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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
1篇 爆誕!! 銀剣の魔法少女
6/18

1-5 人形劇の女王様

執筆で腕が、腕がぁぁああ!

 


 この人達は何をやっているのだろう。結音は呆然と目の前の風景を眺めていた。


 あからさまな悪の組織に取り押さえられ、ショッピングモールの中央ロビーに連れて来られた結音。談話スペースの座椅子やテーブルが設けられたそこは、臨時の本部と化していた。


 本部。悪の組織の幹部が集う場所。


 結音は一体何をされるのだろうと、身を震わせて恐怖していたのだが、──現在、拍子抜け中だ。


 そもそも、幹部などそこに居らず、組織のリーダーらしき仰々しいマントに身を包んだ仮面の男が高笑いしていた。


 構成員であろう黒スーツの不審者達も、二十人を越えない。しかも、覇気が無い。


 ────言うなれば、少しザコっぽい組織だった。



「まさか、こんなことって……」


「どうしたお嬢ちゃん? 俺らが怖いのか! ぎゃはははははっ!!」


「……わー、怖いよー。誰か助けてぇー」


「……ん? 何か棒読みじゃね?」


「そんなことないですよー」



 まさか、こんな馬鹿ヤツらに捕まるとは。不幸中の幸いか。だが、素直に喜べないのは何故だろう。


 阿呆らしい作戦会議を繰り広げ、ぎゃあぎゃあ騒ぐ構成員達。最早、戦闘員かすら怪しい。


 戦闘員のつもりらしいが、人質として連行した結音を一切捕縛しないところが素人丸出し馬鹿丸出し。少しくらい頭を使えないのか。


 そうか頭悪いからこんなことしてるんだ。結音は優しい微笑みで、悲惨な彼らを見守った。──うんうん、可哀想な人達だ。


 助けが来るまでの間、暢気に彼らでも見ていることにした。



「どうした。まさか……お前、私達に興味があるのか」


「あ、はい。そうですね」



 暇潰しの観察対象として。


 安っぽい威厳たっぷりに話掛けてきたリーダーの男に、結音は苦笑いで返答した。彼らが悪の組織だという事実がハリボテ化した今、全く怖くない。


 リーダーの男は、結音の言葉に快くしたのか、部下に指で指示を出す。部下が頭に疑問符を浮かべたので手で叩き、結局自分が動いていた。


 ────その格好悪さ、とても似合ってます。


 心の中で必死に笑いをこらえた。



「実はな。我々の組織は結成してからそこまで日が経っていない。本格的な活動はここ最近からだ」


(そんなことだろうと思いました)


「しかも本拠地をヒーロー気取り共に攻撃され、我々は追われるハメに……。仲間も捕まってしまった」


(さぞかしらくだったろーな……。ヒーローさんも警察も)


「資金も失い、我々は路頭に迷うことに……」



 今朝のテレビのニュースの通り。唯一説明不足だったところは大したことはないという事実。


 自分でも倒せるとまでは言わないが、隙さえあれば逃げ出すことは可能だ。助けもいらないかも──



「だから、君を利用させてもらう」


「はい?」


「興味があるのだろう? ならば我々と共に立ち上がるのだ!!」



 リーダーは手に握られていた紙袋から、ビニールに包まれた衣服を数枚取り出す。それが何か認識した時、結音の顔は蒼白となった。



「君もこの戦闘員スーツを着用し、我々と──」


「ふざけんな変態ッ!!」


「なっ!? ならば我々のマスコットキャラクターとしてこのアイドルスーツを──」


「あんたが着ればいいでしょ!」


「……! そうか、その手が──!」


「やめろ変態ッ!!」



 本気で自らの衣服に手を掛け始めたリーダーに、結音は戦慄した。侮っていたのはこちらもだったか。


 どんなに情けなくてもこいつは悪者なのだ。ありとあらゆる意味で。


 周りの子分達までアイドル風のミニスカートを手に取る。いかん、話を逸らさなくては。このままでは“終わる”。



「あ、あなた方の組織って、どんな目的があるのかなー? なんて……」


「この国に抗議するのだよ。──我々は……働きたくないと!!」


(やっぱりこいつらダメだぁあああッ!!)



 彼らは既に終わっていた。結音は手と指を合わせ、祈った。早く、ここから助けて。


 その心の底からの願いは、祈りから一秒と経たずに叶う。あまりもの早さに、運を消費したかもしれない。



「ぎゃあぁぁああぁぁぁあ!!」


「ぶふぉぉぉおおぉぉおお!!」


「ぷらずまぁぁああぁぁあ!!」



 悲鳴を上げて吹き飛ぶ、全身黒スーツもとい黒タイツの構成員達。ボウリングのピンのように弾け飛ぶ姿は、とても清々しい。


 結音は、自らの頭上に影を見た。照明を背に、人影は威風堂々と自分達を見下ろしていた。“空中から”。



「──日陰に咲くは真紅の薔薇。美しき物には棘がある。わたくしの棘は、血の色をしていますの」


「な、何者だ──ぐほっ! ……す、スミマセン」



 照明の光を独占するかのような、その覇気のある姿。今この場は自らのために設けられ、自らこそが主役であると態度が語っている。


 金色の長髪は端でロールを巻き、煌びやかな輝きを宿す。所々が開かれた漆黒のドレスは、少女の大人びた雰囲気と相まって蠱惑的、扇情的である。


 優雅に鞭を構える姿は、さながら舞踏会に君臨する女王といったところか。


 クス。小悪魔の笑み。





「──ピクシードール・スレンナと申しますわ。……さあ、わたくしと共に踊れることを、感謝なさい」





 その特有の雰囲気と外見に、結音の中で答えは出ていた。この観客に自らを語る物言いと、高揚させるような不可思議な存在。


 魔法少女。


 城園という舞台に君臨する女王が動いたのだ。その力は凶悪無比な魔法を以て、楯突く愚者に舞を強要する。


 ────というか。



「私の庭で何をなさっていらっしゃるの? ここは、あなた方が土足で上がり込むような沼地ではないですわよ。さっさとドブに帰りなさないな」


(なんで悪役増えてんの!? 願い聞くどころか逆にして叶えやがったぁ! ヤバいヤバい、“この人”はヤバいって……!!)


「貴様ッ! よくも同志を! 許さん……許さんぞ! この私の真の力で……」


「……息をしないでくださる? 空気が汚れますわ」


「なっ!?」


(何、喧嘩売ってんのよぉぉぉおッ!!)



 リーダーが仲間一人一人を助け起こし、魔法少女スレンナに臆することなく指を差す。そんなことをしている内に、結音はロビーから駆け出した。


 城園市に住んでいる以上、スレンナの出現が何を意味するか、よく理解していた。





 ピクシードール・スレンナは、城園市に君臨する“悪の魔法少女”。


 だが、この街には彼女の抑止力となる“正義の魔法少女”が存在しなかった。







   ☆★☆







『テレビをご覧の皆様、今私、鹿山は当番組【城園の虹色お菓子リポート】を中断し、菫ヶ丘ショッピングモールに来ております……!』


「うぉおう……っと!」



 半ば奇跡的に無傷でショッピングモールを脱出することに成功した結音。出入口のガラスドアが自動で開き、快速で突破した彼女はギリギリで衝突前に急ブレーキした。


 というのも、ショッピングモールの出入口に広がる駐車場にて、テレビ番組がリポートしていたためである。危うくリポーターに激突するところだった。



『悪の組織と見られる集団が現れ、既に一時間程が経過しております。警察も市民の誘導を終え、遠方で待機しているとのことです。…………我々は今、その現場に来て──』


(現場って……。本当に現場じゃん。現場付近じゃないじゃん)



 プロ根性の深さに、結音は素直に驚嘆し、そして呆れた。


 警察は基本、悪の組織と思われる、またはそれに匹敵する危険性を秘めた存在は正義の味方に任せる。警察官自身が犠牲者となること防ぐためだ。


 代わりに、市民の安全の殆どを受け持つのである。


 分相応。自分達のできることを知り、それを実行する。素晴らしい判断だ。


 だがしかし、このテレビクルーのような怖いもの知らずの輩が後を絶たないため警察も大変困っているとか。自己責任、とはいかないということがわからないのか。


 まあ、動画サイトにも上げられるヒーローとヒールの戦闘映像は撮影者の悲鳴込みで何度も見ている。結音は存外に馬鹿にできなかった。



『さて、ショッピングモールからやってきた女の子を発見しました。インタビューしてみようと思います。──中の様子はどうでした?』


「はィイ!? あ、その……中に悪い人達が居て捕まっていたんですけど、に、逃げてきましたッ!!」


『ほう! もしかして、武道か何かを習っていらっしゃるのですか?』


「いえ、単純に運が良かったっていうか……、向こうが馬鹿だったていうか……」



 急に至近距離に迫ってきたリポーター達に、結音は悲鳴を上げそうになった。


 だが、これが放送されているかと思うと、火事場の力らしきものが覚醒する。凄く恥ずかしいが、緊張を必死に抑え、何とか受け答えに成功した。


 よしこのまま話し尽くして乗り切ろう────って違う!



「待って、ここ危ないよ! さっきスレンナが──」


『スレンナッ!! 皆さんお聴きになりましたか!? スレンナが来ているようです!!』


「何で喜んでるの!?」



 退却を促そうとしたのだが、どういうわけかリポーターは興奮し、身振り手振りを激しくする。この人達に、『撤退』の二文字は考えられないらしい。


 ならば、達者で、と結音はリポーター達に背を向け逃走の構えに入る。犠牲になるのは勘弁だ。



わたくしを呼びまして?」


「「「「ッ!?」」」」



 いつの間にかすぐ横に堂々と仁王立ちしていたスレンナが、小悪魔の笑みを浮かべ問い掛ける。カメラマンや音声係も含め、その場の全員がビクッと跳ねた。


 だが、リポーターはすかさず取材を急遽開始する。リポーターさん、あなたスゴいなと結音は心の底から驚嘆した。



『ピクシードール・スレンナさんとお見受けします』


「ええ。間違いありませんわ。わたくしこそ、ピクシードール・スレンナです」


『今日は何をしに来られましたか?』


「…………………………」



 失言だったか、と場に緊張が走る。結音も下手に動いて標的にされてはたまらないので、沈黙を貫いた。


 リポーターの女性、その顔や体をじーっと見詰めるスレンナ。首や腰を屈め、あらゆる角度から“審査”する。


 やがて、ニンマリと満面の笑みで何かを納得した。



「……あなた、メイドや執事に興味がありません?」


「え?」


「家政婦ですわ。どうなのかしら」


「いや、私は根っからのリポーターでして……。そのようなことは……」



 キョトンとした様子で正直に答えるリポーター。まさか、自分が質問されるとは思わなかったのだ。


 ニヤニヤと笑い続けるスレンナに、遂に結音は理解した。これは、まさか──



「そうですか。では────えいっ」



 迫力のない可愛らしい声とは裏腹に、スレンナ手からは光輝く、円形の魔法陣なるものが現れる。そんな異常に、反応するのが出遅れていた。


 ──ポンッ。モクモクとした白い煙に包まれたリポーターは、悲鳴を上げる間もなく、その姿を変貌させた。


 放送用の衣服から、──白いエプロンドレスとカチューシャを身につけた立派なメイドへと。



「あなたは私の新しい人形でしてよ。そうね…………リポーターメイド、かしら」


「かしこまりました。お嬢様」



 さも当然のように、元リポーターもとい現リポーターメイドは了解する。上品にも、右手に左手を添え、ペコリとお辞儀までした。


 悪夢だ。


 数年前から現れたスレンナは、色々な理由を付けては城園市で遊び回っている。その目的で最も多かったのが、“趣味の人形集め”だ。


 気に入った存在があれば、自分勝手に改造を施して持ち帰る。そして飽きれば、道端に置いていく。


 今までの被害者は皆、帰還を果たし、魔法による洗脳も解いてある。しかし、誘拐には変わりない。


 リポーターメイドはたった今、スレンナの人形と化したのだ。



「あら、そこのあなた。……あなたもいかが? きっと楽しいですわよ?」


「勘弁してくださいッ!!」



 ヤバいヤバいヤバいヤバい。頭の中で警報が鳴り響く。


 何とか話を逸らすのだ。



「そ、そういえば! さ、さっきの悪い人達はどうしたのかなー、なんて!」


「さっきの? ああ、彼らでしたら──」



 パチン。スレンナが高らかに指を鳴らす。


 すると、どこからともなく男達がゾロゾロと現れた。黒いスーツにサングラス。印象的には厳つい。……だが。



「私のボディガードになってもらいましたの」


「何ィィィィイイイッ!? あなた達、働きたくないって言ってたじゃない!! 魔法に負けるな!!」


「お嬢様は私達を雇ってくださった。ならば、それに全力で答えるまで。……お給料万歳ッ!!」


「リーダーぁぁぁああぁぁああ!!」



 悪の組織を気取っていた彼らの面影はそこにはなかった。統制の取れたその動きに、最早感服すらする。


 そして、結音自身までその魔法の餌食になろうとしていた。逃げようにも、如何にすれば魔法を回避できるか結音にはわからない。


 こちらに向けて翳したスレンナの手。それが今にも魔法を使用しようと輝く。





「────そこまでだッ!!」





 高らかな叫びは、その時に聞こえた。


 



執筆中、机の角に全力で肘を打ちました

(>o<)

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