兄妹 森デビュー*ハルうだうだする
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「よしっ!これ位あれば十分だろう」
満面の笑みを浮かべ武人が終了を告げる。諾の声とともに凜佳と悠佳が些かも疲労を見せず岸辺に上がる。やりきった感と美味しいに決まってる武人の料理への期待に彼等の瞳は輝いている。
彼等が存分にピラージャ確保に勤しんでいる間、眷族達は周囲の警戒と威嚇に務めていた。強い魔力を持つ集団に挑む愚か者は流石にいなかったが、おこぼれ目当てや掠め取ろうとする小者が煩わしく周囲を彷徨いていたからだ。
「土産の確保も万端、さっさと獣人の集落に行って料理するぞ!」
「料理には期待してるが、挨拶と状況確認が目的なんだがな」
馬の前の人参ならぬ武人の前の食材で料理に意識が向きまくっている兄に苦笑を禁じ得ない悠佳である。
筋力や俊敏さ、気配察知に長けた種族である獣人族であるが、彼等にとっては脅威足らざるだろう。しかし、数の暴力という要素も無視できない。
妄想設定では友好的かつ保護していた者達であるが、差異がどのように生じているか不明である。用心に越したことはないだろう。直接関わりがないばかりか不在であった森と山脈の主である彼等が前触れもなく現れるのだから、混乱は必至であろうことは容易く想像できる事などを滔々と述べる悠佳に、武人は相槌を打ってはいるものの心此処に在らずは明白だ。料理に心奪われ過ぎだろう。
「ハルにぃは難しく考えすぎ。会ってみて嫌な感じだったら関わらなければいいだけだし、タケにぃも屋敷で料理すればいいじゃない。モフモフは彼等だけじゃないだろうし、非友好的モフモフは放置すればいいのよ。戦いを挑んでくるなら話はまた変わるけどね」
「そうだぞ。モフモフにも良いモフモフと悪いモフモフがいるのは仕方ないさ。人と変わらずな。俺は何処でだって料理出来るし、夜営だってドンと来いだ!」
「夜営!いいよ夜営!獣人とこの帰りにでもしちゃう?湖の辺とか、いっそ山に行っちゃう?あたしは山推しだな~♪」
「……なんかずれてる気がしないでもないが、差異すら楽しめばいいか」
「「そゆこと!」」
あっけらかんとしたユニゾンに自分はこの新しい世界にまだまだ緊張しているのかと、悠佳は小さく溜め息を落とす。全力でこの世界を楽しむと兄妹で誓ったが、それは潔く切って捨てる覚悟ともいえる。
「……そうだな。私達が(・)楽しまないとな」
「そうそう!結果はどうあれ楽しまなくちゃ!あたし達の設定の斜め上の差異でもね」
「こういうのは楽しんだ者勝ちだ!俺は楽しくて仕方ない!」
「ははっ!違いない!」
吹っ切れたように憂いない悠佳のカラリとした笑顔に内心ほっとした兄と妹であった。
悠佳は融通の利かないマニュアル人間ではないが、どうにも自分の内で折り合いがつかなかったり納得がいかないと、その事柄に関して腰が重くなりがちだ。おおっぴらに我を通すことはないが、ひっそりと頑固な一面がある。
己れの興味があることに隠すことなく、ぶれることなく、しかも大抵周囲を巻き込み……主に食の欲望の渦に皆喜んで飛び込んでいる……邁進する武人。自分と信頼に足る周囲の平穏が保たれる前提で……というか彼女が作り上げるのだが……遊びでも輩潰しでも全てを楽しむ所存の凜佳。この二人の暴走を阻むのには悠佳の性質も必要なのかもしれない。
彼等は楽しむことに躊躇いがない。むしろ躊躇う?ナニソレオイシイノ?時間の無駄でしよ、言い訳羅列オツカレーである。特に凜佳はその傾向が顕著だ。幼い時分に殺されかけた経験が影響しているのであろう、瞬時の判断に於いても迷いや躊躇いがない。兄妹のなかで一番容赦がないのも自他共に認める事実であるが、身内に一番情が厚いのもまた事実だ。
さて、暴走を阻むこともある悠佳であるが、重石がなくなれば当然、彼もまた楽しみを追求するに決まっている。しかも遅れを取り戻し、尚且つばびゅんと追い抜く勢いでだ。勢いに乗った悠佳は楽しみ尽くすまで止まらない。
「もし、獣人の集落が悪いモフモフ達の巣窟ならば……フフッ……私が性根を叩き直してやらねばなるまい。楽しみだな……」
「「獣人さん!逃げてー!」」
麗しく神々しい虹色を帯びた紫色の瞳を煌めかせ、不釣り合いに悪い笑みが口元をニヤリと歪ませている悠佳に武人と凜佳は顔を見合わせ、面白そうに揃って声をあげた。
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次回は漸く獣人の集落に赴く……はず!




