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兄妹 屋敷探検お次は二階

 今後の方針の決まった兄妹は清々しい気分で和室を後にした。畳の上でゴロゴロ、だらりとしていると、ついつい語らなくてもいい事を語ってしまう罠を回避したともいう。兄妹間でも秘密はあるものだ。


 次なる屋敷探検は二階である。

 凹の右側から縁側に出てすぐ左手に二階への直線の階段がある。因みにこの階段、和室の壁とダイニングの壁にそれぞれに30センチばかり張り出し、和室から見れば天井まで続く格子状の飾り棚となっている。反対のダイニング側では棚及び収納になっており、そこにキッチン魔道具や茶葉などが納められている。

 どこかウキウキとそこかしこを楽しそうに漂う精霊達と擦れ違いながら、兄妹達もまた二階に向かう足取りが弾む。


 階段を上りきると武人、悠佳、凜佳それぞれの部屋と簡易なキッチンと小ぶりのテーブルとベンチのある喫茶スペースがある。

 二階にもトイレがあるあたり、妄想屋敷設定がロマンとファンタジーに偏ってない証明といえる。生きている限り食べれば出るものだ。ファンタジーに属する例外―例えば精霊など―を除いて美醜に関わらず、出るものは出る。ならば広い屋敷にて実際に生活するならば、一階にしかトイレがないなど利便性に欠けていると言わざるを得ない。妄想に現実的要素を組み込んでおいたのは正解だった。


 二階を見て回る兄妹の足取りは最初こそ弾んでいたが、すぐにスタスタと足早に、各部屋の確認もドアを開きひょいと一見すると次の部屋へといった大変なおざりなものであった。


「やっちまったな……」


 無言で二階を見て回った兄妹はやはり無言のままベンチに腰掛けた。微妙な空気を破り、苦笑いとともに武人が呟いた一言に、悠佳と凜佳は全くの同じ気持ちであることを示すようにガックリと疲労感満載に項垂れた。


「後回しにしてたツケが……」


 呻くように悠佳が更に項垂れたのは致し方ないだろう。妄想に興じていたとはいっても、妄想内屋敷の各自の部屋での妄想などする必要は全くなかったのだ。

 実際に住んでいたならば、各自のプライベート空間である自室を空っぽのままにはしないだろう。そう、空っぽなのである。二階にある部屋はどこもガランと家具ひとつとしてない。

 実のところ、兄妹は屋敷の一階部分に於いて妄想と情熱を注いだが、睡眠や自室で寛ぐなどは当然のこと実生活で営まれ、妄想の情熱が二階には沸き上がらなかったのは仕方ないとも言えた。


「ウダウダしても今更しょうがないよ。ベッドとかは作ればいいんだし。あたし達はそれまで和室で雑魚寝すればいいんだし、ハルにぃは転生して初生産がベッドなのは不服だろうけど」


 凜佳がパッと顔をあげ、悠佳の背中をパンッと叩いて彼の俯いた顔を覗きこむ。一瞬見開かれた眼は数度瞬き、次にはキラリと光った。


「私の初生産はベッドではない……和室で雑魚寝だと?雑魚寝は睡眠とは認めない……あんなのは仮眠だ、うたた寝だ。睡眠に必要なのは何か?それは寝具だ!敷布団に掛け布団、枕にそれぞれのカバーも必須!最高の寝心地のものを作ってみせよう!私の初生産は寝具だ!」


 悠佳の生産魂に火が点いたようである。その情熱があれば三人分のベッドを作るのも容易いであろうに、彼は寝具を作るという。凜佳は最高の寝具の出来に期待して嬉しそうにしているが、武人は笑いだしそうなのを堪えるのに腹筋と顔筋を酷使中だ。悠佳はそんな武人と目が合うと、褒めろと言わんばかりのドヤ顔だ。武人はこっそりグッジョブと親指を立てた。


 和室で雑魚寝。すなわち、凜佳と一緒の部屋で眠るということだ。子供の頃ならいざ知らず、思春期を迎える辺りからは皆無のシチュエーションである。この機会を見逃す筈がない。なぜなら彼らは筋金入りのシスコンだからだ。しかも重度。

 寝心地最高の寝具を悠佳は心血注いで作り上げるだろう。しかし、ベッドはなんやかやと理由をこじつけ、作るのを先伸ばしするに違いない。凜佳が変に拘りがないぶん、下手をすると二階ががらんどうのまま……の、可能性もあり得る。


「ふかふかお布団〜楽しみだね♪枕無げとかしちゃう?しちゃう?修学旅行みたいだね〜」


 無邪気に喜ぶ凜佳を微笑ましそうに見つめる兄達、その内心は狂喜乱舞だ。我が世の春だ。

 重すぎる妹愛は誰にも止められない。








お読み頂きありがとうございます。

今後とも宜しくお願い致します。

ブックマーク、評価ありがとうございます。


ここ数日、時間が取れましたので連日投稿出来ました♪

また基本の一週間前後投稿となりますが、次回はいよいよ屋敷の外に出る!……かもしれない。


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