燻製トンカツVS箱宮聖政
来翔は、燻製とんかつの準備に入った。念入りに燻製した豚肉を使用する。多くの人はパン粉を冷燻製するようだが、この店では豚肉本体を燻製にする。
油で揚げることによって、匂いが落ちると思われるかも知れないが匂いは落ちず美味しい燻製のとんかつとなる。
店で出た茶殻を乾燥させて燻製に使う。これがまた良いアクセントとなる。桜チップと茶殻を混合させて燻す。これが最高なのである。
「いやぁ、大変ですね。東崎店主が倒れて。先生はここを1人でなさってたんですよね。」聖政は来翔に声を掛ける。
「そうですね。先生は余計な金をかけないように肉に集中するため1人で経営していたんです。それで無理が祟ってしまったようです。」
来翔はそう言いながら、燻製豚肉に濃いめの衣を絡め、パン粉をつけて揚げ始めた。
「なかなか美味しそうな匂いがしますね。」箱宮はそう言いながら水を飲んだ。
「本当に美味しいですから楽しみにして下さい。」来翔は低温揚げ製法により、肉の旨みを最大限に引き出す揚げ方を師匠から伝授していた。それを受け継ぎ、師匠の手順通りにとんかつを揚げた。低温でじっくりと中に火を通し、肉が硬くならないようにした。
「そろそろ良いか。箱宮殿、もうすぐ完成ですよ。特製のとんかつをどうぞお召し上がり下さい。」
千切りキャベツの上に特製燻製とんかつを載せ、隣に付属のソースを置いた。
そして、その燻製好きにはたまらないとんかつは完成した。
「それでは、公爵が1度食べてみたいとおっしゃった洋風軒のとんかつ、審査させて頂きます。」箱宮は自前のフォークとナイフを用いてとんかつを切る。
そして特製とんかつを口にした。
「これは!素晴らしい。今までに経験したことの無い味だ。うむ。美味しいなぁ。よく、つけ麺やまぜそばではこのような物を食べるが、とんかつに燻製肉も悪くない。よし、これなら公爵にも食べられるな。」
「有難うございます。これからも洋風軒を宜しくお願いします。」
「いやぁ、これは大革命だ。素晴らしい。」
箱宮はとんかつを全て平らげ、帰って行った。
「有難うございます。またお越し下さいませ。」
来翔は深々と頭を下げ、彼を見送った。
師匠!やったよ。この店の料理を公爵に食べさせることが出来るよ。
来翔は自分のスマホで師匠に電話した。
「あぁ。来翔か。今日もお疲れ様な。俺はご覧の様だが、公爵に我が店のとんかつを食べてもらうまでは生きてやる。」
「師匠、実は今日、公爵の料理人がいらして合格を頂きました。あともう少しでこの店の料理が公爵の口に運ばれます。頑張って下さい。」来翔は師匠に報告した。
「おお!良かった。来翔、頑張るぜ。その時が来るまでな。」
師匠は喜んでいたがどこか悲しい雰囲気を感じさせた。
これが死が近づいている人の雰囲気なのだろうか。
紫の上を彷彿とさせる師匠の雰囲気。彼は男ではあるが、似ていると感じさせられた。




