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第十五話 遠足=サバイバル


「だから遠足は嫌だって言ったのにー!」

「うっせぇー! 喋っている暇があったら走れ!」

「し、シロ。光輝。まずいぞ、追いつかれる!」


 楽しい時間は矢のごとく。しかし、嫌なイベントを待ち受けるその時間も同じように早いわけで。

 遠足日。やはり嫌な予感というものはなぜかものの見事に的中してしまうもので、案の定こうやって走り回るはめになるわけで。

 遠足、という言葉は死のサバイバルという定義に違いない。

 息を切らしながら木々をかきわけ、そう確信した。

 それは天気も麗らかな、穏やかな昼のこと。






「あーるーこー。あーるーこー。私はー元気ー」

「元気じゃねぇよ」


 へっくしゅ、と光輝の止まらないクシャミ。はい、とポケットティッシュを渡すと、うい、と大人しく光輝は受け取る。お嬢に対してジャーマンスープレックスもアイアンクローもコブラツイストもないとは。どうやら相当重傷らしい。


「なさけないぞー、光輝。花粉症ぐらい、光輝の力で吹っ飛ばせー!」

「真帆。ティッシュはもうないか」

「ない。というか、渡さない。私もこれ重要な資源なの」


 べっくしゅん、と女の子にしては豪快なクシャミ。お嬢の言葉を無視した光輝も、そうか、と項垂れるように頷くだけ。

 あ、あの光輝が強奪しない!?

 それは苦しみを共有する仲間ゆえにか。驚嘆の顔で光輝を見ると、光輝は「あん?」と不機嫌そうにこちらを睨む。だがその眼光に力はなく。


「相当弱っていますね」

「うっせー。お前も花粉症になればわかる」


 うんうん、と隣を歩く真帆も同意を示す。先を歩くお嬢は、無視されたことも気にせず元気よく歌う。今日のお嬢のテンションの高さは正直うざい。いや、むしろ恐い。たんたらららんらーとか、また微妙にずれた鼻歌で、手に持った枝で道を薙ぎながら進んでいる。

 遠足の日。四人の班を作るということで、俺は光輝とお嬢、それにお嬢の友達であるおさげが特徴の副委員長――駒沢真帆を入れて行動していた。四つのルートから頂上を目指すというこの散策。特に盛り上がりもなく終わると思われたこの遠足にも、思わぬ落とし穴があったらしい。


「くそっ! 誰だ山がいいとか言いやがった奴は。海がいいに決まっているじゃねぇか、馬鹿。後で後悔させてやる。生きてきたことを後悔させてやる」

「ふふふふ。燃えればいいのに。杉とかもうこの山全部燃えればいいのに」


 ぐす、びーん、と二人仲良く鼻をかむ光輝と真帆。真帆のことはよく知らなかったが、とりあえずお近づきにはなりたくない性格だとわかった。ぶつぶつと怨嗟を撒き散らす二人から可能な限り離れるため、仕方なくお嬢に近づく。


「どうしたー、シロ? 寂しくなったか」


 にゃはは、と笑うお嬢にケツキックをかまし、散策開始の際に先生から貰った地図を見る。


「今どれくらい進んだ?」

「え、ちょっと。キックはスルー?」

「半分くらいは行ったと思うけど」


 ちょうど遠くに看板を見つけた。残りの距離を見ると、やはり後半分くらいか。早くこの行事を終わらせないと、後が恐い。今は静かでいいが、光輝が復活したときの怒りパワーがこっちに襲い掛からないとも限らない。まあ、そうなったらそうなったでお嬢を生贄に捧げるつもりではいるが。


「はぁ。やっぱり遠足は嫌いだ」


 気苦労が多い。つーか、面倒臭い。

 しばらく淡々と山の中で足を進める。しかしふと、いつの間にか隣にお嬢がいないことに気付いた。さっきまで騒いでいたのに。

 振り返れば、少し距離を置いて、後方には光輝と真帆が続いている。けど、そこにお嬢の姿はない。


「し、シロ!」


 慌てたような、でもどこか嬉しそうな声。声の出何所は茂みの奥。ちょろちょろ、小動物のようだ、と思った。そういえば、昔飼っていたワイルドドッグはこんな感じだった。目を離すといなくなる。

 何やってんだか、とため息をついて、茂みを越えた。


「お嬢。何やってんだよ。ほら、先行くよ」

「み、見て。こ、こ、これ!」


 お嬢の指差す先。変な花でも見つけたかと、呆れた顔でそれでも見てみる。



 息が止まった。



「熊だ!」


 お嬢が大きな声で叫ぶ。初めて見た、グリズリーみたいだな! と大喜びのお嬢。その見事な二足歩行で佇む大柄な身体。黒の毛色に紅の瞳。涎を垂らす牙。獲物を引き裂く獰猛な爪。


「つーか、グリズリーじゃん」


 呟き、お嬢を見る。お嬢はその手に持つ枝でグリズリーを刺していた。つんつん、と。


「元気か?」

「正気か!?」


 ミドルブローをお嬢に叩き込む。ぐえ、とか叫んでお嬢はその枝を地面に落としたが、時すでに遅し。グリズリーはこちらに目標を見据えていた。

 呻くお嬢を肩で担ぎ、茂みを飛び越える。後方からは怒りに満ちた獣の慟哭が響いた。やばい。まずい。死ぬ。


「ちょっと、オルカくん。今の声は……って、まおう!? どうしたの!?」

「おい、シロ。今の声は何だ」

「説明している暇は――」


 そこで、ぴし、と固まった光輝と真帆。見据えるその目の先が恐い。それでも恐る恐る振り返れば、やっぱりそこには熊さんがおいでになっていたとさ。


「「く、くまー!?」」


 二人は叫び、大急ぎで山を下る。もちろん、俺も足をフル回転にして追いかけた。

 走り、走り、走って。

 後ろの気配はやっぱり消えない。さっきよりも近づいている気がする。これ、いつか追いつかれるぞ。


「ちょっと、どういうこと! オルカくん!?」

「お嬢が枝で突いたんだよ!」

「まおうー!」

「後で仕置きでてめぇー!」


 うう、とまだダメージの抜けないお嬢は俺の肩で呻く。落とそうかとも思ったが、さすがにマジでやばそうなので、鉄の理性で我慢。後でラリアットを決めてやる。

 こうして鬼ごっこは始まった。





別の小説を書き始めました。近々投稿の予定。学校も始まるので、更新遅れるかも。週一回ぐらいを目安にします。

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