再び秘書 真奈美 四
四月二十四日。ついに最後の輸送日が訪れた。この日の輸送を止められなければ、原発近くの無人島をC国系企業に買収されてしまい、日本が大危機に見舞われてしまう。ラオウと林はそんな緊張感で口数も少なく、公安警察の車両で待機している。
「アイス食べたいなあ」
だが、真奈美だけは何の緊張感もなく、いつものようにマイペースで振る舞っている。
「買ってこいよ」
車両が待機している向かい側の通りにハーゲンダッツの店がある。「面倒臭いわ」
真奈美の今日の服装は、黒いパンツに白いカットソーを着て、黒のジャケットをまとっている。一見OL風の様相を呈していた。
「オジサンたちは仕事中だ。君のおやつを買いにゆく暇はない」
ラオウが硬い表情でそう言った時、後方から黒塗りのベンツがやって来て、歩道に半ばまで乗り上げて停車した。
この道路は道幅も広く路肩に余裕があるため、こうして駐車すると他の車の通行は妨害しない。
林とラオウがゆっくりと車を降り、別の車からは捜査員たちが続々と降りて来た。
「ちょっと良いですか?」
林がベンツの窓を軽くノックした。
「何ですか?」
中には二人の男性が乗っている。運転席の男が訝しげな表情を浮かべながら窓を下げた。
「こう言う者ですけど。少し話をさせて下さい。降りて頂けますか?」
林が身分証を見せながら丁寧に頼んだ。
「忙しいんだよ。今から出発しないといけない」
「この車が、東京で起きた事件に関係があるかも知れません。少しお借りしたいのですが」
林が一方的に事情を話した。
「だから、今は忙しいと言ってるだろ」
運転席の男が少しイラついている。
「じゃあ、仕方がない。ここは駐車禁止です。駐車違反ですので手続きをします。後ろの車に移って頂けますか?」
林がやや凄みを利かせて男に言った。
「はあ?そこらじゅうに車は止まってるだろう!」
男が気色ばんで大きな声を出した。
「あれ?その無線機は免許が必要な物ですね。免許を見せて下さい」
林が、車載されている無線機を指差して言った。
「そんなこと知らねえよ。第一使ってないし」
男がシラを切ったその時、
「三号車応答せよ」
と、無線機から声が届いてきた。
「三号車応答せよ」
何度も繰り返している。
「出なくて良いのか?」
林がニタリと笑ってから、おもむろに車内に手を伸ばし無線機を取って、
「こちら三号車。予定どおりに出発する」
と答えた。
「了解。一、二号車は予定どおり合流。環状線を進んでいる」
「だとさ」
すると、助手席の男が、
「無線機を使っていたのはこの男だけだ。駐車違反も運転手の責任だろう。そいつを連れていってくれ。俺が運転する」
そう言って運転席の男に目配せをして、助手席の男が力強くドアを開けた。
「イターイ!何よ、急に!」
助手席のドアの前には真奈美がしゃがみ込んでいた。
「何でこんな所にしゃがんでやがるんだ!」
男が助手席から降りて大声で怒鳴った。
「コワーイ。誰か助けて!おまわりさん呼んで!」
真奈美は周囲に大声で助けを求めた。
「警察の者ですが、どうかされましたか?」
後ろに控えていた捜査員が近寄って来た。
「あら、おまわりさん?丁度良かったわ。私が百円玉を落として探していたら、急にドアが開いて頭をぶつけたんです。そしたらいきなりこの人に怒鳴りつけられて」
と言って、頭を捜査員に差し出した。捜査員は、
「大丈夫ですか?」
と言いながら頭を指でさすり、
「ああ、コブが出来ていますね。病院に行かれますか?」
と、真奈美に尋ねた。
「病院は結構です。でも、この人を逮捕して下さい」
「逮捕?何、大袈裟なこと言ってるんだ!この女」
「何が大袈裟よ!歩道に乗り上げて違法駐車した上に、周囲を確認もせずにドアを開けて他人に怪我をさせて、おまけに大声で脅かしたのよ。とても怖かったの」
そう言った真奈美は、急に悲しそうな表情を浮かべて捜査員を見つめた。
「恐怖を感じたんですね?」
「はい。こんな怖い顔で怒鳴られたんですよ」
真奈美は助手席男の顔を指差しながら言った。
「わかりました。十時三十五分。過失致傷罪及び脅迫罪で逮捕します」
「マジかよ?」
だが、捜査員は事務的な動作で男に手錠を掛けた。そこへ林が近寄ってくる。
「車を貸してくれたら脅迫罪は大目に見てやろう。怪我の件も、このお嬢さんを説得して示談にしてもらうが、どうだ?」
と、林が男の耳元で囁いた。男は目をキョロキョロさせながら戸惑っている。
「会社には、お前が許可したことは黙っておく。こんな仕事のために前科者になりたいのか?」
と、林は更に囁いてからじっと男の目を見つめた。男が微かに頷く。林が合図すると、捜査員が男を後ろの車に連行していった。
「じゃあ、車を拝借するぞ!」
林は男の背中に向かって大声で確認した。
「勝手にしろ!」
大声で叫んだ男は、そのまま車に押し込まれた。
「可愛いそう」
真奈美が小さく呟いた。
「女優並の演技だ」
林がそう言って、輸送車ベンツの後部ドアを開けてから真奈美を中に誘った。
「ありがと」
女優気取りの真奈美が後部席に乗り、林が運転席に、ラオウが助手席に乗り込んだ。
「じゃあ出発するぞ。少し遅れてる」
林がベンツのアクセルを踏んだ。
「いつ運転させてくれるのよ?あれ、左ハンドルじゃないの?」
「右ハンドル仕様もある。試乗会に行って来い」
林が冷たく言い放ってからアクセルを踏み込み、一気に加速して環状線に入り込んだ。
「あのベンツだろう」
五十メートルほど前方の二台の車をラオウが指差した。林がスピードを上げてすぐに追いつく。
「隠れてろよ」
林が後ろを振り向いて真奈美に指示した。
「ハーイ」
真奈美はシートに横になって、外から姿が見えないように隠れた。予定どおり神戸方面に向かった三台は、一号車がそのまま神戸線に、残りの二号車とラオウたちの乗る三号車は泉南方面に向かい、南港出口から高速道路を下りた。
「そろそろ教えてくれても良いだろう?どうやって二号車を借用するんだ?」
ラオウが林に話し掛けた。
「余計な話をするな。盗聴されているかも知れない」
「もう、遅いだろう。真奈美ちゃんの声を聞かれたぞ」
「可能性のことを言っている」
途中から林が前を走り、二号車を先導している。大型車の多い道路を走り抜け、埠頭に到着した林はクレーンの付いた小型貨物船に近寄った。
既に車載用のゲージが下ろされており、林はそのゲージに車を乗り入れた。ゲージは車が一台入るくらいの大きさで、二号車は後ろで待機している。
「やけに静かだな」
林がひとり呟いてからクレーンの操作者に合図を送った。車はゲージごとクレーンで持ち上げられて貨物船のデッキに運ばれた。林はゆっくりとゲージから車を出してデッキ中央で車を停車させた。
「着いたぞ」
林が振り向いて、真奈美に声を掛けたが返事は無い。真奈美は少し口を開いて眠っている。
「どおりで静かな訳だ」
林が呟いた。
「このまま眠らせておくか?」
「本当はそうしたいところだが、出航までは後ろの車の奴らに気づかれたくない。女が乗っていたら怪しまれる」
林がそう言って、
「起きろ、着いたぞ!」
と、大きな声を出した。
「え、もう高知?」
「何時間寝た積もりだ?」
真奈美はゆっくりと起き上がって口の周りを手で拭いながら、
「よだれ、垂れてなかった?」
と、ラオウに聞いた。
「ああ。いびきもかいていない」
「そう、良かった。まだ大阪なのね」
「早く船室へ行け。作戦どおりにやれよ」
「任せてよ」
真奈美は林にウインクをしてから車を降りた。そして前方にある船室の方へ足早に歩いていった。
やがて後ろの二号車もクレーンで吊り上げられて乗船してきた。甲板作業員が車止めをしたり、クレーンを折りたたんだりして出航準備の作業を手際よく進めている。
二台の車からは誰も外に出ない。基本的には車で待つように指示されている。休憩も交代で行うよう指示されていた。
しばらくすると船の機関がスタートし、貨物船はゆっくりと港の海面を走り始めた。春の陽気に照らされた海面は、柔らかい陽射しにキラキラと輝いている。
海風はまだ肌寒い。甲板は船のエンジンの振動で細かく振るえ、重油の燃える臭いが煙突から漂っている。
やがて、船室から真奈美が現れた。真奈美はピンク色の手袋をはめて、トレーの上に紙カップのコーヒーを四つ並べてラオウたちのいる車に近寄ってきた。そして、開いた窓から二人にコーヒーを差し出す。
「何で、手袋なんかしてる?」
ラオウが助手席から声を掛けた。
「コーヒーが熱いからよ」
「いつからそんな上品な体質に変わったんだ?」
「じゃあ持ってみなさいよ」
「さっきから持っているけど……」
ラオウは不思議そうな表情で真奈美を見つめた。
「私はラオウさんみたいに面の皮が厚くないのよ」
「手の皮の話だろう。まだ寝ぼけてるのか?」
「細かいオヤジね」
真奈美が小さく舌打ちをした。そんな二人の会話に辟易した林が、
「言ってることは無茶苦茶だが、とにかく上手くやってくれよ」
と、会話を遮った。
「任せてって言ったでしょ」
真奈美はニコリと笑顔を置いて、残り二つのコーヒーを乗せたトナーを持ったまま後ろの車へ近寄っていった。コーヒーを零さないように慎重に歩いていった真奈美は、
「こんにちは、ご苦労様です」
と、窓をノックして愛想笑いを浮かべた。
「こんにちは。君は?」
サングラスを掛けた運転席の男が彼女をじっと見つめている。
「私は船会社の事務員です。高知の事務所に用事があるので同乗させて頂いています。これ、インスタントですけど、よろしかったらどうぞ」
真奈美はコーヒーをトナーごとサングラス男に手渡してから、ミルクと砂糖をポケットから取り出して、男に手渡そうとして運転席の床に落としてしまった。
「アッ!ごめんなさい!私ったら、ほんと。いつもミスばかりして」「良いよ、大丈夫。気にしないで」
助手席の男にトレーを手渡しながら、サングラス男が前屈みになって床に手を伸ばした。
「ほら、取れたよ」
「ほんとにすみません」
「大丈夫。じゃあ、頂きますね」
そう言ってサングラス男は窓を閉めた。真奈美は軽く会釈をしてから船室の方へ向かって歩いて行った。
ラオウと林は真奈美の背中を見送っていたが、
「上手くやったのかな?」
と、林が不安そうに呟いた。
「ああ見えて、彼女は肝が座っている」
ラオウが答えた。
「マイペースの我がまま女にしか見えないがな」
「あれでも結構苦労している。ただ、彼女はその辛さを感じない鈍感力を身に付けている」
「詳しいんだな」
「彼女の青春時代を一緒に旅してきた」
ラオウが真面目顔で言った。
「お前たち、本当に時間を旅していると思っているのか?」
「信じてくれとは言わない」
ラオウがそう言ってコーヒーをすすった。
「マズ!」
貨物船は港を抜け堤防の外に出た。次第に波が大きくなり、船は緩やかな揺れを続けながら海面を蹴って進んでゆく。港を出てからは少し速度を上げて、白い航跡を残しながら青い海を突き進んでゆく。
「よくもこんなにたくさんの船があるもんだ」
「ぶつからないのが不思議なくらいだ」
大阪湾内は、大型貨物から小型漁船まで、多種多様な船が互いを避けながら器用に進んでゆく。数分に一度は他の船とすれ違ってゆく。
「で、このまま高知に行ってどうするんだ?」
ラオウが林に尋ねた。
「そろそろ感づかれたようだな」
林がルームミラーで後方を見つめながら呟いた。林の視線に後ろを振り返るラオウ。後ろのベンツから二人の男が出てきて足早に近寄ってくる。
「かなりお怒りだ」
林が呟く。
「真奈美のコーヒーを飲んだせいじゃないか?」
近寄ってきた二人は林側の窓を激しくノックした。林は微笑みながら窓を下げる。
「お前ら、何者だ!」
「警察だ」
林は警察手帳を見せながら、
「ついでに、こいつは未来から来た男だ」
と、ラオウを指差して笑った。
「ざけんな!うちの社員はどうした!」
「罪を犯したので逮捕した」
「逮捕?」
サングラスで表情は見えないが、口をポカンと開けているのでかなり驚いているようだ。
「そしてこの車は警察が借用している。君の所の社員にも了承は取ってある。東京で起きた事件との関わり合いを調査する必要があってな」
林は、男が驚いている間に情報を詰め込んだ。
「何言ってるんだ、お前!」
サングラス男はサングラスを外した。意外に童顔だ。
「この貨物船は警察がチャーターしたものだ。あんたたちの会社がチャーターしたものじゃない」
「何だと?」
童顔男は仲間と顔を見合わせて驚きを共有している。
「ついでに、この船は東京湾に向かっている」
「と、東京?高知じゃないのか!」
「カツオは食い飽きた」
「ふざけるな!高知に向かえ!」
童顔男が大声で叫んだ。
「バカか?この船は警察がチャーターしたと言っただろう。お前たちが勝手に乗ってきたんだ。何ならここで降りるか?」
「お前が誘導して来たじゃないか」
「誘導?俺たちは高速道路を使って南港へ来ただけだ。お前たちが勝手に付いて来て勝手に乗ってきた」
「乗ってくれと頼んだ覚えはない」
ラオウもひと言添えた。
「クソッ!覚えてやがれ!」
二人は言葉を吐き捨てて後ろのベンツへと戻っていった。
「出た、お決まりの捨てゼリフ」
林がそう言ってニタリと笑った。
「なるほど。東京湾に着いた頃には日付が変わっているって訳か」
ラオウが林の作戦に感心して見せた。
「東京湾に着いたら、警視庁の型どおりの調査をしてからすぐに返してやるさ」
「じゃあ、船室で昼寝でもするか?到着まで暇だなあ」
「釣りでもするか?」
二人は甲板に出てゆっくりと船室向かって歩き始めた。チラリと後ろのベンツを確認すると、男たちが必死であちらこちらに連絡を取っている様子だ。
ラオウと林は、肌寒い海風に身を屈めながら甲板を歩いて、足早に船室へと入っていった。
ラオウと林が船室に入ると、真奈美が壁に取り付けられている長いソファに腰かけてコーヒーを飲んでいた。ソファの前には十人程度が食事を出来るテーブルが置いてあった。
この船室は、船乗員たちの休憩室になっているようで、テレビも置いてある。そしてテーブルの上には真奈美のコーヒーとクッキーが置いてあった。
「そのコーヒーもお前が作ったのか?」
林が部屋に漂った上手そうなコーヒーの香りに怪訝な表情を浮かべた。
「そうよ。でも、これはドロップ式。皆さんに出したのは、そこにあるインスタントの粉コーヒー」
「奴らを三倍怒らせたみたいだ、真奈美ちゃんのいれたコーヒーが」
「きっと粉が古かったのよ。湿って固まっていたもの」
「だから自分はドロップ式か?俺たちにも上手いコーヒーを入れてくれ。いや、自分で入れるから物のありかを教えてくれ」
林がそう言って周囲を見渡した。
「これは船長さんがくれたの。クッキーと一緒に」
「若い女は得だ」
そう言って林とラオウは真奈美の向かいにある長椅子に腰を下ろした。テーブルも椅子も床に固定されている。
「食い物はあるのか?」
ラオウが林に確認した。
「弁当なら準備している」
「高知までどれくらい掛かるの?」
「高知じゃない。東京に向かっているらしい」
「あら、東京?ついでにディズニーランドまで足を伸ばしましょうよ」
「行先は霞ヶ関だ。お前たちもしばらくは事情徴収で自由は制限される」
林がふと立ち上がって、部屋の隅にある自動販売機で缶コーヒーを買った。
「お前も飲むか?おごるぞ」
「ビールは無いのか?」
「私もビール!」
「一日くらい禁酒しろ。この船にはアルコールは無い」
林が冷たく言ってラオウに缶コーヒーを手渡しながら腰掛けた。
「あら、船長さんよ」
真奈美は、前方の操舵室と繋がるドアの小窓から見える白髪の男を見つめている。そして静かにドアが開くと、白い制服を着た船長が入ってきて、
「大変申し訳ないですが、この船は今から徳島港に向かいます」
と、帽子を脱ぎながら報告した。
「徳島?」
全員が声をそろえて疑問の空気を船長にぶつけた。
「徳島ってどこにあるの?」
真奈美が最初に口を開いたが、完全に無視された。
「どうしてだ?」
林が勢い良く立ち上がる。
「本社からの指令でして……」
「この船は警視庁がチャーターしたものだぞ!」
林は怒りを露にして叫んでいる。
「いえ、それが事務手続きに不備があるとかで、ついさっきチャータ主が変更となりました」
船長の言葉に林は愕然としている。
「だから、徳島ってどこなのよ?」
「ここから約一時間の、四国の東北に位置する港です」
船長が真奈美に丁寧な説明をした。
「徳島からだと、高知まで陸路で三時間もあれば到着してしまう。不味いぞ」
ラオウが林を下から見上げた。
「どうにもならないのか?この船を徳島港に着けたら、日本が大危機に陥ってしまうんだ」
林が必死で船長を説得しようとしている。
「私からもお願い、船長さん!」
真奈美も立ち上がった。
「詳しい事情はわかりませんが、お客さんが指示に従わない場合は、シージャック容疑で海上保安庁を呼ぶように言われています。本社の意思は固いようです」
「あなたの船会社は、警視庁を敵に回すことになりますよ!」
林が最後の恫喝に出た。船長はじっと林の瞳を見つめてから、意を決したように、
「うちの船会社なんですが、実は昨年、C国系の会社に買収されているんです。警視庁や警察庁が何か言ってきても、全く気にしませんよ」
と、周囲を気にしながら、小声で説明した。
「私も日本人ですから、あなたに協力したいのは山々ですが……」
そう言って申し訳なさそうに一礼した船長は、操舵室に戻っていった。
「そう言えば……」
突然、真奈美が何かを思い出して携帯を開いた。
「さっき、また指令メールが来ていたの。指令T。船会社に絶対指示をせよ。だって」
「絶対指示?」
「一切反論を許さないトップダウンの指示だ。C国お得意技だ」
林が吐き捨てるように言った。
「そもそも、何でわざわざC国系の船会社なんかに依頼したんだ?」
ラオウは呆れ口調で林を責めた。
「依頼したのは購買部署だ。俺じゃない」
「詰が甘いな」
ラオウが不機嫌に呟いた。
「今、林さんを責めても仕方ないでしょう。方法を考えましょうよ」
真奈美が明るい笑顔で二人を見つめている。ラオウも彼女の笑顔に釣られてつい笑顔を零してから、
「いっそのこと、海上保安庁を呼んでもらって臨検でもしてもらえば時間を稼げるんじゃないか?」
と、提案した。
「いや、今回の件は警視庁内部だけで動いている。海保や地元警察などが出てきて現場でもめると話がややこしくなる。俺たちが現場でもめて、上層部が各署と調整しているところへC国に味方する政治家たちが割り込んできたら、とりあえず車を返せという圧力に負けてしまう可能性が高い」
「警察を巻き込むのは最後の手段と言うことね?」
真奈美が口を挟んだ。
「そう言うことだ。とにかく、警視庁から徳島と高知県警に事件捜査のためと言うことで協力要請をして、俺たちの行動を理解してもらうしかない」
「事件捜査って、何の事件捜査にしているんだ?」
ラオウがずっと抱いていた疑問を口にした。
「麻薬密売だ」
そう言って林は、電話連絡をするために甲板へ出て行った。
「麻薬密売……。あの車が麻薬密売に使用されていた疑いがあるってストーリーか?信じてもらえるかな?」
「現金を積んでいるわよ」
「それだけで?」
ラオウは不安げな表情を浮かべている。
「それよりも、徳島港に着く前に警視庁の協力依頼が現場にまで届くかしら?」
「協賛カンパニーも、C国系の政治家を通じて警察に圧力を掛けているだろうから調整には時間を要するだろうな。現場は大混乱間違いなし。だから奴らは最寄港の徳島港を指定したんだ」
「頭良いわね」
「感心している場合か?」
「そんなに頭が良いのなら、こちらが嫌がることをしてくるでしょうね」
真奈美はそう言ってクッキーを口に入れた。
「ラオウさんも食べる?」
「嫌がること?」
ラオウはクッキーを受け取りながら真奈美を見つめた。
「夷を以って夷を制す。C国の得意技よ」
「君にしては博学だな」
「奈川さんの受け売りよ」
「警察で警察を制するか?」
真奈美は小さく頷いてから、
「公安部が、警察権力乱用ギリギリのところで輸送車を奪い取ったから、その不当行為を別の警察に認知させる。きっと徳島港には徳島県警が待機しているわ」
と、探偵気取りで推理を披露した。
「そうだな、あの演芸会みたいな芝居の情報は、今、甲板にいる運転主たちにも入っているだろうからな」
「南森町で、もうひとりの男も逮捕しておくべきだったわね」
真奈美が悔しそうに呟いた。
「君はいつから警官になったんだ?ま、今更言っても仕方が無い。甲板にいる運転手たちが、船に乗り込んできた警官に全てを話したら、こちらのやり過ぎだと言う話になる。絶対に」
「絶対って言うことはないでしょう?」
「あれはアウトだろう。そもそも君の芝居が白々し過ぎた」
「あら、林さんは女優並だって褒めてくれたわよ」
「奴が脚本を書いたからな。自画自賛だ」
そう言ってラオウはクッキーを口に放り込んだ。




