本の町
「まず最初は、本の町について話そうか。あぁ、座って座って。立ち話もなんでしょ。
椅子が逃げ回るって?
そういう時は、『ここで止まれ!』って命令すればいいのさ。
そうそう、上手上手。紅茶は飲める?
多分キミのいた世界と同じ味だと思うよ。
それで、本の町についてだね。
あの街は実に凄かったよ。
何が凄いって、門をくぐった瞬間から、そこは図書館だったんだ。
本好きの領主が納めている街でね。
町全体を図書館にしてしまったんだよ。
その世界の本はもちろんのこと、異世界の本まで揃っていたんだ。
そうそう、キミ達のすむ世界の本ももちろん在ったよ。少数だったけれどね。
流石に異世界の本すべてを網羅することは困難なんだろうね。
ん?
町全体が図書館っていうのがそもそもイメージできない?
まぁ、そうだろうね。でも言葉通りの意味なんだ。
街を城壁が囲み、門を潜るとまず最初にチェックされるのが本の有無だったんだ。
幸い、ボクは数冊の本を所持していてね。
その本を貸し出す代わりに、本の町での滞在を許可されたんだ。
もしも本を持っていない場合は、門のすぐ横の小さな図書館で写本をするそうだよ。
ボクの本も数人の司書が写本をしていたようでね。そうやって、あの本の町は蔵書を増やしているんだ。
コピー機があれば簡単に写せるし、パソコンがあれば電子書籍でもいいんだけどね。
あの町では、科学よりも魔法が発達していてね。まだまだ写本が一般的だったんだ。
そしてあの街はすべての家に図書室が併設されていてね。
新しい本は領主が高く買い取ってくれるし、物語を書く作家はとても重宝されていたんだ。
だからみな、作家を目指して執筆していたよね。
街の中央にある大図書館は圧巻だよ。
天井まで高さのある本棚の中にびっしりと本が並んでいてね。
すべての本を読むためには、きっと一生を費やしても時間が足りなかったと思うよ。
ボクは読書は得意なほうだし、読む速度もそれなりだけど、滞在した一ヶ月の間に読めた本は限られていたよね」