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『   、あの子と遊んではダメよ』

 お母さんは真剣な眼差しでそう言っていた。

 何で、彼と遊んではダメなのだろうか?彼は私に優しいし、いろいろなことを教えてくれる。それに、黒い髪がとても綺麗だから、好き。

『あの子は災厄を持ってくる悪い子なのよ』

 “さいやく”とは何なのだろうか?それに、彼は悪い子じゃない。誰よりも、人に優しい子だ。

『彼は悪い子じゃないもん。いい子だもん』

 私はそう叫んで、外に飛び出す。

『   、待ちなさい』

 お母さんはそう言ってくる。だけど、彼ともう遊べないのは嫌だった。だから、飛び出した。

 だけど、その後、私はあまり覚えていない。その後、思いだそうとすると、


―   、ごめん。いつか迎えに来るから―


 とても痛々しい表情を浮かべる彼の顔が出てくる。

 その声を聞いた時、私はとても眠くなった。

 何処か行っちゃうの?行かないで、行かないで。私はまだ遊び足らないよ。

 そう言う前に、私は眠ってしまった。


***

 俺達に休む間も与えずに、ハクは攻撃を与えてくる。黒龍さんとの一戦で、龍人族の恐ろしさを思う存分味わったと言うのに、まさか、こんな形でまた味わうことになるとは思わなかった。

 俺はどうにか魔法を打ち消すが、戦いが激化する度に、木々が激しく燃える。それに、流石の青い鳥もハクの容赦ない攻撃に、近づくことができずにいる。青い鳥は接近戦でこそ、力を発揮する。青い鳥の為に、ハクのところまで行ける道を作ってやらなければならない。

 それに、このまま、森が燃えていくのを見ているわけにもいかない。少なくとも、村にまではこの火が回らないようにしなければならない。

 俺の魔法で、それらを可能にしてくれるものは一つだけ。だが、果たして、あの魔法が何処までハクに通用するか分からない。だが、諦めるわけにもいかない。

「青い鳥、あの魔法をやる。もし……」

「失敗したらの話はなしです」

 私は貴方のことを信じています、とこいつは言う。それはこっちの台詞だ。

「俺もお前のことを信じている。だから、ハクの眼を覚ますようなきつい奴をお見舞いしてやれ」

「分かっています」

 青い鳥は心強い返事をし、青い鳥は姿をハクの前に見せて、敢えて、ハクの攻撃の標的となる。ハクは隙のない攻撃をしてくるが、それを避けられない青い鳥ではない。

 青い鳥の眼は人や景色を視ることはできないが、その代わりに、魔力を視ることができる。その為、魔法による攻撃は予め察知することができるらしい。

 その眼があるからこそ、青い鳥は凄腕魔法使いである断罪天使エクソシアや黒龍さんなどと戦うことができる。

 その眼で苦しい想いをしているのに、それによって助けられているのも皮肉かもしれないが。

 青い鳥が時間を稼いでいる間、俺は魔法陣を展開する。

 幸せを呼ぶ鳥よ、ハクを助けるために力を貸してくれ!!

 魔法を発動させた瞬間、俺達のいる空間に光が包み込む。

 これで、準備が整った。

「青い鳥、反撃するぞ」

 俺はそう叫ぶと、青い鳥は守りから攻めに転じ、ハクがいるところへと向かう。

 ハクは青い鳥へ攻撃をするが、そうはさせない。ハクの攻撃は青い鳥に当たる前に打ち消す。

 ここはもう俺の領域だ。例え、相手が黒龍さんだろうと、もう二度と幸せを呼ぶ鳥の羽根をもがせはしない。

 青い鳥はハクのところに辿り着き、蹴りをお見舞いするが、ハクの周りにバリアが囲い、ハクを守る。

 それなら、そのバリアが作れないようにこの空間を書き変えるだけだ。青い鳥は続いて蹴ろうとすると、今度はハクを守るバリアの存在を消し去ったので、初めて、ハクに攻撃が当たり、よろける。

 だが、一筋縄で行く相手ではない。ハクはお見舞いと言わんばかりに、魔法を展開し、俺が打ち消す前に至近距離で青い鳥に直撃する。

「青い鳥!!」

 青い鳥は便利な瞳と手を持つ代わりに、魔法が効きにくい造りになっている。あいつの特異体質のお陰で、さっきの魔法のダメージが少しばかり中和されているだろう。だが、あいつの身体は治療魔法も効きにくい。

つまり、青い鳥が怪我を負うことは致命傷に繋がる。

「………大丈夫です」

 あいつはよろめきながらも立ちあがろうとする。今は大丈夫だとしても、このまま長引かせるわけにもいかない。

 ハクがもう魔法を使えないようにこの空間を書き換えようとすると、ハクの魔力がさらに強まり、

「……つう」

 突然、頭に激痛が走る。

 人が摂理を変えることは不可能だと言っているのか?

 この魔法を持ってしても、ハクを止められないと言うのか?

 だが、この魔法を解くわけにはいかない。諦めるわけにはいかない。

 このまま、ハクを野放しにすれば、俺が暮らしてきたこの村が、そして、村の人達や、親父やお袋、エン、レン、そして、青い鳥も失うことになる。

 だから、逃げたくても、逃げるわけにはいかない。

「耐えてくれ」

 俺の身体、頑張ってくれ。ここで倒れるわけにはいかないんだ。

 だが、頭の激痛は増すばかりで、意識を失う寸前で、俺の空間は終わりを告げる。ハクの目の前に龍が現れる。

 黒龍さんと戦った際、姿を現した漆黒の龍と対を成すだろう純白の龍。

 その龍は天へと昇り、俺の空間を一瞬にして壊していく。

「あああああ」

 その瞬間、今まで味わったことのない激痛が俺の身体に走り、地べたに倒れる。

「はあ、はあ、はあ」

 どうにか、意識を失うことはなかったが、魔力は勿論、身体に負荷を掛け過ぎた所為で、指一本動かせない。

「逃げて下さい!!」

 青い鳥はそう叫んでくる。上を見やると、純白の龍が俺に向かって白い炎を吐こうとしているところだった。俺を一撃で滅ぼそうとでもしているのだろうか?

 逃げろと言われても、指一本も動かすこともできない。それに、あの魔法を使った所為で、魔法も使えない。

「キュルキュル」

 俺を庇おうとしているのか、そいつは俺の前に立つ。そんな小さな体では俺を守れるはずがない。

 何もできないのなら、こいつだけは守ろう。俺は激痛をこらえながら、右腕を動かし、こいつを抱く。

「   !!」

 青い鳥は俺の名前を呼んでくる。あいつに名前を呼ばれるのはいつ以来だろうか?何故か、嬉しくなってしまう。そんな状況ではないと言うのに……。

 青い鳥を置いていくのは心残りだが、あいつなら、きっと生き残ることができるだろう。

 白い炎はすぐそこまでに迫っている。

 できることなら、最後に、あいつの笑顔が見たかった。

 白い炎に身を焼かれると思い、思わず目を瞑るが、焼かれるような痛みが来ることはなかった。その代わりに、

「勝手にくたばってんじゃねえぞ、黒いの。テメエがやられると、俺が姫に殺されるだろうが」

 聞きなれた声が聴こえてくる。恐る恐る目を開けると、俺を守るかのように、前見た漆黒の龍が囲っている。そして、その中心には漆黒の髪に、金色の瞳、そして龍人族の角をしている黒龍さんが立っている。

 どうやら、俺達の異変に気付いたレンが連絡してくれたようである。流石、持つべきは弟である。後で、抱きしめて、あいつの好きなお菓子を焼いてやろう。

「………お言葉ですが、全て、貴方の所為だと思いますが?」

 俺達が死にかけているのも、森が燃えているのも、ハクが暴走しているのも、危険を知りながら、無責任にも人に任せた黒龍さんの所為だ。

 そう、このような危険があると知っていたのなら、黒龍さんは責任を持って、世話をするべきだったのだ。それが親と言うものではないのか?

「危険から子供を守ってあげるのが“親”じゃないんですか?」

「それを言われると返す言葉はねえな。だが、俺にしては、珍しく助けに来てやったんだから、全てチャラにしておけ。後、預ける人選を間違えるな」

 黒龍さんはそんなことを言ってくる。もしかしたら、レンではあまり説明することができなかったのだろうか?とは言え、緊急事態だったので、そんなことを言われても困る。

「………レンの説明が不足だったのなら、謝りますが」

「あの声がテメエの弟だったら、とんでもなく可愛げがないもんだな」

 黒龍さんはそんなことを言ってくる。この人は何を言っている?レンほど、可愛い奴はいないと思う。声だって、女の子に引けをとらないほど可愛い。

「あの声はどう考えても、テメエの親父だろ。あの男、若々しい娘を口説いている暇があったら、娘を迎えに来い。森で暴れられて、とことん困っている、とだけ言って、切りやがった」

 黒龍さんは苦々しそうにそう言ってくる。

どうやら、レンの代わりに、親父が黒龍さんに連絡を取ってくれたようだ。とは言え、レンの方がまだ詳しく説明できるのではないのだろうか?

「………まあ、今はテメエの親父のことはどうでもいい。今はハクをどうにかしなくちゃならねえな」

 黒龍さんがそう言うと、漆黒の龍は純白の龍に攻撃を仕掛け、彼らは空中戦を繰り広げる。

「………ハク、俺はあの時念を押したよな?絶対外すな、と。なのに、テメエときたら、壊しやがって。テメエは昔から、何度言っても物を大切にしなかったな」

 いつも、後片付けをさせられるこっちの身にもなれ、と黒龍さんは言う。昔から?確か、黒龍さんがハクを拾ったのは最近と言う話じゃなかったのか?

 一方、ハクは突然現れた黒龍さんに向かって、魔法を展開し、攻撃を仕掛けるが、流石、最強の魔法使いと言われる黒龍さんは造作もなく、ハクが出した魔法を打ち消す。

「ほう?俺に攻撃をするとはいい度胸をしているな?あの勘違い鳥とお人好し犬だけだと思っていたが?」

 黒龍さんはあくどい笑みを浮かべると、

「………勘違い鳥とは酷いことをいいます。自己中龍には言われたくないです」

 青い鳥はそう言い返す。

「ん?青い鳥、死んでなかったのか?てっきり、死んでいるかと思っていたが?」

「私はもともと丈夫なので、そう簡単にくたばりません。まあ、彼を助けてくれたことだけは感謝しますので、お仕置きは貴方に譲ってあげます。だから、早くして下さい」

「ふん、テメエに言われなくても、そうするつもりだ」

 黒龍さんは魔法を展開させて、ハクに攻撃を仕掛けるが、ハクも応戦する。だが、やはり、黒龍さんの方が一枚上手のようで、確実にハクを追いつめていく。

「………大丈夫ですか?」

 青い鳥は俺の所にやってくる。青い鳥も腕に火傷を負っているようだが、無事のようだ。

「一応な。無事と言えないが。こいつも怪我がないな」

 俺はさっきまで抱いていたそいつを懐から出す。

「………まさか、あの時の……。“彼”は生きていたんですか。それは一安心です。ハクの攻撃に巻き込まれたのではないか、と心配したのですが、無事で良かったです」

 青い鳥はそいつを見て、そんなことを言う。“彼”とは何を指しているのだろうか?

「許さない、許さない、許さない」

「何が許さないのか言ってみろ。と言っても、テメエが許さなかろうと、俺には関係ねえがな」

 黒龍さんはそう言うと、地面から根っこが現れ、ハクの身体を拘束する。

「これで、悪戯は終わりだ。これくらいでやめておけ」

 黒龍さんがそう言って、近づこうとすると、

「黒龍、気を付けてください。ハクから物凄い魔力を感じます」

 青い鳥は切羽詰まったような声が聴こえる。

「許さない、許さない。ハクを傷つけるものなんて全て消えてしまえばいい」

 この空間に物凄い密度の魔力が集まる。

「………っく。またあれか。仕方ねえ。本当はしたくねえが、やるしかねえか」

 黒龍さんはそう言って、魔法を展開させていくが、

「黒龍さん、避けて下さい」

 俺は視界に白い炎が入ってきて、そう叫ぶ。だが、黒龍さんがそれに気づくのが遅れ、黒龍さんの身体に直撃する。

「………もう、ハクを封印させるつもりはないか」

 黒龍さんは顔を歪ませて、地面に倒れる。その間にもこの空間には息がするのも苦しいほどの密度の魔力が集まる。ハクは何をしようとしている?

「非常に不味いです。ハクはこの一帯を消すつもりです」

「………消す?」

 この一帯を?どういうことだ?

「おそらく、大爆発でも起こすつもりだと思われます。黒龍はそれに気づいて、封印魔法を施そうとしたらしいのですが、黒龍があれではもう間に合いません。仕方ありません。ハクを殺すしかありません」

「……ハクを殺す?お前は何を……」

「それしか、貴方やこの村を守る方法はありません。貴方に恨んでも構いません。ですが、私は貴方には生きて欲しいのです」

 青い鳥はそう言って、ハクに向かって走る。

 一番後悔するのは俺じゃなくて、お前だろう?たくさんの人が幸せになることを誰よりも望むお前が自分の手でその人の幸せを奪うことを許せないはずだ。

 きっと、あいつのことだ。一生、それを引きずって生きることだろう。

 青い鳥を止めたい。ハクを救いたい。だが、俺には魔法を使うことは勿論、身体を動かすこともできない。

 俺は肝心なところで無力だ。このまま、青い鳥がハクを殺すところを見ていなくてはいけないのか?

 俺は青い鳥の力になりたくて、魔法使いになったのに、これでは何の為に魔法使いになったのか分からなくなる。

―大丈夫。君なら、青い鳥も、みんな守れる。自分を信じて―

 そんな声が聴こえてくる。知らない声だが、聞いたことのある声。

―君が守ってくれたから、今度はボクが力を貸してあげる。だから、悲しまないで―

 その声が聴こえた後に、そいつは俺の顔を舐めてくる。もしかして、さっきの声はお前か?

―今はそんなこと、どうでもいいんじゃない。今はあの子達を助けることが大切だよ―

「確かに、その通りだな」

 この際、その声が誰だっていい。力を貸してくれるのなら、その力を借りよう。そう、青い鳥が笑ってくれるのならば……。

―我が力、かの者の想像の翼になることを祈らん。我が名は   ―

 その声は旋律を紡ぎ出す。その旋律が奇跡を呼ぶことを願う。

「           」

 俺がそこまで紡いだ瞬間、意識を失う。

 青い鳥が笑顔でいてくれることを祈りながら……。

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