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第十二話 黒猫は見ていた

各人物の外見的特徴などをのっけた小話。読み飛ばさないで読んでいただけると嬉しいです。

 

 猫使いが荒い。

 僕の主人はその一言に尽きる。


 乱れた次元。幾度なく開かれる「門」。流入する魔の気配。

 元魔界出身の主人からすれば、自分を捕らえに来たのではないかと気が気ではないみたいだが、僕からすればそれもとんだ見当違いだ。


 魔界も100年以上昔の、しかも一介の魔女程度にそう気を使わないだろう。相当悪いことをして魔界を追放されたというのが本人談だが、単に家出してきただけではないかというのが、僕の見解だ。あながち間違いでもないと思う。おさげに眼鏡、膝を越えるスカートの丈こそが真面目な学徒の姿だと認識する我が主人。

 いや、そういえば最近は眼鏡を外していたな。スカートの丈も少し切っていた。

 ちょい悪を目指すと言う主人はどこかずれている。


 まあ、そんな主人の使い魔になったのが運の尽きか。


 そんな自分の不運を諦めて、観測を続ける。僕の主人の命は、魔界より来たる悪魔たちを監視せよ、だ。だけど、その観測している連中だが、そのうちの三人は主人と同じ学校に通っていることを、主人は知らない。言ったら言ったで半狂乱になるのはわかっているし、まあ、どう考えてもあの三人は主人の害にはならないだろう。


 家の塀に丸くなって、とある豪邸の中を覗く。僕の使い魔としての能力は、遠隔視及び透視と盗聴。つまりは、戦闘タイプではないということだ。情報集めが僕の仕事。あと一つ、秘密の能力もあるのだが、それは主人でさえも知らない。なぜ報告をしないのかって、ミステリアスなオスは格好いい、とユメちゃん(僕の恋猫候補)が言っていたからだ。そう、僕はミステリアスな猫。


 そういうわけで、魔界より来たうちの三人を観測中。夕日が町を茜色に照らす時刻で、学校を終えた三人は各自部屋に戻っている。

 とりあえず、一人ずつ覗いていこう。目に魔力を込めると、世界が僕の傍を通り過ぎていくように視界が開ける。この感覚は、あまり好きではないのだけど。




 覗いた一人目は、最初にこの世界に来た悪魔、と言っていいだろうか。正しくはないが、間違いではない。実際は、戻ってきた悪魔、と言ったほうが正しいかもしれないけどね。

 名前は緒方光輝。一応人間らしいが、その言動、態度、波動を含め、悪魔に違いないと僕は確信する。その容姿は特に上げることもない。標準的な長さの黒髪と、少し釣り上がった黒目。背は標準より少し高いぐらいか。ただ、細目に見えるその体躯も、実際は引き締まった筋肉ゆえにそう見えるだけだということを、僕は知っている。過去の経歴を考えれば、それも納得できるのだけど。

 その緒方光輝は、今現在、自室で何をしているのか。

 見なきゃよかったと、後悔した。

 僕の主人の部屋が五つは入りそうなほど大きい部屋は、あちらこちらに剣やら刀やら斧やら槍やら棍棒やら鎌やら弓やら銃やらが、吊るされている。どれもこれも赤黒い染みがついているのは、気のせいだと思いたい。

 その中で部屋の持ち主は一つの刀――三日月刀と呼ばれる武器を手に取り、しゃ、しゃ、と研いでいる。刃を、研いでいる。

 くくく、と押し殺したような笑みが、聞こえた気がした。




 気を取り直していこう。これ以上の最悪は訪れない。

 次に覗いた部屋にいたのは、この世界に二番目に訪れた悪魔、と言っていいだろうか。これについては、僕は甚だ疑問だ。この人は本当に悪魔なのか。普段の行動から、どう考えても可哀相な人にしか思えない。それなのに、魔王と呼ばれる悪魔の王様がこの人だというのだから、魔界の政治体制とやらに一抹の不安を感じてしまう。

 だけど、容姿は綺麗な人だった。

 肩に触れる程度に伸びた金髪。それは絹のような髪、と呼ぶに相応しく。僕の主人のごわごわした髪とは大違い。空をそのまま映したような淡い青の瞳は大きく、睫も長い。目鼻立ちもすっきり通って美人と言えよう。ただ、その顔は常に浮かぶその花開くような笑顔のためか、凛々しいとは言い難く、むしろどこか幼く見える。でも、こういうアンバラスさが男の人にはもてそうだ。スタイルも抜群で、ぼん、きゅ、ぼん、を地で行ってしまうのだから、僕の主人を酷く哀れに思う。あの真っ平らな胸に少し分けてくれないかとお願いしたい。

 そんな、ある意味では魔王と言えるかもしれない魔王――エローラ=ロベスは、自室で何をしているのか。

 覗いてみると、やけに少女趣味の部屋――ピンクの上にぬいぐるみやらレースやらがふんだんに使用された部屋で、どうやらテレビを見ているようだった。何を見ているのか、とテレビの方に意識を映すと、どうやら昼に撮っておいたドラマらしい。


『この泥棒猫!』


 なんて古い。

 しかし、この人は何を考えているのか、セリフを逐一メモしている。目が酷く真剣だ。赤く充血している。どの場面で使うつもりなのか、とても興味あるのだが、そろそろ監視対象を変えなくては。

 観測結果。色々ともったいない人だと思った。




 監視の最後は、こちらの世界に来たのも最後の悪魔。まあ、これについてはそう疑問も感じない。一度、魔物化したのも拝見したしね。

 この人の名前は三つある。とりあえず、この家で使われている名前はシロ。本人は最初すごく嫌そうな顔をしていたけど、今ではもう諦めているみたい。で、本名はオルカ=ドリトエット。これは真名と呼ばれる大事な名前。それを僕が知っているのは、もちろん緒方光輝とエローラ=ロベスの話を盗み聞きしたからだ。そうそう屋外で真名は告げるものではない。そして、三つ目の名はオルカ=ウィッテ。これは学校で使用している偽名。男として学校では通っているみたい。

 この人は淫魔と呼ばれる悪魔。幼少は両性具有で過ごす珍しい種族。本来ならそう強い魔力も持たないはずなのに、この人の魔力はなぜか異常なほどに強い。そのためか、判別の儀が完了できず、性別が決定しないまま姿は中学生ぐらいだった。過去形なのは、先日の事件で少し容姿が成長したため。

 腰まで伸びた銀色の髪は再び肩までの長さに切られていた。瞳は銀色。いつも眠そうに目を細め、やる気はなさそうに振舞っている。幼さは残るものの、そのあまり動かない表情のためか、魔王とは逆に大人びて見えた。中性的なその顔立ちは、現在、若干丸み帯びて女顔へと移行中。背は伸びたとはいえ、三人の中ではまだ一番小さいようだ。

 この人は雨の中で一度出会った。僕の微弱な魔力に気付いたのには驚いたけど、そう深くは考えなかったらしい。多分、今では覚えてもいないだろう。

 部屋で何をしているのかと、覗こうとしたけれど、中断。

 理由は胸に巻かれたサラシを外そうと苦戦中だったから。多少大きくなった胸を隠すため、結構学校でも苦しいらしい。ただ、紳士の僕としては着替え中のレディを覗くような真似はしたくない。人間型の身体に興味はないけどね。




 さてと、これでここの監視は終わりだ。別段異常なく、平和……だったんじゃない?

 とにかく、問題はないだろうと、欠伸とともに身体を伸ばし、塀から家の屋根へと飛び移る。家々の屋根から屋根へと飛び越えながら、気分は憂鬱だった。太陽は沈みかけ、薄っすらと夜の気配が近づいてくる。

 ここまでなら楽な仕事なんだけど。

 問題は、残りの一人だ。




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