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お飾り王妃になりました

お飾り王妃の、突撃隣のお昼ご飯

作者: 彩戸ゆめ

 フランツとの結婚式から三カ月もたつと、そろそろ周囲も平和になってきた。

 つまり、言葉を置き換えると「色々と諦めた」って事になるんだけどもね。本音と建て前って大事よね。


 私の当初のもくろみ通り、公務はしっかりやるけどプライベートは好きにさせてもらってます。最近は公務も青の離宮でやることが多いけど、その方が効率がいいから仕方ないよね。


 いや~。身分が低くて大した仕事を任されていない有能な人物がこんなにいたとは、嬉しい誤算だわ~。大きな声で言えないけど、身分制度バンザイ。しかも低いお給料で喜んで働いてくれるもんねぇ。

 あれ、なんだかブラック企業みたいじゃない。やだー。気のせい気のせい。


 まあその身分制度も、ある程度は壊しちゃう予定だけどね。むふふ。


 でも別に王制を壊したいわけじゃない。だって今の社会ってそこまで成熟してないもん。

 今まで自分で考える事をしたこともない人たちに、これからは自分たちで未来を決めなさいなんて言っても無理だしね。それをするには平民たちにも教育が必要だと思う。その為の一歩になれば、それでいい。

 目指せ、義務教育の普及。


 だから理想はちゃんとした王様の元で、貴族枠とは別に平民が出世できる道筋を作る事かなぁ。

 きっと、何百年かしたら民主主義の嵐が巻き起こるんじゃないのかな。

 もっとも、そうならないかもしれないけどね。それは後世の人たちが考えるべき事で、私が考える事じゃない。ただ、その未来への可能性は、作っておきたいけど。


「う~ん。予算が足りない……」


 さすがに青の宮殿の護衛を増やしてその為の宿舎を建て増しするとなると、王太子妃の予算じゃ足りないなぁ。かといってこれ以上は経費を削れないし……


 ドレスもこれで最低限だもんねぇ。

 正直、ドレスなんて今ある物をリフォームして使えばいいと思うんだけど、王太子妃のドレスとなると、それに携わってる職人たちの生活にも影響するから一着も作らないなんて事はできない。それに流行を作るのも王太子妃の務めだもんねぇ。


 誰かの作った流行を追うより、自分で作るのだ!エイエイオー!


 ……そうだ。アズール国との交渉がうまくいったから、今後の恩を売る為にもあそこの布を使って斬新なドレスを仕立てようかしらね。

 染色は私が実家で開発した、あのコバルト・ブルーにするといいかしら。本当は糸から染めたいところだけど、製法はお互い秘密にしたいし、仕方ないわね。白い布を染めましょう。


 宝石は結婚のお祝いにもらったのがあるからいいとして、と。あ、宝石といえば。


「ロイ、エメラルド鉱山から変わった石が出てきたって報告が出てなかった?」

「ありますね。えーっと、これです」


 最近は護衛よりも書類仕事の方が多くなってるロイが、書類の山から一枚の書類をペラっと出す。ふふふ。すっかり優秀な参謀になってくれて嬉しいわ。乙女ゲーム期間が終わって断罪もないから、このままどんどんコキ使うわよー!


「これ、視察に行きたいわね。う~ん、予定は、っと」


 自作のスケジュール帳を取り出して予定をチェックする。普通はそういうスケジュール管理なんかは侍従がやってくれるんだけど、公務以外は私の予定をあんまり王家サイドに伝えたくないのよね~。

 暗殺の危険はともかく、一泊以上の予定だとお邪魔虫フランツがついてきそうだし。


 なんだかねー。フランツ、まだ私をちゃんとした正妃にするのを諦めてないみたいなのよね~。確かに世継ぎが妾妃から生まれるっていうのは権力闘争の元だけどね。でも正妃である私が子供作る気がないんだから、権力闘争になんてならないじゃん。だからもう放っておいてくれればいいのに。


 それこそ、妾妃が男子を産んだ何か月後かに正妃が世継ぎを生んだりしたら大変なのにね。そこのところ、ちゃんと分かってるのかなぁ。


 それに今更愛してるとか言われても、信じられないしねぇ。だったらキッパリ手切れ金でも渡してシャーロットと別れればまだ考えてみてもいいけど、それとこれとは別みたいだもん。信用できるはずがない。


 やっぱりこれはあれかな。逃がした魚は大きかった、って事かな。

 おーほっほっほっほ。せいぜい悔しがるといいんだわ~。

 うん。これぞまさに悪役令嬢よね。もう戸籍上は人妻だけど。

 って事は、悪役人妻?略して悪妻?あれ、なんかイメージが悪すぎるよ!


「ああ、でも視察に行くなら、こっちに先に行きたいなぁ。……ロイ、護衛の数はもう十分かしら?」

「妃殿下の満足のいく数かどうかは分かりませんけど」

「もー。ヴィヴィアンでいいって言ってるじゃない」

「いえ。お嬢様はもう妃殿下になられたのですから、ちゃんとしたお名前で呼びませんと」

「離宮の中なら構わないわよ。でも、そうね。じゃあ妥協して『お嬢様』でいいわ」


 ウィンクすると、ロイはハァとわざとらしくため息をついた。やだなー。攻略対象者だから、そんな姿もサマになるわねぇ。こんなトコで色気全開にしても、色気の無駄遣いよ~。どうせなら王宮の侍女さんたちに向けてちょうだい。そしてお得な情報をゲットしてきてちょうだい。


「お嬢様。それは私に色仕掛けをしてこいというご命令ですか?」

「え、あら。口に出てた?」


 やだなー。つい、うっかり。


「冗談よ、冗談。あなたには、しっかりとここの書類仕事をやってもらわないといけないしね」


 過労死しない程度にがんばって欲しい。切実に。


「でもまだ護衛が少ないのではないですか?もし何かあったら―――」

「でも、仰々しく訪問しても本来の姿が見えないしね。ここはやっぱり、いきなり行くしかないでしょう」


 そう。名付けて、『突撃、隣のお昼ご飯作戦』だ。

 どこかで聞いた事のあるネーミングだけどね!気にしない、気にしない。


「それにロイたちがわたくしを守ってくれるのでしょう?一個中隊でも襲ってこない限り大丈夫じゃないかしら」

「……本当にお嬢様は私を喜ばせるのがうまい」

「ただ思ってる事を素直に言っただけよ?ロイが守れないなら、他の誰にも不可能だもの」


 ほんと、いい人拾ったわ~。

 小さい頃の私グッジョブ。

 いや、ほんとにね、道の端っこにボロ雑巾みたく転がってるのを拾ったのよ。まさかこんなに優秀だとは思わなかったわ。しかもお風呂入れて磨いたら、超絶美少年だったしね。その時は、攻略対象だって気がつかなかったけど。


「さてと。じゃあこれから行くから準備をしてちょうだい。馬車は目立たない物でいいわ」

「……かしこまりました」


 諦めたようにわざとらしいため息をついたロイが一礼する。

 ごめんねぇ。反省はしてないけど、一応振り回してる自覚はあるので心の中で謝っておくね!


 馬車を仕立てた私たちは、目星をつけていた孤児院へと向かった。ここは王家直轄なので、一番最初に視察をしたかった所なのだ。


 普通は王太子妃の視察だからちゃんと先触れを出してから訪問する。でもこれは抜き打ち検査だからねぇ。いきなり行って、驚かせちゃいましょう。まあ王家直轄だから、そんなにひどい経営なんてしてないだろうしー。


 なんて思ってた私が甘かったです。ごめんなさい。


 最初は本物の王太子妃だって信じてもらえなかったんだけど、最近は私の絵姿も出回ってるし、無事に信じてもらえて孤児院の中を見せてもらえる事になった。ちなみに王家直轄のこの孤児院にも、私と王太子の絵は飾ってあるはず。妾妃のシャーロットはどうか分からないけども。


 そしてやってきた院長は……なんていうか、いかにも小悪党です、って感じの男だった。別にね、太ってるのも髪が薄いのもいいよ。だけどなんていうかその、へりくだっているようで隙を伺う目つきが気に入らない。

 それに両手に指輪の跡がついてたのも気になる。清廉たるべき孤児院の院長が、合わせて5個所も指輪をした跡をつけているだろうか。


 その嫌な予感は子供たちの食事の様子を見て、確信に変わった。


 あ~。こいつ、孤児院のお金、くすねてるわ。


 だって子供たちの食事といったら、硬いパンが1個と、ほとんど具のないスープだけ。こんなので食べ盛りの子供たちの栄養になるものか、と怒りに震える。

 子供たちの姿を見ても、痩せてどこかおどおどとしている。髪の毛はあまり洗っていないのか、べったりと頭に張り付いている。


「これはこれは王太子妃様。ようこそおいでくださいました。訪問してくださるというご予定をうかがっておりませんでしたので、驚きました」


 そりゃね。前もって来るのが分かってたら、取り繕われるのは分かってたからね。こういうのは、抜き打ちで来るに限るでしょ。


「見る所……子供たちの食事が少ないように思いますが」

「あ、いや。今日は下働きの者が食材を仕入れるのを忘れておりまして、このような食事になった次第です。その分、夕食はご馳走になりますよ」

「それから、子供たちは随分と痩せていますね。まるで満足な食事を摂っていないかのように」

「それは、その……予算が厳しいと言いますか。予算さえもっと頂ければ、子供たちにもたらふくご飯を食べさせてやれるのですが」


 誠に遺憾だ、とでもいうような院長の態度に、私は言質を取ったぞ、とほくそえんだ。


「それは、今の状態では予算が足りないということですか?」

「滅相もございません。王家の方々には十分な補助を頂いております。しかしながら、昨今の物価の上昇には我々としても困っておりましてですね。はい」


 つまり、予算は十分だけど物価が上がったから、子供たちの食事が少なくなってるんだと言いたいのだろうけど。

 ほー。そんなに予算少ないのかしらね~。

 まあ、贅沢をするほどの予算があるわけじゃないけど、それでもつつましく生活をするには十分な予算が与えられているはずなのにね。ここに来る前に、ちゃんと今の物価に合わせて試算したから、私はそれを知っている。


「まあ。それは大変ですわね。今からすぐに帳簿を見せて頂きましょう。そして予算が足りないのならば陛下に進言しなくては。さあ、院長。事務室へ案内してくださいませね」


 渋る院長を強引に事務室に連れていって帳簿を出させると、出るわ出るわ、不正のオンパレード。青くなる院長の顔色とは反対に、資料を調べるロイの顔がニコニコしている。そして机の隠し引き出しから二重帳簿を見つけた時には、院長の顔色は土気色になっていた。


「何ていう事でしょう!慈悲深く仁徳者であらねばならぬ王家直轄の孤児院の院長ともあろう方が、国家の財産を横領していたとは!?これは重罪になりますわね。ロイ、他の資料も探してちょうだい。マキシムとセルンは院長の身柄の拘束を。ジェームズは事が落ち着くまで院長代理として子供たちの生活改善を命じます。副院長に関しても事情を聴きたいので、いつでも招集に応じられるよう、ここにて待機する事。これは王太子妃として命じます!」


 これは何かの間違いだ、とか喚きながら院長が連れて行かれる。


 まさか一回目で横領が発覚するとはね~。王家直轄だから、もうちょっとマシだと思ってたんだけど。まあ、こんな感じで孤児院改革をやっていくしかないわねぇ。

 『突撃、隣のお昼ご飯』作戦、大成功~!パチパチヒュー。


 横領の証拠の更なる発掘をロイに任せた私は、残りの護衛と一緒にひとまず王宮に戻る事にする。そして孤児院を出ようとした時、扉の陰からこっちを見ている子供に気がついた。


「どうしたの?私に何か用があるのかしら?」

「あの……」


 声をかけられてビクっとした男の子は、唇を噛んでから意を決したように口を開いた。


 だいじょーぶよー。ちょっと目は釣り気味だけど、私、怖くないわよ~。


「あの、ミレイ先生も連れてっちゃうの?」

「ミレイ先生?ミレイ先生は連れて行って欲しくないの?」

「うん。だって、あの、ミレイ先生は院長先生にぶたれそうになる時、かばってくれるんだ。だから……」


 あの豚野郎、子供に暴力までふるってたのか!?

 ふっふっふ。楽に死ねると思うなよ~!

 まあ死罪までは無理だろうけど、財産没収位はやってやろうじゃないの。


「大丈夫よ、私たちは悪い人しか連れていかないから。ミレイ先生はとてもいい先生なのね?」

「うん!僕たち、ミレイ先生が大好きなんだ!」


 よし。じゃあ院長代理のジェームスにミレイ先生を補佐でつけよう。見込みがあれば、次の院長でもいいかもね。


「これからは、ちゃんとお腹いっぱいご飯が食べれるからね」

「ほんと!?」

「ええ。約束するわ」

「ありがとう、オータイシヒさま!」


 王太子妃、って絶対意味を理解してないだろうなーって言い方が可愛い。今は痩せてガリガリだけど、金の髪ははちみつ色だし、青い目はサファイアみたいだし、これは将来美形になりそーだな~。ボロ雑巾みたいだったロイより、将来が想像できる子供だわねぇ。


「どういたしまして。あなたのお名前はなんていうの?」

「シャルルです!」

「そう、シャルルね。あなたは立派な大人になってね」

「はい!」


 良い子のお返事を聞いて、私も良い事したなーって気分になる。この勢いで、まずは孤児院の待遇改善をめざすぞー!





 ―――歴史学者グレゴリオの覚書より―――


 白の賢妃ヴィヴィアンとシャルルとの出会いは、王太子妃としての最初の公務で訪れた孤児院だというのが定説である。そこでヴィヴィアンは一目でシャルルが傍流の王家の血筋であることを見抜き保護したと言われる。ヴィヴィアンはシャルルから孤児院での劣悪な環境を聞き涙した。そしてその改革に手をつける事になるのである。

 いわば、後世に伝わる賢妃ヴィヴィアンの業績は、清廉王シャルルとの出会いによってもたらされたと言うべきであろう。

実際のヴィヴィアンと後世の評価のギャップをお楽しみください……

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