神様 ご挨拶
やり場のない怒りを持て余し、ムシュルデはイライラと歩き回り、気を落ち着けようと薫りよい茶を飲むも、またイライラと歩き回りを繰り返しながら、怒りの元凶達の帰還を待つしかなかった。
常時、悪態をついていたのは一人蚊帳の外にされた彼の心情からすれば致し方あるまい。
『暴走脳筋と暴走腹黒の極悪最凶コンビとか、ホント最悪!すっごく迷惑!周囲を捲き込む前提存在だって自覚して欲しいよね…ぇごはのぁっぐぁっ!?』
悪態をついていたムシュルデの頭頂部に背後からの踵落としが急襲し、ふらつき前に傾いたところを掬い上げるように拳が顎を打ち抜いた。身体が宙に浮き、そのまま失速…床に叩きつけられた。
『言いたい放題だな…言い残す事はあるまい』
『そんなに復活体験したいとは知りませんでしたわ〜』
『ごごごごめんなさいぃいぃぃーっ!』
極悪最凶コンビのご帰還であった。彼らは凄みのある笑顔で床に這いつくばったムシュルデを踏みつけていた。
因みに踵落としがカヒュデン、拳がフラミュルディである。
やるとなると一切の情けなく、容赦ない彼らの過去の諸々を知っているだけにムシュルデは即座に謝罪を口にした。
「あれは自称神の不審者…本当に神だったようだな。ヘタレ臭半端ないが」
「ふむ…何やら叱責されているようだが、下っぱか?」
「やられっぱなしだけど、何の神様なんだろ?弱そうだね〜」
恐怖に戦くムシュルデに精神的ダメージを加える声がした方へ身動き出来ぬながらも、どうにか視線だけを向けると己れを踏み折る勢いのそれぞれ脚の間から声の主は見えた。
ドーム状の薄い防御膜の中には例の三人の姿が見えた。此方の声は聞こえていないのか、好き勝手な意見を交わしている。
恐怖の二柱は彼らに背を向けている為、窺い知ることはなかったが悪鬼のごとき表情を見ていれば、また違った意見も出たかもしれない。
神と漸く認識はされたようだが散々な評価のムシュルデにのしかかっていた重圧がふいになくなった。怪しげに窺う彼に笑いを堪える二柱の姿が映った。
『人間にもヘタレ認定されてやがる…くくっ』
『笑ったら可哀想ですわ…ぷくくっ』
羞恥とともに怒りや情けなさ、恐怖が過ぎ去ったらしい安堵やらが一瞬のうちにムシュルデのなかを駆け巡った。
言葉もなく青くなったり赤くなったりの彼の様子に堪えるのも限界と、爆笑に身を捩るカヒュデンとフラミュルディだった。
『そんなに笑うなんて酷いよ……』
『久々に大笑いしたぜ!』
『あそこまで私達を笑わすなんて稀有な事ですわ〜』
『……ホント酷いよね…』
太刀打ち出来る訳もないとガックリ首を落とすムシュルデに構わず、カヒュデンとフラミュルディは此方を面白そうに見ていた三人に近づいて行った。
防御膜に手をかざし、内側にソファーを出現させ彼らに座るように促した。
『ここからは此方の声が届くようにするからな』
『紹介するから、少しはシャンとしなさいな』
項垂れていたムシュルデは慌てて背筋を伸ばし、何の緊張もなくソファーに寛いでいる三人の元へ小走りに駆けていった。
『お待たせしましたわね〜』
「いえ、楽しく拝見してました」
『やっぱり面白かったよな!』
「ところで、俺達は精神体のみで喚ばれたとの事でしたが、何故ソファーを?」
『気分だ、気分!精神体でもボーッと突っ立ったまんま話をするより座ってた方がいいじゃねぇか』
「なるほど…お気遣いありがとうございます」
『……紹介するんじゃないの?』
兄貴系の発言に地味にダメージを受けたが、軌道修正を試みるムシュルデの本心はこれ以上のダメージ回避だ。
わかっているであろうカヒュデンだが、からかう事はなく、そうだなと話に乗った。
『長く此方にいるのもまずいし、話を進めよう』
『まずは紹介しますわね〜此方は銀城武人さん、悠佳さん、凜佳さん。三人は兄妹なのですわ〜そして此方がムシュルデ。一応、力ある神ですから下っぱではありませんのよ〜』
『ヘタレは否めんがな!』
男性二人が兄貴系と王子様系の順に武人、悠佳。女性が凜佳で兄妹か…そういえばカヒュデンが兄妹と言ってたなと思い出していたムシュルデは、余計な事まで付け加えられた己れの紹介に顔がひきつった。
「はじめまして…ではありませんが、神様としてはのご挨拶として。銀城武人です」
「悠佳です。因みに武人が長男、私が次男です。まさか、本当に、神様だったようで、失礼しました」
「凜佳です。残念な不審者扱いしてごめんなさい」
『…ムシュルデです。僕も突然部屋に行った事は悪かったし、ごめんね』
彼らの言葉に笑顔は更にひきつったが、何とか挨拶を交わすのをカヒュデンがニヤニヤと見ているのが視界に入り、ムシュルデは赤くなりそうな己れを叱咤した。
『さて!紹介もすんだし本題に入ろうぜ!』
お読み頂きありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。