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兄妹 森デビュー*モッフモッフ①

 悠佳から何ら楽しめる反応がなく、武人と凜佳から軽くブーイングがあったが、功を奏し無事ドツボ回避を成し遂げた悠佳である。

 しかし、未だ警戒中だ。隙を見せれば、即座にお遊びという名の追及が再開されるからだ。その証拠にニヤニヤと期待の視線を武人と凜佳から感じるのだ。油断大敵である。


「……ん?何かが凄い勢いでこちらに近づいているようだ」


 名残惜しげな精霊達と別れ、石畳を再び歩き出して暫く、警戒を解いていなかった悠佳がいち早く気づき注意を促す。己れに向かう意識を逸らすに丁度良いと、声が若干弾んでしまったのはご愛嬌だ。


「おっ!敵襲か?」


「あたしの拳が唸る時がやってきたぁ!」


 悠佳の注意喚起に嬉々として武人は拳を掌にパンッと打ちつけ、凜佳も同じく拳をブンブン振り回す。二人とも期待に瞳がキラキラ輝いて実に楽しそうである。

 呆れた視線を好戦的な態度の兄と妹に送る悠佳であったが、手元ではしっかり籠手の具合を確認している。物理で殴るの?魔法は?というツッコミ役はいやしないのであった。


 警戒してると気配察知も兼ねるよなと、納得しながら今度は妄想内ではあるにはあったが出番なしだった気配察知のスキルを発動すると、悠佳の眼前に半透明のマップ画面が展開された。自分達だろう三つの黄色の光点が中心にあり、それに向けて青色の光点が凄い勢いで近づいている。他にも所々に青色の光点が画面の端の辺りに点在していたが、そちらは特に動きは見られなかった。


「……青色……」


 どんどん近づいてくる青色の光点と端に点在する青色の光点を見て、悠佳は違和感を感じた。こちらの気配も察知していないだろう端の光点と、明らかに自分達に迫る光点。どちらも青色である。


「ハルにぃ、どうしたの?」


「青は進め、赤は止まれ、黄色は注意……青は非敵対状態、赤は敵対状態、黄色は私達……注意?」


「あ!気配察知スキルの話ね!注意は(なか)(くらい)で中位で中心にあたし達を据えて表示って事よ。最初の頃の設定だね。使わなかったけど」


「ああ、そうだったな。あまりに使わなかったから忘れてた……という事は、青色だから……」


「青色が何?」


「ああ、気配察知スキルを今……」


「来るぞ!」


 凜佳と悠佳が話している間にかなり近づいたらしく、地を駆ける激しい足音が耳に届き、悠佳の言葉を遮って武人が声をあげた。パッと声に振り返った凜佳は殺る気に満ちていた。武人もまた暴れるぞ!と、やんちゃ坊主のごとき笑顔だ。反して悠佳は額に掌をあて、青色だから敵ではないのだが……と空を仰いだ。


「「「主様っ!!」」」


「「…………は?」」


「……そうきたか……」


 木々の間から姿を現した魔獣が三体、石畳の手前で一斉に平伏した。飛び込んできた勢いのまま平伏した様は、所謂ジャンピング土下座を彷彿とさせる動きであった。

 敵襲と思い、期待と殺る気に満ちていた武人と凜佳はポカンと固まっている。悠佳は敵ではないと分かってはいたが、獣人の何れかだろう予測を裏切り、自分達の眷族のまさかの登場に溜め息を吐いた。


 平伏している魔獣の一体は真っ赤に燃える炎のような赤い体毛の熊らしき者で、首下の体毛だけが三日月を器のように上向きにした形に銀色である。

 もう一体は碧味を帯びた黒毛の狼らしき者で、額から背にかけて刷毛で掃いたように一筋銀色の体毛が走っている。

 最後の一体は白い体毛に白に近い淡い紫色が幾筋も入った虎らしき者で、肩から前肢にかけての紋様の部分が銀色だ。

 皆一様に人ひとり余裕で乗れる程の体躯であり、それぞれの種族より遥かに大きく容姿もまた違う。


紅月(こうげつ)馳せ参じました。我等一同、主様とお会い出来るのを心待ちにしておりました!我はっ、我はっ!うぅっ……今日この時のなんと喜ばしいことかっ!うぉがああぁっ!」


 紅月が野性味溢れる外見に反した言葉遣いで喜びを伝えていたが、感極まったかのように雄叫びと共におんおんと泣いた。ワイルドな(なり)に似合わず感動屋のようだ。


疾風(はやて)馳せ参じました。主様、会えて嬉しいです……俺……会えて嬉しい』


 疾風が言葉少なく気持ちを伝える。若干悔しそうに涙が滲むのが見受けられるのは、胸が一杯で言葉が出ないということか。盛大に振られるモフモフ尻尾でフォロー十分だ。


紫鋼(しこう)馳せ参じました。猛々しい魔力でありながら、なんとも麗しい姿。主様……彼是(あれこれ)想像した以上の、私の薄っぺらい想像など遥かに超える私達の麗しの主様!ああ、主様の眷族であるこの身が誇らしい!』


 紫鋼が泰然と話し出したのは最初だけで、次第に目が潤み、恍惚と語り出す。尻尾がバッシ!バッシ!と振り回され、地面に見過ごすのに気合いが必要な程の穴が掘られていった。


 彼らは魔獣であったが、唯の魔獣ではない。

 この世界の魔獣は生存本能や欲望に忠実な生物だ。それら有象無象から時折、知性ある個体が現れる。それらは種族としての力も強く体躯も大きく、群れのリーダーとなることが多い。

 それを更に凌駕する特別な個体が、稀にではあるが現れることがある。特別な個体は力も体躯も遥かに強く大きく、固有の能力をも持つ個体であり、総じて長命であった。

 そして特別な個体は二通りある。

 高い知性を備えていれば、人や亜人は勿論、知性ある魔獣にも、更には魔人にさえ聖獣や神獣と崇められる存在だ。これはかなり稀少な存在である。

 多くは知性が低く、感情や欲望の赴くまま力を振るい、精霊を喰らう個体は禍つ(まがつじゅう)とされ見つかり次第命を刈られた。


 ここにいる三体は前者である。主様至上を矜持としている為、主以外には微塵も関心を向けない。人などが有難がって近寄ろうものなら、邪魔をするなとばかりに瞬殺し何事もなかった体で主の側に侍るのを満喫するだろう。

 そんな聖獣や神獣と呼ぶには些か残念に感じられる三体が自分達の眷族である。確かに頼もしい存在である。なんせ聖獣様、神獣様である。ではあるのだが、と悠佳は深い溜め息を吐いた。

 本当ならもっと悠然と威厳ある性格設定だった筈なのだ。設定のひとつである[主様大好きー]が起因してのこの残念感だ。この他諸々の事柄に於いても差異がどう影響してくるか、考えるだけで頭が痛い悠佳は更に深い溜め息を吐いた。


「……出迎え御苦労。私はハル。私もお前達に会えて嬉しい。タケ、リン、私達の眷族の出迎えだ。言葉をかけてやったらどうだ」


 何度目かの溜め息を吐き、今や子供ひとり軽く入る位になった穴から眼を逸らしながら悠佳が声をかければ、涙に潤んだ瞳を一層煌めかせて期待に満ちた三対の視線が武人と凜佳に送られる。

 未だポカンとしていた二人は悠佳の声と眷族達の熱い視線にハッと我に返ると眷族達をまじまじと見た。そして彼らは次第にキラキラと興奮と期待に瞳を輝かせ、両手がワキワキと蠢きだした。


「俺はタケだ。お前達の余りに立派な姿に驚いた。俺も会えて嬉しいよ」


 言葉は落ち着き払っているが、武人の右手には大振りなブラッシングブラシがいつの間にか握られ、左手はワキワキし続けている。

 魔獣三体は武人からのお褒めの言葉に感激と誇らしさにピスピスと鼻を鳴らす。そして紫鋼の背後の穴が小さな子供二人分になった。


「あたしはリン。会えて嬉しいわ!皆かっこよく育ったね~♪自慢の眷族だわ!」


 ニコニコとご機嫌の凜佳の言葉に、眷族達は喜びに身悶える。凜佳の手もまたブラッシングブラシを持ち、ワキワキしている。喜びも最高潮の紫鋼の背後には大人が余裕で入る穴が掘られ、悠佳は全力で眼を逸らした。


「「「有り難き幸せ!」」」


 武人と凜佳に褒められ喜びと誉れにに身を奮わせる眷族達に、ワキワキと蠢く魔の手が近づく。


「確かに立派な体躯で見惚れる程だが、毛並みに乱れがあるぞ。毛並みの乱れは心の乱れと言ってな……よし、俺が手ずから整えてやろう!」


「あたし達に会うのに大疾走したから乱れたんだよねー?だったら、ここは主たるあたし達がツヤッツヤにするべきよね!」


「「「…………え?」」」


 シャキーン!と効果音が出そうな勢いでブラッシングブラシを持った手を掲げ、戸惑う眷族達に大きく一歩を踏み出す武人と凜佳。

 ふわぁさと石畳の上に緋毛氈(ひもうせん)が現れ、ささっと整えた悠佳がストンと腰を下ろし胡座をかく。それに気づいた二人はグッジョブと親指を立て、同じく緋毛氈に腰を下ろした。

 更に戸惑いを深めた眷族達に悠佳はニーッコリ微笑んで、自分の前をポンポンと指先で叩いた。


「まずはここへ来い。話はそれからだ」


 悠佳の手にもブラッシングブラシが握られていた。






お読み頂きありがとうございます。

今後とも宜しくお願い致します。

ブックマーク、評価ありがとうございます。


モフモフならぬモッフモッフ。

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