亀の街
「さて、次ぎの町を紹介しようか。
次ぎの町は亀の町だね。
ん?
亀がいっぱいいるのか、それとも亀が人化しているんでしょう、って?
いやいや、そんなことはなかったよ。
確かに、比較的キミの世界にいる亀と良く似た生き物は多かったけれど、そうじゃないんだ。
ボクたちと同じタイプの人間が住んでいたよ。
じゃあ、どうして亀の街って呼ばれているのかって?
それはね、亀の町はね、亀の上に街が作られていたんだ。
意味が分からない?
そうだよね。
キミたちの世界だと、亀はせいぜい大きくても二メートルぐらいだよね、きっと。
亀の街はね、、亀って甲羅があるでしょ?
その上に街が作られているのさ。
とても巨大な亀の甲羅の上にね。
ボクは最初、地震が多い街だなって思ってたんだ。
昼になるとゆっくりと、でも小さな地震が続いてね。
夜になるとぴたっと地震が収まるんだ。
でも、実は地震じゃなくてね。
細かな揺れの正体は、街を乗せた亀が移動していたからなんだ。
足元の大地が実はカメの上に降り積もった土でね、その上に街が一個作られていたのさ。
亀の大きさはどれほどのものなんだろうね?
ボクは街の端から端まで歩いてみたんだよ。
そしたら、三日間もかかってしまったよ。
街の外周は高い塀で囲まれていたんだけど、門番にお願いして、街の外に出してもらったんだ。
街の外に出ると、ゆっくりとなだらかな坂になっていてね。
街は亀の甲羅のてっぺんの、平らな部分のみを使って作られていたんだ。
町を支えている亀の顔を見てみたかったんだけどね、ずいぶんと下のほうにあるらしくて見られなかったよ。
もっと下に下りればみられたかもしれないんだけど、心配して一緒についてきてくれた門番に止められたよね。
最初はなだらかな坂だったんだけど、進めば進むほど坂の角度がついてきていたしね。
ボクは正直落ちてみてもよかったんだけど、やっぱりこれも門番に止められてね。
亀の街の下にある大地は、とても人が生きている場所じゃないそうなんだ。
まぁ、それもそうだよね。
街一個を支える巨大な亀が闊歩しているんだもの。
足元を歩く小さなボクたちなんて、亀からはきっと見えないよね。
門番が言うには、街の下に降りるなんて危険な真似をしなくても、数日間滞在すれば別の亀の街とすれ違うから、その時になったら声をかけてくれるっていうんだ。
ボクはその日をわくわくと待ったよね。
そして滞在して二日目でその日は訪れてね。
門番が朝早くにボクが借りていた宿屋に駆け込んできたんだ。
「レイセンドさん、他の亀の街が見れますよ、起きてください」
ってね。
まだ日が昇って数時間もたっていなかったけど、ボクは急いで着替えて門番と一緒に街の外へ駆け出たよね。
別の亀の街はね、まだ遠くにいてね。
ボクは近づいてくるのをゆっくりとみていられたんだ。
その亀の色は焦げ茶色をしていてね、黒くてつぶらな瞳が愛らしかったよ。
キミたちの世界だと、象亀風かな。
その象亀風の亀と、ボクがいた亀の街は仲が良いみたいでね。
隣に並んで、その場に座ったんだ。
座るというか、丸くなるというか。
足を止めて、大地に伏せたよね。
その間にお互いの街のから橋がかけられてね。
あぁ、こうやって他の町と交流するんだなってわかったよ。
ん?
交流しているときに亀が動き出したらどうなるのか、って?
そうだよね。
橋が崩れたら危険だよね。
でも大丈夫。
亀達はね、動き出す前にちゃんと合図をくれていたんだよ。
寝息のような、溜息のような声でね。
その声が聞こえると、お互いの街の橋を元に戻すんだ。
たまに、うっかりお互いの街に戻るのが間に合わない人もいたみたいだけどね。
そうゆう時は、亀ネットワークで連絡を取り合っていたよ。
亀ネットワークっていうのは、あの世界の亀の一種で、キミの世界のTV電話みたいな能力を持っている亀たちでね。
一定距離までなら、鮮明にお互いの情報を伝え合えるんだ。
遠距離の場合は声だけになるようだけど。
まぁ、そういった情報伝達手段がなければ、他の亀の街と連絡を取るのが困難になるよね。
一匹ボクも連れて帰りたかったんだけど、流石に一匹だけ仲間と引き離しても可哀想だし、何匹も連れて帰れるほど豊富に存在しているわけじゃない貴重な亀だったから、今ここでは見せられないんだけどね。
手の平サイズで、甲羅の上にぽわんと画像が浮かび上がって声が聞こえてきていたよ」
第八話にして語り手の名前が出てきました。
レイセンドさんです。