5 日常そのよん
もちろん、神剣まで取り出してガチな感じのゆうちゃん、ユーハルトさんにビビっているのは暗黒竜だけではない。
ユーハルトは凍るように冷たい蒼の瞳をガクガクブルブル震えている元魔王のさっちゃん、サタンに向けた。
元魔王であるサタンのビビり具合は暗黒竜と同じか、それ以上なのである。
サタンは魔王として持つ力が暗黒竜なんかよりも強いので、神剣の浄化の力で存在が根こそぎ無くなってしまうかもしれないのだ。
そりゃもう恐ろしくてたまらないだろう。
ユーハルトさんが冷たい目のままサタンに笑いかける。
「……なぁ、二人を止めようとしたって言ってたよな、サタン」
「お、おう。止められなかったけどな……」
「具体的にどう止めようとしたのか、教えてくれるか?」
一見穏やかで、優しい声と言葉。
輝く金髪と蒼い双眸の容姿の彼は、まるでおとぎ話に出てくる優しい王子様のよう。
しかし、目が、目が笑ってないんだ!!
ーーヤバい、死ぬ。ゆうちゃんマジ怖い。
((((;゜Д゜)))ガクガクガク
サタンの心境はこんな感じである。
「心配するなよ、殺したりはしないから。な?」とか言われても怖い。
正直言って、魔王城で闘った時よりもこの笑顔のゆうちゃんの方が怖かった。
勇者なのに何か黒いオーラが見えてるような気がする。
そんなに長い付き合いではないが、凶器をためらいなく突きつける辺り、相当怒ってるのがわかる。
「ゆ、ゆうちゃん謝るから、謝るからさっ、ちょっと神剣をしまってくれない!? 俺、それが近くにあると気分悪くなるんだよね!これでも魔王だったからさ!?」
「そういうのは答えになってないと思うけどな?」
片方の眉を上げて不満そうに半眼になるゆうちゃん。
それでもやりすぎたという自覚はあったのか、左手で髪をくしゃりとかき上げると、神剣セルリーフェルを一振りして手品のように手元から消した。
同時にゆうちゃんから発せられていた氷のような鋭い威圧感も消え、穏やかな元の雰囲気に戻っていく。
「まーとりあえず、お腹空いたし続きは家でやるからちゃんと付いてきてよねー」
朝ご飯作ってあげるからさー、と肩をすくめてスタスタ歩き出すゆうちゃん。
気のせいだろうか。神剣しまって通常モードになったはずなのに、ゆうちゃんがなんだか怖いぞ。
言外に逃げたら殺すって聞こえるのだが。
「「「…………………」」」
無言で顔を見合わせる三人。
暗黒竜が逃げだしたそうにサタンを見る。
けれどサタンは首を横に振った。
ーーこれ以上は本当に殺されるーー!! と、直感で理解したからだった。
これだけ散々やらかした挙句に逃走なんかしたら、それこそゆうちゃんに三人まとめて討伐されてしまうだろう。
勇者から討伐されるとか、洒落にならない。
大人しくゆうちゃんに従っていた方が身のためだ。
それでも暗黒竜ギアルド=クルールはちらちらこちらを見ると、「一緒に逃げ出したい」とジェスチャーを繰り返す。
それにつられて、俺も逃げようかな、とサタンは思った。
しかし、そんな考えが表情に出ていたのか、聖龍アヴァロンが声を潜めて残りの二人に言った。
「魔王に忠告とは気が進みませんが……女神の使いとしての情けです。忠告して差し上げます。 いいですか?例え勇者様が今どんなに怖くても、絶対に逃げ出してはなりません。 ……今の勇者様から逃げ出したら、多分ボロボロにされて一週間は歩く事も出来なくなるでしょうから。 あの方は意外とマナーやルールに厳しい方なので」
「マジ……?」
「マジです」
思っていた事を端的に告げられ、しかも、真面目な顔をして恐ろしいことを言う。
アヴァロンはゆうちゃんとは長い付き合いらしく、もったいぶることもなく淡々と続ける。
「ボロボロにされるならまだいい方で、ボロカスにされた挙句に“勇者式マナー講座”を開かれてしまうかも知れません。ああ恐ろしいっ」
がたがたと身を震わせる聖龍アヴァロン。
その怯え方は尋常じゃない。
“勇者式マナー講座”ってなんだ。何でそんなに怯えるんだ!?
問いかけたいのに聖龍アヴァロンは目を合わせてくれない。
何が起こるのかを聞いても、恐ろしくて言えない!の一点張りだった。
結局怖いものはさっさと済ますに限る、ということで意見が一致した。
しかしそこに忍び寄る死神の影。
「ねえ、早く来てくれるかなー?」
ーーあれ、何でゆうちゃん拳握り締めてるの? 何でそれを地面に振り下ろそうとしてるの?
三人の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。それは現実を見たくないが故だった。
ニッコリ笑ったゆうちゃんの拳が、とんでもない速さで地面に叩き込まれる。
一瞬そこの地面が跳ね上がりーー
ドッカンッ!!
「うおぉおおぉっ!!?」
うわあ……、地面が、否、大地が揺れた。
勇者の一撃は大地を震わすって伝説、あれ本当だったんだ。
動きの遅いさっちゃん達にしびれを切らしたゆうちゃんが叩き込んだ一撃は、畑を傷付けないという器用さをもって、地面を震わせた。
当然、長時間の正座で足が痺れている三人を吹っ飛ばすという結果を伴って。
「ぐ、ぐおぉ……っ!し、痺れる……っ」
「ま、負けぬ!我は暗黒の、最強の竜……」
「勇者様、私に酷くないですか……でもそんな貴方も……」
「もー三人とも、正座くらいで情けないなぁ」
普通に苦しむ元魔王サタン。歯を食いしばり耐え抜く暗黒竜。ほんのり顔を赤くしてマゾっ気のある聖龍。
三者三様の阿鼻叫喚。
足を抱えて悶絶する三人を遠くから見て、額に手を当てユーハルトはため息をついた。
だが本人達にとっては笑い事じゃないのだ。
その証拠にもうしばらくは動けそうにない。
転げ回るものだから、服も土まみれになっている。
「あーあ、これ、お風呂の用意もいるなぁ」
おれのせいでもあるんだけどねーなんていいながらゆうちゃんは、三人がしばらくは動けそうにないのを見てとると、三人の襟をつかんでずるずると家までひきずって行くのだった。
今からお風呂とご飯の時間である。
あんまりお説教はしてないですね
結局力技だったというオチ?
なんだかんだで力は凄いんです2人、いやこの4人(๑>ᴗ<๑)