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「何して遊ぶの?」

 私がそう尋ねると、エンが考え込む。

「………ひなたぼっこ」

 レンはそんなことを言ってくる。ポカポカお日さまの下でお昼寝するのは気持ちいい。

「おにいちゃんもしてる」

 レンはそう言って、テラスを指す。すると、黒犬がテーブルにもたれ掛かって寝ている。

「そんなのつまらないだろ。やっぱり、男なら、剣士ごっこだろ。青い鳥の姉ちゃんもしている」

 エンはそう言って、木陰で素振りをしている青い鳥を指す。でも、青い鳥は素振りをしているって言ってた。決して、子供の“剣士ごっこ”ではありませんって、反論してた。それに、青い鳥は男の子じゃなくて、女の子。性別が違う。

「けんしごっこ、けがするからやだ」

「怪我は男の勲章だろ。兄ちゃんだって、いつも怪我しているだろ」

 エン達が言っていた。黒犬はいつも青い鳥と遊びに行って、怪我して帰ってくるって。黒龍も言っていた。黒犬は怪我するのが大好きなエムっ子だって。エムと言う意味が良く分からないけど。

「ハクはどっちがいいんだ?やっぱり、剣士ごっこだよな?」

「ひなたぼっこ。きもちいい」

 エンとレンが私にそう言ってくる。私は剣士ごっこよりは日向ぼっこの方が好き。

「私は……」

 日向ぼっこと言いかけた時、この前、ゲンと一緒に森で見た男の人達が森の中へと入っていく姿が見えた。

 あの人達は森で悪いことをしようとしているって、ゲンが言っていた。おそらく、また悪いことをしようとしているのかもしれない。

 それなら、とめてあげなくちゃいけない。

 私は彼らを追って、森の方へと走る。


***

『今日こそは大きな獲物を捕まえます』

 今より、若干背が低く、幼い青い鳥がそう言ってくる。

『………大きい獲物を捕まえるのはいいけど、今度はお父さんを捕まえないでよ』

 今より声が高いが、俺の声だ。

『大丈夫です。今度は人間が罠に嵌まることはありません』

 青い鳥はそう言って、罠を見せる。籠の中に餌が置いてあり、この餌を食べに来た獣を捕まえると言うものだと思われる。

『……大きい獲物を捕まえる割には小さいね』

 これでどうやって、大きい獲物を捕まえるのだろう?

『これは私のペットにする動物を捕まえる為のものです』

『ペット?』

『そうです。おじさんは家を空けることが多いです。一人で寝るのは寂しいです。ですから、一緒に寝てくれる生き物を募集中です。食用はこっちの罠です』

 青い鳥はそう言って、ある方向を指す。すると、さっき見た罠より特大サイズの罠があった。本当に、どんなものを捕まえようとしているのだろうか?

『そういうことで、昨日仕掛けた罠に行きます』

『昨日、仕掛けてたの?』

 どうやら、昨日、さっき見た罠を仕掛けていたらしい。この少女の行動の早さには驚かされてばかりである。

 俺は青い鳥の後を追って、森の奥へと行くと、さっき見た罠と同じものが見えてくる。そして、もうその罠には掛かっていた。

 白い毛を持ち、大きな耳が特徴的なウサギとブタを掛け合わせたような生き物。図鑑にも見たことがない生き物がそこにいた。

『………新種の生き物です』

『そうだと思うよ。図鑑にだって載ってないよ』

 その生き物はキュルルと鳴いている。どう考えても、その生き物は子供だろう。もしかしたら、巣から飛び出して、ここまで遊びに来て、運悪く、青い鳥の罠に嵌まってしまったのかもしれない。

 青い鳥はこの子をペットとして飼いたいかもしれないけど、幼い子供を親から離すことは可愛そうである。

『………その子をにがそう』

 この子は両親と一緒にいるべきだよ、と俺が青い鳥を見ると、

『分かっています。どんな生き物だって、親子を引き放すのはいけないことです』

 青い鳥はそう言って、罠を解く。すると、その子は俺達の顔を見る。

『もう、わなにつかまっちゃだめだよ』

 俺がそう言うと、その子は森の奥へと姿を消した。

 あれ以来、森であの生き物を見ることはなかった。

 ちなみに、あの後、大きな方の罠を見に行くと、何故か、親父がその罠に嵌まっていた。


 俺はゆさゆさと揺らされて、目を覚ました。どうやら、日差しが気持ち良くて、本を読んでいる途中で寝てしまったようである。

「おにいちゃん、おきた」

 どうやら、夢から引き戻した犯人は下の弟のレンのようである。いつもはエンと一緒に行動している(ハクが来てからはハクを入れて、三人で行動することが多い)。レンが一人でいるのは珍しい。

「レン、お前一人なのか?エンはどうした?」

「エンおにいちゃんはハクおねえちゃんをおいかけて、もりのなかにはいっていった」

「……森の中?どうして?」

 エンは勿論、ハクにはあの一件の後、親父が同伴している時はいいが、一人では森の中に行かないように釘を刺しておいた。なのに、どうして、森の中に入った?

「へんなおじさんたちももりのなかにはいっていった」

「変なおじさん?」

 俺は怪訝そうに尋ねると、

「おとうさんみたいなかっこうしていた」

 親父のような格好?親父は見た目ゴロツキのように見える。もう四十を超えているいいおっさんなのに、見た目は二十代である。そんな親父を見て、お袋はどうやったら、あんな若く見えるのかしら、と零していた。

 この村には親父と同類の人間はいない。そのとき、俺はあの森で会った貴族の男達を思いだす。だが、あの件に関しては紅蓮さんが釘を刺してくれたので、もう大丈夫だと思っていたが。

 彼らが何の為に森の中に入っていったのか分からないが、このままにして置くわけにもいかない。まして、ハクとエンが追いかけていったのなら……。

「……レン、親父には言ったか?」

 俺がそう尋ねると、レンは首を横に振る。

「まだいってない。でも、あおいとりのおねえちゃんにはいった」

 事情を聞いた青い鳥はハク達を追いかけて、森の中に行っただろう。非常事態にならない限りは青い鳥一人でもどうにかなるだろう。だが、嫌な予感が脳裏をよぎる。

「レン、お前は事情を話して、親父を呼びに行ってくれ。おそらく、親父は村長さんの家にいるだろう」

 最近、親父は村長さん宅に行くことが多い。どうやら、あの一件の話し合いが難航しているようだ。

「うん、わかった。おにいちゃんは?」

「念の為に、俺は森の中に行くが……」

 俺はハクを預かった初日、ハクに何かあった時は使え、と黒龍さんに渡されたお守りを渡す。どうやら、これを通して、黒龍さんに連絡が出来るらしい。

「もし俺が暫くして帰ってこなかった、もしくは、森に異変を感じたら、この御守りから紙を取り出せ。そしたら、黒…いや、ハクのお父さんに繋がる」

 俺達の手に余る出来事が起きた時の保険だ。そんなことになって欲しくはないが、嫌な予感は馬鹿に出来ない。

「わかった」

 レンは急いで村長宅に向かう。俺は森の中へ向かう。俺は魔法陣を展開させ、自分の速力を上げて、森の中へと向かう。

 森の前まで行くと、急に魔力が濃くなることを感じる。ここまで濃い魔力を感じたのは黒龍さんと戦った時以来だ。

 嫌な予感がする。ハクやエンは勿論、青い鳥も無事だといいんだが。

 森の中へと進むと、違和を感じる。静かすぎる。この森にはたくさんの動物達が住んでいるので、鳴き声が聴こえてもおかしくないのに、今日は何も聴こえてこない。

 この森の中で、何が起きていると言うんだ?

 俺は森の奥へと進んでいくと、木々に刻まれていたと思われる魔法陣に気付く。今は機能をしていないようだが、各所に魔法陣を打ち込んで展開されていた魔法陣だったようだが、生憎、この村には魔法使いは俺しかいない。それに、この魔法陣を見ると、凄腕の魔法使いの手によるものだと思われる。少なくとも、鏡の中の支配者(スローネ)や赤犬さんレベル以上の。

 今は誰の仕業だろうと関係ない。どうやら、この魔法陣で森の奥には行けないようにしてあったようだが、魔法陣の機能を失った今、その奥に入ることが出来る。

 今まで青い鳥達に会わなかったので、もしかしたら、この奥にいるのかもしれない。

 これを見たら、嫌でも、予感が確信に変わる。この奥で、何かが起ころうとしている。いや、起こっているのかもしれない。

 早くしないと、青い鳥達の身が危ない。

 俺は奥へと行こうとすると、突然、目の前に、白い毛の生き物が現れる。大きな耳が特徴的な……、昔、俺と青い鳥が見た子供にそっくりだ。その生き物が昔、俺達が見た子供だとしても、どうして、そいつがここにいる?

 一方、そいつは俺に姿を見せると、キュルルと鳴き、ついて来いと言わんばかりに奥へと進んでいく。

 そいつが何を言いたいのか分からないが、それでも、今は付いていくしかない。

 俺はそいつの後を追いかけていくと、何かが焦げる匂いが漂う。すると、目の前には火の海と化している。

 一体、ここで何が起きている?

 周りを見回すと、数人の男達が悲鳴を上げ、逃げ出してくるのが見える。その中にはクリムゾンの出と言っていた男もいた。

このまま、彼を逃がすわけにはいかない。俺は逃げようとする彼を捕まえる。

「………お前は黒犬!!」

 彼は俺の存在に気づき、そう叫ぶ。

「どうして、貴方達がいるんですか?」

 どうして、こんなことになっているんだ?

「今はそんなことはどうでもいいはずだ。それより、助けてくれ。俺達はあの小娘に殺される」

 彼は助けを請うように、そう言ってくる?小娘?誰のことだ?青い鳥のことか?だが、青い鳥は森を燃やすようなことをしない。

 それに、森の奥から感じる魔力は青い鳥のものではない。どちらかと言うと、黒龍さんに近い魔力……。すると、俺を案内してくれたそいつは俺の頭に乗り、ブルブルと震えている。

―許さない―

 そんな声が聴こえ、殺気に近い魔力を感じた瞬間、こちらに向かって火の玉が襲ってくる。

 俺はとっさに魔法陣を展開し、炎から守るようにバリアを張る。すると、周りの木々に火種が燃え移る。

 さっき聴こえてきた声は……。聞き間違えるはずがない。ほぼ毎日、聞いている笑顔の絶えないあの少女・ハクの声。

 だが、あの声にはいつものハクの面影はない。それに、ここまでの魔力は感じなかった。ハクに何があった?

「………大丈夫ですか?」

 青い鳥がやってくる。どうやら、青い鳥もこの場にいたらしい。

「どうにか防いだ。だが、どうなってる?ハクに何が起きている?それに、エンは無事か?」

「貴方の弟さんは大丈夫です」

 青い鳥は背負っているエンを俺に見せる。気絶してしまっているようだが、怪我はないようだ。どうやら、青い鳥が守ってくれたようだ。

「ですが、ハクは危険です。黒龍の腕輪が壊れてしまいました。どうやら、あの腕輪がハクの魔力を制御していたようです」

 青い鳥の言葉に、俺は驚きを隠せない。

 あそこまでの魔力をあの腕輪が封じていたと言うことか?黒龍さんはハクの魔力が不安定だと知っていて、俺達に預けたと言うことになる。

 もしかしたら、黒龍さんが赤犬さんに預けようとしていたのはハクが万が一、魔力を暴走させてしまった時の為の保険だったのかもしれない。

 だが、今の赤犬さんに無理をさせるわけにもいかない。だから、俺にその役目が回ってきたということか。

「………黒龍に会うことができたら、ぶん殴らないと気が済みません」

 青い鳥はここにはいない黒龍さんに憤りを向ける。それはそうだ。これは黒龍さんが置いていったトラブルと言っても過言ではない。それくらいしても、誰も文句は言わないだろう。流石に、俺はそんなことをする度胸はないが、

「そうだな。あと、俺の治療費もぶんどってくれ」

 それくらいの権利は俺にだってあるはずだ。

「そこは安心して下さい。全ての後始末は黒龍に任せますから。だから、貴方も安心して、暴れて下さい」

 こいつはそんなことを言ってくる。流石に、こんなに森がなってしまっては意味がないのかもしれない。だが、全焼けと言う事態はよろしくない。何たって、親父が頑張って守ってきたのだから。それに、

「大丈夫だ。これ以上、お前の住みかを荒らさせはしないから」

 俺は頭の上で心配そうに鳴くそいつをなでる。おそらく、こいつは怖くて、怖くて仕方がなかったはずなのに、この森を守りたくて、俺のところに来たのだろう。こいつの努力を無駄にしてはいけない。

「青い鳥、ここは俺が食い止めるから、エンを安全なところまで連れて行ってくれ。出来れば、このことを村の人達に伝えて、逃げるように言ってくれ」

 もしかしたら、この森だけではなく、村にも被害が及ぶかもしれない。村の人達の命を脅かすようなことはあってはならない。

「貴方を置いていくことなんて、私にはできません。それに、エンを安全な場所に連れて行って、村の人達に伝えることは他の人にもできます」

 青い鳥はそう言って、俺の後ろで怯えている男のところへ行き、

「これは貴方方が起こしたことです。この子を森の外まで連れて、村の人達に伝えて下さい」

 エンを彼に押し付けるが、

「な、何で、俺がそんなことを……」

「それは当然のことです。本当なら、貴方の命をこの森に捧げなくてはいけないことをしでかしたのです。ですが、貴方がしでかしたことを、自分で責任を取りやがれ、と言うほど、私は何処かの鬼畜で、人でなしではありません。自分でできることだけは責任を果たして下さい。もしそれをしなかった場合、紅蓮さんに責任を押し付けることになりますが、それでいいですか?」

 青い鳥がそう言うと、彼の顔は急に青くなる。どうして、そこまで紅蓮さんを気にするのかは分からないが、押しつけられた紅蓮さんも堪ったものではない。どう考えても、彼は今回、ノータッチの人物なのだから。

「や、やればいいだろ」

 彼はそう叫んで、エンを担ぐ。

「そうです。私達はできるだけ貴方が逃げる時間を稼ぐので、その後は自分で頑張ってください」

 青い鳥はそう言って、腰にしている細剣を取り出す。すると、

―許さない。許さない。許さない。許さない―

 その言葉が呪詛のように繰り返し聴こえてくる。

「許さないのはこちらの台詞です。こんなところで火遊びしてはいけないのです。これが終わったら、お尻ペンペン百回の刑をします。覚悟して下さい」

「火遊びと言える規模ではないと思うがな」

 俺は苦笑いを浮かべて、ハクがいるだろう方向を見る。

「まあ、悪い子にはお仕置きが必要だな」

 そう、ハクがどれだけ恐ろしい存在だろうと、俺達は逃げることはできない。何があろうと、俺達は向かい合わなくてはならない。

俺達はハクのことを大切に思っているから。

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