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兄妹 屋敷探検

 フラミュルディに男神達が事のあらましを説明している間、過保護ムシュルデの課題である万能結界の常時発動を兄二人に習い、さらりとクリアした凜佳。暇をもて余した兄妹は屋敷探検に勤しむことにした。


 ダイニングやトイレ、風呂場の水回りは魔石が組み込まれ、衛生的で快適そうだ。悠佳はいやまだだ!まだやれる!と巻物メモウィンドウに魔改造計画を嬉々として立てている。

 生産部屋と素材部屋ではそれに武人も加わり、ヒートアップするのを凜佳が楽しみだね〜期待してるよ〜と煽りつつも、屋敷探検を進めるべく他の部屋に手を引いて促すのに、嬉しそうに素直に従うところは流石シスコン兄達である。


 兄妹の新たな住処となる屋敷は上から見ると凹の字型になっており、一階は出っ張りの右側に玄関、リビング、ダイニング、トイレ、風呂場がある。反対の左側には生産部屋、素材部屋があり、それぞれに出入口が側面についている。

 引っ込んでいる部分は硝子の引き戸があり、全開にすれば日向ぼっこや月見などに最適な縁側になる仕様だ。縁側の内側には和紙独特の柔らかい白さの障子があり、スッと開けば畳敷の和室が広がり奥側には床の間も設えてある。壁は他の部屋と同じく珪藻土らしき塗り壁が外光に優しく照らされている。


「縁側があって障子があって、おじいちゃんの家みたいだね!」


 凜佳が嬉しそうに笑う。兄妹が地球で暮らしていた屋敷にも和室はあったが、出入口はドアで縁側もなかった。祖父が亡くなるまで一緒に住んでいた屋敷は純日本家屋で、兄妹にとって和室は優しい思い出の象徴ともいえる場所だ。妄想に組み込まなかった訳がない。


「落ち着くな……」


「和む……」


 藺草(いぐさ)の香りに自然と畳に座りこみ、次第に体勢が崩れ、終いには四肢を投げだしゴロリと横たわる。


「おじいちゃんが見たら行儀が悪い!だらしない!って雷落ちちゃうね」


「ははっ!違いない!」


「だが、リンがお願いしたら一緒にゴロゴロしてたよな〜俺達だけだと弛んでる、道場で鍛え直してくれるわ!って引き摺って行かれたな」


「そうそう!あれは地獄だった……リンの〈おじいちゃんも一緒にゴロゴロしようよぅ〜〉に私も何度助けられたことか!」


「あたしはそんな甘ったれた言い方してない!虚偽の物真似はやめてくださーい」


「そうだぞ!リンはもっとこう、甘々で国ひとつ位あげちゃうぞって気になる程の……」


「「ねぇよ!!」」


 武人の本気だと怖いボケに悠佳と凜佳がユニゾン突っ込みしたのを、寝転がったまま三人して声をあげて笑う。ゴロゴロ転がり、手足をばたつかせ一頻り響いた笑い声はやがて途絶え、互いに手を繋いだ兄妹が天井をぼんやりと眺める。


「楽しかったね……」


「ああ……楽しかった」


「じいちゃん、父さん、母さん、俺達。色々あったが楽しかったな」


 繋いだ手をギュッと握りあい、脳裏にはそれぞれに楽しかった思い出が巡る。祖父、父、母、兄妹、皆の笑顔が溢れていた。武人が更に力強く二人の手を握ると応えるように握り返される。


「これから新しい世界で俺達は生きていく。俺達が全力で楽しまなきゃな!」


「情熱の赴くままに生産という名の魔改造!私が楽しい生産の扉が開かれる!もちろん自重などしない!そしてモフモフと戯れる!」


「ハルにぃ、そこは事前に相談くらいはしようよ。あたしもモフモフと戯れ、ドラゴンに乗って空のお散歩とかしたい!あと、にゃん系モフお膝に縁側で日向ぼっこもしたいな〜」


「ハル、自重はしなくていいが作る前に一言くれよ?俺はやっぱり食が気になるな。きっとまだ見ぬ多くの食材が俺を待っているに違いない!狩って、採って、料理して、そして皆で美味しくいただく。うん、楽しみだ!猫は日向ぼっこの定番だからな。わん系モフもいいと思うぞ」


「日向ぼっこに猫も犬も正解だ。更に加えるなら兎だ。あの魅惑の耳をフニフニは止まらない!私の生産にそこまで言うなら仕方ない。情熱に我を忘れなければ善処しよう。」


「「我を忘れるな!」」


「いや、忘れる自信がある!」


「「だよね!」」


「そうだ!」


 呆れながらも楽しげに笑いだす武人と凜佳に、悠佳もまた釣られたように笑い声をあげる。


「この世界で自重したり油断したら、俺達すぐ死んじゃうかもな」


「無駄な殺生はしないが、戦うならば全力できっちり息の根止めるまで。ルディも推奨してたからな。ともかく楽しまなくては勿体ない!」


「実害がある輩は駆逐!は変わらないね〜あたし達が楽しまなきゃせっかく転生させてくれた神様達や一緒に来た精霊達がガッカリしちゃうわ」


「俺達はこの世界を全力で楽しむのが大前提だな。じいちゃん、父さん、母さんに恥じない生き方をしよう!」


 兄妹達の新たな世界での方針が決まったが、清く正しくなんてものは端からなかったようである。実害をもたらす輩を本当の意味で殺る気十分なのはムシュルデの過保護の賜物だろうか……彼は全力で否定するかも知れない。

 ともかく、この世界の輩にとって未曾有の悲劇が始まるのは確定した。大人しくしていられない輩共は風前の灯、

いや、爆風前の灯だ。能書きを垂れる間もなく吹き飛ぶ定めと相成った。






お読み頂きありがとうございます。

今後とも宜しくお願い致します。

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