1-7 正義の剣は少女の手に
復活ッッ!!
(by作者)
世界が白銀に染まった。
鋭い剣の如く大地に突き立つ、光の柱。
目を眩ます閃光が満ち溢れ、その場にいた者達全員が視界を手で覆う。脈絡もなく突然訪れた出来事に、思考が一瞬硬直した。
そして光が徐々に力を弱めていく。その中に、人型を認識できる程までになったところで、パアッと儚い音を上げて一気に弾けた。
間近で光を浴びた結音やスレンナ、ピンク。ヌイグルミと戦闘を繰り広げるフォースのメンバー。撮影中のテレビ局のクルー。
彼らは皆、一様に息を呑む。
白銀の光の中に、少女がいた。
淡い輝きを宿す光の花弁が、粉雪のように儚く舞った。降り注ぐ光に照らされる少女は、静かに威風を纏う。
光沢を放つ、黒みのある鋼鉄の色合いをした流麗な銀髪。白雪を彷彿させる、透き通るような柔肌。
金具付きの現代風な衣に華奢な身を包み、手甲やブーツまでも金属防具があてがわれている。豪奢にして繊細なその姿はさながら、騎士。
膝まで程の丈を持つ、外套状の羽織。それに雪の結晶の模様が染め抜かれる。そして、首に巻かれた剴布が優しく風に揺れていた。
造形師が精巧に作り上げたように美麗で可憐。和洋折衷の異様な装束を着こなす少女は、微笑を浮かべて沈黙する。
目前に背を向けて現れた少女に、結音は口を開いたまま硬直していた。考えられる限りの通常時思考では、現状を把握することは叶わない。
隣では、結音を守ろうと庇う体勢のままかの正義の味方がいる。無論、彼女も硬直する人々のの類に漏れない。
和風混じりな騎士姿の少女が振り返る。強い思いの光を宿す、宝石のような青い瞳。そしてよく知っている家族の笑顔。
それを見て、結音はハッと息を詰まらせた。少女はやや遅れて、純白のマフラーで口元を隠す。
「お、お姉────っ!」
「そこのお嬢さん、安心して。私が来たからには、大丈夫だから」
結音が言い切る前に、滑らかな口調で口止めする。手の平を向け、静止の合図。下手なことで先走れば、正体が発覚しかねない。
少女は結音を再度安心させるため、改めて強く告げた。
「大丈夫だから。ねっ」
パチンと可愛げに、星が飛ぶようなウィンク。その笑顔は、ここ最近見た少女の表情で一番自然的だった。
大丈夫。結音は私が守るから。
大丈夫。私はもう、心配ご無用。
少女の笑顔と言葉に含まれた意味は、結音に突き刺さるように伝わった。唖然としながらも、ゆっくり頷く。
「ピンク……さんでよろしかった?」
「え? あ、はいっ」
「お嬢さんを早く安全な所へ。後は、私に任せて」
本来なら、どこの誰であろうと信用に値しない限り場を預けることはしない。数多くの民間人を守るため、得体の知れない存在に戦いは任せられない。
しかし、ピンクは言われるがままにぎこちなく頷いてしまう。それは、何度も戦闘を繰り返し、鍛えてきた戦士としての直感だったのかもしれない。
何というか、漠然と理解した。
────格が違う。
☆★☆
何か言いたげな寂しさ全開の表情をした結音が、ピンクにより戦場から遠ざかる。何はともあれ、ひとまず安心した。
これで心置きなく、戦える。
『主、聞こえてますか?』
(む!? 何奴? どこに?)
『現在位置は左方腰部。納刀状態。カートリッジ、残弾7、弾倉2』
突如聞こえる機械音声。中性的でかろうじてアルトと判断が付く。いや、それはいい。
声に促されるまま自らの腰を見やる。そこで少女は漸く、自分の派手な装束と────荘厳で物騒な代物に気がついた。
羽織に隠れるように、スカート状の腰布に差されたそれは、紛れもなく刀剣。辛うじて日本刀と判別が付く異様な武装がそこに“いた”。
ダークブルーやコバルトといった青の系統色と漆黒に彩られた鋼鉄。精密でいて頑丈な機械をそのまま刀の形にしたような外見。細身で反りは少なく、刃渡りは三尺ほど。
円形をした本来の鍔はなく、空気口が設けられた放熱機構となっている。柄には何やら、銃の引き金に似た物。
さながら、最先端科学を駆使して造られた近代兵器。
ナニコレ。
『初めまして、我が主。私は型式名称【U-PN193VS・グラジオラス】。涼様はAIを【ソウド】とお呼びします』
(お母さん? どゆこと?)
『私はレイニア式魔法専用、ユニコーンタイプの魔法杖です。また、主の専用機として登録しております。私──』
(話聞いてくれません!? ちょっと、優先事項再認識しよう! 単刀直入でもう一回!)
『了解です。私は主の剣。…………以上で初期稼働に於ける私からの念話通信による音声解説を終了致します。ご質問はありますか?』
(腐るほどあるよ! 短くし過ぎ! だけど、そんなこと聞いてる余裕はない。ともかく、アナタは武器ナンですよね!?)
『はい』
念話は母親である涼が偶に食料品などの買い出しをお願いする際によく使っていたため、差程驚かない。最も、澪は不得手らしく、洸だった頃も成功した試しがない。
既に戦闘が始まってもおかしくない状況下で何を暢気に会話しているのか。取り敢えず、武器があったのは喜ばしい。
澪は落ち着いて現状の把握に努めた。
『では次に、取扱説明書をお読みになりますか?』
(あるの説明書!? 是非読ませて!)
『了解です。VRサイト起動』
機械音声に続いてブーンと耳元で駆動音が鳴り、視界が一瞬青く明滅する。
突如、半透明のプレートが浮かび、文字の羅列がすらすらと記されていく。説明書らしきそれは、自分の意思に連動して次のページへと移った。
よく見れば、視界の端に現在の魔力残量を示すバーや、装備している武装、カートリッジの残弾などが映し出されている。
まるで立体映像のようなそれらは、嘗て洸が遊んできたテレビゲームの画面を彷彿させた。
(…………な、なるほどね。まあまあ解ったかな?)
『前方に敵と思わしき存在を確認しました。戦闘シーケンスに移行します。……主、よろしくお願いします』
(あ、ソウド……だっけ? こちらこそよろしく)
敵が目の前にいたことを思い出し、澪は真面目モードに思考回路を切り換える。しかし、冷静になったからといって忘れてはいけない。
ヒーローはいつ如何なる時も、“アレ”が必要なのだから。
☆★☆
少女は謳った。
その手に剣を掲げ、戦う意思を宣誓する。
知りたいか。私が何者か。
ならば教えてやろう。刮目しろ。耳を澄ませろ。
────天も地も人も呼んでないけれど、助けを願う声がした。
────私は剣。この身を以て正義を切り拓く刃。
────鋼がもたらす、強く硬い優しさが、如何なる障害も斬り捨てる。
────全ての悪意と敵意は、この剣の前に恐れを為せ。
この場に集う全ての者達よ、その心にこの名を刻み込め。
我が名は────
「白銀の剣姫、ラスターエッジ・ミュウ──────ここに見参!!」
☆★☆
白銀の装束を身に纏い、澪──ミュウは眼前の敵に対峙する。腰布に差していた日本刀の形状をした武装を抜き、鞘ごと左手に下げていた。
口元をマフラーで隠しているが、その表情は確かに笑っている。不敵にもニーッと、小さな子供。
(フフン…………。決まった)
『主、少々無防備かと』
ヒーローとして初の前口上。
“澪”は小さい頃は父親やテレビで放送される本物に憧れていたし、“洸”も普遍的な少年らしくかっこいいものは好きだった。
痺れるほどの余韻に浸り、ミュウはご満悦だった。心臓のバクバクが止まらない。
(…………何なんですの? 私とは、また違うタイプの魔法使い……ですわ)
闇夜に溶け込むような濃密な漆黒のドレスに着飾れる少女、スレンナ。ピクシードールの名の通り、余裕綽々な態度で笑っている──外見上は。
というのも、スレンナがピクピク震えている理由は二つ。
一つ。
(うーん、ポーズはもっと派手……いや、やっぱりクールに決めるのも……)
『主、そろそろ抜刀した方が……』
(何で、あんなにニコニコしているのかしら。私を前に、どれだけ時間を取っているの。……ああ、でもでも──)
スレンナは、ミュウの笑顔と一向に始まらなかった会話に怒っていた。
何やら自分の姿や剣に興味津々だったようだが、如何せん時間が掛かり過ぎた。前口上までわざわざ待ってやったというのに、礼もない。
しかも、なんか笑っているし。
だが、許そう。許すだけのことが、もう一つの理由にあった。
「あ、あなた…………」
「はい、何か?」
「も、もう一度……な、名前を」
「ミュウ。……ラスターエッジ・ミュウです。よろしく、ピクシードールさんっ」
ああ。
スレンナは名を呼ばれ、また相手の名を聞いて身を焦がされる感覚がした。思わず自らの肢体を抱き締める。
遂に、この時がきた。
「ミュウ。……ミュウ。いいわ、凄くいい。最高よアナタ」
「へ?」
「ふふふ……、ふふふふふふっ!! あはははははははははははっ!!」
『主、あの敵は危険です。とにかく危険と判断します。早急に排除するべきです』
(うん。私もそんな気がする)
急に高笑いを上げるスレンナに、ミュウは呆然と汗を流す。一体何がどうしたというのだろうか。
浮かんだその問いに、スレンナは行動で答えた。
しなるスレンナの細い腕。優雅なドレスに包まれたその身から放たれる凶悪な一撃。
鞭。
只でさえ超高速に達する武器が脈絡もなく動き、獲物に飛びかかる。小動物を補食せんとする大蛇の如く。
鞭とは本来、高速攻撃とそれによる威力を売りにした武器。鋭い打撃は、標的に裂傷を刻む。
咄嗟に反応できるわけがない。
普通なら。
『主、迎撃を』
「承知ッ!!」
だがミュウは動く。彼女は剣士である。抜刀した刃──否、鞘を持ったままの左手が薙払う。
止まらないスレンナの連撃。空を切り裂くその鋭い武技を全て、“納刀状態の刀剣”で弾いて弾いて弾いて弾ていく。
鋼鉄製の繊維でも仕込んでいるのか、鞭に鞘や柄が触れる度、火花が散る。目の前で派手な閃光花火でも燃えているみたいだ。
ミュウが受けた損傷は特になし。力んだ時に眉をひそめた程度。
楽々と凌いでみせた。
「ミュウ……ミュウ。ミュウ、アナタを……アナタのような方を待っていましたの。ずっとずっと……!」
「え?」
『ようやくライバルが現れた、という解釈で宜しいのでしょうか』
ソウドが念話通信で問う。的確な判断に思えたが、今一ズレている気がする。嬉しそうではあるが、何か対抗心が感じられない。
というか、何か空気が桃色に見える。──ん?
「アナタならば、私の一番の人形になれますわッッ!!」
「やっぱりそっち!?」
興奮のあまりに、スレンナは仰々しく両手を高々に広げた。そのドレスの袖から細かい鞭……糸が飛び出す。
スレンナの足元で展開する円形の光、魔法陣。鞭のみでの戦闘を終え、本格的に魔法を使用することを決めた。
つまり、これからが魔法少女としての本骨頂というわけだ。
ならば。
「…………」
『主、ご安心を。私が補佐を致しますから』
「…………うん」
ミュウは一度目を閉じ、視界を暗闇に落とす。余分な情報を頭から排斥し、深く想像の領域に浸った。
思い出せ。洸だった時、少ない魔力で拙い魔法を習得したことを。“それでいい”。
嘗て魔法としては虚弱だったモノを、復活した魔力で過剰なほどまで強化すればいい。
魔法としての原形は、この武装の中にある。ソウドの用意した説明書にも余さず記されていた。
自らが行うのは精密な魔力操作と、術式の構築。今の自分、澪ならばそれは可能。
「いくよソウド。グラジオラス、抜刀」
『モード1稼働中。カートリッジ残弾7』
抜き放たれる。
峰は鎧のような暗い装甲で覆われ、刃は薄いコバルトに仄かな色合いをしている。その鎬には溝が走り、蛍光ブルーが輝いていた。
ミュウはすかさず、機械剣の柄を握る右手に意識を持って行く。そこに設けられた、銃の引き金に相当する機構。
そのトリガーを躊躇なく引く。
ガチャコン。放熱機構の上部が展開し、銀色の薬莢を排出。内部に仕込んだ魔力弾を装填。
『シルバーブレイド展開。残弾6』
爆音と共に、白銀の炎が機械剣の刀身をド派手に喰らい込んだ。唸りを上げる駆動音が、爆発的に剣の力を増したことを知らせる。
光沢が物理的な破壊力を得たような姿だった。
「さて、いきますかね。うんっ」
投稿遅れ過ぎ!?
(-ω-;)