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エピローグ

 長い夢を見ていたような気がする。青い鳥や黒犬と喧嘩して、何故か、黒龍とも喧嘩していた。そして、黒犬が光の雨を売らせていたような気がする。

 夢のはずなのに、とても胸が痛い。申し訳ないことをしたような気がする。


「………ん」

 私が目を覚ますと、

「目が覚めたか。気分は悪くないか?」

 黒龍が私を心配そうに見る。

「大丈夫。平気」

「それならいい」

 黒龍はホッとしたような表情を浮かべる。彼のその表情を見ると、何故か、申し訳ない気持ちになる。

「………感動の親子の再会はこれくらいにして、私の治療をしてくれませんか?」

「治療をされていると言うのに、偉そうだな」

「それは当たり前です。貴方の所為で、私達は怪我を負いました。これくらいの権利を要求するのは当然です」

「ふん。怪我人に怪我を治させるとはいい御身分だな。青い鳥?」

「貴方の怪我は怪我とは言いません。怪我人と言うのは彼のことを言います」

 青い鳥は黒犬を指す。黒犬は寝ているのか、動かない。それに、大きな耳を持った可愛い生き物が黒犬の上にのっている。

「アレは死にかけって言うんだ。その前に、あんな状況でよくあんなことができるもんだな」

 あいつはテメエよりも強運の持ち主じゃねえのか、と黒龍はそう言ってくる。

「彼はいわゆる愛され体質だと思われます。世界に愛されているので、中々死なせてくれないのではないかと思うこともあります」

「ふん。愛され体質なのはどうでもいいが、あれをあのままにして置くと、世界に愛されていようと死ぬぞ?」

 治療しようとも、あれが邪魔するから、できやしねえ、と黒龍は悪態をついてくる。

「どうやら、“彼”が治療してくれているようですから、多分、大丈夫だと思われます」

「………そのようだが、黒犬が目を覚ました時、全身涎まみれの自分を見て、泣き叫ばなければいいけどな」

 黒龍は白い毛の生き物が黒犬の身体を舐めている姿を見て、そんなことを言ってくる。

「彼にはそこは眼を瞑って貰わなければいけません。それよりも出てきたらどうですか?」

 青い鳥がとある場所を見ると、そこからゲンが出てくる。いつから、そこにいたんだろう?

「いつからそこにいやがった?」

 黒龍はゲンを睨む。いつから?何のことを言っているのだろうか?

「………一部始終と言っておこうか」

 ゲンは悪びれた様子を見せずにそう言ってくる。

「そうだと思いました。格好良く登場できる場面はたくさんありましたので、いつ出てきてくれるのか、思っていました」

「ちゃんと彼女の父親を呼んでやったのだから、俺はそれくらいでいいと思ったが?それに、俺はもう隠居した身だ」

 俺が出る場面など何処にもないように見えた、とゲンは言う。

「ゲン、格好いい」

「格好いいも糞もあるか。格好付けて、その餓鬼が死んだら、どうするつもりだ?」

 黒龍はそう言って、黒犬を指す。

「話によると、あいつは愛され体質のようだ。放っておいても、誰かが助けてくれるだろう」

「そうです。彼は誰からも愛される主人公タイプです。そう簡単には死にません」

 ゲンと青い鳥はそんなことを言ってくる。

「とんだ苦労人主人公だと思うがな」

 黒龍は黒犬に憐れむような視線を送る。

「ねえ、黒龍」

「何だ?」

 黒龍は私の方を見る。

「愛され体質って、何?」

「………テメエが知らなくていい言葉だ」

 黒龍はそう言って、青い鳥達に、テメエら後で覚えていろ、と言っていた。

「冗談はそこまでにしておこうか。姿を見せるつもりはなかったが、天下の魔法使いの黒龍にやってもらいたいことがある」

「誰だ?この男に俺の正体をばらしたのは?」

 黒龍はそう言って、青い鳥を見る。

「私ではありません。彼です」

 青い鳥はそう言って、黒犬を指す。

「ほう?そうか。どうやら、黒犬はこのまま、天国へ逝くことがお望みみてえだな」

 黒龍はとてもあくどい笑みを浮かべる。

「黒犬、天国に逝っちゃうの?そしたら、ハクもイヴも悲しい」

 まだ、黒犬と遊び足らない。

「………っく」

 黒龍は何か言いたそうにしていたけど、黙ってしまった。何でだろう?

「やはり、流石の天下の黒龍も姫とハクの前では型なしです。流石、愛され体質の力です」

「愛され体質って、そんなにすごいの?なら、私も愛され体質になりたい」

「ハク、残念ですが、愛され体質はそう簡単になれるものではないのです。できることなら、私もなりたいのですが、主人公の特権です」

「そうなの?それは残念」

 私も愛され体質の力欲しかった。

「話が脱線していました。まあ、彼がばらさなくても、ゲンおじさんにはばれていたと思います。昔から、私や彼はゲンおじさんには隠し事ができませんでした」

 もしかしたら、彼が言わなくとも知っていた可能性もありますが、と青い鳥がゲンを見る。

「まあいい。伝説の剣士様が敵国の魔法使いに何の用だ?」

 黒龍がそう言うと、今度はゲンが眉を顰める。

「………伝説の剣士になったつもりはないが?」

「謙遜すんじゃねえよ、“玄武”。あっちの国じゃ、あんたは“剣聖”として奉られてるそうじゃねえか。まさか、あっちも敵国の、しかも、田舎町で家族を作っているとは思いもしねえだろうな。まあ、あの男はテメエの居場所を知っていたみてえだがな」

「………昔のことはどうでもいい。今はただの親父だ」

「恐らく、その上に不良が付くと思います」

 彼ならそう言います、と青い鳥はそう言ってくる。

「……そうかもな」

「ふん、まあいい。その不良親父が俺に何の用だ?」

「本来なら、“彼”の契約者にやってもらえばいいのだろうが………、その肝心の契約者がああではあまり期待できない。それで、やってもらいたいことは貴方の魔法でここの空間を閉鎖して欲しい」

「………昔、その魔法を施した魔法使いを呼べばいいんじゃねえのか?」

「奴がそう簡単に姿を現すのなら、苦労はしない。とは言え、現れた時は切り捨てるつもりだがな。それに、貴方は俺の息子達に大怪我を負わせ、この村にとって重要な森を半焼けさせてしまった。その責任をどうとるつもりか?」

 ゲンは黒龍を鋭い眼差しで見る。

「……ふん。黒犬家族抹殺計画を白紙に戻して良かったかもしれないな」

「そうです。貴方は私達のお陰で、生きているのです」

 そうでなかったら、ゲンおじさんに殺されていました、と青い鳥は言う。

「黒犬はとにかく、テメエには感謝するつもりなんてねえがな。まあいい。それでいいのなら、喜んでやってやろう。まあ、こっちに責任はあるから、奴を脅して、金を出させる。その後は自分たちで、この森を復活させんだな」

 黒龍はそう言って、立ち上がる。

「さっそく、その魔法陣の修復をする。誰か黒犬を運んでやれ」

 黒龍はそう言って、歩き出す。私は彼に急いで付いていく。すると、黒龍は私の手をつないでくれる。

 その手はとても大きかったけど、懐かしい。

 “彼”の手みたい。

 いつか、私は“彼”に逢いたい。彼は会いに来るって、言ってくれたから、迎えに来てくれる。

 私はその日を待ちたい。いつかやってくるだろう、その日を。


***

「………青い鳥、聞いてもいいか?」

「何ですか?自分が病院にいることが不思議ですか?黒龍が手配してくれました。表面上は怪我が塞がっていますが、やはり、念のために、見て貰った方がいいですから」

「その配慮は嬉しいんだが、上にのっているこいつのことを訊いてもいいか?」

 俺の上にのっている大きな耳が特徴な、ウサギとブタの合いの子がいる。確か、こいつは村の森で悠々自適生活を送っていたのではないのか?なのに、どうして、ここにいる?

「病院生活は暇だろうと思いまして連れてきました。安心して下さい。病院の方には許可をとってあります。黒龍が脅せば、一発でオッケーです」

「………それは病院側が可哀想ではないか?」

 黒龍さんに脅された病院の人達が気の毒すぎる。

「冗談です。貴方のお友達にお願いしたら、オッケーしてくれました」

 俺の友達と言う認識はあまりよろしくはないが、十中八九、白髪変人のことだ。彼は青い鳥にホの時である(この事実を帝王に知られたら、殺されるかもしれない)。そんな青い鳥の願いだったら、無理でも、何でも通しかねない。

「それにしても、森から離してよかったのか?こいつに親がまだいるのか知らないが、森から離れて、寂しがっていないか?」

 俺達の勝手で無理矢理故郷から離すようなことはしてならない。

「大丈夫です。森が恋しかったら、自分で帰ることくらい出来ると思います」

「自分で帰る?ここからあの村、どのくらい離れていると思っているんだ?」

 どう考えても、こいつが徒歩で帰れる距離ではない。すると、そいつは鼻を擦りつける。まあ、こいつを見ているだけで、和むことができる。俺の癒しは弟達くらいだから、こいつが追加されれば、俺にして嬉しいことはない。

「どうやら、貴方を気に入ってしまったようなので、帰るつもりはなさそうですが」

 青い鳥はどうでもよさそうな様子で言ってくる。

「やあ、黒犬、目覚めたかい?」

 白髪変人が姿を現す。

「済まない。俺、疲れたから、寝るわ」

 この男との言葉遊びは青い鳥以上に疲れるので、寝よう。

「酷いじゃないか、恋敵手。私が来たのに、寝ようとするなんて。一応、私は用があって、来たんだがね」

 彼はそう言って、無理矢理俺の布団を剥がす。すると、俺の和みがストンと地面に落とされる。それを青い鳥が抱き上げる。

「じゃあ、さっさと用を済ませてくれ」

「そうだね。これでも、忙しい身だから、さっさと済ませようとするかね。と言っても、私は友人からこれを渡すように言われただけだがね」

 彼はそう言って、俺に一通の手紙を渡す。誰からだろう、と思い、差出人を見ると、

「………紅蓮さん!?ちょっと、あんた、紅蓮さんと知り合いなのか?」

 まさか、彼が紅蓮さんと友好関係にあるとは思わなかった。どう考えても、紅蓮さんがトラブルメーカーの彼みたいな人物と付き合っているとはにわかに信じがたい。

「まあ、彼とは魔法学校時代からの付き合いだよ。時々、お茶をする仲間でもあるかな。黒犬君も今度一緒にどうだい?」

「そうかい。機会があったらな」

 俺は生返事をして、その手紙を読む。最初は謝罪の言葉から始まり、そして、あの男があの森に拘った理由。その後には、クリムゾン家からも支援金を払うことが書いてあった。

 一応、あの男は間接的にしろ、あの森を半焼けにさせたのだから、それは当たり前のことなのかもしれない。とは言え、紅蓮さんにとってはいい迷惑だろうとは思うが。

「……何て書いてあったんですか?」

 青い鳥は興味津津に尋ねてくる。

「クリムゾンから支援金を出してくれるそうだ。青い鳥にも謝っておいてくれとさ」

「………別に、彼が謝る必要などありません。彼は悪いことなんてしていません」

 それはそうだ。青い鳥の言う通り、何処にも、彼が謝る必要はない。だが、

「貴族って言うのはいろいろと家ごとの事情があるものだ。彼、いや、クリムゾン家としては黒龍さんや王のお気に入りである君を敵に回したくはないだろう」

 そう考えれば、彼の行動は当然と言える、と彼は貴族らしい言葉を返してくる。まあ、彼は貴族ではあるが、さほど貴族のプライドを気にしていない節が見られる。それを言ってしまえば、紅蓮さんもそうだが。

「私は用を済ませたから、帰らせてもらうよ。そう言えば、さっき赤犬さんに会ったよ」

 産婦人科に来たみたいだね、と彼は言う。

 一方、俺はその言葉に血の気が引く。黒龍さんがらみとは言え、今回も俺は彼女にお仕置きを免れないのではないのだろうか?今回は俺の責任ではない(正確に言えば、毎回、俺の所為ではない)。

「まあ、おなかの赤ちゃんに障りがない程度にお仕置きはした方がいい、とは助言をして置いたがね」

 彼はそう言ってくる。確かに、彼女のお腹には小さな命が宿っている。それで、止める彼女ではない。もし俺のお仕置きをする為、その命に何かあったら、赤犬さんに殺されるだろうし、その赤ちゃんの父親である鏡の中の支配者(スローネ)も黙っていないだろう。恐ろしい。恐ろしすぎる。

 赤犬さんには俺の病室に来ることなく、帰って欲しい。


 結果を言おう。俺の願いは叶わなかった。

「黒犬、お前は本当に病室が大好きのようだな?」

 赤犬さんはそんなことを言ってくる。

「はい、大好きです」

「……そうか。黒龍さんから聞いた話だが、また私に隠れて、召喚獣と契約したらしいじゃねえか?お前は私に隠れてコソコソすることが大好きのようだな」

「はい、大好き、いや、それは大好きじゃありません。と言うか、俺、いつ召喚獣と契約を……、赤犬さん、頭はレッドゾーンです」

 俺はそう叫ぶと、珍しく、赤犬さんは俺の頭から足をどけてくれる。

「………今回はこれくらいで許してやる」

 いつもの赤犬さんでは言わない台詞を言ってくる。これはどう言うことだろうか?俺はきょとんとしていると、

「今回はそうなっているのはお前じゃなくて、私だった可能性もあるからな」

 赤犬さんはそんなことを言ってくる。確か、彼女が妊娠していたから、俺がハクを預かることとなった。もし彼女の妊娠が遅かったら、彼女がハクを預かることとなった。

 そう考えると、彼女はおなかの赤ちゃんと鏡の中の支配者に感謝しているのかもしれない。その所為で、俺達が死にかけたわけだが。

「医者にお腹の赤ん坊に触るような行動は控えた方が言われているし、何よりも、ハクにお前をいじめないように言われた」

 その言葉には驚きを隠せない。青い鳥の言葉からすると、彼女は自分のしでかしたことを覚えていないらしい。まあ、それは不幸中の幸いなのかもしれない。そのお陰で、彼女から笑顔が消えることはなかったのだから。

 はっきり言って、彼女が責任を感じることはこれっぽちもない。

 おそらく、黒龍さんがそう仕掛けたのかもしれない。あの人も、今回だけは自分の責任を感じているのかもしれない。

「今回はこれで帰る。最近はストレス解消道具があるから、お前を踏みつぶさなくても、ストレスは解消されている」

「……ストレス解消道具?」

 赤犬さんはそんなものをいつの間に買ったのだろうか?

「ああ。それは料理作りや家事機能もあって助かっている。奴の料理はおいしいから、文句もない。退院でもしたら、私の家にでも来い。奴の手料理を御馳走してやる」

 赤犬さんはそれだけ言うと、病室から出る。

「奴?」

「………恐らく、鏡の中の支配者(スローネ)のことと思われます。彼の料理は絶品と聞いていますから」

 確かに、鏡の中の支配者(スローネ)の料理は絶品だと聞いたことがある。だが、

「………」

 赤犬さん、一応、旦那をストレス解消道具呼ばわりしていいものなんですか?

「鏡の中の支配者の料理は一度食べてみたかったので、いい機会です。貴方が退院したら、遊びに行きます」

「………そうだな」

 彼女の口ぶりからすると、彼が赤犬さんの手料理を作りに毎日行っているようである。話によると、彼のべた惚れなので、仕方がないのかもしれないが、鏡の中の支配者が不憫で仕方がない。


 それから、数日が経ったある日、白い毛のそいつは病院生活に慣れたのか、自分の部屋のように寛いでいる。俺はすることもないので、本を読んでいると、

「チャーシュー。会いに来たよ」

 ハクは突然、病室に入ってきて、くつろいでいたそいつを抱きしめる。一方、そいつはハクのことも気に入っているのか、尻尾が左右に振られている。

 それにしても、チャーシューはないだろう。こいつは決して食用ではない、と思う。

「ハク、元気そうだな」

「うん。今日はね、紅蓮に魔法を教わったの。いつか、黒犬や黒龍みたいな凄い魔法使いになるの」

 ハクはそんなことを言ってくる。どうやら、黒龍さんは二度と、ハクが暴走しないように、魔法をみっちり教えるつもりのようだ。

 もしハクが自部自身の魔力をコントロールできるようになれば、俺は勿論、黒龍さんを超える魔法使いになれるかもしれない(黒龍さん本人には言えないことだが)。

 これは青い鳥から聞いた話だが、エンが青い鳥に剣術を教えてほしいと頼み込んだそうだ。エンはハクのことを守ることができずに、あの男達に気絶させられたことが余程悔しかったのだろう。毎日、青い鳥と一緒に同じメニューをこなしているらしい。

 青い鳥曰く、こちらも凄腕の剣士にまで成長するのは時間の問題らしい。

「………なれるといいな」

 このことを聞くと、次の世代が確実に育ってきているんだな、と感じる。

 願うことなら、ハクとエンが背中合わせにお互いに協力できるような関係になって欲しい。

「うん」

 ハクは嬉しそうに頷く。

「黒いの。元気そうだな」

 その言葉と共に、黒龍さんも病室に入っていく。

「身体だけは丈夫ですから」

「それは嬉しいことだな。簡単にくたばられると、こっちも困るからな」

 黒龍さんはそんなことを言ってくる。

「黒龍も黒犬に怪我をさせられると、困るもんね」

「そうだ。姫に何で早くお前を助けなかったのか、と何回も叩かれて、困ったものだった」

 黒龍さんは溜息を吐く。

「あはは」

 それを聞いて、俺は乾いた笑みしか浮かべられなかった。

「ハク、そのブタと外の芝生で遊んできたらどうだ?」

「いいの?」

 ハクは目を輝かせて、俺を見る。

「………まあ、あいつ、病室から出してやっていないから、ストレス溜まっているだろうしな」

 こいつもこんな陰湿な場所より、お日様がポカポカと当たる場所の方がいいだろう。

「わーい。じゃあ、遊んでくる」

 ハクは大はしゃぎで、病室から出ていった。ハクが構い過ぎて、あいつがストレスをためないことを祈るとしよう。

「………そう言えば、ハクが魔法を習い始めたそうですね。ハク言っていましたよ。俺や黒龍さんを超える魔法使いになるって」

 俺はハクがいなくなった後、そう話しかけると、

「………そうか。まあ、あいつなら、俺を超える魔法使いにはなるだろうな」

 彼にしては珍しい言葉が返ってくる。いつもの彼なら、俺を超える魔法使いになれる奴など、誰もいねえよ、と言いそうだが。

「俺はあいつの天才ぶりは嫌と言うほど知っているからな。それを否定するほど馬鹿じゃねえ」

 黒龍さんはそんなことを言ってくる。その言葉からすると、ハクを小さい頃から知っているような口ぶりである。

「………あの、黒龍さんはハクを拾う前から知っていたんですか?」

「拾う前から、か。その概念から間違っているな。お前はあいつが何歳に見えるか?」

 黒龍さんがそんなことを尋ねてくる。幾つに見えるか?おそらく、エンと同い年くらいだから……。

「………13,4歳くらいですか?」

「そうだろうな。身体年齢や精神年齢はそれくらいだろうな」

 黒龍さんは含みのあることを言ってくる。

「身体年齢?精神年齢?それはどう言うことですか?」

「そうだ。実年齢は違う。確か、俺と同い年くらいだったな」

 それには俺も驚きを隠せない。もしかして、ハクも青い鳥の友人である再生人形と同じ………。

「勘違いすんじゃねえぞ。あいつが13,4歳くらいなのはその頃から今まで眠ってたからだ」

「へ?眠ってた?」

 もし彼女が黒龍さんと同い年だとすると、20年近く眠っていたことになる。龍人族の眠りは人とは違うと言うことだろうか?

「そうだ。俺が13の時、あいつを封印した。そして、最近、封印を解いた」

 黒龍さんの告白に、俺は目を見開く。黒龍さんがハクを封印した?どういうことだ?

「十数年前に龍人族が滅んだと言うことは知っているな?」

「はい。何者かに滅ぼされた、と」

 青い鳥はその何者かについて知っているのかもしれないが、それ以上のことは言わなかった。もしかしたら、単に、それが誰なのか知らなかったのかもしれないが。

「その通りだ。詳しく言うと、龍人達に殺されそうになった俺を見たハクが皆殺しにしてしまったんだがな」

「………え?」

 黒龍さんが同じ一族に殺される?それに、ハクが一族を皆殺しにするとは信じられない。

「一応言っておくが、あいつが自分の意思でそんなことをしねえのはお前も知っているだろ。あいつは俺が殺されそうなところを目撃して、自分の意志など関係なしに力を暴走させてしまったんだ。お前も見ただろう。純白の龍。龍人なら、誰でも呼び出せる代物ではない。本当に力のある者だけが龍と契約することが許される。あいつは百年ぶりの契約者だと周りから持て囃されていた」

「………でも、黒龍さんだって、漆黒の龍がいるじゃないですか」

 ハクが契約者だったから、羨望の的だったのなら、黒龍さんだって、同じではないだろうか?

「それが全く違うんだよ。ハクと俺は白と黒、表と裏、光と闇、そして、希望と破滅」

 俺はそれを聞いて、彼が言いたいことが分かってしまった。

「この国は宗教よりも魔法が普及しているから、そう言ったことはないが、他の国や俺の集落は黒い髪、黒い瞳。そう言ったものを排除する傾向にある。そして、そいつが契約者だったら、そいつを消そうとしても、自然の流れだと思わねえか?」

 彼は自嘲めいた表情を浮かべる。もし俺がこの国ではなく、他のところで産まれたら、俺も差別されていたかもしれない。

 もしかしたら、親父もその差別から逃れるために、ここまで流れて来たのかもしれない。

「だが、ハクだけは違った。俺の髪を綺麗と言ってくれた。自分の髪を恨んでいた俺に。私もこの髪の色が良かった、と。笑える話だ。俺がなりたくて仕方がなかった奴に、そんなことを言われるなんてな」

 できることなら、交換して欲しかったものだ、と彼は言う。その気持ちは分からなくもない。

 幼いの頃の俺は病気で家にいることが多かった。その為、日曜学校にはあまり行くことが出来なかった。その為、村の子供に、俺もお前みたいに病弱だったら、日曜学校に行かなくて済んだのに、と言われた。俺は行きたくて仕方がなかったのに、そんなことを言われるなんて納得できなかった。出来ることなら、交換して欲しかった。

「両親や一族達が俺を見捨てた中、あいつだけは俺を見捨てなかった。俺が殺されることがおかしいと、説得しようとした。だが、それは失敗した。一族の者はあいつを取り押さえて、そして、その中、俺の死刑が決行された」

「………ですが、黒龍さんは生きているじゃないですか?」

「俺もお前と同じく、作りは頑丈な方だったからな。そう簡単には死ねなかった。一度気絶してしまったが、あいつはその所為で、俺が死んだと誤解したようだ。その所為で、あいつは暴走して、一族の者を殺していった。俺が意識を取り戻した時にはもう一族の者は死んでいた」

「………」

「その後も、あいつの暴走は止まらなかった。俺はあいつを封印するしか方法が残っていなかった。その後はお前が知っている通りだ。俺は意識朦朧としながら、彷徨って、倒れたところを姫とあの野郎に発見された」

 黒龍さんの生い立ちは複雑だとは分かっていたが、ここまで悲惨な人生を送っているとは思わなかった。

「同情するような目で見んじゃねえ。弱い奴が死ぬのは当たり前だ。この世界は弱い奴が食いつぶされるのが摂理だ。俺が食いつぶされそうになったのは弱かったからに過ぎない。だが……」

 黒龍さんは言葉を切って、下を見下ろして、

「弱い奴は弱い奴なりに、自分が生きるためにどんなことをしてでも生き残らなければならない。この世界は弱い奴が楽に死ぬことができる世界でもねえ」

 そんなことを言ってくる。

「………確かに、この世界はとても悲惨で、残酷な選択肢か迫ってこないのかもしれませんが、弱いものは弱い者同士で力を合わせて、生きていけます」

 彼のカテゴリーでは俺は弱い方に入る。なのに、今まで生きてこれたのは赤犬さん達や家族、そして、青い鳥の存在がある。弱いのなら、弱いものらしく、がむしゃらに生きて、それでも無理なら、仲間と協力して生きていけばいい。

「それは強い人も同じじゃないんですか?強い人だから一人で生きていけるわけでもない。ハクはそれを知っているから、貴方を必要としたんじゃないんでしょうか?」

「………それだったら、嬉しいがな」

 黒龍さんは少し嬉しそうな笑みを浮かべる。

 全ての人が一人で生きていけるような世界ではない。この世界は弱肉強食だと言う人はいるが、弱い人と強い人が共存することだってできるはずだ。

 今は無理かもしれないが、いつか、俺はそんな世の中になることを望んでいる。

「………そう言えば、奴からの伝言があったな」

 彼が奴と言うのはただ一人……。

「エイル国王陛下から、ですか?」

 彼からの伝言とは珍しい。何だろうか?

「写真の女性と会って話がしたいそうだ。お前に、そのセッティングを頼みたいそうだ」

「………写真の女性?」

 俺の女性の知り合いは青い鳥や赤犬さんくらいのものだ。しかも、写真の女性と言うはどう言う意味なのだろうか?

 嫌な予感しかしないのは気のせいか?

「ぶっちゃけた話、お前の女装姿に惚れたって言うことだな」

 ぶっちゃけすぎです。

「やはり、その女性が俺と言うことには……」

「言うわけがないだろ?奴の夢を壊すことができるはずがねえだろ。それに、初恋らしいからな。奴と兄弟として育った俺としてはいい想い出作りをして欲しいと思うわけだ」

 黒龍さんはそんなことを言ってくるが、絶対本心ではそう思っていない。彼の恋事情を面白がっているのに過ぎない。

 彼らの間の話なので、俺が口出しすることではないのだが、それに俺を巻き込むのはやめてほしい。

「それにオッケーしようと、断ろうと、テメエの勝手だが、俺としては受けて貰うと嬉しいがな」

 そっちの方が面白い。彼はそう言い残して、いなくなってしまった。

 彼ほど、困った上司はいないだろう。赤犬さんもよくあんな人と五年近くも付き合えたと思う。

 俺は黒龍さんのことをあまり好きにはなれないが、嫌いにもなれない。

 それは彼の生き方が青い鳥に通じるところがあるからかもしれない。


 あれから、一週間後、俺は完治して、二週間ぶりに村の土を踏んだ。森は半焼けしたが、不幸中の幸い、村には火の粉がかかることはなかった。

 俺が連れ帰ったウサギとブタの合いの子(恐らく、新種動物)は弟達やお袋に大歓迎された。弟達は我が家にペットがやってきたことが余程嬉しかったのか、率先して、そいつに餌を与えていた。

「散歩に行ってくる」

 俺はそいつに首輪を付けてやる。まあ、形だけであり、そいつもファッションの一部として、首輪をしている節もある。

「お帰りはいつになりますか?」

 我が家に来ている青い鳥(ここ最近はそいつと遊ぶために来ている)が尋ねてくる。

「そうだな。用を足さなければいけないところがいくつかあるから、少し遅くなるかもしれないな」

 とは言え、夕飯前には戻ってくる予定だ。こいつは食事と昼寝をこよなく愛しているので、飯時になると、道をぶったぎっても帰ろうとする。食欲と睡眠欲に忠実な奴である。

「そうですか。お気を付けて」

 青い鳥は俺の用を知ってか、知らずかそんなことを言ってくる。

「ああ、行ってくる」

 俺はそう言って、こいつと共に外に出る。

 青い鳥には言っていない内容。どうして、あの男が森の中に固執した理由。その一つが俺に向かう場所の一つにある。

 俺がとある家のベルを鳴らすと、

「どちらさまだい?君は黒犬君じゃないか。久しぶりだね。この前は迷惑を掛けたね」

 村長が申し訳なさそうに言ってくる。メアリーと別れる前までは、ここによく通ったので、彼の人柄をよく知っている。

 彼は貴族出身ではあるが、根っからの善人であり、あの男達の話を断ることが出来なかったのもとある事情があったからであることも知っている。

「突然の訪問すみません。今、メアリーはいますか?」

「ああ。……だが、大丈夫なのかい?」

 彼は言っていいのか、分からず言い淀んでいる。

「大丈夫です。メアリーが俺と付き合おうとしたのか、だいたい見当はついています。そうでなければ、こんな平凡男と付き合うはずがありませんから」

 俺がそう言うと、彼は済まなそうに眼を伏せる。

「………すまない」

 彼が悪いわけではないと言うのに、謝ってくる。

「別に、村長やメアリーが悪いとは思っていません。その前に、俺もメアリーを利用しようとしていたところもあったかもしれませんから」

 今思えば、俺がどうして告白された中で、メアリーを選んだのか。それは簡単な話だ。俺は心のどこかで、村の中で羨望の的である彼女と付き合うことで、村の連中を見返そうとしたのかもしれない。だから、俺はメアリーが俺に付いている付加ブランド目当てで付き合い始めても文句は言えない。

 もしかしたら、青い鳥は俺達が互いに利用し合おうとしていることを気付いていたかもしれない。もし俺、もしくは、メアリーが本当に好きだったら、どっちかをボロ糞に言うことだろう。

 青い鳥の今までの嫌がらせは俺達が自発的に別れることを促していたのかもしれない。このまま行っても、俺達の付き合いは互いの為にならない、と。

「………だが」

「お父様、誰と話しているのですか?」

 久しぶりに、メアリーの声を聞いた。4年間、なし崩しだったが、付き合った彼女。好きか、嫌いかと問われると、好きだし、大切かと問われれば、大切な人だ。

 だから、彼女とは互いの意思で決別した方がいい。

「………黒犬!?」

 メアリーは俺の姿に驚きつつも、俺に近づいてくる。

「入院したと聞きましたから、心配しましたわ」

 彼女は心配した様子で俺を見る。

「それは心配かけて済まない。君に話があって、少し立ち寄らせてもらったんだ」

「………話ですか?私も話がありましたの。あの時はカッとなって、あんなことをしてしまいましたが、あれは私の本心ではありませんの。ですから、もう一度私と付き合ってくれません?」

 彼女が俺にそう言い寄ると、村長は悲しそうな表情を浮かべる。

 俺は知っている。彼女が俺とそこまで一緒になろうとしているのか?

 だから、彼女が本心を偽って、ここまですることは見ていて辛い。

「メアリーがそう言ってくれるのは嬉しい」

「それじゃ……」

「だけど、俺はメアリーと付き合えない」

 俺がそう言うと、彼女は信じられないと言う表情を浮かべる。

「どうして、あの時は……」

「メアリーが恋しているのは俺じゃなくて、ランセンスの方だろ」

 俺がそう言うと、彼女の表情は凍る。

 正確に言えば、メアリーが欲しているのはランセンス資格をとれるほどの実力だ。

 村長はとある男爵家の次男坊であり、この村の前村長の婿養子として入った。そこまでは誰もが知っている話だ。

 その男爵家は戦略戦争に負け、爵位を剥奪された。既に、婿養子となった村長にはあまり関係のない話だったらしいが、当時、お嬢様学校に通っていたメアリーは違った。村長はメアリーに知識を付けさせようと入れたのだが、その直後に、村長の生家が没家となった為、いろいろな嫌がらせ、いじめを受けたらしい。

 そんな彼女に芽生えたのはその男爵家の実力のなさによる怒りだった。もう少し強ければ、男爵家が落ちぶれることがなく、自分がこんな目になることはなかった。

 彼女は誓ったのかもしれない。自分を見下した連中を見返そう、と。その時、俺が最年少記録を塗り替えたのを知り、俺と付き合って、見返そうとした。

 そして、俺と一緒になり、男爵家を立て直すつもりだったのかもしれない。

 それには俺も尊敬する。その為だけに、全てを捨てることのできるその覚悟を。

「と言っても、実は俺もメアリーが村長の娘だったから、付き合っていたのかもしれないな」

 もし俺が青い鳥に逢うことがなかったら、このことを気付かされなければ、メアリーが俺を利用しようとしてもなにも文句も言わずに、このまま付き合っていたかもしれない。

「それは互いの為にならない。何よりも、そんな生き方をしていたら、メアリーがますます不幸になるだけだ」

「………私が不幸?そんな訳ありませんわ。私はあなたと結婚して、男爵家を立て直すことが夢ですの。それを達成されれば、私は幸せになれますわ」

「確かに、それが幸せか、どうかはやってみないと分からないかもしれない。だから、俺は君の夢を侮辱する権利はない。だけど、俺はそんな君を愛すことはできない」

 確かに、地位やお金は大切だ。あり過ぎて、困ることはないと思う。だが、俺は愛した人と大切な時間を一緒に過ごす。それだけでも幸せではないかと思う。

 俺のお袋や親父は地位もお金もないが、あの二人の中では満足している。まあ美味しいものを食べたいとか、あそこに行きたいとか言っているけど、もし二人が別れて、それが可能な人と一緒になって、それを達成しても楽しくはないだろう。愛した人とそれが達成できたから、嬉しい、とか、楽しいと思えるものだと思う。

 これは俺の夢物語だと思うけど、それがいつか実現できればいいと思う。

「俺は両親のようにお互いに愛し合った人と一緒に生きたい。だから、俺は君と一緒に進むことはできない」

 自分で言っておきながら、自分勝手な言い分だと分かっている。だが、俺は信じている。彼女のことを思っている人がいることを。

 クリムゾンの出だと言っていたあの男。ただ、彼はメアリーのことを純粋に思っていただけだった。だから、彼女が強い男が好きと言った時、彼女の為に強くなりたくて、偶然聞いた、俺の村に住む“精霊”の力を欲した。その所為で、ハクは暴走し、森が半焼けした。

 そう考えると、俺も加害者側だということが再認識される。俺が死にかけたのは自業自得だ。もう少し早く、彼女と話し合っていれば、これらの悲劇を回避できたのかもしれない。

 そう思うからこそ、出来ることなら、彼女には、彼女を必要とし、彼女自身が必要とする人物と幸せになって欲しい。

「だから、俺のことはもう忘れて欲しい」

 そして、幸せになって欲しい。それが初恋の人へと送る最後の言葉。

 初恋は実らないのがジンクス。それでも構わない。彼女が幸せになってくれるのなら、この恋が破れてもいい。

 メアリーは俺に「大っ嫌い」と涙を浮かべて、部屋へと籠ってしまった。実質上、彼女に二度振られてしまったわけだが、それもいい経験かもしれない。

「君には苦労を掛ける。私がふがいないばかりに。君や娘に迷惑を掛けて」

「これくらいなら、お安いご用です」

 村長が彼女の幸せを願っていることはよく分かる。だからこそ、自分の家の所為で、その幸せを逃がすことがつらいのだろう。

 彼女にも、いつか村長の気持ちが伝わる日が来るといい。

 そして、いつの日か、彼女にいい出会いが来ることを祈っている。

 俺は願っている。いつか、君とあの時のことを笑って、思い出せることが来ることを。

 村長宅から出た後、俺は森の中へと入る。この中に、あの男がこの森に固執した理由がある、いや、あったと言うべきかもしれない。

 俺はあの時、ハクと戦った場所付近まで行く。今は、黒龍さんが結界を張り直してくれたらしいので、入ることができない。

 俺はその付近を、そいつと一緒に見回す。

「そう言えば、八年前も俺達はここで出会ったんだったよな」

 青い鳥がこの辺りに、罠を張って、それにお前が引っ掛かったのが始まりだ。もしかしたら、親父があの大きな罠に嵌まったのはこいつを助けようとして、その罠に気づけなかったのかもしれない。

 俺達が出会ったこいつはあの親父が慌てふためくほどの凄い存在だった。

 森や洞窟などで自然発生した魔力が溜まる場所が時々見つかる。その場所から、魔力を持った動物が生まれた。魔物や聖獣と言われる生き物はそう言った場所を集落とする。黒龍さんの集落もそう言った場所の一つだったのだろう。

 そして、その魔力によって、非常に低い確率だが、“精霊”とか、“魔人”と言われる生き物が生まれることがあるらしい。形は基本的にはないが、人の前に姿を現す時はそれぞれの好みによって違う。こいつの場合、この姿がいけていると思ったから、この姿で現れたに過ぎない。

「そうだろ。“ジン”」

 “ジン”。魔力によって、生まれた実態を持たない生命体。彼らに憑かれると、巨大の力を得ることができる。

 あの時、俺がハクの暴走を止めることができたのはあいつが提供してくれた力である。

 俺は紅蓮さんの手紙を読んで、気になったのはその場にあの男のお目当ての精霊がいなかったこと。

 あの後、あそこで、青い鳥は何か見ていないかと尋ねたが、俺たち以外の生き物はいなかったそうだ。

 それはそうだ。俺と一緒に行動していたこいつがその“精霊”なのだから。

 もしかしたら、青い鳥や親父は勿論、黒龍さんも知っていたのかもしれない。

 そして、幼い頃、一緒に遊ぼうと呼びかけてくれた声も恐らくは……。

 一方、こいつは俺と話す気がないのか、もしくは、今、話すのが億劫なのか(夕飯前なので、その可能性あり)、何も言って来ない。だが、否定もしてこないので、肯定と言う意味で捉える。

「別に話したくないのなら、それでもいい。だが、これだけは俺を助けてくれてありがとう。そして、あの時、一緒に遊ぼうと言ってくれて、ありがとう。あの時はとても嬉しかった」

 一緒に遊ぼう。その言葉だけで、俺は嬉しかった。その時、俺にそう言ってくれた人はいなかったから。それが人間でなくても関係ない。

「だから、俺はお前にお礼をしたい。何か欲しいものがあるなら、いつでも言って欲しい」

 俺が出来ることなら、どんなことでもする。

―君は本当に変わってる。だから、ボクは惹かれたのかもしれないけど―

 何処からか、この前聞こえた声が聴こえてくる。

―ボクが要求するのは君の美味しい魔力だよ。その為に、君と契約した。あの少女の無尽蔵の魔力も捨てがたいけど、ボクとしては量より質を重視したかった、それだけの話だよ―

 今まで喋らなかったのに、喋り出したら、多弁になっている。もしかしたら、本来はお喋りなのかもしれない。ただ、今まで話す相手がいなかっただけで。

「そうか。と言うか、俺はいつお前と契約したんだ」

 赤犬さんや黒龍さんは俺が召喚獣と契約した、と言っていたが、俺は契約をしたことになっている?

―それはあの時だよ。ボクの真名を呼んだ。それが契約だよ。本来は君の真名も知らなくてはいけないんだけど、ボクは君の真名を知っている。だから、君が真名を言わなくても、契約できたんだ―

「俺の真名を知っている?あの時だって、俺はお前に教えてなかったはずだ」

―それはそうだよ。何たって、ボクが君の名付け親だからね。あの彼が初めての子供が生まれる。どんな名前にしようと悩んでいたから、面白半分に提供したんだけど、彼はいい名前だって、その名前つけちゃうんだもん―

 流石、君の父親だよね、とそいつは言う。親父よ。お願いだから、面白半分に提供された名前を子供に付けないでくれ。

 まあ、親父のぶっ飛んだ性格は嫌というほど味わったので、今さらそんなこと言っても意味がないだろう。親父の性格はそう簡単に変わるものではない。

「そうか。そろそろ、飯の時間だな」

 早く帰らないと、青い鳥達が騒ぎ出すだろう。早く帰って、作らなければ。

―敢えて欲しいものを要求するのなら、名前かな―

 そいつは急にそんなことを言ってくる。

「………名前?ちゃんと立派な名前があるじゃないか」

―そうだけど、契約者以外には教えられない。だから、他の人には名前を教えられない。別に、名前なんてどうでもいいけど、チャーシューは少し嫌かな―

「確かに、それはな」

 俺も食べ物で言われるのは嫌だ。

「そうだな。名前か」

 やはり、真名から捩って付けるべきだろうか?それとも、外見からか?いや、そしたら、食べ物しか浮かんでこない。

『私は子供が出来たら、   がいいです』

 青い鳥が話していた夢物語。こいつが面白半分で俺の名前を付けたのなら、俺は青い鳥の妄想物語に出てきた名前を付けよう。

「じゃあ、お前の名前は―――」

 俺はそいつの名を口にする。


 俺はハクと出会い、あいつと出会い、メアリーと決別した。これからも、いろいろな出会いと別れがあることだろう。それは命ある限り必然的にやってくる。

 だからこそ、俺は新しい出会いを大切にしたい。

 かつて、漆黒の龍との出会いを大切にした夢見る純白の龍のように………。

 俺は彼女達が本当の意味で再会することを願っている。

 おそらく、それは漆黒の龍は勿論、夢見る純白の龍の願いでもあるから。

FIN……

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。青い鳥と純白の龍は完結となります。翌日からは青い鳥と異国の守り人を連載します。こちらの話はエピローグで少し過去が明らかになってきた不良親父こと、玄武をスポットに当てた話となります。良かったら、お付き合いください。

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