思えない。

 私のことをいつでも探してくれているなら、何だか嬉しい。すごく嬉しい。でも、こうして人づてに話を聞かされるのはくすぐったくもあった。

「眼鏡センサーってそういうことですか」

 私がおずおず確かめると、すかさず頷かれた。

「そういうこと。あ、誤解しないでね。他の子を目で追ってるわけじゃないから」

「……わかってます」

 十分なほどわかった。頬の熱さに眼鏡が再び曇ってしまわないか、心配になる。

 でもそれなら、しばらく眼鏡のままでいた方がいいかもしれない。先輩が私を見つけにくくなったら困る。

「じゃあ、コンタクトは当面見送ります」

 私が恥ずかしながらも率直な心境を述べると、大槻さんは喉を鳴らして笑った。

「雛子ちゃんが眼鏡やめても、それならそれで鳴海くんには別のセンサーが備わるだけだと思うよ」

「そ、そうだと……いいんですけど」

 何がいいのかよくわからないまま、私は答える。


 コーヒーを飲む為に少しの間黙ると、BGMの賛美歌が聞こえてきた。ここでもクリスマスソングが流れているみたいだ。カウンター席の端っこには電飾が光る小さなツリーも飾られている。どこもかしこもクリスマス一色だというのに、こんな時に風邪を引いてしまった先輩がとてもかわいそうだと思う。きっと浮かれ気分ではいられないだろう。

 私もせっかく購入したクリスマスカードをまだ開封してもいなかった。これから書くなら、お見舞いのメッセージを添えた方がいいだろうかとぼんやり思う。


 大槻さんもまだ笑いながら、湯気の立つコーヒーを一口飲んだ。それから短く息をつく。

「だからさ、あいつが君のことすごくすごく大事に思ってんだなってのはわかるんだ。最近は特に、そういう態度を隠さなくなってきたしね。幸せいっぱいです、みたいな態度しやがってさ」

 合間に一つ、舌打ちを挟んだ。だけど口調はすこぶる楽しそうだった。

「真昼間から君のこと考えて、盛大にやに下がってる顔とかさ、君に見せたいくらいだよ」

「先輩が、ですか?」

 鳴海先輩のそういう顔は想像がつかない。私は信じがたい思いで問い返した。

「信じられないだろ? 俺も思わず目を疑ったよ」

「何か、他のことを考えてたとかじゃないでしょうか」

「いいや、あれは好きな子について考えてる顔だったね。そういうの、わかっちゃうんだなあ」

 大槻さんが随分と確信をもって語るので、私は先輩がそれらしい顔をしているところをイメージしてみた。だけどどうしても上手く形にならない。そのせいで、大槻さんの確信も何となくぴんと来ないままだった。


 でも、先輩も言っていた。大槻さんに『顔に出ている』と言われてからかわれたと――もしかしたら今の話がそのことだったのかもしれない。直接見てみたかったような気もしたけど、その場にいたらいたで間違いなく居た堪れなかっただろう。

 鳴海先輩とのお付き合いも既に二年を過ぎており、いろんな顔を見せてもらってきたつもりでいたけど、どうやら先輩には私に見せていない顔がまだまだあるみたいだ。先輩が大学でどんなふうに過ごしているのか、見たことのない顔も、私の努力次第では来年、見られるかもしれない。頑張ろう。

 今は目の前で楽しそうに話す大槻さんが、いっそ羨ましいくらいだった。


「まあ、そういう気持ちが募れば募るほど、空回っちゃうのもよくある話だけどさ」

 そこでちょっと、大槻さんは困ったような顔つきになる。

「今回みたいに体調崩した時なんかは、やっぱりまめに連絡欲しいって思っちゃうよね。鳴海くんからすれば君を不安がらせたくないって一心からなんだろうけど、ちゃんと治るまではかえって心配かけるから連絡しにくいって思ってたみたいだし」

 内心、どきっとした。

 先輩がどういう思いで私に連絡をしなかったか、完璧に把握できていたわけではない。だけど少し想像力を働かせればわかることでもあった。先輩はもう昔のように分かりにくいだけの人ではない。

 なのに私はせっかくの想像力をよくない方向にばかり使ってしまって、一人でぐるぐると考え込んでしまっていた。

「拗らせたって聞きましたけど、初めのうちは酷かったんですか?」

 私の問いに、大槻さんは少し考え込むようにしながら答える。

「酷かったって言うか、まあ……去年より寝込んでたからな。酷いだろうね」

「去年? 先輩、去年も風邪を引いていたんですか?」

 それは初めて聞く話だ。私は驚いたけど、大槻さんは私が知らないでいたことに更に驚いていた。

「え、引いてただろ。正確には今年の年明け頃だけど。まさか、知らなかった?」

「はい。先輩も何も言ってませんでした」

「そ、そっか……。これ、言っちゃまずかったかな……」

 大槻さんは気に病むそぶりで呟く。


 だけど推測ながら、鳴海先輩も私に隠しておきたかったわけではないと思う。

 今年の年明け頃は先輩も携帯電話を持っていなかったし、私たちは一ヶ月やそこら連絡を取り合わないこともあるような関係だった。そのくらいならわざわざ風邪を引いたと知らせなくても平気だろう、と先輩が判断していたのだと思われる。

 連絡を頻繁に取り合うようになったからこそ、先輩は今回、私にメールをくれたのだろう。メールのやり取りが途切れても、私を不安にさせないように。


「先輩は必要がないと思って、その時は私に知らせなかったんだと思います」

 私がそう告げると、大槻さんは気遣わしげな苦笑いを浮かべた。

「いや、必要ないって……。普通は言っとくもんだろ、彼女にはさ」

「当時はあまり連絡を取り合っていなかったんです」

「そうなんだ……鳴海くんはそういうとこ、たまに変わってるよな」

 大槻さんが言ったことを、私も少し前まで思っていた。一応、私たちは恋人同士であるはずなのに、ちっともそれらしい気がしないと。

 今は、だけどそうでもなかった。むしろ近頃の私たちの交際ぶりといったら、どこにでもいるような恋人たちと大差ない。そしてそういうありふれた空気を、とても幸せに感じていたりする。

「最近はそうでもないんですよ。普通のお付き合いをしてます」

 フォローのつもりで私は言った。

 すると大槻さんも、得心した様子で応じた。

「そうらしいね。少なくとも鳴海くんはすっかり浮かれちゃってるもんな」

「だといいんですけど。私一人で浮かれてるのは寂しいですから」

「だったら全然心配ないよ。君のいないとこでも十分、春が来たって顔してるから」

 大槻さんはまたコーヒーを飲む。思ったより苦かったのか一度顔を顰め、それからまた思い出したように笑んだ。

「まあ、順調なんだったらいい機会だからさ。こういうことになった時にどう連絡取り合うかとか、二人で話しといてもいいんじゃない? 鳴海くんは君に心配かけたくないってそればかり考えてるからさ。君がなるべく不安にならない連絡の取り合い方を、決めとくべきだと俺は思うよ」

 その意見はもっともだ。くしくも私自身が先輩に告げていた通り、私だって先輩に聞いてみればよかった。それだけのことだった。

 私はすぐに同意を示した。

「そうします。やっぱり、部屋まで行くのはまずかったですね」

「だね。鳴海くんだってさ、好きな子によれよれの姿は見せたくないだろうし」

 鳴海先輩ならよれよれの格好だって十分素敵だろうと思うけど、でも逆の立場なら、私も見せたくない。そういう点も考慮に含めておくべきだった。

「今日辺り、もうメールしても平気だと思うよ」

 更に大槻さんはそう言った。

「さっき会った時もかなり元気そうだったしさ。咳はまだしてたけど、話ができないほどでもなかったし。メールの文章とかはもう元気取り戻してて、いつもの鳴海くんになってたし」

 そこで笑いを堪えるみたいな表情になって、

「風邪引き始めの頃は超しおらしかったんだけどなあ。君には頼めないからって俺にすっごい頼み込んできてさ。しょうがないなって言うこと聞いてやってたら、治る頃にはそのしおらしさもどこへやらって感じでさ。まあ、俺が君のことで鳴海くんをからかいまくったから、ってのも一因かもしれないけど」

 言葉の割にすごく楽しそうに、大槻さんは語る。

「こっちも頼られるのは何だかんだで悪い気しないけど、しおらしい鳴海くんも空恐ろしいから、通常営業に戻ってくれてもいいかな。俺に優しくするくらいなら、彼女に優しくしなさいよって思うし」

 大仰な仕種で首を竦める大槻さんを見ながら、これが男の子の友情かな、と考えてみたりする。

 鳴海先輩と大槻さんは本当に仲がいいみたいだ。羨むのもおかしいのかもしれないけど、やっぱりちょっと羨ましい。

「じゃあ今日辺り、先輩にメールしてみます」

 ようやくほっとした私は大槻さんにそう宣言した。

 大槻さんも目を細める。

「そうするといいよ。何なら俺からも触れとくけど……あ、下手なこと言わない方がいい?」

「いえ、大丈夫です。先輩には、ちゃんと包み隠さず打ち明けようと思ってます」

「そっか。だったら俺も、君と会ったことくらいは言っとこうかな」

 頬杖をつきながら私をまじまじと見て、大槻さんは愛想よく笑った。

「こんなに健気で可愛い彼女、不安がらせちゃ駄目だよって言ってやりたいな……。ぶっちゃけ俺は、鳴海くんは君を逃がしたら駄目人間になると思ってるからね。是非ともしっかり捕まえといてもらわないと」

 駄目人間なんて、そんなことあるだろうか。私が照れ半分、疑問半分で目を瞬かせると、大槻さんはなぜか深い溜息をつく。

「そうは言っても傍目八目、外から見てるからわかった気になれることもあるよなあ。俺もいざこんな彼女ができたら、鳴海くんより無様で不器用になっちゃうかもしんないしな……」

 そうぼやくからには、大槻さんには今のところ彼女がいないらしい。こんなに気配りもできて優しくて明るい人なのに、わからないものだ。

 そういえば前に約束をしたことがあったな、と私が春辺りの記憶を蘇らせた時、大槻さんもこちらに向かって身を乗り出してきた。

「雛子ちゃん! 前にした約束、覚えてる?」

「あ、はい。覚えてます」

 私が慌てて答えると、今度はテーブルに両手をついた大槻さんに、深く頭を下げられた。

「その件、何卒よろしくお願いいたします! 何だったら君が大学入ってからでも全然いいんで! 切実なんですマジで!」

「えっと、な、なるべく頑張ります……!」

 大槻さんには大変お世話になったし、いつかご恩が返せたらいいんだけど。その約束を叶える為にはまず、無事に大学に入らないといけない。私は頭を下げ返しつつ、やって来るかもしれない――必ず手に入れると決めた大学生活、そしてその前に立ちはだかる入試へと思いを馳せた。

 既に十二月も半分を過ぎている。ラストスパートの時期だった。


 その晩、私は鳴海先輩にメールを送った。

 メールの中ではなるべく包み隠さず、事の経緯と今の気持ちを素直に書いておいた。

 この一週間、先輩がどうしているか気になって気になって仕方がなかったこと。もしかしたら先輩が一人で苦しんでいたり、倒れているんじゃないかとまで考えてしまったこと。でもこちらから問い合わせていいのかどうかわからなくて、先輩の部屋を訪ねようとしてしまったこと。そこで大槻さんと出会って、先輩と話をするよう勧められたこと――。

 全て包み隠さず書いたら、それこそ手紙のように長い長いメールになってしまった。病み上がりの人に読んでもらうのは大変だろうと思ったので、冒頭に『読むのも、お返事も都合のいい時で構いません』と添えておいた。


 だから返事は遅くなるだろうと踏んでいたけど、意外なことに、メールを送ってものの五分で私の携帯電話が鳴った。

 鳴海先輩が、電話をかけてきた。

『連絡をしなくて悪かった』

 久々に聞いた声は記憶にあるものよりかすれ気味で、喉を痛めているらしいのが電話越しでもよくわかった。

「先輩! 電話で話して平気なんですか?」

 とっさに尋ねた私に、先輩は素早く答える。

『少しくらいなら大丈夫だ。それに俺も、お前の声が聞きたかった』

 その言葉を聞いた途端、私も言葉に詰まった。急に泣きたくなるような衝動に襲われ、唇を結んで持ちこたえる。

 こんなことで泣くなんて大げさだ。きっと受験前で情緒不安定なんだろう。

「私もです。先輩が無事かどうか、ずっと気になってて……」

『ただの風邪に心配しすぎだ。俺はそうそうくたばらん』

「そんなのわからないです。風邪だってとても怖い病気ですよ」

『……全くだ。今年のは特に酷いぞ、お前も気をつけろ』

 そこで先輩は軽く咳き込んだ。

 私は先輩が落ち着くまでじっと待ち、やがて深呼吸が聞こえたかと思うと先輩の声が戻ってきた。

『だが、だからと言って連絡をしないのはよくなかったな。下手なことを言えば、長引いているのがわかって、かえって不安がらせるだろうと思っていた。しかしそれも含めて打ち明けてしまう方が、お前にとってはいいのかもしれない』

「私も、そう思います。お願いします、先輩」

 先輩が辛い思いをしている時も、苦しい思いをしている時も、全部教えてもらえる方がいい。私に何かできることもあるかもしれないから。

「私が受験生じゃなかったら、すぐにでも駆けつけたんですけど」

 今年はそういった壁もあった。私が嘆くと、先輩は少しだけ笑ったようだ。

『来年以降、風邪を引くことがあればその時は頼む』

「は、はい。お任せください!」

『ああ、大槻だと何かとうるさいからな。さっきもお前のことでいろいろ言われた』

 大槻さんは鳴海先輩に、私と会ったことを話しておくと言っていた。果たして二人の間でどんなやり取りがあったのかはわからない。でも鳴海先輩は少しだけ黙り、それからぽつりと言った。

『昨冬の風邪は……その、お前に次に会うまでに治しておけば問題ないと思っていたんだ。言わなかった理由はそれだけだ。別に隠しておこうと思っていたわけじゃない』

 言い終えると先輩はまた咳き込んだ。私はあたふたと声をかける。

「わかってます。大丈夫です」

 先輩のことだ、そんなものだろうと思っていた。


 実際、私は何も知らないまま過ごしていたのだから、問題はなかった。

 ただ、今はもう違う。あの頃から比べて、私たちの距離はぐっと近づいた。お互いに話しておくべきことは話すべきだし、聞きたいことは聞くべきだ。そう思う。


『隠さないにしても、もう少し言いようがあったな。心配をかけた』

 咳が収まると先輩は言い、その後で声に何か笑いのような、照れのような、明るさを滲ませた。

『しかし……お前を散々不安がらせておいてこんなことを言うのは不謹慎だろうが、心配してもらえるというのも、いいものだな』

 先輩はまるで、今回初めて私が心配をした、みたいな言い方をする。

「私は、心配はずっとしてましたよ」

『そうだな、悪かった。俺にそのありがたみがわかっていなかっただけだ』

 むっとする私を宥めるように、先輩はしみじみ語った。

『だからお前ももう泣くな。こんな状態じゃ慰めにも行けない』

 どうして先輩は、見えもしないのに私が泣いているってわかるのだろう。私はどうにも堪えきれなくなって、泣き笑いの声を発した。

「そうします、ごめんなさい……。もう、平気です」

『ならいい』

 先輩も長く息をつく。病み上がりでこんなに話をして、もしかしたら疲れてしまったのかもしれない。

「今夜はもう終わりにしましょうか、電話」

 名残惜しさもあったけど、先輩にこれ以上無理もさせたくない。私は提案した。

『そうだな。……あ』

 同意しかけて先輩はふと小さく声を漏らした。何か思い出したようだった。

 だけどすぐに、

『いや、いい。この話は次に会った時にしよう』

「それなら、来年になりますね」

『そうだったな……長いな。話したいことが増えすぎて、山と積もっていそうだ』

「私も同じだと思います、先輩」

 話したいこと、聞いてみたいことはたくさんある。例えば大槻さんから聞いた、眼鏡センサーの件は本当なのか、とか――でもそういう他愛ない話は今日みたいな日に、病み上がりの先輩とはするべきじゃない。もっと落ち着いてからでもいいはずだった。

 今日のところはこれだけで、少し話せただけでよかった。


 一通りの挨拶を済ませて電話を切った後、私は未開封のクリスマスカードを取り出した。

 あの日購入して以来ずっとしまい込んであって、ようやく今日、日の目を見たという次第だ。本当はもう少し早めに書き上げて投函したかったけど、気持ちに余裕がなく、それどころじゃなかった。

 だけど今ならようやく開ける。先輩へのメッセージだって書ける。

 明日にはポストに投じてしまおう。クリスマスに間に合うように。

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