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 エン達は教会で勉強しに行って、遊ぶことができないのよって、サーシャが言っていた。一週間に一度、私も黒龍に“勉強”をさせられる。とても綺麗な赤い髪をした紅蓮が教えてくれる。彼は彼で、勉強を教えるのは好きじゃないって、言ってた。だから、黒龍の目を掻い潜って、さぼろうとする。すると、黒龍は縄持って、捕まえに行く。勉強はつまらないけど、紅蓮はとても面白い。

 青い鳥は朝の日課とか言って、剣を振り回している。とてもつまらなそうに見えるけど、日々の積み重ねが大切だって、言ってた。私には青い鳥の言うことが分からない。でも、青い鳥は仕方ないって言っていた。私と青い鳥は違うからって。

 黒犬も難しい本を読んでいた。よくそんな本を読めるなと思う。私がそれを読むと、すぐに眠くなる。

 サーシャも家事で忙しそう。だとすると、私は遊ぶ人がいなくなる。困った。そんなことを思っていると、何処からか、声がする。でも、声じゃない。

 そう、聞き覚えがないけど、懐かしい感じがする。そんなことを思って、その方向を見ていると、

「お前は森の中に何かを感じるのか?」

 気付いたら、ゲンが狩猟をしに行くようで、いつもの恰好で立っていた。

「………よく分からない」

 そう、分からない。でも、何かに呼ばれているような気がする。

「そうか。小さい頃の黒犬もそうだった」

「黒犬も?」

 黒犬も私が聞いた“声”を聴こえるのかな?

「今は分からないが、少なくとも、小さい頃はそうだったな。体が弱いくせに、森の中に入ろうとしていた。本人曰く、森が遊ぼうって言っていたそうだ」

 ゲンはそんなことを言ってくる。確かに、そう言われれば、そう聞こえるかもしれない。

「よく分からないけど、そうかもしれない」

「なら、行ってみるか。森の中に行けば、何か分かるかもしれない」

 確かに、何もすることがないので、森に行ってみたいけど。

「黒犬が危ないから、一人では行っちゃダメって」

 森には危ない生き物がいるから駄目だって。

「森を荒らさなければ、少しくらいなら大丈夫だ。俺も一緒に行く」

 それに、少なくとも、お前がいなくなったことに気付いたら、後から追ってくるだろ、とゲンは言う。それなら、大丈夫かもしれない。

「だが、守らなければならないことがある」

「守らなければならないこと?」

「そうだ。森を傷つけてはならない。森の奥に行ってはならない」

 それが守れるのなら、心配することはない、とゲンは言う。

「それを破ったら?」

 破ったら、どうなるのだろう?

「それは誰も分からないだろう。それが目の前で起きない限りは、な」

 ゲンはそんなことを言ってくる。もしかしたら、ゲンは何か知っているようだけど、敢えて言わなかったのかもしれない。

 ゲンは森の中にある“秘密”を誰にも知られたくないのかもしれない。お宝でも眠っているのかな?


***

―おいで、一緒に遊ぼう―

 俺は聴こえてくる声に導かれるように、森の中へ入っていく。

―こっちだよ、こっち。早く来て、一緒に遊ぼうよ―

 森の奥から、その“声”が聴こえてくる。それが誰の“声”なのか分からない。だが、その“声”は一緒に遊ぼう、と言っている。

 あの頃の俺は身体が弱く、外で遊ぶことが出来なかった。だからか、友達と言うものがいなかった。

 だから、一緒に遊ぼうと言っているその“声”は魅力的だったのかもしれない。その“声”の方へ行けば、初めての友達ができるような気がしたから。

 俺は森の奥へ進もうとすると、

『またここにいたか。熱がまだ下がってもいないのに、外に出るなと言っているだろ。サーシャが心配している』

 親父が溜息を洩らす。

『………だって、森が遊ぼうって言っているんだよ』

『森が遊ぼうと言っていようと、いまいと、遊ぶのは元気になってからだ。森と遊びたいのなら、身体を丈夫にしてからだ』

 親父からそう窘められた。

 あの後、俺は青い鳥と出会い、あの“声”が聞こえなくなった。

 もしかしたら、あの声は幻聴だったのかもしれない。


 翌日、黒龍さんはいつもの如く、ハクを預けると、すぐにいなくなってしまった。ただ今日はいつの日にかに見た重箱を持ってやってきた。姫が俺の料理をまた食べたいと言いだしたらしい。ハクの料理はとにかく、俺の料理はお気に召したらしい。

 姫が食べる分にしては多いような気がするが、どうやら、エイル国王陛下(翡翠の騎士と言われる宮廷騎士も兼任している)も気に入ってしまったらしく(黒龍さん曰く、姫の為に用意した俺の料理を勝手に食べたらしい)、国王命令を発動したらしい。

 流石の黒龍さんも国王命令には逆らないようで、不機嫌そうにそのことを告げた。

 黒龍さんは姫もだが、エイル国王陛下とも兄弟のように過ごした仲ではなかったのだろうか?しかも、彼を傷つけてしまった時、魔力を暴走させてしまうほどショックだったはずだ。なのに、姫とエイル国王陛下の扱いが天と地ほども開きがあるのは気のせいだろうか?

 実は、黒龍さんは女性に優しいフェミニストなのかもしれない。とは言え、彼が優しくしている女性は姫とハクしか見たことがない。青い鳥に至ってはエイル国王陛下よりも扱いが酷い。

 もしかしたら、黒龍さんの優しさは姫とハク限定に発動するかもしれない。

 だが、その悪逆非道な黒龍さんに愛された稀有な存在であるハクの姿が見当たらない。先ほどまでいたと思ったが、気付いたら、いなくなっていた。青い鳥や村の子と遊んでいるかと思いきや、青い鳥は自分の家の近くで、朝の日課の素振りをしているし、エン達は日曜学校の為、教会に行っている。ハクも日曜学校へ行かなければならない歳だが、一応、黒龍さんの娘ということになっているらしいので、城の家庭教師とお勉強しているらしい。お転婆で、気まぐれな彼女の家庭教師になった不幸な人物はなんと、俺が宮廷魔法使いの時に世話になった紅蓮さんらしい。

 厄介事、面倒臭いことから極力逃げ回っているあの人だが、流石に、天下の黒龍さんからは逃げられなかったようだ。

 最近、彼は面倒事ばかり押し付けられているような気がする。もしかしたら、それこそが勘違いなのかもしれない。

 黒龍さんは紅蓮さんが力のある魔法使いであることは分かるが、どれほどの魔法使いか把握できていない部分があるのかもしれない。その為、彼の実力を見極めるため、いろいろと策を講じているが、未だその力は未知数。

 俺も彼と一緒に行動することが多かったが、彼の実力は勿論、得意な魔法も分かっていない。まあ、自分の得意分野を知られては三下魔法使いだ、と赤犬さんには口酸っぱく言われているが、黒龍さんすら、その力を見極めないとすると、彼は異常すぎる。

 実は、彼は俺や黒龍さんが思っている以上の魔法使いかもしれない。黒龍さんが最高傑作と評する“蒼狐”を超える魔法使いは俺ではなく、彼なのかもしれない。

 今はそんなことはどうでもいい。今、重要なことはハクの行方だ。一応、預かっている身なので、彼女の行方を把握しておく必要がある(それが出来なかった場合、俺はこの世にいない)。

 丁度よく、洗濯物干しを終えたお袋が現れる。

「お袋、ハクの姿を見ていないか?」

「ハクちゃん?そう言えば、ハクちゃんなら、お父さんと一緒にいたような気がしたわね」

 お袋は呑気そうなことを言ってくれる。親父と一緒にいた?別に、親父はいつか話に聞いた性犯罪者とは違うので、少女一人といても、さほど問題はないが、この時間、親父はたいてい森の中に行く。

 まさか、ハクを連れて、森の中に行ったのではないだろうな?

 親父がハクを連れて行ったのか、ハクが勝手に親父の後を追って行ったのかは分からないが、もし、ハクに何かあったら、間違いなく、殺されるのは俺だ。

 もしかしたら、ハクは村の中で一人遊んでいる可能性があるが、万が一と言うこともある。俺は急いで森の中へと向かう。

村外れにあるこの森に入っていく村人は親父くらいしかいない。他の村人は農作を主にしているし、もしくは、村を出て、出稼ぎに行っている。

 だからか、親父の存在は重宝されており、定期的に、軍の人が来て、親父が採ってきた薬草や、狩ってきた動物を買い取ってくれる。それが我が家の唯一の収入であり、国の状況によって、収入が増減することもある。

 今は収入が安定しているらしいが、先代の時代はよく戦争をしていたので、軍はよく親父の採ってきた薬草をタダ同然で奪おうとしていた。

 親父も少しくらいは安くなってしまうのも仕方がないと考えていたそうだが、子供を三人も養っているので、流石に無料で譲ることが出来ることはできなかったようで、度々、親父と軍が衝突しているところが見られた。

いつも、軍の人は抜刀して、『国に逆らうのか?』、と親父を脅すわけだが、もともと、親父はこの国の生まれではないし、そもそも親父はそれくらいで言うことを聞くような人ではない。

 そんな時、お袋が仲介して、事なきを得ていたわけだが、ある時、軍人の一人は近くにいたレンを人質にとって、言うことを聞かせようとしていたことがあった。

 だが、その行為が親父の怒りを買ってしまったようで、いつもは怒ると言うことをしない親父が感情を剥き出しにしていた。その時の親父の威圧は軍人達を怯ませていた。

 あの後、青い鳥が現れ、レンを救出し、軍人達を成敗した。その時、軍人達は青い鳥を睨んで、帰って行った。その後、お袋が青い鳥にみっちり説教されたわけだが、青い鳥が現れなかったら、どうなっていたか分からない。

 軍人達によって、レンは怪我を遭わされていたかもしれないし、最悪の場合、殺されていたかもしれない。

 それに、親父から只ならぬ雰囲気を感じたので、青い鳥の登場は結果的に良かったかもしれない。

 どちらにしても、あのままだったら、最悪のケースは免れなかったかもしれない。

もしかしたら、青い鳥はいち早く、親父の異変に気付いて、そんな危険な行動に出たのかもしれない。それは流石に考え過ぎか。

 俺は森の中に行くと、至る所に罠が張ってある。おそらく、親父の仕業だろう。動物と言うよりも、村の子供達に対して。

村の人達が酸っぱく言っても、子供と言う生き物は好奇心旺盛で、どんな危険なところでも行こうとしてしまう。これらの罠はそんな子供達を森の中に入らせない為のものらしく、例え、子供が罠に引っ掛かっても、怪我を負うような罠ではないし、掛かっても、親父が取り除いているらしい。

 親父の性格はとにかく、格好はならず者そのものなので、親父が現れるだけで、子供達は逃げ出してしまう。

 まあ、そんな可愛い子供だけが村にいるわけではない。好奇心旺盛すぎる厄介な子どもが村には存在する。

 それは毎度お馴染みの青い鳥さんのことである。こいつがこの村に来たばかりの頃、森に行ってはいけないのはきっと美味しいモノがあるからです、と森の中へと入り、親父が頑張って張った罠も容易く交わし、父親に習った罠を至る所に張り巡らせた。

 その罠は高度だったらしく、家に帰ろうとした親父が掛かってしまうほどのものだった。その時、青い鳥は『かなり大きな獲物です。どうやって、調理すればいいですか?』と、冗談なのか、本気なのか、そんなことを口走っていた。

 こいつは人食いを平気でする奴なのか、と恐怖を感じたが、一方、親父は『俺は筋肉質だから、食べても美味しくはない』と、真面目に返していた。それを聞いた青い鳥さんは『どんな人が美味しいですか?』と言って来たので、親父は真面目に、『どんな動物でも、脂肪がたっぷりした方がおいしい』と言ってくれた。それを正直に取ってしまった青い鳥さんは村で一番福よかな身体をしている村長の家の周りに罠を仕掛けようとしていた。流石に、親父を食べるよりも非常に不味いので、全力で止めたわけだが。

 一応断っておくが、この村で、ぶっ飛んだ人間は青い鳥だけなので、間違いを起こさないで欲しい。こいつは村だけではなく、世界の異端児なのかもしれないが。

 そんなことを思って、森の中へと入って行くと、複数の声が聴こえて来た。

「―――ここは神聖な場所だ。ここで何をしようとしているか知らないが、即刻立ち去れ」

 親父の強張った声が聴こえてきた。どうやら、親父とは森の中にいるらしい。だが、奥から聞こえる声は親父だけではなかった。

「俺達は村長の許しを経て、ここに来ているんだ。おっさんこそ、ここからいなくなった方が身のためだぜ?なんたって、俺は貴族の名門中名門出クリムゾン家に連なる者だぜ」

 そんな声が聞こえてきた後、ゲラゲラと下品な声が聞こえてくる。

 クリムゾンと言えば、この国の魔法使いの名門・紅の一族のことだ。ただ、クリムゾンは男爵なので、そこまで地位が高いとは言えない。

 確か、紅蓮さんもそこの出だったような気がする。とは言え、その男と紅蓮さんが血縁関係にあるとは信じられない。

「クリームパンだか、クリームゾンだか知らないが、たとえ、ここは村長の許しがあろうと、入ってはいけないところだ」

 親父がそう言い返すと、

「………クリームパン?美味しそう」

 そんな呑気な声が聞こえてくる。どうやら、ハクは親父と一緒に森の中に来ていたらしい。ハクが無事だったことは一安心だが、素直に安堵出来る状況でもない。

「確かに、クリームパンは美味しそうだが、家名だろう。食べ物ではないだろう」

「なら、いらない」

 こんな状況だと言うのに、この二人はそんな会話をしている。この二人は青い鳥に匹敵するほどの図太さの持ち主だろう。まあ、青い鳥の場合はそれを知っていて、そんなことを言いだしそうなので、尚、性質が悪い。

 俺が彼らの姿を見つけると、親父達と身なりが良さそうな複数の男達がいた。そして、その男達の中の一人が顔を真っ赤にしている。

 どうやら、その男がクリムゾン家の者らしい。

「テメエら、馬鹿にしてんのか?」

 その男は逆上して、魔法陣を展開していた。魔法陣を見るところによると、火炎系魔法だろう。ハクに当たっても困るが、その炎が木々に点火してしまえば、大火事になることは必然である。

 そんなことになれば、俺達の村もその火に呑みこまれる。

 俺も急いで魔法陣を展開し、その男が展開する前に魔法を展開して、彼らに水を浴びせる。すると、彼らも予想外の乱入者である俺の存在に気付く。

「テメエ、何しやがる!!俺は……」

「クリムゾン家の方々ですね?声が聴こえて来たので、承知しています。ただ、貴方方のしようとしていることは流石に見逃すことができませんでしたので、ご了承していただきたい」

 俺が低姿勢でそう話すが、彼はそれで怒りが収まるはずがなく、

「俺をクリムゾン家だと知っていて、こんなことをして、無事で済むと思っているのか?」

 彼はそう言って、俺を睨む。

「それはこちらの台詞です。貴方方は誰を傷つけようとしていたか、お分かりですか?この方は黒龍様のご息女でいらっしゃります」

 俺はハクを指す。本当は黒龍さんのことをばらしてはいけないとは思うが、事が事だ。彼もそのくらいで怒りはしないだろう。

「この餓鬼が黒龍の娘のはずが……」

「???黒龍って、やっぱり“様”が付くほど偉いの?」

 ハクは不思議そうにそんなことを言ってくる。それはそうだろ。黒龍と言えば、宮廷魔法使いにして、王が絶大の信頼を寄せている(らしい)人物である。彼の機嫌を損ねれば、王が黙っていない(と思う)。

 まあ、黒龍さんは王の威厳がなくても、ハクに何かあれば、一人で半殺しくらいはするだろうし、王も黒龍さんの娘とか抜きにして、ハクに何かあれば、剣を抜いてやってくるかもしれない。

 こんな二人を相手にして、命がある者はほとんどいない。青い鳥?あれはもはや人ではない。

「この娘が黒龍の娘だとしても、何で、お前のような平民のところにいる。実はお前がこの娘を掻っ攫って来たんじゃねえのか?」

 彼はそんなことを言ってくる。もしそんなことをしでかしたら、俺はこの世にいない存在である。それに、黒龍さんや国王の目の前で、掻っ攫うことができる勇者がいるなら、俺の前に連れて来い。青い鳥?あれならできそうだが、その時は俺が止めるしかない。

「黒犬。ハクを掻っ攫ったの?」

 ハクは不思議そうにそんなことを言ってくる。だから、そんなことしたら、俺は黒龍さんに殺される。

「………ハク、お前はどうやって、ここに来たのか言えるか?」

「黒龍と魔法で来た」

「俺は城からお前を連れ去る隙はないだろう?それに、この場合、黒龍さんが誘拐犯になるだろ?」

「!!!まさか、黒龍が誘拐犯なの?」

「どう考えても、違うだろ!!黒龍さんはお前の身内だろ」

 その前に、お前は“掻っ攫う”とか、“誘拐”の意味を知らないだろ。

「黒犬!?まさか、この平凡男が最年少ライセンス持ちの魔法使いか」

 彼は驚いた表情をする。こんな平凡男がライセンスを持っているとは思わなかったようである。とは言え、平凡男は酷過ぎないか?確かに、見た目はパッとしないと思うが、もう少しいい表現はないだろうか?

「人の男を平凡男とは酷いことを言います。彼は男らしさが少々欠けているかもしれませんが、女装すれば、どんな美女にも引けを取りません」

 呼んでもいないのに、青い鳥さんが登場してくれる。お前はこの場を混乱するから、できることなら、引っ込んでいてくれ。それに、

「俺はいつお前の男になった?それに、俺を女装癖があるように言うな」

「私が勝手に決めました。ただ、いい男の人がいたら、鞍替えしますが」

「それなら、そう言うのはやめろ。いい男が現れたら、捨てるような女を彼女にしたい奴はいないだろ!!」

 青い鳥にゾッコンしている銀色狼さんや赤髪剣士さん、あの白髪変態さんもそれは望まないだろう。

「ムウ。酷いです。女はいい男にしか付いて行かない、とお母さんが言っていました。貴方が私に捨てられない男になればいいことです。それに、私は事実しかいいません。現に、貴方の女装姿は私より美人でした」

 こんな美少女の私より、です、とこいつは言う。青い鳥さん、青い鳥さん。あの時の貴女の眼は魔力しか映っておらず、俺の女装姿など見ていないだろう。それに、自分で美少女言うな。

「これが証拠の品です」

 こいつは俺の心情を読んだかのように、一枚の写真を取り出す。

「ぎゃあああああ。お前、こんなものをいつ撮った?」

 そこには俺の人生の汚点とも言える青髪の鬘をした俺が映っている。

「あの時、記念に撮っておきました。まさか、この写真を見ることができる日がくるとは思っていませんでしたが、思い出は残しておくべきものです。家に帰って、貴方から貰った眼鏡で、この写真と鏡に映った自分を見比べました。悔しいですが、私より美人です」

「早くそれを燃やせ。そして、この世から消せ」

 俺のことを思っているのなら、これを手放してくれ。

「こんなところで、これを燃やしたら、この森が燃えることになりますが?貴方はそれを阻止しようと、魔法を使ったのではないのですか?」

「それは……」

 それを言われたら、返す言葉はない。

「それに、この写真は私の収入源でもあります。現に、貴方のお母さんには売れました。彼女曰く、自分に娘がいた証拠を持っておきたいそうです」

「お前は俺を傷つけて、楽しいか!!」

 お袋の部屋に俺の女装写真があると思うと、ぞっとする。

「こんなものがあるなら、何故、俺に教えてくれなかった」

 親父がそんなことを呟いてくる。ん?さっきのは幻聴だよな?幻聴だよな?

「すみません。何枚欲しいですか?今度焼き増ししてきます」

「………2枚ほど頼む」

 俺はこの会話があったことを否定したい。親父が俺の女装姿に興味があったという話はどうやら嘘ではなかったらしい。と言うか、親父よ。二枚も貰って、何をする?

「ハクも欲しい。ハクも売る」

 ハクはこの写真で金儲けをするらしい。お願いだから、俺の女装写真をこれ以上ばらまくのはやめてくれ。

「黒龍が黒犬の写真を一通り奪って来いって言ってた。それをイヴに渡せば、喜ぶって。エイルに売って、紅蓮にも売るの」

 ハクは恐ろしいことを言ってくる。これが黒龍さんに渡ったら、どうなるか分からない。そして、こんな写真を姫に渡ったら、死ねる自信はある。国王陛下や紅蓮さんにまで見られたら、俺は笑いものじゃないか!!

「黒龍はとにかく、姫が欲しいと言うのなら、格安で売ります。彼の幼い頃の写真もおまけに付けます」

「イヴ、喜ぶかな?」

「喜びます。そうと決まれば、家に帰って、写真を漁らなければなりません」

「ハクも行く」

 青い鳥とハクは元来た道を戻っていく。青い鳥よ、お前は本来来た理由を忘れてないか。まあ、ハクをここから離してくれれば、問題の一つは解決できたが。

「………紅蓮だと?」

 一方、彼は青い鳥達の会話を聞いて、怪訝そうに言ってくる。紅蓮さんは宮廷魔法使いの中では有名ではないかもしれないが、怪訝そうに言われなくてはならないほどの人物ではないはずである。

「………お前はあの男と知り合いなのか?」

「ええ。紅蓮さんにはお世話になったことがありますが」

 正確に言えば、黒龍さんが紅蓮さんに押し付けたと言った方がいいかもしれないが。

「………仕方ねえ。今日のところは帰ってやる」

 彼は舌打ちをして、森の外へと向かう。すると、彼の取り巻きは戸惑っているような様子を見せるが、彼に続く。

 どうやら、黒龍さんより、彼と同じ一族の紅蓮さんの方が効果的のようである。

 今度、会った時、感謝でもしておいた方がよさそうだ。

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