匿名日和
暮れかけた駅
灯りだした電灯の奥で
暗雲の合間に
残り日は燃える
高層ビル
マンションの光
人工的で規則的
あまりにつまらなくてありきたりだった
眺め続ける理由はなんだ
睨み続けるその先はなんだ
問いかける僕に
問いかけられる僕は笑う
さへぎるように飛ぶ影は
小さき名も無き鳥だった
あれをご覧と僕は笑う
匿名日和の日が暮れる
映し出される
建造物の骨ばった姿は
グロテスクなくらい明瞭に
僅かな淡い色を吐き出した
不釣合だと言いたいのに何故
不似合いなそれが妙に快いのは何故
問いかける僕に
問いかけられる僕は笑う
彷徨うように飛び去った影は
小さき名も無き一羽の鳥
ご覧景色なんてものは
いつだって崩れ去る影をもちうる
うれふるには早すぎて
好きも嫌いも結局一緒
未熟で小さな僕の心の中にしかない
ほら匿名日和の日が暮れる
秋の風の冷たさに
抜けてゆくそらの色の果てまで
全てを身に受く君の翼は
心細げにふるへるか
空の色に溶け込んで
僕らの日をさへぎって
単調な線を消してゆく
音もなく世界を壊してゆく
見知らぬ者も知らぬふりする者も
通り過ぎる日々も遠くさる日々も
何もかもが空に飲まれてゆく
何もかもを影が覆ってゆく
名も無き今日も 名も無き鳥も
名も無き日々も 名も無き僕も
何もかもがうれふるのに
何もかもがうつくしひ
何もかもが消えゆくのに
何もかもがいとほしい
ああほらまた
匿名日和の日が暮れる