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進展

「なるほど……そんな事情があったのですね」


 深く納得したように、オリヴィアは頷いた。

 お風呂上がりで、少し水分に濡れた長い髪にタオルを巻きつつ、長い説明を聞き終えたオリヴィアは僅かに瞼を伏せた。


「やはり、あれは私の力ではなかったのですね」


 勇者召喚の件である。『神』の存在についても、大まかだがリシエは嘘偽りなくオリヴィアに伝えた。可哀想ではあるが、リシエ達を召喚したのがオリヴィアではないという事実も……だ。


「……そんな予感はしていたのです。魔術が成功した手応えが何もなかったのですから……。まるで自分の手柄のように話す私は、きっと皆さんからすれば滑稽に見えた事でしょう。本当にお恥ずかしい限りですわ……」


「いえ、そんな事は……」


 気の毒そうに、エデがオリヴィアから視線を逸らした。


「そうだよ! オリヴィアは全然悪くないっ!」


 相変わらずオリヴィアに抱きついたまま、ロザリーも必死にオリヴィアのフォローをする。


「……そうね。二人の言う通り、私達は別に貴女を貶めたりする気はないの。それは分かってくれるでしょう?」


「は、はい。それは、もちろん……」


 やんわりと、しかし有無を言わさぬ口調でリシエがそう言うと、オリヴィアは、はっとしたように自嘲した。


「……子供のような事を言って、本当に私は何をしているのでしょう」


「無理もないわ。貴女にとっては予想だにしない出来事が立て続けに起こっているんだもの」


 繁華街への蜘蛛の襲来、ロザリーとのやりとり、吸血鬼、そこへ神ときた。オリヴィアが混乱するのは当然と言えるだろう。むしろ、リシエには彼女が落ち付きすぎている風にさえ見える。


「そう言って頂けると、救われますわ」


 堅い表情ながら、オリヴィアが微笑む。その無理をしているはずの笑みはものすごく自然に見えて、彼女が笑顔を作り慣れているのだという事実がリシエにはよく分かった。


「話は変わるのだけれど、貴女に一つ、聞きたいことがあったの」


 リシエは表情をキリリと引き締める。釣られて、オリヴィアがベッドの上で慌てて姿勢を正した。しかし、オリヴィアの腰に絡みついたロザリーのせいで、あまりにも間抜けな絵面である。


「はい。なんなりと」


 リシエの立場については、説明の中で軽く触れてある。それを口外しない事、態度を変えないことを約束してもらったものの、やはり多少の影響は出てしまっているようだ。


「繁華街に出た大蜘蛛なんだけど……ああいった事は頻繁にある事なのかしら?」


「……いえ、あんな事は普通ありえない事ですわ。この王城、そして繁華街、その外側には城壁で守護されております。また、もちろん城壁付近の至る所には衛兵が控えております。それらに気付かれずに繁華街に……それもあんな巨大なモンスターは出没するなど……」


「まぁ、そうよね」


 それは市民達の秩序なく逃げ回る姿から、リシエにはだいたいの想像はできていた。

 だが、重要なのは、その意味する所である。


「なら、あの大蜘蛛を繁華街に招き入れた奴がいるってことよね?」


「……恐らくは」


 オリヴィアは重々しく頷いた。この国の情勢に、リシエ達よりも遙かに詳しい彼女にしてみれば、当然の帰結なのかもしれない。


「【逸脱者ブレイカー】殺しの可能性も十分考えられるわよね」


 逸脱者ブレイカー殺し。

 リシエ達がこの国へとやってくる元凶となった存在。

 正体不明の暗殺者であり、判明している事と言えば、凶器がナイフという事だけ。


「しかし、確証はなにもありません。なにせお恥ずかしながら、今のところお役に立つ情報が何一つ得られていません」


 はぁ、とオリヴィアが息を吐く。己の無力さを嘆くように、拳が強く握りしめられている。その手に、心配そうにロザリーが手を重ねた。

 

「あの……」


「ん?」


 エデが挙手する。


「発言、よろしいでしょうか?」


「……何よ、他人行儀ね」


 リシエは呆れたようにエデの脇腹を小突く。

 そのやりとりにオリヴィアが笑い、空気がほんの少しだけ緩和した。


「……では。お二人のお話を聞いて感じたのですが、やはり今回の件は逸脱者ブレイカー殺しの線が強いのではないでしょうか?」


「……どうしてそう思われますの?」


 オリヴィアがエデに問う。

 進展のない捜査への苛立ちからか、微量の期待がそこにはあった。


「確信がある訳ではありませんが……あと、その前に一つオリヴィアさんに質問です。この世界で主流になっている情報伝達手段は何でしょう?」


「手紙と……あとは魔術的な、使い魔を使ったやりとりです」


「それは相手に届くまでにどれくらいの期間がかかりますか?」


「早くて三日。天候や、様々な状況を考慮すれば七日程度でしょうか」


「ありがとうございます」


 エデは満足げに笑った。

 そして、話を続ける。

 

「私達がやってきて二日。この国の逸脱者ブレイカーが殺害されて今日で五日目になります。逸脱者いつだつしゃ殺しの目的は分かりませんが、何者からかの依頼だとすれば、殺害後にすぐ手紙なりなんなりを使って、依頼主に結果を報告したはずです」


「でしょうね」


 リシエが腕組みして頷く。


「もし仮に、お姉様が逸脱者殺しだとして、お姉様は殺害後すぐに国から発つでしょうか?」


「……そうねぇ。正体が判明しているのでなければ、数日は止まるでしょうね。その後の国の反応も気になるし、何よりも殺した相手が影武者だったり別人だったりする可能性は決してゼロじゃないもの」


「ええ、私もそうすると思いますわ」


 リシエの言葉に、オリヴィアも同意を示した。

 エデは寒気のするような冷笑を浮かべ、言った。


「ならば、まだ逸脱者ブレイカー殺しはこの国に止まって可能性が高いのではないでしょうか?」


「ああっ!?」


 オリヴィアが大声を上げた。


「逸脱者殺しが万全を期そうとしたならば、あらゆる情報を集めたはずですわ! そこで逸脱者殺しは知ってしまったのです! 勇者様方の存在を!」


 続けてリシエが、


「相手は大蜘蛛を誰にも見つからずに繁華街に突如出現させた……もし、姿を隠すことに特化しているなら、機密情報を探るなんて朝飯前でしょうね」


「はい、ですが、今の所は私の語ったことのほぼすべてが推論にすぎません。逸脱者ブレイカー殺しがただの愉快犯である可能性も、十分すぎるくらいに残されていますから」


「確かにそうですわね……でも、元々私達に確証所か手がかり一つなかったのです。国内に怪しげな人物が潜んでいる可能性が高い……それだけでも十分な進歩ですわ! ありがとうございますっ! エデさんっ!」


 オリヴィアの表情が、糸筋の光明を見いだした事で明るくなる。ロザリーはどことなく不満げだが、今度は口を挟むことはなかった。


「だったら話は早いわね。私達の今後の目的は、大蜘蛛を国内に持ち込んだ人物を捉えることって訳ね」


 リシエが議論をまとめ、


「謎の人物を捉えるのはそれほど難しくはないと思われます。逸脱者ブレイカー殺しの目的はともかく、どうやら私達の存在は好ましく思っていないのは事実のようですし」


 エデが補足し、 


「では、これからも折りを見て外出することにしましょう。もちろん、民に被害が出そうにない場所が好ましいですわね」


 オリヴィアが結論づける。


「わーいっ! オリヴィアと外出だー!」


 そして、その雰囲気をロザリーは見事にぶち壊す。

 様式美じみた、見事な流れであった。


「あなたっていう子は……」


 完全に調子を取り戻したエデが呆れたように顔を手で覆う。


「まぁ、リラックスしなさいってことよ」


「ですわね! ……ふふふっ!」


 目的が見える。先が見える。

 それは、生きとし生けるもののモチベーションを維持する上で、とても重要な要素だ。それは、リシエとて例外ではない。

 三人と一人は四人となって、新しい扉を開こうとしていた。その先にある苦難も知らずに……。

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