表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
1篇 爆誕!! 銀剣の魔法少女
3/18

1-2 私は澪には戻りません

一日更新するのが遅れた……!

なんという……!

 


「……ねえ、お母さん」


「なあに? みお


「………………こうって呼んで」


「いーやっ」



 あからさまに若さを醸し出す態度、及び口調を取るりょう。透き通るような“銀髪”を溢れんばかりに揺らしながら、華麗に振り返る。


 母親を二重の意味を込めて睨みながら、澪は椅子に荒々しく座り、机の上で不満げに肘をつく。柔らかい頬を掌に乗せ、ムスッと口を閉じた。


 銀髪に青い眼を持った女性“二人”がリビングで寛ぐ様は煌びやかで華々しい光景である。顔立ちだけは日本人のものだが、その粉雪の如き儚い白い肌は、妖精さながらの美しさだ。


 涼は高校生になろうとしている息女がいる母親なのだ。そろそろ節度を持ち、現役女子高生なみのハイテンションは謹んでほしい。



「澪……いつまで男の子のつもり? もっとオンナノコな服買ってあげるわよ」


「……ボク、これからも男の子のつもりだけど。キレイカワイイどーでもいいもん」


「もう、強情ね。小さい頃はあんなに可愛いくて『お母さんダイスキ』が口癖の子だったのに……。何がいけなかったかしら」



 あなたの教育の賜物です。


 内心で呟きながら半眼で涼をジトーッと見る。澪────洸として覚えている記憶の中では、一緒にサッカーやテレビゲームを元気一杯で共にする母親の姿がある。


 世間一般の母親らしさとは微妙にズレた謎感性の母親だが、それでも立派に真っ直ぐ育ててくれただろう。“男の子として”。


 だが同時に、“小学生以前の幼少期”に関する記憶が朧気なのも事実だ。


 半永久保存版家族思い出アルバムから写真を探しても見つからないことは妙に作為的だったが、忘れたことが後ろめたく、積極的に家族に相談しなかった自分も悪いのかもしれない。


 まさか、呪いのせいだとは。夢にも思わなかった。





 ────洸が澪に戻り、急激に変化した生活は三日目を迎えている。





 元々、高校入学前の春休み期間だったことが幸いし、威風堂々と自宅に引きこもっても不審なところはない。


 妹の結音は友人と今日もまた出掛けている。春休み中の彼女の日課とは過言でもない。


 ──昔から綺麗な栗色の髪だった母親が、実は世間の中で目立たないように頭髪を魔法で染色していたというカミングアウトをしたのは昨日だ。


 ほんの少しでも見惚れたのは不覚である。家族の色目が暴走を働いた結果だと断ずる。


 澪は今日も“普段通り”に、愛着あるパーカーとジーンズを着用している。“全て”男物である。違和感がない──わけがない。だが、これこそが正しい姿なのだ。


 そもそも、澪の持つ服装など洸だった頃の物ばかり。女性用の代物など持っていない。至って普通の男子だったのだから。


 だが澪に戻ることで肉体的な変化もあり、手足を含めた身長は確実に縮んでいる。故に、袖や裾を折って漸く身に付けていた。軽くダボダボである。



「流石に男物は駄目よ。いい加減にしなさい。女の子として世間一般から逸脱していると思わないの?」


「世間一般に突然身体が変身したりしないよ。ボクは男。男なの。男らしいものが好きなの」



 少し強調し過ぎたが、挫けずに己の意志を宣言した。涼はこちらを見つめて違和感が皆無のニンマリとした笑みを浮かべる。嫌な予感に脳内で警報が鳴り響く。


 思わず冷や汗を流す澪の目の前で、テーブルの傍らに置いてあった紙袋をガサゴソ漁り出す涼。昨日、緊急事態の我が子をほったらかし外出した涼が購入した物。


 一体何なのだろうかと思っていたが、『開封厳禁』と涼のサインが貼り紙されており、身近な爆弾と化していた。知らずに開ければ吹き飛ばされる。


 じゃーん、と効果音を口にしながら涼はソレを目の前に掲げた。


 住民票、戸籍謄本。国民としての存在証明になる物だ。


 そこに掛かれた『暮傘くらさ澪』に関する文章に目を丸くする。



「【ヒーロー協会】の方であなたの呪いについては最初から判断が出ていたの。『体が戻り次第、情報も修正する』って。これでもかっていうくらいツテを頼ったのよ?」


「………………え」



 【ヒーロー協会】。


 正式名称不明。都市伝説的に存在を囁かれる“正義の味方を支援する”組織。裏では情報統制も至極簡単に行い、社会の中枢にまで根を張る、その気になれば国家転覆も容易い、とか。どこかの街が母体だとか、本拠地はレンタルビデオ屋の地下にあるとか噂される。


 ────澪は震えながらゆっくり立ち上がった。顔が引きつり、とても慄いた表情をしている。


 問題は、もう一つのブツだ。



「それって……女の人のあれだよね……?」


「イエス、オフコース。普通の“下着”よ。澪のを買ってきたの忘れるところだったわ」


「………………サイズ、は?」


「寝てる間に測った。無防備なカワイイ寝顔もしっかりカメラにいっぱい保存して──あっ、待ちなさい!!」



 その画像データをいつか破壊することを心に誓い、澪は涼の前から逃亡した。











   ☆★☆











 二階の自室に逃げた込んだ澪は、隙もなく勢いよくドアを閉じる。それだけでは全く心許ないため、鍵を施錠、両手で踏ん張り扉を押さえた。


 眼前逃げることには成功したが、間合いの範囲内だ。そしてこの行為は自ら墓穴に飛び込んだに等しい。


 自信をありありと見せつけるように近づいてくる足音。その余裕綽々の態度に、澪は戦慄する哀れな被害者でしかない。



『澪、大人しく部屋から出てきなさい。あなたは完全に包囲されてるわ』


「ぜ、絶対にやだ! ボクにも男のプライドがあるの! お母さんにはわからないでしょ!?」


『そうね。……でもそのあなたの虚勢、“本当に男のプライドなのかしら”?』


「………………っ」


『それに、男らしく潔くあるべきじゃない?』



 じゃあ、男じゃなくてもいいもん。


 売り言葉に買い言葉で、つい出掛かったその言葉を呑み込んだ。己は何を言おうとしている。


 だが、相手はあの涼だ。“アレ”の使い手。


 条件次第では降伏することが賢明なのかもしれない。そもそも、嘗て“アレ”であった涼より、澪の戦闘力は圧倒的に格下だ。仮に分身しても笑顔で殲滅されかねない。


 仕方無い、ここ白旗を上げて降伏しうやむやに……。



『選択肢は二つよ。“自分で着替える”か“私に手伝ってもらう”か』


「どっちもやだよ! 第三の選択肢“お母さんに諦めてもらう”を選ぶ!」



 前言撤回。この母親が了承価値のある条件を提示するわけがない。


 ならば、このドアを全力で死守するしかない。ドアを支える両手に力が篭もる。


 同時にこの瞬間、澪は自らの敗北を悟った。認めるのが癪なので、毅然と立ち向かう態度だけは曲げない。



『そう。はい、ドーンと』


「わっ────きゃあっ」



 一瞬、ドアの隙間から閃光が見えた。


 元魔法少女たる涼の攻撃魔法により、ドアは容易く紙のように吹き飛ばされる。当然、支えていた澪は共に飛んだドアに押し潰された。


 ここ数日で二度もドアを破壊されるとは。だが、それを嘆いている暇はない。


 痛む身体で匍匐前進してドアの下からのそのそと這い出す澪。だが別に受けたショックにより、力無くへたり込んでしまう。



「あらあら。カワイイ声ね、澪っ」


「うぐっ! ぐぐっ…………!」



 部屋の入口で仁王立ちしていた涼が、嬉しそうな──否、嬉しい顔でこちらを見る。


 その手に持つ“布切れ”に、澪は心の底から戦慄した。さながら死神の鎌でも見たような気分。


 歩み寄る涼から逃れようと必死に後ずさるが、やはり無駄な抵抗なのかベッドに背を付ける。逃げ場を失った。



「さあ、これを着て一緒にお出掛けしましょう? 家に篭もってばかりで退屈でしょ?」


「大丈夫! 現代人には引きこもりの達人だっているんだし、ボクもそれに倣って自宅を警備しようかな…………あ、あはは」


「ウチに不法侵入したら魔法爆弾のトラップで星になるから大丈夫。それに、あなたの服も買わないと、ね」



 外に出るだけでも大問題だというのに、衣服を購入する? それはつまり試着などすることを意味する。


 マズい。涼や妹の結音は服を買う際、文句のいく服を発見するまで何度も試着を重ねる。“男だった”目には、いつまで時間を掛けてるのか、溜め息をつきながら疑問を持っていた。


 それがよもや、自分に降りかかるような状況がくるとは。


 ──と、澪がワナワナ震えながら涼の笑顔を見上げている。涼はニッコリと笑い、ふと何かに気づいたのか、視線をずらす。


 澪も目線を追う。そこには木造製のタンスが鎮座していた。中には、現在着用しているような“洸の私服類”が収納されている。



「買い物はまた今度にしましょう」


「え? ほ、ホント!?」



 涼の台詞に半信半疑ながらも、澪は今にも飛び上がりそうだった。助かったのか?


 理由を聞こうと、涼を見た。彼女は満面の笑みで頷く。





「代わりに、魔法で持ってる服を全部オンナノコ用に改造しちゃうわ」


「なんだとッ!!??」





 甲高い悲鳴を上げた束の間、涼の手により魔法が使われ、眩い光を周囲に撒き散らした。


 目を光から手で覆いながら、澪は立ち上がってタンスに駆け寄る。汗が浮かんだ手でその引き出しを全て開いた。


 絶望。


 パーカーやらジーンズ、はては靴下や下着に至るまで原型を留めていなかった。Tシャツはワンピースなどあからさまな女物に。辛うじてボーイッシュな形をした服もある。


 結音が着るのを見掛けるぐらいだった代物が自分のタンスに入っている。しかも、元の男物は今着ている物のみ。


 身体中の力が抜け、タンスの背に腰から座り込んだ。ふと、視界が滲む──え?



「さっ、次は今着てる────って、澪?」


「ふ、ふええぇぇ…………。お母さん、酷いよぉ…………っ」



 最初は驚いた。何故目が潤んでいるのか。


 母親が魔法で起こす騒動などこれまで何度もあったはず。たかが服くらいで何をこんなに悲しいのか。


 理由もすぐに自覚した。本当は、最初に“澪に戻れた”日にわかっていた。





 澪は、洸という人間を忘れたくない。





  頭の中での思考、思想や性格が洸とは何か違うことはわかってはいた。つまり、自分は今、澪として洸のこと考察していたことになる。


 自分が洸らしくないことはわかっていた。


 だからこそ、今まで自分として生きてきてくれた洸に感謝し、その思いを忘れるわけにはいかなかった。自分にお礼を言うとは変哲な気分だが。


 無情にも、洸の証の一つであった衣服は、涼の魔法で跡形もなく変質している。これでは、洸に顔向けできない。



「……………………っ」


「澪……………………」



 うるうると涙を滲ませ、母親を半眼で見上げる。怒っていると、強く意思を込めて見つめた。


 それに、涼ははっとする。澪は息女として、母親に洸へ謝罪してもらいたかった。





「澪ッ!! やっぱり、あなたカワイイ!!」


「え?」


「何この可愛さ! ヤバいわ、スゴいわ! さすが私の息女ねッ! レイニア最強の魔女の血は確かにここに!! あー、もう、抱き締めてあげる!!」





 飛びついてくる涼に為すすべもなく、澪は暖かい抱擁に包まれる。先日の殺人技とは違い、外敵から守ろうと、安心させようと庇護欲全開で頭を撫でる。撫でまくる。


 その反面、ただ可愛さのあまりに我慢出来ずに愛でている感が抜けない。


 あまりに優しく、けれども激しく抱くものだから余計にこちらの力が抜けた。疲れも相まって眠気が起こる。



「そうよ。やっぱり魔法でお着替えなんか駄目よ。この私が母親として、小さい頃にできなかった分、手取り足取り、全身隈無く服の着方、教えて……あげるわッ!!」


「ひゃう! ちょ、お母さんドコ触って──あンっ! だ、駄目! 服取んないでッ!」


「大丈夫、大丈夫よ! とりあえず邪魔な男物の服なんてポイッと抹殺、ここで賺さず得物が登場」


「ま、待って、お母さん待ってッ! 服返──わっ! こ、こちょばしいよ! は、はうっ!」


「下着を着るのに服は邪魔でしょ!? まずはね……!」


「お、お父さん助けてーーーー!!」



 肝心な時に助けてくれない一家の大黒柱、父親。


 だが、仮にいたとしても彼は母には逆らえない。『勘弁して』と苦笑して謝る姿が目に浮かんだ。


 


戦闘はまだまだ先になりそうですねー……

(-ω-;)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ