表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
1篇 爆誕!! 銀剣の魔法少女
5/18

1-4 時は訪れる

さあさあ、盛り上がって参りました。


 


 はあ。溜め息を一つ。


 いつもは会話の絶えない暮傘家の食卓。長閑な時間を即座に終わらせる才能を持った母親と妹がいる限り、澪自身も笑っていられるのだろう。


 そんな澪が、これから食べようという焼き魚と同じ、死んだ目をしていた。


 生気の抜けた虚ろな目がテレビのある方向を向いたまま、ただ機械的に箸が食器と口を往復する。声もただ薄く、視線を合わさず返事や挨拶していた。



「お兄ちゃん、大丈夫ー?」


「…………………………」


「お、お姉ちゃん、大丈夫ー?」


「ぇ? ………………ん………………」


(全然大丈夫じゃないいィィィイッ!! ダメだ、ぶっ壊れてるッ!!)



 寝癖でボサボサに跳ねた髪も直さず、気配はさながらゾンビのようだ。鳥肌を立て、結音は内心で絶叫した。


 まさか昨日の自分や母親の態度が、兄の心を完全に破壊したのではないか。そんな考えが浮かび、罪悪感から結音は泣きそうになる。


 母親の涼に助けを求め視線を向けるが、いつも通りの澄んだ笑顔で華麗に受け流した。いや、あなたにも責任があるかと。


 ふと、妙に音声が騒がしいテレビが気になる。視線を向ければ、スタジオの中でニュースキャスターがやや興奮した様子で報道していた。



『──ました。城園市近隣の皆様はどうか注意してください! 悪の組織を名乗る集団が潜伏しているかもしれません』


「…………悪物も大変そうだね、お姉ちゃん」


「…………そぅ………………」


「…………あ、あはは」


『警察は警戒網を敷き、正義の味方が来てくれるようにおもてなしの準備を進めているとのこと──』



 最初から他人任せか。いや仕方あるまい。警察のルールでは直接悪の組織と戦わず、人々の避難誘導が仕事である。


 相変わらず、正義と悪のいざこざの絶えない世の中だ。ヒーロー達の戦いもテレビの中継で放送されることがあるくらい。


 それに、ある程度の実力を持った悪人ならば常人の警察など一捻りだろう。“警察側に異能者”は誰一人いないのだから。


 ということは、今日の外出もテレビのニュースで放送した通り、若干危険性が伴う。


 それに──、チラリと横目に澪を見る。姉が心配で仕方がない。



「外危ないみたいだし……私、今日はお出掛け止めようかな……?」


「大丈夫よ」


「お姉ちゃんも心配で…………」


「そっちも大丈夫。私に任せなさいって」



 妙に意見を押し退ける涼を、結音は訝しむ。状況を楽観視している割には、何か怪しげな理屈があるらしい。


 何はともあれ、結音は今日の外出は“重要な目的”があるのだ。


 元魔法少女の母が大丈夫と判断する以上、それを信用することにした。はっちゃけてはいるが、彼女も悪魔ではない。



「ごちそうさまでした」







   ☆★☆







 ふと気付いた時、背中に暖かみを感じた。意識が冴えていく中、澪は後方に視線を向ける。


 涼が澪の首に腕を回し、優しく抱きついていた。今も、背中を通して自分とは別の心臓の鼓動が聞こえる。


 微笑みを浮かべた涼の目が真っ直ぐにこちらを見つめていた。



「……お母さん?」


「ねえ、澪………………、一人で悩んでいるの?」


「………………」



 久しく聞いていなかった母親の真剣な声色に、澪は目を丸くする。急にどうしたのか、という驚きに加え、やはりバレているかと少し恥ずかしかった。


 なんだかんだ、結局この母親は“味方以外にありえない”。


 だからこそ、相談という相談は一つもしていない。笑っている内で、心配を隠しきれない涼なのだ。



「家にばかり居たら逆に疲れるわ。外の空気を少し吸わないと、ね」


「……へ?」


「お出掛けしましょう。私達も」



 あまりにも包容力溢れた笑顔を向けてくるものだから、言葉の意味を考える間もなく、澪は小さく頷く。


 今日は起床してからの行動が朧気だ。はたして、自分はどんな朝食を口にしたのか。


 色々と深く考え過ぎたためか、パンクした頭が考えることを放棄した。そんなイメージ。


 言われて、確かに気分転換が必要かもしれない。そう思う。



「じゃあ、ちょっとだけ……お出掛け用にオシャレしましょうか」


「…………お願い、します……」



 少し込み上げた恥ずかしさを押し隠し、澪は涼の申し出にコクりと頷いて了承した。







   ☆★☆







 時間とは過ぎた時、短く感じるものだ。空に浮かぶ雲が流れてゆくさまを診ながら、澪はそんなことを思った。


 城園市の中央部は、人々が夜通し行き交うほど雑踏が絶えない。企業のビル然り、高層マンション然り、東西南北に入口のあるデパート然り。人の姿は四六時中見られる。


 逆に、住宅街や中央部以外の土地などは長閑な時間が多い。


 その中央部の少し外れた箇所にある菫ヶ丘公園もまた、その一つであった。総面積が広く、森林浴やサイクリングロードもあり、夏の間は公営のプールが開放される。


 噴水のある一角には、元気に遊ぶ親子連れや、散歩中に立ち寄ったと思わしき老夫婦が見られる。


 そんな彼らに溶け込むように、澪はベンチに座って休憩を取っていた。少し疲れた顔だが、どんより気落ちしていた今朝よりは健康的な表情だ。


 服装については昨日と特に変わった様子はなく、別物を着ているだけだ。首からはチェーンに指輪を通したアクセサリーを身につけている。


 目立つのを避けるため、母親と同じく魔法により髪を黒く染めていた。長髪を一房に纏め、後ろに流している。



「…………風、気持ちいいね」


「そうね。ねえ、やっぱり少しは外の空気も必要でしょう?」


「面目ありません」


「素直でよろしいっ」



 傍らに座る涼と視線を交わし、互いに薄く笑う。気持ちが軽くなった分、自然と笑顔などの明るい表情が出来ていた。


 よくよく考えれば、澪に戻ってから一度も自然的な笑顔を浮かべていなかった。なるほど、陰鬱な気分になるわけだ。


 チラッと視線を上げる。周囲を見渡せば、近くに仲良く遊ぶ親子を見つけた。背を屈めた母親が、子供の頭を優しく撫でる。子供は、屈託ない笑顔を返した。


 ────じぶんにも、あんな過去があったのだろうか。無くしてしまった記憶の中に、あんな憧憬があったのか。



「……ね、ねえ……、お母さん」



 無意識に悲しくなりそうになった表情を抑え、よそよそしく訊いてみる。


 話す決心をした。今、自分がどんな悩みを持っているかを。


 笑って茶化されるかもしれない。悪気はなく、単純に“澪らしくない”という意味で。


 それでも構わなかった。寧ろ、そうしてほしい。もっと笑って、話して、自分を笑わせてほしかった。



「なあに、澪」


「あのね。ボク──」



 ──少しの間、語り続けた。その内視界が滲み始め、声が震え出したが、それでも最後まで語った。


 涙は最後まで流さなかった澪は、俯いていた顔を上げそっと涼の顔を見る。青空を背景に、母親は相変わらず満面の笑みだった。


 その手が、澪の頭にポンと乗る。撫で始めたその手も、それで顔が綻ぶ自分も恥ずかしかった。



「悩みがある。っていうことはつまりね、壁にぶち当たったってことなの。顔面から」


「……?」


「乗り越えればいいんだけど、壁は高い。仮に越えても、顔面はしばらく痛むものなの」


「……ふむ……」


「その痛みに耐え抜けば、もう同じ壁に苦しむことはないの。アンダスタン?」



 いいえ、全く。言っている意味が相当ズレている気がする。それでも、母親の優しさが伝わるのはそれだけ一緒にいたからなのか。


 ならば、次の涼の行動が読める。



「……ボク、バニラ味」


「あら? よくわかってるじゃない。……私は、チョコレートにでもしようかしら」



 菫ヶ丘にあるショッピングモールはこの公園から近い。まさに目と鼻の先といったところ。


 幼い頃の洸は、この公園に来る度に母にソフトクリームをせがんでいた。涼も存外満更でもなく、同意して購入していたのだ。



「じゃあ、買いに行こ」


「澪はここでゆっくり待ってなさい。いっそのこと寛いでなさい。そしてそのまま寝ちゃいなさい」


「…………どうせ、寝顔をカメラに保存するんでしょ。……ふんっ、早く買ってきてよ」


「はいはい。それじゃあ行ってくるわね」



 この母ならば、澪としての過去の記憶が忘れている、そんな話をすればすぐにソフトクリームを買いに行くと思った。


 澪の過去はない。しかし、洸の過去は澪に戻ろうと残っている。


 それを印象づけようとした。まどろっこしいことをする母だ。──ありがとう。






   ☆★☆







 日輪輝く晴天だった青空。それが突然曇り始めた頃。


 菫ヶ丘ショッピングモールを中心に、事件は起きた。







   ☆★☆







 甲高い女性の悲鳴を皮切りに、人々は恐慌状態に陥った。平日とはいえ初春が訪れる時期で、春休みの学生やら小さな子を連れた親などが大勢いる。


 そんな客の全てが四方八方散り散りに、ショッピングモール中を逃げ惑う。避難訓練などではなく、壁や床、そして人に衝突する大パニックだ。


 本来、避難の際は客の誘導を指示されている多くの店員も、非常口を開け放ち脱出を図る。常駐している警備員も後に続く。彼らも、逃げる側なのだ。



「わっ!? ちょ、押さな……! わぶっ」



 我先にと出口へ押し寄せる人々に呑まれ、結音は潰されたり叩きつけられたりと散々な目にあっている。


 周囲を飛び交う悲鳴、怒号、絶叫、そして泣き声。騒音が耳を痛めるが、それどころではない。


 このまま人ごみに押されていけば、この危険な地帯から脱出できるだろう。だが、それは容認できない。



「か、香織かおりぃー! 聞こえるー!? 返事しないと恥ずかしい秘密ばらしちゃうよ!!」



 結音は今日、中等部にてクラスメートだった友達とこのショッピングモールに来ている。レストラン街もあり、昼食にも困らないため、片っ端から出歩いていた。


 しかし、一度この妙な騒ぎが起きた途端、何を思ったか友達の香織はどこかへ駆け出していってしまう。呼び止める間もなく、その姿を見失った。


 単純に逃げたわけではない。何故なら、彼女は人ごみとは逆に、騒ぎの起きた場所に向かっていったのだから。



「香織ーっ! って、あれ?」



 手をこまねいている内に、周囲から一番市民が誰一人いなくなった。静寂に包まれるロビーにてただ一人、結音だけがキョロキョロ首を振っている。


 どうしようか、と呆然と立ち尽くす結音。その耳は今、確かに足音を聴いた。


 咄嗟に反応して背後に振り返る。同時に、後退。そんな警戒心剥き出しの結音だが、その選択は誤りではない。



「ふはっ。市民を一名発見しました」


『そうか。連れてこい』


「………………うわーお」



 全身を真っ黒のタイツ型のスーツにくるんだ姿は、さながらバイキンのよう。頭部にはシンボルらしきマークや飾りが施されたヘルメットを被っている。


 そんないかにも不審者な存在は、耳元に手を当て通信していた。


 とりあえず、一般市民だからといって油断のし過ぎ、弱点剥き出しの不審者の股間を蹴りで破壊しておく。



「ば、バカなぁぁあぁああーっ!!」


「ヤバ、逃げようッ!!」



 本来ならば警察官にも遅れを取らないであろう不審者も、戦闘不能に加え内股では結音の足には追いつけない。というか、普通に激痛。


 だが、一度は逃げ切った結音も出口手前で新たな複数の不審者に挟み撃ちにされる。駄目だ、脱出に失敗した。



「あー、もう! お母さん? 全然大丈夫じゃなかったんですけど!! 寧ろ状況は最悪ッ!?」



 ショッピングモールに堂々潜伏していた組織が、白昼からここまでの暴動を起こすとは。


 不審者もとい、悪の組織の構成員に囲まれながら、結音はげんなり肩を落とした。


 ────トホホ……、なんてこったぁ……!


 



主人公、覚醒までカウントダウン入りました。

σ(^_^)o(^-^)oワクワク

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ