兄妹 興味津々―杖④
明けました。おめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
<(*_ _)>
1/23 加筆致しました。
待ち望んだモフモフの影ひとつすらなく、武人らはしょんぼりと肩を落とした。彼らも初対面であるからには諸にをあげての歓迎を期待しようもなかったし、してもいなかったが、遠巻きどころか姿さえ見えないことにガッカリしたのである。
「杖よ、我が元に!」
兄妹らの心情に気づくことなく、スヴェーニが地面に半ばまで突き刺さった杖に向けて声を張った。
落下衝撃でクレーターを生じた地面から、ズボッと勢いよく空中に抜け出た杖が木片や土塊を撒き散らしながらクルクルと旋回したかと思えば、飼い主を見つけた忠犬よろしくバビュンッ!と、スヴェーニに向かって高速で風を切る。
あわや激突かと見えたが、その軌道は僅かにスヴェーニの正面より右手側に逸れており、彼の横を通過するかの一瞬にガッシ!と右手で掴みとった。素晴らしい動体視力と反射神経である。
デキる爺……長老スヴェーニはバトントワリングよろしく杖を胸の前でクルクルと回すことで勢いをいなし、何事もなかったような所作で地にすっと杖をついた。流れるような一連の動きにおおー!と、兄妹達が感嘆の声とともに拍手する。
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【鍛練の杖】ー製作者ーハル
・鍛練するほどに重量、スキル威力が増大。
・スキルー暴風斬ー
・所有者固定ースヴェーニー
・破壊不可
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やっと間近に見ることが叶った杖をまじまじと鑑定し、成程納得とほうほうと頷く三兄妹。ぶっ飛んでいった後の杖にあるまじき大音響はスヴェーニのたゆまない鍛練による重量増加の賜物だったのだ。
獣人としては身体も小さかったスヴェーニの努力と強い信念によって、集落を纏める長老にまで大きく育った彼に対する拍手と笑顔を贈った。
「杖はワシの元へ戻った!皆、出て参れ!」
兄妹達からの称賛にスヴェーニは誇らしげに面映ゆい笑みを小さく浮かべて礼をとり、ゆっくりと頭をあげ、集落に向けて声を張った。
それに一拍おいて、彼方此方の建物の影からチラチラと辺りを窺うように幾つものケモミミが見え隠れするも、身を隠したままだ。ドキドキをかえせ!とばかりに兄妹達が半眼になる。
「戻ったと言っておろうが!早く出てこんか!」
『安全確認大事!』
しびれを切らしたように再度促したスヴェーニに対する答えが各所から息ピッタリに返された。スヴェーニの米神にビキリと血管が浮き上がった。
「ジョーシルバーご兄妹様方をお待たせするとは何事じゃ!」
恐ろしい鬼の形相で吠える彼の言葉に、集落は再び沈黙が訪れた。その一瞬後にはサワサワと幾つもの囁きが届く。
『またまた〜冗談きついっすわ〜』
『ネタとしても不敬ですよ?』
『とうとう耄碌したか?』
『え!お迎え近いの?!』
『惜しい人を……』
『……ちょーろーさま、しんじゃうの?』
『うわぁーん!やだよぅ!』
『……となると、ここは年功序列。あの杖はアタシが受け継ぐとしようかねぇ』
『婆さんにゃ無理無理!ここは若手一力自慢の俺が妥当だろ!』
『年寄りだと見くびるんじゃないよ!脳筋が!アタシだってまだまだ……ッ!あだだだだっ!』
『ぎっくり腰かよ!年寄りはポックリ逝かねぇように杖は諦めな!』
『年長者は敬いなさい。年を取るのは皆同じですよ』
『伸び悩みのオッサン世代の有難いお言葉に注目ぅ〜』
『…………これが若さというものか……死の淵を見るのも貴重な体験となるでしょう。感謝しなさい』
『返り討ちにしてやるぜ!』
『みんな、しなないでぇー!』
囁きはどんどんと大きくなり、やがて怒号が飛び交う有り様である。まさにカオス。
それにつれスヴェーニの米神に浮かぶ血管も急成長、絶賛増殖中だ。喉の奥からは雷でも飼っているかのような唸りが響く。
「……つべこべ言わずにとっとと出てこい!この馬鹿共があぁーーっ!!」
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怒涛の年末年始でした……銀城神社の御守りが欲しい!
嫌なことの後には良いことがあると信じたい!
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