神様 世界を見つける
宜しくお願いします。
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数多ある世界。消えゆく世界もあれば、栄枯盛衰を幾度も繰り返しながら永らえる世界もある。命煌めく世界、呪詛や怨念が溢れ渦巻く世界など様々だ。
神と呼ばれる存在は世界を創造し慈しむこともあれば、いともあっさり消滅させてしまったりもする。
どちらも多大な力を必要とするため、そうそう創ったり壊したりはしない。すでにある世界の様子を垣間見たり助言――所謂お告げ――をしてみたり、血気盛んな神などは戦争の火種を投げ込んだりする。
神による力以外にも生まれ消えゆく世界もまたある。想いによって生まれる世界だが、如何せん神の力には遠く及ばないため在り続けることが難しい。
神の気を引くことができた僅かばかりが、世界として在ることができた。それも想いが薄まり途切れるならば世界の力も弱まり消滅していくしかない。幾多の世界がそうして生まれ消えていくのだ。
そんな数多ある世界をとある神が眺めていた時、ふとそれに気がついた。
『なんだ?』
それは地球とその世界の住人が呼ぶ世界で、その神の気に入りのひとつだ。特に小さな日本という島国の独特な文化――所謂オタク系ジャパンカルチャー――に興味津々だった。
その日本の一部に、常にはないものが現れていた。
『なんじゃこりゃ!?』
そこには世界が在った。
『……神の気配はない』
すでにある世界から生まれた世界は、全くの別の世界として独立して生まれてくるものだ。だが、その世界は元の世界に虹色に輝くドーム状の形で張りつくように、しかし全くの別の世界として在るのだ。しかも他の神の干渉は感じられない。
『如何なる想いが成したものか』
今はまだ、元の世界と比較すれば極々小さな世界でしかなく、神により消滅させるとしても僅かな力で事足りる程度である。
だがその世界の力の強さが問題だった。人の想いから生まれたであろう世界の有り様とは、余りにも違いすぎる。
大きさに反してその世界のもつ力は甚大なうえ、張りついている。この状態で消滅させてしまえば元の世界に多大な影響を及ぼすのは必至である。
『どうしたものか……』
他の神にも知らせるべきかと思案していた神の眼差しの先から、不意に虹色の輝きが消えた。
その世界が消滅したわけではない。神が気づく要因となったものが消えただけだ。
『まずは確認せねばなるまい……』
溜め息とともに呟き、神は小さき世界へと下りていった。
鬱蒼とした広大な森があり、手前には草原が広がっている。森の奥側には弓形に森を囲い守るように険しい山々が連なっている。
森の所々はひらけており畑や集落、湖などがある。動物や人らしき姿も点在したが、それらに動きは全く見られない。
それもその筈。そこに広がるのは精巧壮大なジオラマであるからだ。
『見事なものだな』
中央にジオラマが設置してある部屋の右手壁際に目を移せば棚があり、大少様々な建物模型が並んでいる。
石材や木材での建物らしくつくられ、近代ではなく中世あたりのイメージだろう。それらは屋根や二階部分をパカリとはずせ、屋内の間取りや家具などが見てとれる。
洞窟模型もあり、これまた上部をパカリとはずすと、艶やかな鱗に覆われた二対の白と黒のドラゴンが寄り添い眠っている。
『これまた見事!ドラゴンは寝息が聞こえそうな程だ……添い寝したい!』
癒され気分で左手を見やれば、こちらも棚が並び、幾多の美麗感涙フィギュアが陳列されている。系統としては所謂ファンタジーであろう。
地球のものとはどこか違いが見受けられる動物達やスライムやゴブリン、ワイバーンなどのモンスター達。
更にモフモフスキーにははずせない獣人達も脳筋やら萌えやらタイプを網羅している。
『素晴らしい品揃え!……ん?』
数多くのフィギュア群の中に三体だけ人間タイプのものがあった。男性型が二体、女性型が一体でタイプは違えど何れも見目麗しい。
ジオラマや模型、人間三体以外のフィギュア群がファンタジー系であるなか、その三体は異彩を放っていた。
男性型一体は二十歳代半ば。無造作に毛先遊ばせてます的な銀短髪で碧色の瞳。やんちゃな笑顔の兄貴系……白の胴着に黒袴、それ絶対鉄板仕込んでるよね?的な黒革の籠手とブーツ。
『?』
もう一体も二十歳代半ば。肩ほどの長さのゆるふわ銀髪で紫色の瞳。ニヤリと擬音がつきそうな微笑みを除けば王子様系……白い胴着に白袴、籠手とブーツは兄貴系と同じく。
『ファンタジー?』
女性型は十代後半。背中の中程までのストレート銀髪で緋色の瞳。まだ幼さの残る相貌に凄然な微笑みのギャップ系……白の胴着に緋色袴、籠手とブーツは同じく。
『……これだけ違うゲームキャラなのか?格闘系か?』
「「「いや!ファンタジーだ!」」」
バーン!と、背後の扉が勢いよく開くと同時に男女の声が響き渡る。気配を覚らせることなく背後からの声に、肩がビクリと跳ねたのは仕方なかっただろう。
そっと視線を向ければ、違和感を感じていた人間型三体のフィギュアに髪型と顔立ちはよく似ているが黒髪黒眼の姿。
「ファンタジー。それは妄想の賜物!」
「ゲームでは我らの欲求はみたされぬ!妄想こそ真の自由!」
「この妄想世界に私達のリアルがある!」
「「「ジャスティス!」」」
『……え?』
自宅への不法侵入者に誰何することなく、滔々と世界設定やら、彼らが支配しているという森や山脈の生態系やらを熱く説明しだす三人。
更には不法侵入者の存在を無視してジオラマを囲み、各々が本日の予定を語りだす始末だ。
今日はファルーン王国の、阿呆のくせに野心家の第三王子小飼いの冒険者が強盗しに来るから〜とか、狼獣人の赤ちゃん誕生に立ち会うのを優先で!とか、じゃあサクッと終わらせよう!とか。
そうこうするうち、ジオラマを取り囲んだ彼らの周囲にキラキラと虹色に輝く小さな光の粒が現れ、それらが集まりシャボン玉のように膜を形成し部屋全体を包み込んでいった。
『原因はこれか!』
虹色に揺らめく膜をよくよく見れば、それは寄り集まった小さな光の粒であった。
更に眼を凝らせばそれぞれが綿毛を纏い、歓喜に舞い踊るように綿毛を虹色に煌めかせ密集して出来たもののようだ。
『この世界にこれほどの精霊がいるとは……』
光の粒達は所謂精霊である。世界に漂う魔素や魔力を糧にし遊び学び成長していく。
地球にもかつては生まれたばかりの粒サイズの精霊が至るところにいた。
しかし今の世の汚れた大気や水や土のため、力を削がれた魔素しか生み出せない自然や魔力を持たぬ人や動物。
精霊は生まれることすら稀になった世界。生まれたところで取り込むべき糧が少なすぎ、存在し続けることが出来ないのだ。
今の人の世よりも遥か昔、人が地に満ちた時、欲を抱き理を忘れた人々が増えていった。
彼らは自然を壊し汚して魔素を減らしつづけ、魔力ある動物が姿を消していき、魔力を持たざる只人が増えていった。
逆にそれらの力持つ者達を敬いつつも羨み畏れ、終いには殺戮への一途をたどった。
精霊の加護を持つ最後の一人が、彼や守護精霊を敬い慕い、匿い守っていた只人達と共に隠れ住んでいた深い森ごと火を放たれ命を奪われた。
守護精霊はなんとか皆を救おうとしたがかなわず、綿毛ほどになった姿で精霊王の元までようよう辿り着いたが、悲しみを迸らせるように四散し消えてしまった。
精霊王は魔素の減少により疲弊し、力及ばず彼らを助けられなかった己の無力に、悪しき人の行いに、この世界の変わり果てた有り様を嘆き悲しんだ。
そしてこの世界に見きりをつけた。界を渡れる力が残る精霊達を引き連れ、この世界から去っていってしまった。
精霊達が去るに至り、とある神が彼らの嘆きに気づき、その神の怒りによって人の世は一度滅びかけた。
滅ぶことなく今の世に続いたのは、何代も前の精霊の加護ある者達の血を僅かばかり受け継いだ者達がいたからだろう。
その者達の血もいまや薄れてしまい、只人が満ち溢れているのがこの世界の現状だ。
神々にとってはほんの少し前の出来事にすぎないが、当時怒り狂ったとある神の所業が容赦なしだったことまで追想してしまい、遠い目になってしまった虹色膜内の神を責めるのは酷であろう。
「「「用意はいいかーー!!」」」
コオォォーー
『んなっ!?』
突如響いた景気のいい掛け声に、我にかえった神の目に映ったのは有り得ない光景だった。
ジオラマの森から離れた草原の端付近に冒険者らしき人形が数体配置されている。そして草原側森の際にはゴーレムが一体見えた。
そのゴーレムの口があるとおぼしき場所に魔素が集まり、魔力転換されたであろう力が凝縮され煌々と光を溜めている。
「「「薙ぎ払えーー!!」」」
キュオォォーー!ドオォーーン!!
『なんだとぉっ!?』
ただの人形である筈のゴーレムが、ブレス攻撃――ファイアブレスというよりレーザーブレスと呼ぶに相応しい――を撃ち出したのだ。
放たれたブレスの光は冒険者人形達を横薙ぎに打ち払った。その間、三人は何ら手出しをしていなかったのは確実だ。
『あれ?壊れて……ない?』
人形達は確かに薙ぎ倒されていたが、焦げ跡や欠損はなくジオラマの草原部分も破壊された形跡は見られなかった。
サクッと撃破〜♪と、ハイタッチしていた三人は呟きに対し、いい笑顔を向けた。
「「「空砲だから大丈夫!」」」
『……着弾音したよね?』
「「「なんと効果音つき♪」」」
『……何をどうしたら?』
疑問への答えはこうだ。
ジオラマの中の自宅前に二年くらい前から時折、虹色に光る石粒が置かれているようになった。
これは魔石!ヒャッホイ♪武具に魔道具、ゴーレムにと楽しい製作に活かされた挙げ句、人知を越えた諸々に至る。
ドヤ顔で説明を終えた三人に対し、説明になっていないだろう!と頭を抱える神である。
そんな彼を放置し、転がったままだった冒険者人形をかたづけていた兄貴系男性はふと手をとめ、いまだ頭を抱えたままだった神に顔を向けた。
「そういえば貴方はどちらさん?」
『……やっとそこ聞いてくる?』
ようやく誰何された神であったが、彼に注視しているのが短髪男性のみであり、他の二人はいまだジオラマを囲みゴソゴソと何やら準備している。
ベビー狼ちゃん〜♪ふふふ〜ん♪と鼻唄混じりでご機嫌な彼らの様子に、神の肩もガックリ落ちるというものだ。
そんな神に同情したにしては冷めた視線を向けていた兄貴系男性は、やれやれと云わんばかりに溜め息をついた。
「は〜い!こちらの不審者に注目〜!」
『ちょっ!……酷くないかい?』
「我が家に無断で侵入してるよね?」
『うっ!』
「「「不審者確定〜!」」」
『うぐぐ……』
三人が仲良く宣言したのに咄嗟に反論できなかった神であったが、ハッと我にかえるなりゴホンとひとつ気持ちを切り替えた。
『私は神である!』
一瞬の沈黙。神の降臨に恐れ戦く三人……なんて事はなかった!
カワイソウな人に対する生温い視線、あ〜ハイハイと云わんばかりの半笑いで男性二人が出口に促す。
見ちゃいけません!は〜い!とのやり取りも絶対わざととしか思えないあざとさだ。
『いや待て!本当に神だから!』
まだ言うか……と呟く少女と煩わしげに眉根を寄せる王子様系、まあまあと二人を宥めながらも一発いれるか?と拳を固める兄貴系。
宥められていた少女は大きな溜め息をひとつ吐き、一歩踏み出し仁王立ちする。
「神のデフォルト、キラキラ☆厳かオーラエフェクト出せるようになってから出直しなさい!」
他にいう事はないとばかりに背をくるりと向け、ベビー狼ちゃん♪お待たせ〜♪と、ジオラマに向かう少女に唖然とする神だった。
そんな彼の肩を左右からポンと叩く男性二人は有無を言わせぬ凄味のある笑顔で宣った。
「「出直しなさい……ね?」」
『…………はい……』
これで解決したとばかりにスタスタとジオラマに向かう二人を見送って、諦めと共に疲労感を背負い、こいつらをこのまま野放しにするべきに非ず!との決意を胸に、この小さき世界を後にした。
お読み頂きありがとうございます。