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兄妹 集落到着

10/17 加筆しました。

「さぁ行こう、すぐ行こう!悪いモフモフが私を待ているっ!」


「いやいや、悪いモフモフと決まった訳じゃないからな?」


「良いモフモフかもしれないよ?まぁ、あたしは半々と予想してるけどー」


 悪いモフモフ調教……いや、成敗……兎も角、獣人の集落へ向かう事に気持ちのまま勢いづいた悠佳がヒラリと疾風に飛び乗り駆け出した。すぐさま追随する武人は一応たしなめながらも拳をパキパキ鳴らし殺る気十分だ。凜佳は特に闘志を表すことはなかったが、アトラクションの順番待ちの子供のようなワクワクと楽しげな様子であった。


「良いモフモフなら愛でればよいだけの話だ!」


「「正解~」」


「ハル様、そろそろ着きますよ」


 騒々しい主達に疾風が声をかければ、俄に緊張感が漂うといったこともなく賑やかしいまま進み、集落を囲う二メートル位の高さの柵が見える辺りになっても三人は遠足道中の子供のごときハシャギっぷりであった。やはり初モフモフに興奮しているようだ。


「そこで止まれっ!」


 柵に沿って幾ばくか進み、柵の二倍程度の高さの門が見えた辺りで此方に鋭い制止の声が飛んできた。門番であろう長剣を腰に携えた茶黒い大柄な熊らしき獣人が門の傍らで睨んでいた。その背後から小狡そうな鼬面がチラチラと覗いている。


「アニキ!見馴れねぇ奴等ですぜ!」


 期待を裏切らない腰巾着臭がプンプン漂う台詞に、何処の学芸会だと呆れ混じりの武人のツッコミは彼等の耳には届かなかったようだ。三文芝居は未だ繰り広げられている。


「俺様が見知ってねぇってことは……さてはてめぇら、この俺様の目を掻い潜って森に潜り込みやがったな?」


「そいつぁーふてぇ奴等だぜぇ!」


 芝居がかった節回しの熊アニキの台詞に、三下鼬が腕を振り回し跳ねながら大振りに応える。滑稽である。


「どっからどうやって森に入り込んだか知らねぇが、俺様に見つかったのが運の尽き。獣人の集落にゃあ、この俺様が一歩たりとも入らせねぇぜ!」


「アニキに見つかるなんざ、なんて運のねぇ奴等だ!」


 集落を囲う柵に沿った見晴らしのよい一本道に隠れる意図もない者を見つかるもなにもないだろう。これが見つけられない方が門番として問題だ。軽く腰を落とし長剣の柄に手を添えた熊アニキであるが、殺気は一切感じられず、まさしく芝居のポーズに他ならない。重ねて言おう、滑稽である。


「まあ軽くおねんねしてもらうがな、命ばかりは助けてやろうじゃねぇか。俺様にも……情けはあるぜ?」


「流石アニキ、懐がでかいぜ!おめぇら、アニキに感謝するんだな!」


 相手の技量を測れないばかりか、己れの言動に酔いしれ相手から視線と意識から外すなど懐が大きいかどうかはさておき門番として論外だろう。

 制止の声に一旦は立ち止まった武人達であったが、此方を無視して繰り広げられる三文芝居に武人はやれやれと程度の低さに肩をすくめ、悠佳は獲物発見とばかりに満足げに黒い笑みを浮かべた。凜佳は我関せずと紫綱の耳をフニフニ愛でながら、彼等は門に向かいのんびり歩みを進めた。悦に入りふんぞり返る熊アニキとその周りでくねくねクルクルと媚びへつらう三下鼬のやり取りが継続している目前に、いよいよ到達した。


「出迎えご苦労!」


 熊アニキと三下鼬のやりとりをサクッとスルーして凜佳が言えば、紫綱が太い前肢でヒョイヒョイと邪魔とばかりに門番コンビを脇へ避ける。たたらを踏み堪えきれず尻餅をついた彼等は唖然と彼女を見上げるも、それに一瞥もくれず門を潜る凜佳に他の面子も倣う。悠然と通り過ぎていく彼等を呆然と捉えていた視界が青く澄んだ空だけになり、漸く我に返った熊アニキが勢いよく立ち上がり喚く。三下鼬はその怒声にビクリと跳ね上がり門柱にしがみついたかと思えばキョロキョロと見回し、熊アニキを視界に捉えるやいなや脱兎のごとくその背後に身を隠した。


「な、何しやがるッ!」


「何って、邪魔だったから避けただけよ?門を塞いで遊んでるんだもの」


「なっ!?遊んでるだとぉっ!この俺様に向かってっ!」


 食って掛かる熊アニキに生温い視線を向ける一同。物分かりの悪い頭をかち割り心へし折るべく各々が次なる台詞を用意していた。さあ言うぞの息を吸ったタイミングで邪魔が入った。


「騒がしい!何事か?」










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