兄妹 興味津々―杖①
12/1 誤字修正しました。
遥か遠くに飛んでいった杖の着地点で響いた音に、咄嗟に眷獣から飛び降りた武人と凜佳は音の方角と悠佳にすがりつき尻尾を盛大に振りまくりつつ号泣中のスヴェーニを交互に見た。
「……あれ、フツーに杖が落ちた音じゃないよね?地面もちょっと揺れたし」
「だな。ありゃ只の木の杖じゃないな。それ以前に杖なしで走ってたよな?ハルの名前を叫びながら抱きつく枯れモフ……ねぇわー」
面白いものを見つけたように凜佳が杖の落ちた方へ行こうとするのを襟首ひっつかまえて留めた武人は、至極ご満悦に老いた獣人をモフる悠佳に生温い視線を送り、ねぇわー……と溜め息混じりにもう一度呟いた。
「まあまあ、その様におっしゃいますな。主様方にお会いできた喜びを抑えることなど出来よう筈もございません。我も同じでござった」
長きにわたり待ち続けた自分と重ね合わせたのだろう、紅月が貰い泣きしながらスヴェーニを温かく眺める。
「そうですよ!しかもハル様が己れを知り名をも呼ばれたら感激で泣いちゃって当然です!年齢関係なく尻尾だってブンブンしゃいますよ!」
疾風はふさふさ尻尾をパタパタさせて嬉しそうだ。
「気持ちは分からんでもないが、視覚的になぁ?」
旗色悪しと、苦笑いの武人は凜佳に同意を求めるようにチラリと視線を送る。
「モフモフに老若男女関係なし!善悪だけが問題よ。スヴェーニは良いモフモフ。あたしはアリね……タケにぃ、モフモフの見た目に惑わされるとは愛と修行が足らぬな!目で見るんじゃない!感じるんだ!」
「お、俺はモフモフの何も分かっていなかった!今の言葉で目から鱗が剥がれた心地だ……はっ!これが開眼というものか!師匠、心を入れ換えモフモフ道に邁進致します!」
「弟子よ、気づきもまた一歩なり。モフモフに励むがよかろう!」
「師匠ぉーっ」
フォローは差しのべられなかったが、二人とも楽しそうだから問題ない。何時ものオフザケというやつである。紅月と疾風は吃驚していたが、紫鋼は呆れたふうにヤレヤレと首を振った。
「大体があの爺いの足腰弱るなど、禍つ獣が花園でキャッキャウフフの花冠くらい有り得ぬでしょう。スヴェーニの杖は武器ですよ。しかも、ハル様特別製の…………散々自慢しまくった杖を放り投げるとは!あのくそ爺いめ!」
話始めは穏やかだったものが、突然スイッチが入ったかのように紫鋼は咆哮混じりにスヴェーニを罵りだした。これには武人と凜佳が吃驚した。牙を剥き出しての罵詈雑言をガルルと放ち続ける紫鋼に解説は無理と踏んだ彼らは紅月と疾風に説明を促した。
「この世に僅かに伝わるハル様製の武具や魔道具はまっこと見事でございます。その中には所持使用が個人限定されている特別な品が幾つか存在しましてな。その幸運を得た者のひとりがスヴェーニでござった」
「主様方の夢を見る者に稀に授けられるみたいです。虹色の眩い光から語りかけられる夢らしくって、スヴェーニもそうしてあの杖を授かったと聞いています」
武人と凜佳は紅月と疾風の言葉になるほどと思った。地球にいた彼らとこの世界に生きる者達との関わり方の一端が夢の中での邂逅であったのだろう。妄想エピソードの全てが夢の中は到底無理がある。夢以外の関わり方が気になる主達には気づくこともなく眷獣達の話は続けられた。
「紫鋼がその事を聞きつけてスヴェーニに会いに行ったら、ものすごおーっく!自慢されたらしいです。紫鋼すっっごく怒ってて怖かった!……で、でも、俺はな、泣いたりしなかったよ!」
「我と疾風が宥めるも紫鋼の怒り納まらず、荒れに荒れまして。側におれば八つ当たりが酷うござったため我ら避難……いや距離をおいて見守るしか出来ませなんだ……そうそう、その時に例のニョロニョロに遭遇したのではなかったかな?のう、疾風」
「そ、そうだったね!あれをやっつけたらスッキリしたみたいで、落ち着いたよね!……あの時の紫鋼も怖かった!」
「何やら思い悩む様子もござったが、荒れ狂う咆哮に安眠を妨害されることがなくなり我としても安心したものです」
疾風、泣いちゃったんだーの微笑ましげな主達の視線に、紅月がフォローするもバレバレである。それはそれで不器用さが微笑ましいものであったが、紫鋼より安眠に重きを置くのは如何なものか。そもそも悠佳製の杖が原因だ。紫鋼が荒れ荒ぶとはスヴェーニはどれ程自慢したのだろうか。
武人が生温い思いで二頭を撫でる傍ら、凜佳の気になったのは紫鋼のニョロニョロの呪い(※紫鋼の思い込み)に話が繋がっていることだった。詳細を誤魔化したくらいである。憂さ晴らしにここぞとばかりに盛大に鬼畜っぷりを発揮したに違いない。八つ当たりされた紫龍の運のなさに気の毒になる……なんていう気持ちは欠片も浮かばず、『血湧き肉踊る現場!勘違いニョロニョロの阿鼻叫喚!是非見たかった!』であった。
そこまで紫鋼が荒れる原因となった杖が俄然気になるのは致し方ないことだろう。凜佳がソロリと杖が飛んでいった方向へ体重を移動したと同時に、ガシッと武人の掌が彼女の前頭部を鷲掴みギリギリと締め上げる。所謂アイアンクローである。
「どーこーへ行こうとしてるのかなぁー?」
「ーーーッッ!痛い痛いってぇッ!」
「痛くないと意味ないだろうが!」
「ちょっ!頭割れるッッ!自分の脳髄とこんにちはっするぅーーーッッ!!」
「パカッとしやがれ!俺もこんにちはっしてやるわ!いっつも興味あるもんに後先考えずフラフラフラフラしやがって、どんな脳ミソかいっぺん見てぇわッ!」
「い、妹の中身を見たいとはーっ、なんてハレンチなーっ!お巡りさんコイツです!」
「……まだまだ余裕だな、おい!!」
ギリギリギリギリギリギリギリギリ!!
「ーーーッぁだだだッッ!」
大騒ぎの二人を『兄妹仲がよろしいですな』と嬉しげな紅月とオロオロしている疾風。あまりの騒々しさにスヴェーニを撫でていた悠佳が騒音元たる兄と妹に顔を向けた。その眉間はひそめられている。
「私とスヴェーニの感動的な出会いの一時をかしましく邪魔するな」
「お前が言うな!そもそもお前の杖が原因だろうが!」
ギリギリギリギリギリギリギリギリ!!
「ーーーいッッだだだッッ!!怒りコッチきてる!ハルにぃにぶつけてぇーーッ!」
「あ、すまん」
お読み頂きありがとうございます。
ブックマークもありがとうございます。
アレルギーと風邪の二重苦に苦しむ今日この頃……乾燥は敵です!
(´;ω;`)




