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幼女=神?

「我が神じゃ。貴公ら、頭が高いぞ」


 光が収まり、三人が再び視界と平衡感覚を取り戻すと、寸分違わぬタイミングでその声は耳に届いた。どこか癇に障る甲高い声に、リシエは眉根を寄せる。

 それは、どこかほの暗い奈落の底。少なくとも、人工的な暗さではないことは一目瞭然であった。果てがあるのか、ないのか、それすらも分からない。足下すら見えないのだ。目に映るのは、リシエ自身を含めて三人と、先程声を発した見知らぬ幼女だけだった。

 ショッキングピンクの目が悪くなりそうなドキツい色をした髪をツインテールに纏め、ブルーと琥珀のオッドアイ。身長はリシエよりもさらに低く、百四十センチあるかどうかも怪しい。ともかく、声の主は、そんな見るからに怪しい幼女であった。そのくせ、嫌でも人の目をを引く髪と瞳を併せ持ちながらも、百人中百人が美しいと認めざる終えない程、神々しいばかりに顔の造形が整っている。

 リシエも数瞬幼女に見とれ、すぐに首を振った。そして、思考を高速で回転させる。


「…………」


 蓄積させてきた長年の経験から、リシエは少々のことで冷静さを失うことはない。自分の身に起こった事態をリシエは正確に把握してもいた。

 リシエ、エデ、ロザリーの三人は、何者かに転移させられた。その何者かこそ、目の前で傲慢さを隠しもせずに胸を張る幼女であるのだろう。

 しかも、自称神ときた。ほとほと自分は神と縁があるのだと、リシエは嘆息する。


「どうした!? 神前であるぞ! いつまでボケーとしておるのじゃっ!」


 キィーキィと赤子のように叫ぶ怒鳴り声に、エデも不快そうに表情を厳しくする。しかし、こんな状況でも一切動じない――――いや、状況を理解しようともしていない少女が一人いた。

 ロザリーはニヘラッと相好を崩すと、瞳を輝かせて自称神の幼女に近づく。


「か、可愛いっ! あなた迷子なの? お母さんは?」


「ひっ」


 目にもとまらぬ早さでロザリーは自称神の幼女の背後に回り込み、その肩を抱いた。その動きはすり足であり、一切距離感を感じさせない見事な動きだと、リシエも感心する。


「ぶ、無礼者!」


 自称神の幼女は冷や汗を流しつつ、バッと振り返ると、ロザリーに右手一閃。


「っ!?」


 神速の右手がロザリーの首筋に打ち込まれ、ロザリーは抵抗する間もなく意識を刈り取られてしまう。その動きは技術でもなんでもなく、ただ早いという一語につきた。才能や、まして努力などでは到底たどり着けない域に自称神の幼女が君臨することを認めざる終えない。


「お姉様……」


 警戒心を最高潮に高めながら、エデがリシエの前に陣取る。

 遊びをなくした自称神の幼女がこちらを振り向くと、エデの痩身が僅かに震えた。


「……っ……くぅっ!」


 生理的な恐怖。エデの身体が危険信号を発しているのだ。決して敵に回してはいけない相手を前にしている……と。必然、エデはかかしのようにその場に縫い止められる。

 その背後から、


「自称……って訳でもないみたいね」


「ほう? ある程度手加減しているとはいえ、我の殺気を受けてなお、そんな生意気な口を叩けるか」


 堂々と相対するリシエに、感心するように神は口笛をならす。こうして真っ正面から向き合っているだけにも関わらず、リシエは身体が潰されてしまいそうな圧を感じている。じりじりと、肌を焦がすような焦燥感が沸き上がり、いても経ってもいられなくなる。

 チラリとリシエはエデに視線を送る。エデは意識こそあるものの、身体の震えは顕著になってきており、今にも意識が飛んでしまいそうだった。


「…………頃合いか」


 リシエは小さく呟くと、両腕を上げて降参を示す。


「降参よ、神様」


 すると、ふっと夢か幻のように、圧が消え失せた。エデがその場に膝を突いて息を荒げる。リシセはエデにそっと寄り添うと、その背を優しく撫でた。


「落ち着きなさい。大丈夫、大丈夫よ」


「は、はい……。も、申し訳ありませんっ……お姉様っ」


 エデは悔しげに唇を噛みしめた。プライドの高いエデには、何かをするどころか、一歩も動けなかった現実は受け入れがたいに違いない。

 やがて、エデの息が整ってくると、エデはロザリーの元へと駆け出す。


「ロザリー!」


 いつになく焦った様子でエデは意識のないロザリーを抱き起こすと、脈と呼吸と確認した。


「……良かった」


 脈と呼吸は正常。気を失っているだけである。エデは露骨に胸を撫で下ろした。リシエはエデが確認するよりも大分前から分かっていたが、何か一言、エデに声をかけようとして、やめる。カツカツと爪先を規則的に床に叩き付ける音が連続して響いていた。エデがロザリーの頭を自分の膝に乗せるのを見届けると、改めて神と相対する。


「お待たせ。話があるんでしょう?」


 早く言いなさいとばかりに、リシエが促すと、神の額に青筋が浮かんだ。

 

「……生意気な……」


 甲高さは鳴りを潜め、怒気を凝縮したような低い声色。


「さっきは降参していたのに、どういうつもりじゃ?」


「さぁ? 状況が変わったんじゃない? たとえば……立ち位置とか」


「……舐めおって……」


 リシエの挑発に、神はあっさりと乗ってくる。随分と短気な神もいたものである。


「…………まぁ、よい」


 だが、さすがは神と呼ぶべきか。神は拍子抜けするほどあっさりと怒気を収めた。


「話があるのは事実じゃ。我も暇ではない。早く済むならば、それに越したことはない」


 神の視線が、リシエの背後――――エデとロザリーに向けられる。


「元々我が用があるのはあっちの小娘二人じゃしな。貴様はただの付属品にすぎん」


「どういう意味?」


 訝しげに、リシエの瞳が細められる。


「そのままの意味じゃ。我が召喚したのは後ろの二人。貴様はたまたま召喚陣の範囲内にいただけ」


 リシエは軽く思い返す。


「ああ……確かに……」


 確かに、足下に現れた転移陣はエデとロザリーを中心に展開されていた。だが、リシエはそんな事はどうでもいいとばかりに、話を促す。


「で? 肝心の呼び出した内容は?」


「貴様には関係がない……と言いたい所だが、ここへ来てしまった以上は仕方があるまい。一応こちらの落ち度でもある事じゃしな。まずはそこの片割れの目を覚まさせよう」


 神が指先に魔力を込めるのを感じ、リシエはそれを制止した。


「あ、それには及ばないわ」


「なに?」


 神は怪訝そうな顔を浮かべる。

 リシエは端的に理由を説明した。


「あの子頭はよくないのよ。お馬鹿な発言して、貴女の機嫌を損ねて、怒られるのを見るのは忍びないの。とっても良い子ではあるんだけどね」


「…………」


 神はエデに視線を向ける。エデはリシエの言葉に同意するように何度か頷く。神は額を手で覆い、重々しい溜息を吐いた。


「……我も頭の悪い女は好かん。その小娘は寝かせておこう」


「分かってくれて嬉しいわ」


 リシエはニッコリと笑う。神は馬鹿にされていると思ったのか、小さく舌打ちするも、すぐに意気を取り戻して話を続けた。


「貴公らを呼び寄せたのはとある国を守護して欲しいからだ」


「守護?」


 話がいきなり飛躍し、リシエは頭が痛くなった。だが、事細かに突っ込むのも時間の無駄だ。リシエはとりあえず先を促した。


「貴公らの世界とは別次元にある世界には、いくつもの国があり、それぞれが自国で英才教育を施した【逸脱者ブレイカー】と呼ばれる戦の天才達がおる。昔は逸脱者を旗印に直接戦争の場でぶつけ合っておったのじゃが、最近になって様相が変化してきた」


「変化……ですか?」


 エデが口を挟む。多量の警戒と微量の恐怖。エデは物腰は基本的に柔らかいが、誰にでも敬語を使ったりはしない。先述した通り、プライドが高いのだ。そのエデがこうもあっさりと気圧される。さすがは神といった所であろうか。

 神はエデに「うむ」と大仰に頷くと、話を続ける。


「初期は国によって大きな力量差のあった逸脱者じゃったが、代を重ねるごとに英才教育の手法が確立し、戦力が均等化、それによって戦力の均衡を招いた」


「良いことじゃない」


 リシエは言った。

 リシエの言うとおり、戦力が均衡すると言う事は、戦争が頻発しない事を意味している。そもそも、戦争なんてものは、単なる野心などに端を発する侵略を除いて、外交失敗の尻ぬぐいでしかない。つまり、お互いの利に合うような条件で合意できなかった場合に陥る失敗の産物なのだ。戦力が均衡化し、互いに容易には手が出せなくなれば、多少の妥協が必要になってくるだろう。しかし、平和のためには、その妥協こそが重要であるのだ。

 幸か不幸か、その妥協を引き出した神の言う所の異世界の現状は幸運だと、リシエは内心思った。


「まぁ、それについては同意しておく」


 神もリシエと同じ心情であったらしく、頷いた。しかし、その表情はどうにも晴れない。何か裏があるのだと、リシエとエデは察した。そもそも、裏がなければ三人が神に呼ばれるはずもない。


「実はな……」


 神の声のトーンは若干変わる。恐らくは、ここからが本題であるのだろう。


「異世界のとある国……ガレリアというのじゃが……そのガレリアで何者かが逸脱者及び候補生合計八名を暗殺する事件が起こったのじゃ」


「……は?」


 エデが呆気にとられ、思わず声を漏らす。


「戦力は均衡しているのではなかったのですか?」

 

「……うむ。そうじゃった。そうじゃったはず……なのじゃ」


 神は首を捻った。まるで、得心いっていないかのように。


「なるほど……ね」


 リシエは唇に人差し指を押し当てる。リシエが思案している時の癖だった。


「ようするに、神である貴女ですら、未だ全容は把握していないということね」


「…………その、通りじゃ」


 苦渋に満ちた表情で、神は肯定した。逸脱者と呼ばれる天才達が束になっても敵わなかった相手。まして、神ですらその正体は把握していないという。考えるまでもなく、危険な相手であることは間違いない。


「で、その相手を私達にしろと?」


 リシエが冷たく神を睨む。神は僅かに顔を逸らした。どうやら、罪悪感に似た感情はあるようだ。


「我々……貴公らに【神】と呼ばれる存在は、特殊例・・・を除いて地上に介入することができん。物理的に無理なのじゃ。我々は、そのようにはできていないのじゃから」


「そのようにはできていない?」


 リシエはその言い方が気になった。まるで、神が何者かに創られた存在であるかのように感じた。

 リシエの疑問を察したのか、神は先回りして答える。


「貴公らの疑問の通り、我々は厳密には神ではない。神という名前、機能と役割を与えられた手足にすぎないのじゃ。そんな我々に与えられた役割とは、人間を見守る事。ただ、それだけなのじゃ」 

 

 神は沈痛な面持ちで語る。

 人間を見守るだけの存在。それが神。であるならば、リシエ達三人が呼ばれた意味も、自然と理解できてくる。


「私達はあなたの手足として呼ばれたって訳ね」


 リシエ達の言う所の神の上には、さらなる超常的な存在がいる。その手足が神であり、リシエ達はさらにその手足。リシエとエデは、なんとも言えない複雑な気分になる。   

 とりあえず、事情は分かった。分かったが、一つだけリシエには気に入らない部分があった。


「イライラするわね……」


 リシエは、堂々と悪態をついた。それを見て、神が目を見開く。


「な、なんじゃ!? その態度は! 創られた存在とはいえ、我が神であることに変わりはないのじゃぞ!」


 神が喚き散らす。しかし、リシエには分かる。神の態度はすべて虚勢、あるいはプログラムでしかない事が。神としての人格に縛り付けられた哀れな幼女にしか、リシエにはもう見えなかった。本物の神とは、こんなものではないのだから……。


「神? 貴女が神だったら、何だって言うの? 所詮見ている事しかできないじゃない。そして他人に役割を押しつけるだけ。それで偉そうにされちゃ、溜まったもんじゃないわよ」


「…………っ」


 リシエは吐き捨てるように言う。いつの間にか神は涙目になっている。しかし、何も言い返してこない所を見ると、最低限の誇りはあるらしい。


「異世界のパワーバランスが崩れる? そんなの私の知ったこっちゃないわよ。私が大事なのは私の国に暮らす国民だけ。正直、それ以外なんてどうでもいいのよ」


 本音だった。自分のために犠牲にしようとすら思った。決して嫌っている訳ではないが、興味がある訳でもない。

 神の――――いや、幼女の頬を涙が伝う。

 それでも、幼女は何か言おうと、キッとリシエに視線を向けた。


「わ、我が……役立たずなことぐらい……我が誰よりも理解しておる。しかし……しかしっ! もうあの世界で大勢の人達が争い合うなんて見たくないのじゃ! 何年経っても、何十年経っても、何百年経っても、殺して殺して殺してばかり! もうそんな繰り返しは見とうないんじゃ! うんざりなんじゃっ! だから――――っ!!」


 幼女は膝をついた。涙は溢れ、足元の底知れない虚無の中に落ちていく。幼女は身体を折り曲げ、リシエとエデに頭を下げた。


「お願いじゃっ! 助けてくれ! 何も永遠の平和などと無理は言わん! しかし、逸脱者を暗殺した存在を特定し、次の逸脱者がある程度育つまで、どうかガレリアを守護してくれぬか? この通りだっ!」

 

 額を闇の底へ押し付けるようにして、幼女は頼んだ。誠心誠意、それは幼女の持てるすべてだった。


「はぁ……」


 リシエは軽く息を吐いた。幼女へと歩み寄ると、その頭を撫でる。いつも、ロザリーにやっているように。


「言えるんじゃない……本音」


 その声色は、とても優しかった。母のいない幼女神が、思わず母を連想してしまう程に。 


「エデ? 国から私がいなくなったら、どうなると思う?」


 リシエは軽い調子でエデに問いかける。


「混乱に陥るでしょう。しかし、我が国はすぐ様立ち直ります。何の問題もないでしょう」


 間髪入れず、エデは答えた。自信満々に胸を張って、僅かに微笑みながら。


「それはそれで何か寂しいわね……。でも、ま、それだけ皆が優秀って事だから、いいか」


 ゼルシムには経験がある。吸血鬼は長命だ。人の一生を全うするくらいの年数ならば、吸血鬼としては、まだまだ若輩に当たる。そんな経験豊富な人材がゴロゴロといるゼルシムだ。心配には及ばないだろう。  

 幼女神の言う守護にどれだけの時間がかかるかは定かではないが、長くても三十年といった所だろう。リシエ達にとって、その時間はたいした意味を持たなかった。

 リシエはエデの方へ向いて、言う。


「元々呼び出されたのはエデとロザリーよ。貴方達はどうしたい?」


 問われて、エデは吹きだす。可憐な笑みだった。


「逆にお聞きします。もし、私が行きたくないと言ったらどうするのですか?」


「そんなの決まってるじゃない」


 リシエはニッコリ笑う。聖母を思わせる柔和な笑み。どこまでも女性的な柔らかさを湛えながら、リシエは断言する。


「却下よ……却下!」


「なら仕方ないですね……お姉様、私はガレリアを助けたく思います」


「そう、良かった。あとはロザリーだけど……」


 ロザリーは相変わらず意識を失ったままだ。エデの膝の上で時折寝転んだり「あー」だの「うー」だの呟いている。実に幸せそうな寝顔であった。


「聞くまでもないか」


「ですね」


 リシエとエデは顔を見合わせ、笑いあった。

 ロザリーに意識があったなら、きっと誰よりも早くガレリアを守護する事を決断しただろう。

 

「よい……のか?」


 顔を伏せていた幼女神がおずおずと頭を上げた。リシエは幼女神の脇を掴んで立ち上がらすと、目線を合わせて告げる。


「ええ、私達にできる事なら、協力するわ」


「うっ……うぐぅっ……ううぅっ!」


 幼女神はリシエの薄い胸の中で、号泣したのだった。







「よいか? 今から貴公らをガレリアに送る」


「おーーー!!」


 幼女神が宣言すると、意識を取り戻したロザリーが歓声を上げた。恐らく、ロザリーはこれから行う事の半分も理解していない。危険であることは十分言い含めたにも拘わらず、このテンションである。


「……馬鹿」


 そんな姉の姿を見て、妹エデは顔を手で覆った。二卵性といえども双子である。こんなにも性質の違う姉妹というのも、珍しいかもしれない。


「準備はいいわ」


 三者三様の反応を示す三人に、リシエは落ち着き払った視線を向ける。はしゃく子供を見守る母のように、どっしり構える姿には、余裕すら感じられた。


「では……」


 幼女神がその場で足を踏みならした。カツンという甲高い音と共に、リシエ、エデ、ロザリーの周囲を見覚えのある魔方陣が取り囲む。光が溢れ、周囲の闇が取り払われて照らし出された。


「っ!?」


「わぁ……」


 現れた光景に、エデは息をのみ、ロザリーは感嘆の吐息を零す。鮮やかな色彩を宿した花々で周囲は満ちていた。視認すると同時に、草木、美しい花の甘く濃密な香りがリシエ達を包み込む。風が吹き、リシエ達の門出を祝福するように花々は揺れていた。


「……なんで隠すのよ……もったいない」


 リシエが口を尖らせ、幼女神を軽く睨んだ。幼女神は頬を搔きながら恥ずかしそうに言う。


「……威厳がなくなると思ってな」


「ふふふっ」


 確かに、周囲が暗闇でなければ、幼女神は花の中に佇む可憐な乙女にしか見えない。でも、それこそが彼女に似合う本当の姿なのだろうとリシエは思った。

 発光が強くなる。リシエが自身の質量が曖昧になる奇妙な感覚を覚えていた。元より、転移、召還系の魔術は難易度においてレベルⅦの属する超高難度魔術だ。人間を一度分解して、別の地点で再構成するという荒技なのだから当然だ。失敗すれば存在そのものが消えてなくなる。ゆえに、信頼をおいていない者にリシエが転移を任せることはない。

 幼女神が本音を語らなければ、リシエは決して手を貸すことはなかった。しかし、最終的に幼女神は勇気を出して一歩を踏み出して見せたのだ。その伸ばされた手を振り払うほど、リシエは薄情ではないつもりだ。

 足下から、一時的に身体が分解されていく。身体が細かいブロック状に切り離され、それが虚空に消えていく。何度目にしても、慣れることのない光景。

  リシエは奇妙な感覚と光景を振り払うように、幼女神に声をかける。


「そういえば……」


「なんじゃ?」


「貴女の名前を聞いてないなって」


「ああ……」


 幼女神は恥ずかしげに頬を染めた。


「人に名を名乗るのは初めてかもしれぬ。人と会ったのは初めてではないが、大抵の場合、我はただの【神】であったからな」


「……そう」


 幼女神の心情を思うと、やり切れぬ思いも出てくる。いつか本物の神と出会ったら、殴り飛ばしてやろうとリシエは胸に誓った。


「我は……我の名は――――」


 リシエ達は光に溶けていく。その中で、その甲高い声は確かに三人に耳に届いた。


「我が名はレア。大地を守護する者なり! 我が友らに大地の祝福あらんことを!」



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