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剣姫のラスターエッジ  作者: 玄弓くない
1篇 爆誕!! 銀剣の魔法少女
2/18

1-1 少女再臨

ガンガンいきます

燃えろ、おれの執筆魂!!

 


「うぇ、うぇええぇぇぇええええ!!」


 初春に差し掛かり、暖かい空気を迎えようとしている三月のとある週末。その早朝。


 城園市の閑散した住宅街に“少女”の悲鳴が響き渡る。近くの止まり木や電線にいた小鳥達が、驚いて一斉に飛び立った。


 二階建て家屋の自室、木造ベッドのくたびれたマットの上で、暮傘くらさこうは驚愕のあまり意識が飛びそうになっていた。目蓋を閉じ、イヤイヤとふるふる首を振って現実否定する。


 これは夢だ。まだ睡眠中なのだ。起床して即座に忘れた夢の内容も、寝苦しくてかいたのだろう酷い寝汗も、全て未だに続く夢の一部。────今はそう思うことにしよう。


 現実逃避することで感覚的に記憶をリセットした。落ち着いてゆっくり目を開く。寝ぼけて幻覚を見た可能性もある。


 実際何度繰り返したかわからない起床してからの行動を諦めずに反復する。


 チラリと視線を落とし、自らの腕を見た。


 サイズを合わせて購入したはずのスウェットの寝間着。しかし何故か、袖から覗く手は半分程。仕方なく袖を捲る。


 昨年の猛暑と日光で日焼けし、例年よりも浅黒かった肌。だがしかし、そこにはさながら粉雪のような印象を持つ白い柔肌があった。


 そんな震える手で抱き締め、自分の身体を確かめる。


 着慣れたはずの寝間着は少々ブカブカで、小さな防寒具でも被っている感覚だ。その中で埋もれるように、乱雑に扱えば折れてしまいそうな細い肢体が伸びている。


 そして、先程からチラチラと視界に見られる糸状の物。カーテンの合間から漏れる日光で輝くそれは、鋼のような銀色をしていた。そっと掴んで引いてみる。触感などからそれが、髪だとわかる。


 手元に置いておいた鏡を手に取り、自らの顔を映してみる。これがトドメだった。


 映し出されたモノは、黒髪黒眼の少年のモノではなかった。





 ────腰まで届きそうな、黒みを帯びた長い銀髪。純度の高い宝石を埋め込んだような青い瞳。白い肌の小さな顔に、くりくりとした大きな目。


 ────どこからどう見ても、綺麗で可憐な少女だった。





 洸の故障しかけていた思考回路が急速で復活する。


 同時に呼び起こされる混乱と驚愕に、口と喉が正常に作動しなかった。叫べは内心でのみ木霊する。



(────誰ですかッ!?)



 悲鳴を上げてから一分、はたまた十秒程が経ったところで、ドドド……! と廊下の方から慌ただしい足音が近づいてくる。危機迫る勢いでやってきた音の主は、ドアの前で急ブレーキをした。



「あ……え、……ぁ……」


「お兄ちゃん、どしたぁぁぁあああ!!」



 轟音を撒き散らして無理矢理開かれたドア。可動限界点を越えたため、ズンと廊下に沈んでいく。


 破壊したそれは後回しに、部屋に上がり込んできた妹の結音ゆねは、ベッドの上で狼狽えていた洸に無事か問い掛けた。



「ゆ、結音……こ、ここ、これ……」


「お兄────………………え、あ………………あれ?」



 呆然と固まる二人。互いに何を言えば良いのかわからず、結音はドアを吹き飛ばした体勢のままでいた。


 無言の間。やがて、結音がポツリと呟いた。



「もしかして、…………お姉ちゃん、なの?」


「お兄ちゃんだよ!!───え、嘘…………。まさか……」



 洸にはよくわからない妙な態度を結音が取る中、今頃だが嫌な予感がする。


 鏡で確認したところ自分の姿は、完全に女子のそれだった。まさしく、熟練した造形師が作り上げた人形のような可愛いらしさをしている。


 だが、どうでもいい。最早もはや夢か現実かを判断する思考すらできない洸には、それは関係ない。


 焦燥感から汗が滲み出る両手をぺたりと、顔に当てる。とてもひんやりしていた。


 額から頬を通り首筋に。そして、鎖骨で止まる。通ってきた道を、一滴の汗水が伝う。


 ────待て。此処から先に踏み込めば、そのまま奈落へ一方通行だ。


 そんな雰囲気を感じたが、震える手は勝手に滑って臍まで駆け抜けた。


 ────待て。今一瞬、妙な触感がしなかっただろうか。水風船やら、クッションやら、それらに触れた時のような。


 背筋を添う、滝の如く流れる汗。気のせいだ気のせいに決まっている。今のは幻覚か何かだ。


 浮上した最悪のイメージを必死に否定して 内心で叫んだ。悪夢なら早く醒めてくれ。震える手が、今にも奈落の底へ落ちようとしている。


 恐怖の中に微量に混じった好奇心が、震える手を乗っ取っていた。やめろ、早まるな。まだ間に合う。



「お母さーーん!! お姉ちゃんが“帰ってきた”ーー!!」



 気絶寸前の兄を目前に、結音は慌てた様子で壁に衝突したり、ドアに躓いて転倒しながら廊下に消える。どういうわけか、母を呼びに一階へ階段を降りていく。


 見殺しか。


 だが、その足音すら、今の洸には聞こえていない。


 両手は一思いに、腰から股へ移動する。そして────。


 ………………。


 …………。


 ……。


 ………………………………。



(あ、死んだ。ボクこれもう死んだよ。うん)



 魂が抜けたようにうなだれる洸。目や口を丸く開いたまま、思考や身体、その他諸共が色々と停止した。無想。完全な放心状態。心ここにあらず。


 茫然自失。白目を剥いたハニワのような顔で硬直していた。


 程なくして、相変わらず至る所に衝突しながら結音が入室する。その傍らには、朝食の調理し駆け付けた母親のりょう姿もあった。



「み、みおっ……! あなた、澪よね……!」


「──────」


「間違いないわ。一日たりとも忘れたことなんてなかったんだから……」



 肩を激しく上下させ、息を整える涼。そして、その瞳は確かに変わり果てた洸を映していた。


 彼女は戸惑うことなく、へたり込んだ洸に抱きつく。その無駄に包容力のあった柔らかい感触に、洸の意識が復活した。



「────はっ? お、お母さん!?」


「ええ、そうよお母さんよ……!」


「うわ、ちょっ……な、何してんの!?」



 驚愕と羞恥が入り混じり、ただただ顔を赤くする洸。白い肌が薄く朱に染まる。


 元々はっちゃけた性格をしていた涼だが、少なくとも我が子に抱擁などしたことはない。“洸の記憶では”。


 騒動やら事故を引き起こす悩みの現況である彼女が、一体今度は何をしでかしたのか、と疑心を持つ。


 まさか、自らに起きた珍妙な出来事も母親が関わっているのか。“この母親”なら当然あり得る。



「お母さん? あの……────ぐはっ」


「澪……、良かった。本当に……」


「は、放し……い、きが……」



 だが、“この母親”に時間を与え過ぎた。


 “生身”でも強盗や誘拐犯を叩きのめす戦闘力を持つ涼。その腕が、まるで絞め殺すような強さで洸を襲う。


 片手至っては首を圧迫していた。窒息死しそう。


 悪意の欠片も感じないことが、涼にしては意外だった。


 赤かった顔が青に変わったところで、ようやく現状に気付いた結音が止めに入る。



「お母さん! ストップストップ! お兄ちゃん死ぬ! 首絞まってる!」


「結音ッ! 何をするの!? 澪が帰ってきたのよ!?」



 視界が暗転しようとしている中、辛うじてつなぎ止めていた意識が、小さな音を拾う。──嬉しさに溢れた、優しい声だった。



「お帰り、澪」



 出そうにも出ない声。洸は内心で問う。


 ────……澪って、……誰?







   ☆★☆







「──────…………なるほど、ね……」



 ひとまず、粗方話は終えた。


 “みお”は、何とも言えない無愛想な表情で頷く。目蓋をきつく閉じ、紡がれた言葉の一つ一つを噛み締めるように。


 いつもにこやかな風景を繰り広げる暮傘くらさ家の食卓にしては、『今日の天気は槍が降るかも』と思われそうに静寂が包んでいた。


 朝食に手も付けず、腕を組んでうーん、と唸っている澪の雰囲気のせいだろう。



「なるほど……、なるほどね……。うん……」


「澪、ご飯が冷めちゃうわ。折角作ったんだから、食べて」


「………………」



 返事はない。だが、行動で示す。


 音を立て味噌汁を啜る。箸も使って葱や豆腐も流し込む。湯気もなく、流石に少し冷めていた。……でも、美味しかった。


 つい堪えていた食欲が加速してしまい、ご飯やおかずにも箸が伸びる。先程から鳴り止まない腹の虫も恥ずかしかった。


 幼い子供のように元気よく食べる澪。美味しさに頬をちゃっかり緩ませている。


 そんな澪に、涼は深い愛情が篭もった微笑みを向けていた。そして二人を、結音がニコニコしながら見つめている。



「……ごちそうさまでした」


「おそまつさまでした。ふふっ」


「お兄ちゃん、カワイイ」


「……そろそろ、ボクは怒るべき? そうだよね。うん」



 じとっ、と俯き気味に二人を睨む。だが、二人は余計に可愛い可愛いと騒ぎ出す。どうしようもない。


 微妙に真剣、剣呑だった空気は二人によって完全に払拭された。相変わらずの我が家である。


 ────女は強い。


 ふと、思い当たって触れた首には喉仏の姿形が見られない。少女らしいソプラノの声音が自分から出る訳だ。





 “女”。そう、女なのだ。





 溜め息混じりに、澪は二人を半眼で見る。



「どうして黙ってたの? ……本当は女子だってこと」


「言ったとしても普通は納得しないでしょう? 小さな子供に無理矢理教え込むのもね」


「そもそもお兄ちゃん、女の子だったこと忘れたんだよ? 小さな私は、ベリーショックで涙のレインがどしゃ降りだったんだから」



 正直に言うと、まだ半信半疑な上、少女だったという幼少期のことなど全く思い出せない。


 この親にしてこの子あり。性格も似ている二人が口裏を合わせて演技をしている可能性もゼロではない。


 涼に掛かれば、この不可思議な状況に説明がつく。



「────魔法少女なら、ボクの身体作り変えたり出来そうだけど?」


「“元”魔法少女よ。自分の“息女むすめ”相手にそんなことしないわ」


「……ボクが、息女ねぇ……。じゃあ、高速回転したブランコ地獄とか、一日子猫体験とか。……これは許容内?」


「ふふっ。楽しかったでしょう?」


「お母さんは、だよね。うん」



 暮傘涼。彼女は正真正銘、元魔法少女である。


 日々正義の味方や悪の組織が拳で語り合うこの世界。超能力や魔法が飛び交う戦場。


 魔法少女もまた、そんな“正常な異常”の一つだ。超常的で超自然な当たり前な存在の一人だ。


 出張中の父親に昔、どうして結婚したのか訊いた。解答は『愛しているからだよ』だ。随分とキザに語っていた。


 その愛しているものが魔法少女という存在そのものじゃないことを本気で祈ったことがある。


 今は現役を退いて“普通の主婦”として生活している彼女の言い分。





 魔王気取りの馬鹿が、幼き頃の澪に“どういうわけか”呪いを掛けたらしい。


 その呪いがどうも、【逆転】させる特性があった。そのため、少女は少年────澪は“洸”に変貌する。


 解ける気配のない呪いから、仕方なく澪を洸という少年として生活させてきた。


 そして、その呪いの期限切れにより、また澪に戻ったのだ。





「いや、今頃戻ってもいい迷惑だって! 女子になれって言ったって無理! 頭の中、男だよ!?」


「それは呪いで“心も男の子だっただけ”。あなた、自分の身体を触って普通だったじゃない」



 つい、舌打ちした。


 そういえば、焦りはしたが妙な気分になることはなく、恥ずかしさも皆無な気がする。


 だが、納得はできない。男としてのプライドがまだ────。



「でも、運が良かったわね。澪は幸運よ」


「不運だよ! 不幸中の幸い!? そんなものあるか! ボクこれから────」


「人前でいきなり女の子に……特に男友達の前とかで戻ってたら…………ヤバかったわよ?」


「…………………………」



 不覚にも、物凄い恥ずかしさと寒気が身を駆け巡った。


 

よし、今日はもう寝ます!

オヤスミナサイ

(ゝω・)

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