夜の街
「次は、夜の町について話そうか。
夜の町は大体キミにも想像つくと思うんだ。
そう、町が闇に包まれている世界だね。
あぁ、呪いとかじゃないんだ。
最初からそういう世界なんだよ。
夜の街はね、通年、夜なんだ。
だから町中に提灯が灯されてたよ。
六角形の大きな提灯。
それは蝋燭や油じゃなくて、霊力で出来た光の玉が中に入っているんだ。
町の建物の造りは、きっとキミの世界の五重塔に近いよね。
赤い柱が多いのは、夜の街に映えるからだね。
夜の街では、一年に一度、白夜の日があってね。
日の光が一日を照らすんだ。
淡くピンクがかった空は神秘的でね。
でもその光景を、夜の町の住民たちの殆どが見られないんだ。
どうしてだか分かる?
実はね、その町の住民達は猫族なんだ。
キミの世界にもいるあの猫達を人化させたような感じだね。
普段は猫耳と猫尻尾をつけた人間姿なんだ。
それでね、白夜の日は、猫族はほぼみんな、眠りにつくんだ。
キミの世界の猫も、普段夜行性だけれど、寝子って呼ばれるぐらいに良く眠るよね?
彼らもそうなんだ。
夜の街は夜に包まれている間はみんな殆ど眠らずに活発に活動しているんだけどね、一度白夜が訪れると、みんな眠りにつくんだよ。
普段はお祭りみたいに華やかな夜の街がしんと静まり返ってね。
白夜の日に動けるのは、霊力の強いものだけなんだ。
霊力は魔法に似た力でね。
キミのいた世界で言う霊力とはちょっと違うよね。
でね、白夜の日に起きていたのは八百万トメさんっていう九尾の猫でね。
完全に猫の姿をしていて、尻尾が九つに分かれている猫族の女性だったんだ。
女性というのもちょっと変な気分なんだけれどね。
だって見た目が完全に猫なんだもの。
狐の色をもう少し優しくしたような色合いの体毛をした猫。
他の猫族はみんな人型なのにね。
トメさんが九尾の猫姿なのにはわけがあるようだったけれど、旅人のボクがあまり詮索するのはよくないよね。
トメさんは御歳数百歳のおばあちゃん猫でね。
猫族はとても長寿で、数百歳生きるのが普通だそうだけど、彼女は中でも長寿の部類だそうで。
でも見た目では歳はわからなかったよね。
トメさんの場合は猫姿だったっていうのもあるけれど、猫族は霊力が強いものは見た目の成長が止まりやすい種族だったんだ。
人化しても、トメさんの場合はせいぜい二十代の女性にしか見えないそうだよ。
トメさんを慕う孫猫の算望平っていう少年が絵姿を見せてくれてね。
その絵姿で見たトメさんは、確かに若い女性に見えたよね。
あぁ、その孫猫も霊力が強いらしくてね。
白夜の日は眠そうにしながらも起きていられたよ。
白夜の日に猫族が眠りにつくことはあの世界では広く知られているらしくてね。
町の周囲には幾重にも結界が張り巡らされていたんだ。
みんな眠っている時に町を多種族に襲われないためにね。
トメさんは防御結界の生成に優れていてね。
猫族の街の結界は彼女が主に張っているんだ。
一度張れば壊されるまで有効でね。
ずっと霊力を使って張り続けるわけじゃないから、トメさんにとっては簡単なことらしい。
それに、霊力の高いトメさんは白夜の夜にも起きていられるから、もし結界が破られることがあっても、即座に貼りなおせるんだって。
心強いよね。
彼女の作り出す様々な装飾品と霊札は夜の街の特産品にもなっていてね。
結界を貼れる霊札をボクへのお土産に持たせてくれたんだ。
使い切ってしまったから、見せてあげることが出来ないんだけどね。
複雑な模様と零文字が描かれていたよ。
そして、ボクとトメさんと算望平の三人で、白夜の沈みゆく太陽を見つめてたんだ。
日が沈んで、また町が夜に包まれる瞬間も綺麗だったよ。
夜空に星がゆっくりと輝きだすんだ。
最初は一つ、そして二つ。
次々に星が輝きだす空は、いつの間にか星の川が出来上がっていたよね」




