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悠佳 怒りの降臨継続中

 優しげな悠佳の声音に赦しの光の幻を見たのか、すがる眼で振り仰いだ阿呆達の先には凄絶な笑みと身も凍る冷ややかな眼差し。そこに赦しなど端から無かった。

 あの優しい声音は何だったのか、騙されたとこの期に及んで尚、浅ましい考えが頭を過ったが、ふと目の前の男の有り様にそぐわない優しい声音がよみがえった。


『その頭は飾りじゃないだろう?飾りのようなら首から離して抱えてみるかい?』


 底だと思っていた絶望の底が抜けた。実際に落下するような浮遊感に肝が縮み上がるように、心の臓がまさしく引き絞られた如く息苦しさに喘いだ。


 死が直ぐそこにあった。


 容易く訪れる己れの死を回避する為に、漸く己れの言動を振り返り必死に考え始めた。

 皆が固唾を呑んで見守るなか、それぞれに答えに行き着いたのだろう居住まいを正した。深々頭を垂れ一呼吸後に上げた顔は緊張に強張っていたが、迷いはなかった。死地に赴く戦士の如く恐れと決意が入り交じった二対の瞳であった。


「……答えよ」


 厳かな響きを帯びた悠佳の促しに二人の阿呆の喉がグビリと鳴る。互いに見交わし、力自慢の阿呆が小さく頷きカラカラに渇いた唇を開いた。


「俺が先ず謝るべきは長老に対してです。鍛練の杖は使う者のたゆまない努力によって成長し威力を増す。それを譲れなどと長老の努力の成果を掠め取る、驕った自分勝手な恥ずべき行いでした。すみませんでした」


 スヴェーニに向かいきっちりと頭を下げ、更に言葉をついだ。


「ジョーシルバー様や聖獣様に礼を欠いた態度ですみませんでした。俺の態度で集落の他の皆に迷惑かけてすまなかった。長老がハル様に頂いた杖を持っているだけで長老たる所以(ゆえん)にあらず。武器の強さ、力だけにに頼るは愚か。己れと周りを視る目を養えと親父が言ってたことを、俺は何にも分かっちゃいなかった」


 面前の悠佳、後方に佇む武人と凛佳、その側に控える聖獣達に順にしっかり頭を下げ、取り囲む仲間達に向かっても頭を下げた。

 俺様上等な悪タレ小僧であったとは思えぬ、潔い謝罪の姿であった。

 子の成長を見たかの和やかな空気が一瞬、ほんの一瞬流れかけたが、微動だにせず圧垂れ流し継続中の凛佳がすいと、もう一人の阿呆を指差したことで、再び空気が凍りついた。


「……答えよ」


 先の阿呆が続く阿呆に励ますように頷きを送る。緊張に蒼醒め強張ったままであったが、それに小さく頷きを返し前を見据えた。


「軽はずみに囃し立てすみませんでした!無礼な態度で場を乱し、ノリと勢いだけの考えなしの馬鹿野郎ですみません!」


 頭を地面にガツンッ!と打ちつける音がスヴェーニ、悠佳、武人と凛佳、両サイドを囲む獣人達へと五度響いた。

 先の阿呆よりも短い答えに、額からダラリと流れるまま頭を下げた阿呆と変わらぬ圧の悠佳を固唾を呑んで伺う。


「……それだけかい?」


 囁くように密やかな悠佳の呟きに、獣人達はひやりと氷の刃を首筋に当てられたように息を詰める。


「俺は馬鹿だから考えも上手い言葉も足りないけど、馬鹿なりに考えました!でもっ!俺の馬鹿のせいで集落の仲間達がどうかなっちゃうなら、頭を抱えてもいいっす!馬鹿な俺の頭だけで勘弁して欲しいっす!」


 ガバッと頭を上げ、真っ直ぐ悠佳を仰ぎ見る瞳は嘘偽りなく死を覚悟した者のものだった。

 チャラけたところしか見たことがないのだろう、見守る獣人達は驚愕に目を見開く。そして不安げに祈るような視線を決意の獣人と悠佳に交互に注ぐ。

 表情も変えず見下ろす悠佳に揺るがぬ眼差しの獣人。


「……潔いな」


 悠佳の冷えたままの顔にいっそ艶やかといえる笑み、唇が綺麗に弧を描いた。
















 

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